目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第70話 零夜VS裕二

 零夜と裕二の戦いは、開始の号砲が鳴った瞬間から凄まじい勢いで火蓋を切った。ナイフと忍者刀が交錯するたび、金属同士がぶつかり合う鋭い音が響き渡り、火花がまるで雷霆のように飛び散る。裕二の傭兵としての経験が冴えわたり、一撃一撃に洗練された正確さが宿る一方、零夜は決死の覚悟を胸に秘め、ひるむことなく突き進む。その均衡がいつ崩れるのか、息を呑む瞬間が続いていた。


(流石は傭兵……実力は本物だ。その依頼主がどんな怪物かは知らんが、裏があるのは確かだな……何にせよ、倒さねばならん!)


 零夜は心の中で状況を分析し、次の展開を確信すると同時に、裕二の鋭い突きを紙一重でかわし、跳び下がる。だが、次の瞬間、彼は地面を蹴り、全力でダッシュを仕掛けた。体を軸に高速回転を始め、忍者刀を振りかざすと、風を切り裂く勢いで斬撃を放つ。


旋風回転斬せんぷうかいてんざんッ!」


 轟音と共に繰り出された回転斬撃は、嵐のような威力で裕二を襲う。裕二は即座にダガーを構えて防御に転じるが、零夜の猛攻はあまりにも強烈だ。ダガーに微細な罅が走り、次の瞬間、カキンッと甲高い音を立てて刃が砕け散った。


「ダガーが破壊されるだと……? 只者ではないのは確かだな」


 裕二は折れたダガーの残骸を一瞥し、零夜へと視線を移す。経験では自分が上回るはずなのに、零夜の勢いと実力が拮抗し、戦況は五分五分に。ダガーが砕けた事実は、零夜の力を認めざるを得ない証だった。


「だが、俺を舐めるとどうなるか……その目に焼き付けておけ!」


 裕二は一瞬にして手元に魔法銃を召喚し、零夜を鋭く睨みつける。それはハンドガン型の武器だが、高速リロードを可能にする魔法の力が込められた「サイバーガン」だ。

 外見からすれば近未来の武器にしか見えず、高性能の機能を持っているだろう。


「魔法銃か。それで俺を仕留める気か」

「その通りだ。このサイバーガンは、強烈な威力を誇る魔法銃。お前などに勝ち目はない!」


 裕二が引き金を引くと、サイバーガンから放たれた魔法弾が唸りを上げて零夜を襲う。零夜は素早くサイドステップで回避し、弾丸は背後の壁に激突。轟音と共に爆発が巻き起こるが、壁には傷一つ残らない。要塞の鉄壁ぶりに、零夜は内心で舌を巻いた。


(あの威力……もし直撃したらどうなっていたか……要塞の防御力も桁外れだな)


 爆発の余波を見ながら、零夜は背中に冷や汗が流れるのを抑えきれなかった。直撃すれば大ダメージは必至で、死亡する事もあり得る。


「外したか……だが、次は外さん! 覚悟しろ!」

「おわっ!」


 裕二は怒涛の勢いでサイバーガンを連射し、魔法弾が次々と零夜を追う。零夜は跳び回り、壁を蹴って身を翻しながら回避を続けるが、絶え間ない攻撃に近づく隙すら見いだせない。


「くそっ! ここで諦めてたまるか! くらえ!」


 零夜は忍者刀をバングルに瞬時に収めると、苦無を召喚。素早く投擲し、鋭い刃が裕二の右太腿に突き刺さる。


「ぐおっ! 苦無だと!?」


 裕二は苦無の直撃に顔を歪め、発砲の手を止める。太腿から血が滴り落ち、動きが一瞬鈍る。零夜の苦無は通常の威力ながら、一撃でも命中すれば出血と鈍化を引き起こす厄介な武器だ。


「俺は忍者だ! 苦無も手裏剣も火薬玉も、何でも使いこなす!」


 零夜は勢いに乗り、苦無を次々と投げつける。刃が裕二の体に連続で突き刺さり、ダメージが蓄積していく。このままでは何時倒れてもおかしくない状況であり、ピンチである事には変わりない。


(こいつ……簡単には倒れんな。実力は互角、いやこちらが押されつつあるか)


 裕二は冷や汗を流しながらも、零夜の力量を認めざるを得なかった。武器の切り替えや戦術の柔軟性で、零夜は互角以上の戦いを繰り広げている。甘く見ていた自分にも、原因があるのだろう。


(だが、ここで負けるわけにはいかん……あの頃には二度と戻りたくない……何が何でもだ!)


 裕二の瞳に決意が宿ると同時に、彼は刺さった手裏剣と苦無を一気に引き抜く。血が噴き出すが、驚異的な精神力で止血を始め、数秒で出血を止めてみせた。

 恐らく彼の過去に何があったのかは気になるが、今はそれどころではない状態だ。


「自ら止血だと!? どれほどの根性だ!?」


 零夜は目を丸くし、裕二の常識外れの行動に呆然とする。自身には自動回復術があるが、こんな荒々しい対処は初めて見た。


「自動回復術はないが、止血スキルならある。あっという間に血を止められるさ」

「なるほど……自動回復に劣るが、驚異的なスキルだな」


 零夜は納得しつつも、内心で警戒を強める。裕二の傭兵としての応急処置能力が、このスキルを支えているのだろう。


「さて、お前が多彩な武器を使うなら……俺はこれで行く!」


 裕二はサイバーガンを収め、銀色の刀身と青い柄を持つ刀を召喚。刀身から赤いオーラが溢れ出し、ただの武器ではないことを示す。それは「蛍丸」――裕二がこの世界で手に入れた最強の武器だ。


「その刀は?」

「蛍丸だ。この世界に来た時から俺の手中にある」


 裕二は蛍丸を握り潰す勢いで構え、零夜を睨みつける。鎌倉時代に作られた伝説の日本刀が、裕二の手にあるとは誰も予想できまい。


(蛍丸か……奴が持っているとは。一筋縄ではいかんな)


 零夜は危機感を覚えつつも、対抗手段を模索する。武器が忍者刀しかない現状で、どう立ち向かうかがカギとなる。


(こうなれば忍者刀しかない! 俺は忍者である以上、貫き通すしか無いんだ!)


 零夜が心の中で決意を固めつつ、両手に忍者刀を召喚。すると、自分の意志にも関わらず、その刀身が変形を開始してしまった。

 忍者刀は水と冷気のオーラを纏い、伝説の武器「村雨むらさめ」へと進化。自然現象とは言えども、これは想定外としか言えない。


「ほう、お前の忍者刀が村雨に? これなら面白い戦いになるな」

「へ? 村雨……?」


 裕二がニヤリと笑う一方、零夜は驚きながらも自身の武器を見つめる。忍者刀サイズに調整された本物の村雨であり、刀身も水と冷気のオーラを纏っていた。


(俺の忍者刀が村雨に進化だと!? いくら何でも予想外すぎるが……これなら蛍丸と互角に戦える!)


 零夜は心の中で予想外の展開を感じるが、村雨を手に決意を固め、真剣な眼差しで構える。蛍丸に対抗するには、この伝説の武器しかない。たとえどの様な展開になろうとも、目の前の敵を倒して先に進むのみだ。


「なら、この武器でアンタを倒す! これ以上は御免だ!」

「俺もだ。すぐに決着をつける!」


 零夜と裕二は互いを睨みつけ、地面を蹴って一気に飛び出す。村雨と蛍丸が激突し、衝撃波が周囲を揺らす。

 二人の戦いは最終局面へ突入した。だが、この先に予想外の結末が待っていることを、彼らはまだ知らない――。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?