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第72話 合流

 パルルの突然の登場に、戦場は一瞬にして静まり返った。裕二は彼女の姿を捉えるや否や、真剣な眼差しをギロリと向け、眉間に深いシワを刻んだ。折角の展開をぶち壊した以上、そうなるのも無理はない。


「パルル! 何しに来たんだ! 俺はまだ零夜との決着をつけてない…って、服を脱ぐな!」

「嫌だ! 熱いもん! Tシャツ脱いでスースーしたい!」


 裕二は零夜を指さしながら状況を説明しようとするが、パルルは聞く耳持たず、Tシャツをグイッとたくし上げ始めた。慌てた裕二が「やめろ!」と飛びつくと、パルルは「やだやだ!」とじたばた抵抗。まるで子供と親の取っ組み合いだ。


「おーい…お前、ロリコンか?」

「違う! 俺はロリコンじゃない! 誰がこんなチビに興味持つか!」

「その様子だと仲が良い様に見えるが。まさか夜でも……」

「そんな事はしていない! 誤解だ!」


 零夜がジト目で冷ややかに突っ込むと、裕二は顔を真っ赤にして叫び返す。その言葉にカチンときたパルルは動きをピタリと止め、ぷくーっと頬を膨らませた。


「『こんなチビ』ってどういう意味かな? 私をバカにしてるのかな?」  


 瞬間、彼女の背後から黒いオーラがゴゴゴッと噴き出し、悪魔のような笑みが浮かぶ。空気が一変し、触れるだけで火傷しそうな殺気が漂う。怒らせたら何をしでかすか分からない雰囲気だ。

 裕二は「ヤバい」と悟り、即座に方針転換。土下座しなければ殺されると感じているのだろう。


「すまない…俺が悪かった。で、何しに来たんだ?」  


 頭を下げて謝罪しつつ、話題を変える裕二。パルルは怒りをサッと引っ込め、ニコリと笑って視線を合わせた。今後はこの事は禁句であり、二度と言うまいと誓いながら。


「ボスからの指令だよ。八犬士の中で危険人物の零夜を始末しろってのは分かるよね?」

「ああ。ゲルガーからの依頼だってのも知ってる。それがどうした?」

「その任務、時間制限付きだったんだよね。失敗。すぐ帰れってさ。」

「何!?」  


 裕二は目を丸くし、愕然とする。あと一歩で零夜を仕留められたはずなのに、まさかのタイムオーバー。パルルが現れなければこんな屈辱は味わわずに済んだかもしれない。  


「時間切れなんて聞いてないが、命令なら仕方ないな……」  


 盛大にため息をつき、任務失敗を渋々受け入れる裕二。真剣な顔で零夜を睨みつける。心の奥底では悔しさが滲ませているが、それをバレないように隠している。


「俺が任務に失敗したのはお前が初めてだ。だが…次に会った時、お前を殺す。それだけだ! 」


 裕二が零夜に対してそう言い放つと、パルルに近づき、二人の足元に魔法陣がパッと出現。二人は光に包まれ、瞬時に転移。跡形もなく消え去った。


「……神田裕二。また戦う日が来るだろう。俺もその時までに強くならないと……」  


 零夜は彼らの消えた場所を見つめ、真剣な表情で呟く。裕二との戦いは、そう簡単には終わりそうにない予感がしていた。しかしパルルという少女、彼女が言っていたボスなど、不明な点は沢山ある。その答えが見つかるのは何時頃なのか……。

 その時、地面からドーンと音を立てて巨大な扉が出現。ギィィと自動で開き、要塞の最上階へと続く道が現れた。そこにはボス・ゲルガーが待ち構えているはずだ。  


(扉が湧いてくるとか予想外すぎるが、この戦いを乗り越えた証拠ってところだな。まだ裕二とやり合いたい気持ちはあるが、まずはゲルガーを倒さないとな)  


 内心驚きつつも、零夜は得した気分で扉へ踏み出した。裕二との戦いを制したからこそのチャンスである以上、この先は進む必要があると感じながら。


 ※  


 扉を抜けると、零夜は要塞の最上階に到着。ゲルガーの部屋を探すだけだ。背後の扉は光の粒となって消え、退路は塞がれた。  


「さて、ゲルガーはどこにいるのか……部屋に関しては三つあると聞いているが……」 


 歩き出そうとした瞬間、遠くからドガッ!バキッ!と殴り合いの音が響く。下の階で乱闘でも起きてるのか? 倫子たちの仕業じゃないかと薄々感じつつも、零夜は苦笑い。 


「乱闘の音か…まさかあいつらがここまで来るはずないよな?」 


 零夜がそう呟いた矢先、目の前にインプヒューマンがブーンと吹っ飛んできて、壁に激突。 バァン!と光の粒に変わり、インプの角と金貨を残して消えた。


「今、インプが飛んできたような…って、またか!」


 音の方を見ると、今度はゴブリンがドゴォ!と殴り飛ばされ、床に叩きつけられて消滅。ゴブリンの皮と金貨が散らばる。すると、倫子が「うおおお!」と叫びながら猛ダッシュで現れ、零夜は目を丸くした。


「あっ! 倫子さん!」

「……! うう…零夜くうううううん!!」


 倫子が涙目で零夜を見つけた瞬間、全速力で突進開始。零夜は「うわっ!」と叫びつつ、飛び込んできた彼女を受け止めるが、勢い余ってドタバタと転倒。背中をゴリゴリ擦りながらも、仲間との再会に内心ホッとしていた。  


「無事でよかった…心配したんだから…うえ~ん…」


 倫子はヒックヒック泣きながら、零夜をギューッと抱きしめる。もし彼がいなかったら、彼女は立ち直れないほどのショックを受けていたかもしれない。


「すいません……倫子さん……迷惑かけてごめんなさい……」

「ヒッ……ヒッ……」  


 零夜が泣きじゃくる倫子に謝ると、エヴァたちも次々に駆けつけてきた。皆、安堵の表情を浮かべるが、エヴァだけは頬を膨らませて嫉妬全開。零夜と倫子の抱き合いを見れば、当然そうなるのも無理はない。


「まったく、皆を心配させすぎよ。特に倫子と私なんて心臓バクバクだったんだから!」

「皆、ごめん……俺が触手に捕まってなかったら、こんなことには……」


 アイリンが苦笑いしながら零夜の頭をポンポン撫でると、彼は申し訳なさそうに謝る。エヴァ以外は皆、苦笑いで許す空気だ。


「大丈夫よ。零夜が無事ならそれでいいし、これで全員揃ったんだから」 

「そうそう。だから責任を感じる事はないぜ」


 ベルとマツリが優しくフォローしつつ、現在集まったメンバーを確認。零夜、倫子、アイリン、マツリ、エヴァ、日和、ベル、エイリーン、ルイザの10人と一匹。やっと全員集合だ。


「奴隷のこと調べたけど、ここにはいないから大丈夫みたい」

「フェルネ様から連絡があって、奴隷たちは奴隷商人から救出したそうです!」  


 日和とエイリーンの報告に、零夜はホッと一息。奴隷たちはギルドの手で救出され、安全な場所に避難済み。奴隷商人は逮捕され、戦いが終われば王都へ移送されるらしい。  


「そうか。ならゲルガー戦に集中できるな。こんなとこで止まってる場合じゃない。すぐ奴のとこへ向かうぞ!」

「「「おう!!」」」  


 零夜は倫子を支えつつ立ち上がり、ゲルガー討伐を高らかに宣言。仲間たちは拳を振り上げ、一致団結して突き進み始めた。


 ※


 悪鬼の本部基地では、タマズサが零夜たちの状況をモニターで見ていた。彼女は当然気に食わない表情をしていて、拳をプルプルと震わせていた。


(分断作戦は失敗か……忌々しい奴らじゃ……)


 タマズサが心の中で苛ついた直後、裕二とパルルが扉の入口から入ってきた。二人は零夜との戦いを中断した後に戻ってきたが、彼らもまた悪鬼の一員として活動している事が明らかになった。


「裕二。危険人物である東は手強かったか?」

「はい。奴は俺の想像を遥かに超えていました。しかし、あの様な無様な結末は、二度と起こしません!」


 タマズサの質問に対し、裕二は真剣な表情をしながら正々堂々と宣言する。その解答には偽りなどなく、パルルも頷きながら同意していた。


「分かった。だが、これだけは覚えておけ。お前とパルルは八犬士に対抗する戦士たち「キラーズエイト」の一員だ。今後無様な失敗をしたら……死は免れないと思え!」

「はっ!」


 タマズサからの忠告なる宣言に対し、裕二は敬礼しながら応えていく。同時に裕二はパルルと共に回れ右をした後、自分の部屋へと戻り出した。


(東零夜……この屈辱は必ず返す!)


 裕二は心の中で怒りに燃えながら、次こそ零夜を倒す事を決意。二度と無様な失敗をしない為にも……。

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