目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第73話 三つの扉

 零夜達は最上階に到達し、ゲルガーのいる部屋を探していた。最上階にある部屋はボスの部屋以外に2か所ある事が判明されている。しかしどの部屋にいるのかは分からない為、3グループに分かれて3か所の部屋を調べる事にしたのだ。グループ分けはこうなっている。


・零夜、倫子、エヴァ、ベル  

・日和、アイリン、エイリーン  

・マツリ、ヤツフサ、ルイザ


 通路には冷たい風が吹き抜け、遠くから聞こえる不気味な物音が一行の緊張を煽る。どの扉の向こうに死闘が待っているのか——その答えを知る術はなく、彼らは覚悟を決めて散った。


 ※


 まずは日和たちが1つ目の扉を確認する事に。そこは鍵が掛かっていて、扉を開ける事は不可能となっているのだ。埃っぽい扉の表面には無数の傷跡が刻まれ、何か恐ろしい過去を暗示している。


「参ったわね……鍵が掛かっているとなると、ルイザとベルが必要になるかも」

「私は鍵を解除できるスキルを持っていないし……」  


 日和とアイリンは難しい表情をしながら、目の前の扉をどう開けるか考え始める。アイリンの猫耳がピクピクと動き、不安と苛立ちが混じった空気が漂う。

 ルイザとベルは鍵を開ける事ができるスキルを持つ為、どんな扉でも開く事が可能である。しかし今回は彼女が別チームにいるので、連れて来るのは流石に迷惑となるだろう。


「それなら私に任せてください! こう見えても鍵の解除は得意です!」

「「エイリーンが!?」」  


 するとエイリーンが手を挙げて、自ら鍵を開ける事を宣言する。それにアイリンと日和が驚きを隠せずにいたその直後、エイリーンは右手を扉に当てて魔術を唱え始めた。彼女の背後に漂う微かな魔力の波動が、部屋全体に緊張感をもたらす。


「ロックオープン」  


 エイリーンが魔術を唱えた直後、扉のロックが強制的に解除された。重々しい金属音が響き、彼女はロックが解除された事を確認した後、扉をゆっくりと開き始める。軋む音が不気味に響き、何かが飛び出してくるのではないかと全員が身構えた。


「エイリーン、いつの間にこんな技を持っていたの?」

「鍵の開け方の講座を受けていました。中はどうかな?」  


 エイリーンが扉の中を覗いてみると、その部屋にはお宝が沢山あった。薄暗い部屋に輝く金貨や宝石が山積みにされ、埃をかぶった装飾品が無造作に散乱している。恐らくこの部屋は宝物庫であり、ペンデュラス家の財宝が多く眠っていたのだ。


「ペンデュラス家の財宝の様ね。彼等は殺されて無念の思いをしたみたい……」

「ええ……財宝については回収しないと。ペンデュラス家の思いを無駄にしない為にも……(こんな財宝を隠していたゲルガーの目的は、一体何だったのかしら?)」  


 日和は前を向いたと同時に、ペンデュラス家の財宝の回収に取り掛かる。エイリーンたちも彼女の手伝いに取り掛かり、財宝は僅か数分で回収完了する事が出来たのだった。しかし、日和の心には一抹の不安が残っていた。ゲルガーの財宝の目的は何だったのかを……。


 ※


 マツリたちは2つ目の扉の前に辿り着き、真剣な表情で前を見る。そこは厳重なロックがしてあるので、普通のロック解除では簡単に開かないだろう。扉の表面には不気味な紋様が刻まれ、見ているだけで背筋が寒くなる。


「恐らくこの部屋にゲルガーの秘密が隠されている。用心して」  


 ルイザはマツリとヤツフサに忠告したと同時に、真剣な表情で扉のロックを解除する。彼女の魔術が発動すると、複雑な錠が次々と外れていく音が響く。彼女の魔術によって僅か数秒で解除する事に成功し、マツリが扉のドアノブを真剣な表情で掴み始める。


「じゃあ、行くぜ」  


 マツリの合図に全員が頷き、彼女はゆっくりと扉を開ける。重い扉が軋む音と共に開き、その先に見えたのは……予想もしない物が置いてあったのだ。部屋の中は薄暗く、埃っぽい空気が漂い、本棚には無数の本が並んでいる。


「な、何だこりゃ!? 禁断の本ばかりじゃねーか!」

「なんであいつこんな物を隠しているのよ!」  


 マツリとルイザは赤面をしてしまい、思わず顔を抑えてしまう。この部屋にある物はゲルガーが集めた変な本ばかりである。その数は百冊以上であり、誰にも見つからない様に厳重なロックをしていたのだ。薄暗い部屋の片隅には、奇妙な影が揺れているようにも見えた。


「恐らく奴は趣味として持っていたのだろう。それにしても際どい物ばかりだな……」 


 ヤツフサは唖然としながらこの様子を見ていて、ゲルガーの行動に呆れるしか無かった。マツリたちはすぐにその部屋から移動したと同時に、バタンと扉を閉めて後ろを向く。閉まる音が異様に大きく響き、何かを見逃したような感覚が残った。


「早く皆のところに向かいましょう。こんな部屋に入った私たちがバカだったわ」

「ゲルガーに対してお仕置きしておかないとな。こんな本隠すなんてあり得ないぜ!」  

(この部屋に行ったのは、ハズレだったのかも知れないな……)


 マツリたちは赤面しながら仲間達の元に向かい出し、早歩きで移動していた。ルイザに抱かれているヤツフサはこの様子を見て、盛大なため息をつくしかなかったのだった。しかし、背後で微かに聞こえた物音に、彼の耳が一瞬だけ反応した。


 ※


 零夜、倫子、エヴァ、ベルの四人は大きな扉の前に辿り着き、真剣な表情をしながら前を向く。恐らくこの部屋こそゲルガーがいる部屋であり、決戦を前に誰もが緊張しているのだ。扉の隙間から漏れる冷たい空気が、彼らの決意をさらに引き締める。


「いよいよか……戦う覚悟はできていますか?」

「うん。怖いかも知れないけど、零夜君が一緒だったら大丈夫」

「私も零夜がいるからこそ、今の私がここにいる。ゲルガーとの因縁を終わらせる為にも、絶対に勝つわ」  


 零夜の質問に対し、倫子とエヴァは笑顔を見せながらそう応える。そのまま彼女たちは零夜に抱き着いたと同時に、目を閉じながらゆっくりと落ち着き始める。零夜の事を好きになってから、戦いの前に抱き合う事がルーチンとなっている。しかし彼にとっては迷惑と感じているが。


「じゃあ、私も!」  


 ベルもピタッと全身を零夜にくっつかせ、ムギュッと優しく抱き締める。彼女はスキンシップが大好きなので、恋愛ではなく趣味としてこの行動を取っているのだ。三人の温もりは零夜に伝わるが、彼は赤面しながら耐えていた。このまま続いたら倒れるのも時間の問題だろう。


「そろそろ良いですか……? 倒れそうですが……」

「「「おっと!」」」  


 零夜が赤面しているのを見た倫子、エヴァ、ベルは、慌てながら零夜から離れてしまう。これ以上彼に抱き続けたら、零夜は戦闘どころではなく、倒れてしまう可能性もあり得るだろう。だが、その一瞬の温もりが、彼らに僅かな安堵をもたらしていた。


「零夜君は赤面してしまう悪い癖があるみたいね。それじゃ、行くわよ!」


 倫子の合図と同時に、零夜が扉を勢いよく開く。重厚な扉が軋みながら開き、彼等の前にはゲルガーが椅子に座りながら待ち構えていて、真剣な表情で睨みつけていたのだ。部屋の中央に立つ彼の背後には、不気味な影が揺らめいている。


「まさか八犬士達がここに来るとはな……この時が来たという事か……」  


 ゲルガーは決心したと同時にスックと椅子から立ち上がり、真剣な表情で零夜達の方へ歩き始める。その姿を見た彼等は真剣な表情をしながら、警戒態勢に入ろうとしていた。足音が静寂を切り裂き、戦いの火蓋が切られようとしていた。


「アンタがゲルガーか。アリウスを殺して姿を変え、ペンデュラスを征服したそうだな」

「そうだ。正確に言えば奴隷を多く増やし、自身の思い通りにしようとしていた。其の為にもまずは街を征服しようと思っていたからな……」  


 ゲルガーは真の目的を零夜達に話し、その理由に彼等は怒りに震え上がっていた。好き勝手な目的で街を征服した事はとても許さず、今にでも怒りで飛び出そうとするのも無理はないだろう。するとゲルガーは突然ワナワナと震え、いきなり怒りの表情へと変化したのだ。


「しかし計画は狂ってしまった! エヴァとルイザには逃げられてしまい、奴隷商まで捕まった! その計画の元凶であるお前達を始末し、女性は奴隷となってもらう!」


 ゲルガーは怒りの表情で零夜達を睨みつけ、宣言したと同時に戦闘態勢に入る。自身の計画は成功される筈だったが、イレギュラーの存在である零夜達によって滅茶苦茶な結末になってしまった。その責任を取らせる為、彼は戦う決断をしたのだろう。


「だったら俺たちはアンタを倒す! エヴァやルイザを悲しませた罪、住民達を恐怖に陥れた罪、ペンデュラス家の親子を殺した罪を償う為にも!」


 零夜たちも一斉に戦闘態勢に入り、真剣な表情でゲルガーを睨みつける。零夜は村雨、倫子は剣の二刀流、ベルはロングアックス、エヴァは格闘の構えを取っているのだ。部屋に響く金属音と、彼らの息遣いが一層の緊迫感を生み出す。


「エヴァ。この戦いがお前との因縁を終わらせる戦いだ。奴隷にされた恨み……すべて奴にぶつけてやろうぜ!」


 零夜はウインクしながら、ガッツポーズで笑顔を見せる。それを見たエヴァは寂しそうな笑みを浮かべながら、コクリと頷く。だが、その瞳には深い影が宿っていた。


「ええ……けど、奴の恨みはそれだけじゃないからね……」

「えっ? どういう事だ? まさか他にもあるんじゃ……」


 エヴァが真剣な表情でゲルガーを睨みつけるが、零夜は彼との因縁がこれだけでない事に疑問に感じてしまう。果たしてベルとゲルガーの間に隠された因縁は何なのか……。ゲルガーの背後に揺れる影が、さらなる秘密を予感させていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?