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第95話 しりとりドッカンバトル

 ドクターバースの宣言が響き渡ると同時に、零夜の手元に近未来型の爆弾が握らされる。その表面は金属光沢を放ち、赤く脈打つ表示が不気味に点滅している。一目でわかる――これに巻き込まれれば、壊滅的なダメージは避けられない。


「では、まずはそっちからじゃ!」

「よし! ここは俺が行く! こう見えてもしりとりは得意だからな!」


 先攻は零夜たち。零夜は鋭い眼光でバースを捉え、大きく息を吸い込む。頭をフル回転させ、閃いた言葉を一気に叫んだ。


「パイルドライバー!」


 最初の言葉はパイルドライバー。零夜は全身の力を込め、爆弾をドクターバースにめがけて投擲する。爆弾は弧を描き、唸りを上げて飛ぶが彼が乗り込んでいるAIアーマードが金属製の腕でそれを軽々とキャッチ。爆発は起こらず、直撃は失敗に終わる。


「次はわしらじゃな。頼んだぞ、AIアーマード!」

『了解。バード』

(AI……人工知能か……こりゃ、ただのゲームじゃ済まねえぞ!)


 AIアーマードの冷徹な声が響き、即座に爆弾が投げ返される。爆弾は空気を切り裂き、ヒカリの手に飛び込む。彼女は一瞬緊張に顔を強張らせるが、真剣な眼差しで前を見据えた。


「今度は私ね! ドラゴン!」

「バカーッ! それはアウトでしょ!」

「あっ、しまった……」


 ヒカリの「ん」で終わる言葉に、アイリンが盛大にツッコミを入れる。零夜たちは呆然とするが、時すでに遅し。爆弾が赤く点滅を加速させ、轟音とともに大爆発を巻き起こした。爆風が部屋を揺らし、床がひび割れるほどの衝撃が全員を襲う。


「アホな奴らじゃな」


 ドクターバースが嘲笑を漏らす中、爆煙が徐々に晴れる。そこには黒焦げになりながらも、なんとか立ち上がる零夜たちの姿があった。ダメージは深刻だが、気力で踏みとどまっている。それ程諦めない気持ちが強くなければ、ここで倒れていたのも無理はない。


「ヒカリさん……なんて事を言うんですか……普通しりとりでドラゴンはあり得ないでしょ!」

「ごめん……それしか思いつかなくて……」

「ハァ……全く……」


 ヒカリがシュンと項垂れる中、新たな爆弾が彼女の手元に転がり込む。同時に第二ラウンドが始まりを告げられた。

 それを見た倫子たちは慌ててヒカリに駆け寄り、日和が彼女に向かってアドバイスしながら叫んだ。


「ヒカリさん、ここはどら焼きです!」

「ああ、そうか! どら焼き!」


 日和のアドバイスにヒカリは即座に答え、爆弾を力強く投げ飛ばす。爆弾は回転しながらAIアーマードに迫り、金属音とともにキャッチされる。


『キングダム!』


 AIアーマードは淀みなく答え、爆弾を投げ返す。今度はトワが受け止め、鋭い目つきで次の言葉を放つ。


「ここは私よ! 虫眼鏡!」


 トワの言葉は正確無比。爆弾を投げ返すと、AIアーマードが再びキャッチし、次の言葉を紡ぎ出す。


『猫好きの倫子』

「「「へ!?」」」


 突然の文章に、場が凍りつく。AIアーマードの策略は明らか――単なるしりとりではなく、相手を動揺させる心理戦だ。


「そんなのありか!?」

「って、なんでウチの好みを知っているの!?」


 マツリが叫び、倫子は顔を真っ赤にして驚愕する。日和たちも唖然とした表情でAIアーマードを睨む。このままでは長期戦は避けられないが、AIアーマードが倫子の好みを知っているのは想定外としか言えない。


「AIアーマードについてじゃが、お前達のデータを全て確認しているからのう」

「そう言う事か! それなら……コンドルダイブ!」


 ヤツフサが即座に文章で応じ、爆弾を両足で蹴り飛ばす。AIアーマードがそれをキャッチし、次の言葉を冷酷に吐き出した。


『ブスな女子共』


 その瞬間、倫子、日和、アイリン、エヴァ、マツリ、エイリーン、トワ、ベル、ヒカリ、椿、りんちゃむの頭の中で何かが弾けた。彼女たちの目がギラリと光り、殺意すら感じさせるオーラが爆発する。「ブス」という禁句を口にしたAIアーマードに、彼女たちの怒りは頂点に達した。


「それならこっちは……ん?」


 零夜が次の言葉を口にしようとした瞬間、倫子が爆弾を彼から強引に奪い取る。彼女の目は怒りに燃え、ドクターバースを射抜くように睨みつけていた。


「おい……」

「うおっ!(倫子さん、ブチ切れてるじゃねーか! AIアーマードのあの言葉は完全にアウトだった!)」


 倫子の低く響く声に零夜が怯む中、彼女は鬼のような表情で爆弾を握り潰す勢いで構える。「ブス」と言われた瞬間、倫子は別人に変わる――それは誰も止められない狂気のスイッチだ。


「もうしりとりは終わりじゃ! アホンダラ!」

「ぐほっ!」


 倫子は全身の力を込め、爆弾をドクターバースの顔面に叩きつける。爆弾は直撃し、轟音とともに爆発。爆風が部屋を揺らし、床に亀裂が走る。煙がドクターバースを飲み込み、倫子は腕を振り下ろしてフンと鼻を鳴らした。

 日和たち女性陣も一様に頷き、怒りの表情を崩さない。この様子を見た零夜とヤツフサは呆然とするしかなく、一歩後ずさってしまった。


「そこまでする馬鹿は何処にもいないが……AIアーマードのシステムが悪かったのかもな……」

「まあ、これで倒したから良いと思うが……」


 零夜とヤツフサが倫子たちをチラリと見るが、彼女たちの怒りはまだ収まっていない。近づけば命の保証はなく、ボコボコにされるのは確定だ。


「触らぬ神に祟りなしですね……そっとしておきましょう……」

「そうだな……」


 二人がため息をついた瞬間、煙の中からドクターバースが姿を現す。ボロボロの服、傷だらけの身体。彼が乗っているAIアーマードは、ミサイルランチャーやレーザー砲を装備し、完全武装で立ちはだかる。


「こうなったら貴様等を始末してくれる! ルールなど知った事か!」

(うわ……完全にブチ切れてしまったか……)


 ドクターバースの怒りに、零夜は心の中で冷や汗をかく。これまで散々挑発された彼は、もう容赦しないつもりだ。


「マジでやる気だぞ! 零夜、どうするつもりだ!」

「戦うしかありません! ここは俺が立ち向かいま……あ」


 零夜が拳を握った瞬間、エヴァが一歩前に出る。彼女はAIアーマードに突進し、驚異的な怪力でその巨体を軽々と持ち上げた。金属が軋む音が響き、エヴァは咆哮を上げながらAIアーマードを天井へ叩きつける。


「うおっ!」

「日和! トドメをお願い!」

「任せて! ブレイクショット!」


 エヴァの叫びに呼応し、日和がどこからともなく取り出したロケットランチャーを構える。彼女の目は冷静かつ鋭く、引き金を引くと、轟音とともにロケット弾がAIアーマードに直撃。爆発は部屋全体を揺らし、炎と煙が天井を焦がした。


「当たった……」

「なんじゃと!? ぐわあああああ!!」


 AIアーマードは大爆発を起こし、破片と金貨が雨のように降り注ぐ。煙が晴れると、ドクターバースの姿は消えていた。爆発に巻き込まれ、跡形もなく消滅したのだ。


「気が済みましたか?」

「お陰様で」

(深追いは止めておこう……これ以上怒らせたらこっちが持たねえ……)


 零夜のジト目に対し、倫子たちは満足げに笑う。零夜とヤツフサはただただ疲れた表情でため息をつき、この戦いはここで終わりにしようと決めた。

 その時、次の通路へ続く扉が重々しく開く。零夜たちは気を引き締め、真剣な表情で扉の向こうへ踏み出す。


「今回の部屋では問題なく進む事が出来たが、次の部屋ではそうはいかない。気を引き締めていく事を覚悟しておくように」

「「「了解!」」」


 ヤツフサの指示に全員が力強く頷き、通路を進み始める。リッジとの戦いはまだ先だが、ここから先は一瞬の油断も許されない――その覚悟を胸に、彼らは歩みを進めた。

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