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第102話 エヴァVSハイン

 零夜たちとリッジたちの戦いは、室内を震わせるほどの激闘へと突入していた。壁が震え、床がひび割れ、爆音と衝撃波が空間を支配する中、日和、アイリン、マツリ、エイリーンの四人はインプの軍勢に立ち向かう。無数のインプが吠えながら襲いかかるが、四人の容赦ない攻撃がそれを次々と粉砕していく。


「最初から一気に攻めていくぜ! 火炎放射かえんほうしゃ!」


 マツリが叫ぶと、彼女の口から灼熱の炎が噴き出し、まるで生き物のようにインプの群れを飲み込んだ。炎は渦を巻き、爆発的な熱波が室内を焦がす。インプたちは悲鳴を上げながら燃え尽き、瞬く間に黒い灰と金貨、素材の塊へと変わった。


「インプの角……こいつは武器に化けるぜ!」


 マツリは素早くインプの角を拾い上げ、刀の柄に嵌め込まれたオーブに押し込む。オーブが紫色に輝き、刀身が妖しく変形。紫の毒気を纏った妖刀『毒霧どくぎり』がその手に現れた。刀身から滴る毒液が床を溶かし、シュウッと白い煙を上げる。


「毒霧、ゲット! これでぶっ飛ばす!」


 マツリは毒霧を振りかざし、疾風のような斬撃を放つ。紫の刃が空気を切り裂き、インプたちを一閃で両断。斬られたインプは毒に侵され、苦しみながら崩れ落ち、わずか数秒で軍勢の三分の一が壊滅した。床には毒の沼が広がり、インプたちが近づくことすらできない。


「私も負けないわ! 拳に全霊を込めて……最後まで戦う!」


 アイリンが両拳を打ち合わせると、彼女の手首のバングルが激しく振動し、水のオーラを放ちながら変形。青く輝くオープンフィンガーグローブ『アクアストーム』が現れ、彼女の拳を水の奔流が包み込む。空気が湿気を帯び、床に水滴が飛び散る。


「今よ! アクアウェーブ!」


 アイリンが両手を突き出すと、轟音とともに巨大な水の波動がインプたちを襲う。波は渦を巻きながら進み、インプを絡め取り、鉄壁の水流で押し潰す。インプたちは水圧に耐えきれず次々と爆散し、残骸が水飛沫とともに床に叩きつけられた。


「残りはわずかよ! 日和、エイリーン!」

「任せて! ストライクショット!」

「フレイムスラッシュ!」


 日和は二丁拳銃をワイバーンガバメントに変形させ、魔法弾を連射。弾丸は光の尾を引きながらインプを貫き、爆発とともに敵を粉砕する。エイリーンは炎のロングアックス『ヒートアックス』を振り回し、炎の斬撃でインプを薙ぎ払う。アックスの一撃ごとに爆炎が上がり、床が焦げ、壁に亀裂が走る。インプの軍勢は瞬く間に全滅し、残るはリッジとハインのみとなった。


「ハインとリッジだけか……エヴァたちの戦い、どうなるね」

「五人なら絶対勝てる! ピンチになったら私たちが突っ込むよ!」

「ええ、準備はできています!」

「おっし! その意気だ!」


 日和たちは仲間が危機に陥った際のサポートを決意し、ヒカリたちの待機地点へ急ぐ。エヴァたちの勝利を信じ、戦場を見守りながら。


 ※


 エヴァとハインは、互いを睨みつけながら一触即発の空気の中で距離を詰める。室内は静寂に包まれ、わずかな足音や息遣いだけが響く。油断すれば即座に命を落とす緊張感の中、二人は全神経を研ぎ澄ませていた。


(ハインは剣を持たず、鉤爪のガントレットで戦うつもりね。接近戦が鍵になる……) 


 エヴァがそう分析した瞬間、彼女は疾風のように動いた。銀色の髪が風を切り、狼の尻尾が月光のように輝く。ハインも同時に動く。ガントレットの鉤爪が赤く光り、鋭い爪が空気を裂きながらエヴァに襲いかかる。


「ブラッディクロー!」

「おっと!」


 ハインの血の鉤爪が唸りを上げて振り下ろされるが、エヴァは紙一重でサイドステップ。爪が床を抉り、コンクリートが粉々に砕け散る。エヴァはハインの背後に回り込み、腰を掴んで後方へ投げ飛ばす。だが、ハインは空中で体をひねり、エヴァの腕を振りほどいて逆に投げ返す。


「ガハッ!」


 ハインは床に叩きつけられ、衝撃で床に蜘蛛の巣のような亀裂が走る。だが、彼は即座に跳ね起き、獣のような眼光でエヴァを睨む。ガントレットから赤い煙が立ち上り、低い唸り声が響く。ハインがガントレットを振り上げると、赤黒い波動が爆発的に放たれた。


「くらえ! ブラッドスラッシュ!」


 赤黒い波動が連続でエヴァを襲う。空気が裂けるような鋭い音とともに、波動は床を切り裂き、壁を抉る。だが、エヴァは風のようにしなやかに動き、波動を次々と回避。銀髪が舞い、尻尾が揺れる中、彼女はハインの攻撃をまるで遊びのようにかわし続ける。


「回避だと!?」

「その程度、読めてるわ!」


 エヴァは一気に間合いを詰め、鋭い蹴りをハインの脇腹に叩き込む。衝撃でハインの体が浮き上がり、エヴァは流れるような動きで背後に回り、鋭いクローで肩を切り裂く。


「ウルフスラッシュ!」

「グアッ!」


 ハインが苦痛の声を上げ、膝をつく。血が床に滴り、ガントレットにひびが入る。だが、彼の目は依然として燃えていた。よろめきながらも立ち上がり、エヴァをギロリと睨む。傷だらけの体から血が流れ、ガントレットは今にも砕けそうだった。


(ハインの動き……さっきより鋭い。まだ何か隠してるのかしら……?)


 エヴァは冷や汗を流しながら、全身の感覚を研ぎ澄ませる。ハインの次の行動を読み切るため、本能が全身全霊の集中を求めていた。


「……俺は……負けねぇ! もう二度と……あの地獄の日々には戻らねえ!」


 ハインが咆哮すると、ガントレットから赤いオーラが爆発的に噴き出した。邪悪な赤黒いオーラが室内を覆い、床が震え、壁が軋む。ハインの瞳が獣のように光り、ガントレットのひび割れから赤いエネルギーが溢れ出す。


「これは……!?」


 エヴァが驚愕の表情を浮かべる。ハインの周囲に血のような赤い霧が立ち込め、彼の動きが一気に加速。ガントレットのひび割れから漏れるエネルギーが空気を歪ませ、戦場全体が異様な雰囲気に包まれる。


「ブラッドバースト!」


 ハインが叫ぶと、彼の体が赤い閃光と化し、エヴァに突進。雷鳴のような速さで迫るハインに、エヴァは咄嗟にクローを構えて防御するが、衝撃波で後方へ吹き飛ばされる。壁に激突し、コンクリートが粉々に砕ける。


「くっ……!」

「まだだ!」


 エヴァは空中で体をひねり、着地。だが、ハインはすでに次の攻撃を仕掛けていた。赤い霧の中から無数の血の刃がエヴァを襲い、彼女は必死に回避しながら反撃の隙を探す。刃が床を切り裂き、壁を貫き、戦場は破壊の嵐に飲み込まれる。


「ハイン! その力……何!?」


 エヴァが叫ぶが、ハインは答えない。ただ狂ったように攻撃を繰り出し、赤い霧が視界を覆う。

 エヴァは感覚と本能だけを頼りに戦うことを決意。ハインに言葉は通じないと悟り、戦う以外の選択肢を捨てた。


 ※


 遠くで戦況を見守る日和たちは、ヒカリたちと合流し、エヴァのピンチに備えていた。赤い霧が戦場を覆い、視界がほぼ奪われている。無闇に突入すれば、ハインの攻撃に巻き込まれる危険があった。


「あの赤い霧……トワがいてくれれば楽だったのに……」

「問題は霧をどう解除するかだ。霧さえ消えればサポートに入れる!」


 日和とマツリは真剣な表情で状況を分析。ヒカリたちも同様に考えを巡らせる中、アイリンは霧の中で戦う二人をじっと見つめていた。


「アイリン、何か分かったのですか?」

「ええ。今は互角に戦ってるけど、ハインのガントレットのひび割れが限界に近い。あのガントレットが壊れるまで、エヴァが耐えられるかどうかが鍵よ」


 アイリンの説明に、皆は真剣な表情で頷く。だが、ヤツフサはさらに危機感を滲ませた声で続ける。


「推測だが……ガントレットが壊れた瞬間、ハインは怪物に変貌する可能性がある。いずれにせよ、奴を倒すしかない」


 ヤツフサの言葉に、日和たちは息を呑む。冷や汗が頬を伝い、これから訪れる恐怖を肌で感じていた。

 戦場は赤い霧に支配され、エヴァとハインの戦いは一触即発の緊張感に包まれていた。ハインの力の源は何か、エヴァはそれを暴けるのか――戦いの結末はまだ誰にもわからない。

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