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第105話 倫子VSヴァール

 倫子はヴァールと拳を交えていた。拳と拳がぶつかり合い、衝撃波が空気を切り裂く。互いに一歩も引かず、火花を散らす死闘が繰り広げられている。今は互角だが、一瞬の隙が命取りになる。


(あの二人は手強いみたいし、少なくとも油断はできない……警戒する必要があるけど、負けられないんだから!)


 倫子と日和は冷や汗を滲ませ、ヴァールに視線を移す。彼は余裕の笑みを浮かべ、鋭い眼光でいつでも襲い掛かれる構えだ。

 少数民族「アルバリ」の生き残りであるヴァールは、リッジにスカウトされ、今この戦場に立つ。多くの仲間が奴隷にされ、あるいは死に、彼自身もまた奴隷の鎖に縛られている。


(異世界から来た人と聞いたが、ここまで強いとはな……だが、俺だって負けられない! アルバリの意地に賭けて!)


 ヴァールは心の中で闘志を燃やすと同時に、爆発的な加速で倫子に迫る。そのスピードはまるで猛獣の如く、野生の本能が研ぎ澄まされている。拳と足に魔力のオーラが渦巻き、攻撃力が一気に跳ね上がる。


「くっ!」

「そこだ!スマッシュキック!」


 倫子は咄嗟にガードを固めるが、ヴァールの蹴りは彼女の腹に炸裂。衝撃は内臓を揺らし、倫子は猛烈な勢いで吹き飛ばされる。


「キャアアアアアア!!」


 宙を舞う倫子は、リッジと交戦中の零夜の近くへ落下。背中から地面に叩きつけられ、鋭い痛みに顔を歪める。


「倫子さん、大丈夫ですか!?」

「痛い……腹を蹴られた……」


 零夜は倫子に駆け寄り、彼女を抱きかかえる。倫子は涙を滲ませながら零夜を見上げるが、痛みは彼女の闘志を奪わない。先ほどの攻撃の苛烈さが、それを物語っている。


「一体誰にやられたのか……っと!」


 零夜が状況を推測しようとした瞬間、リッジが拳を振り上げて襲い掛かる。零夜は倫子を抱えたまま素早く回避し、真剣な眼差しでリッジを睨みつける。倫子を抱えた状態での戦闘は圧倒的に不利だ。

 その時、トワが二人の側に瞬時に移動し、倫子に目をやる。


「倫子、怪我の方は?」

「うん……なんとか自力で回復したけど……あのヴァールという男は凄く強いんよ」

「そのヴァールという奴は……奴か!」


 零夜が周囲を見渡すと、ヴァールが不敵な笑みを浮かべて現れる。倫子を抱える零夜を見て、彼はニヤリと笑う。


「ほう。こういう関係だったのか。その様子だと付き合っているみたいだな」

「うん。ウチの恋人なんやもん」

「いや、そこまでは流石に……」


 倫子の大胆な発言に零夜は赤面し、慌てて否定するが、彼女は意に介さない。更に零夜の顔に自らの頬をスリスリと当てながら、嬉しそうな表情をしていた。

 そんな中、背後からエヴァが忍び寄り、零夜の頭にガブリと噛み付く。血が滲むほどの本気の一撃で、カンカンに怒っている。


「ぎゃああああああ!! 戦闘中に噛みつくなァァァァァ!!」

「だっていい雰囲気だったんだもん!」

「悪かったから落ち着けェェェェェ!!」


 零夜の悲鳴が戦場に響き、怒りのエヴァを振りほどこうと全力疾走。敵も味方もこの突飛な光景に呆然とする中、マツリとアイリンが駆けつけ、エヴァを零夜から引き剥がす。


「ほら、落ち着きなって。ここは協力して戦おうぜ」

「むう……」


 マツリは苦笑しながらエヴァを宥め、彼女は頬を膨らませつつ戦闘態勢へ。零夜、倫子、トワ、エヴァ、アイリン、マツリの六人は、リッジとヴァールに立ち向かう。だが、リッジの圧倒的な強さは特に警戒が必要だ。


「結局こうなったか……でも、ウチらならやれるんやない?」

「確かにそうかもね。奴らは手強いけど、私たちなら勝てるかも!」

「そうですね。やるからには勝ちに向かいましょう!」

「「「了解!」」」


 六人は互いに笑みを交わし、次の瞬間、真剣な眼差しで敵を睨む。相手は少数民族のヴァールとCブロック隊長リッジ。どんな強敵だろうと、怯む理由はない。


「相手が増えても構わない。目の前の敵を倒すのみだ」

「悪いがここで死ぬ理由には行かないからな!」


 リッジとヴァールは目にも留まらぬ速さで襲い掛かる。だが、零夜は高く跳躍し、回避と同時に苦無を構える。鋭い眼光で二人の首筋を狙い、投擲。


「はっ!」

「「ぐっ!」」


 苦無は正確にリッジとヴァールの首筋に突き刺さり、二人は激痛に膝をつく。動きが鈍り、身体が思うように動かない。


「こんな事もあろうかと、苦無に能力半減の薬をつけておいた。この効果は戦いが終わるまで続くからな!」

「くそ……」

「そんな薬があるとは……」


 リッジとヴァールが冷や汗を流す中、倫子たちはチャンスを逃さない。零夜の援護を受けた今、攻め時だ。


「零夜君が作ってくれたチャンスを無駄にしない……最初から一気に攻める!」


 倫子は疾風のように駆け出し、ヴァールに強烈な二段蹴りを叩き込む。新人賞の名に相応しい、彼女と日和の必殺技だ。


「ぐはっ!」


 ヴァールは仰向けに倒れ、すぐに立ち上がろうとするが、ダメージは深刻だ。動きが鈍いその隙を、倫子は見逃さない。


「がっ!なんだこの技は……!」

「プロレスよ。今からその恐怖を見せてあげるわ!フレイムキック!」


 炎を纏った回し蹴りがヴァールの側頭部に炸裂。彼は横に倒れ、床に沈む。


「がは……!」

「ヴァール!」


 リッジが叫ぶが、零夜たちは容赦なく襲い掛かる。一気に畳み掛ける集団攻撃だ。


「ストライクアロー!」

「吹雪!」

「キャットクロー!」

「炎魔斬!」

「水神斬!」


 トワの弓矢、エヴァの氷魔術、アイリンのクロー、零夜とマツリの刀技がリッジに集中。爆発的なダメージで彼は後退するが、不屈の闘志で耐え抜く。


「やはりそう簡単にはいかないみたいだな……」

「ああ。こいつは骨が折れそうかもな……だが、手強い敵である以上、倒しがいがありそうだぜ!」


 零夜は冷や汗を流しながらも、真剣な眼差しを崩さない。マツリは腕を鳴らし、強敵との戦いに興奮を隠さずに立ち向かう。その様子に倫子たちも苦笑しつつ、戦意を燃やす。

 だがその時、倒れていたヴァールが突如立ち上がる。ボロボロの身体でリッジの前に立ち、忠義の炎を燃やし始める。


「ヴァール! まだやる気なん!?」

「まだだ……俺はな……この程度でやられる理由にはいかねえんだ……! ブラッドストーム!」


 ヴァールが地面に手を叩きつけると、血のように赤い竜巻が巻き起こる。猛烈な勢いで零夜たちを襲い、勢いよく吹き飛ばす。


「うわっ!」

「くっ!」

「きゃっ!」


 零夜、エヴァ、マツリは竜巻に弾かれ、地面に叩きつけられる。ダメージで動きが鈍り、立ち上がるのも一苦労だ。


「皆! ん?」


 アイリンが叫ぶが、目の前の光景に違和感。エヴァが零夜を抱き寄せ、幸せそうな笑みを浮かべている。零夜は複雑な表情だが、状況はいつも通りだ。


「いつも通りね……」

「まあ、心配しなくても大丈夫そうね……」


 アイリンとトワが苦笑する中、倫子は背中に怒りのオーラを立ち上らせていた。零夜が他の女と抱き合っている姿に我慢の限界。彼女の目は鬼神の如く燃えている。


「ともかく、ヴァールという奴は要注意ね。甘く見ると痛い目に遭うわ!」

「なら、ウチが倒したる……お仕置きせんといけへんからな……」


 倫子の怒りは頂点に達し、鬼神の如き気迫でヴァールに迫る。その姿にアイリンとトワは抱き合って震えるしかなかった。

 倫子の拳が、ヴァールの運命を決める一撃となるのか――戦場の熱気は最高潮に達していた。

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