倫子は怒りのオーラを全身から噴き出し、まるで業火のような赤黒い輝きを放ちながらヴァールへと迫る。彼女の背後には般若の幻影が浮かび上がり、怒りに満ちた表情で薙刀を振りかざす。その姿はまるで戦場の女神が降臨したかのようだ。遺跡の宝物庫に響く彼女の足音は、重々しくも鋭く、地面を震わせる。
「ほ、ほう……俺に立ち向かおうってのか……いい度胸じゃねえか……!」
ヴァールは額に冷や汗を浮かべながら、格闘技の構えを取る。だが、その下半身はガタガタと震え、まるで地面が揺れているかのような振動だ。武者震いのように見えるが、その瞳に宿るのは紛れもない恐怖。倫子の圧倒的な気迫に、彼の心はすでに折れかけている。
「八犬士の中でもヤバい奴がいるとは聞いてたが……こいつがその筆頭か! ヴァール、気をつけろ!」
「言われなくても分かってます! やるなら奴をぶっ倒す覚悟です!」
リッジの警告にヴァールは歯を食いしばり、恐怖を無理やりねじ伏せる。八犬士を根絶やしにするため、どんな犠牲を払っても倒さねばならない。彼は拳を握りしめ、戦闘態勢を整える。だが、倫子の眼光はまるで刃のように鋭く、彼の心を切り裂くようだ。
「覚悟しろ! ブラッドキャノン!」
ヴァールは左手の人差し指を倫子に向け、指先から血の弾丸を機関銃の如く連射する。赤い閃光が空気を切り裂き、轟音と共に倫子を襲う。だが、倫子はまるで風のようにしなやかに動き、弾丸の嵐を軽々と回避。瞬く間にヴァールの懐に飛び込み、その距離は息づかいすら感じられるほどだ。
「嘘だろ!?」
「はっ!」
「ぐぉおっ!」
ヴァールが驚愕の声を上げる刹那、倫子の右拳が雷鳴のようなアッパーを放つ。その一撃はヴァールの顎を直撃し、衝撃波が宝物庫の壁を震わせる。ヴァールの巨体はまるで砲弾のように真上に吹き飛び、天井の岩盤に激突。岩屑がバラバラと降り注ぎ、場に緊張が走る。
「す、凄まじい……こんなアッパー、見たことないわ……!」
「倫子の怒り、完全に限界突破してるわね……!」
間近でその一撃を見たトワとアイリンは、冷や汗を流しながら言葉を漏らす。
倫子の怒りは、ブスという禁句や好きな人が他の誰かと親しげにする姿を見た瞬間に爆発し、八犬士の力を増幅させる。彼女の攻撃力はもはや人間の域を超え、一撃で命を奪うほどの破壊力を誇る。敵に回せば、即座に終焉が訪れるだろう。
「いてて……ヴァールは……あ!」
エヴァを支えながら起き上がった零夜の視線が、落下するヴァールに釘付けになる。ヴァールは床に叩きつけられ、衝撃で床にひびが入る。あまりの展開に、零夜だけでなくエヴァやマツリも呆然と口を開ける。
「誰がやったの!?」
「倫子よ……」
エヴァの問いに、アイリンが震える指で倫子を指す。倫子の背後からは依然として怒りのオーラが立ち上り、ヴァールへの憎悪が渦巻いている。その姿はまるで修羅そのものだ。
「うおっ! 倫子さん、マジでブチギレてる……!」
「ここまでキレるなんて……アタイじゃ絶対勝てねえよ……!」
「でも、ヴァールはそう簡単にはやられない男。油断は禁物だし、 援護しないと!」
零夜とマツリは倫子の迫力に戦慄するが、エヴァは冷静に状況を分析する。すると、ヴァールが血まみれの体で立ち上がり、地面に両手を叩きつける。床から赤い魔力が迸り、禍々しい波動が広がる。
「さっきのお返しだ! グランドニードル!」
「まずい!」
零夜は危機を察し、持ち前の俊敏さで駆け出す。倫子の足元から魔力が爆発する瞬間、零夜は彼女をお姫様抱っこで抱え上げ、空中に跳躍。直後、地面から無数の血の針が突き出し、鋭い刃が空間を切り裂く。だが、零夜の機転で攻撃は空を切り、針は虚しく消滅する。
「危なかった……大丈夫ですか、倫子さん?」
「零夜君、ありがとう」
零夜は心配そうに倫子を見つめ、彼女は柔らかな笑みを返す。お姫様抱っこされたことで、倫子の怒りは一瞬にして鎮まり、頬がほんのりと赤らむ。だが、戦場はまだ終わらない。
「それにしても、ヴァールは手強い……どうやって倒すか……」
零夜は真剣な表情でヴァールを睨み、策を練り始める。ヴァールはまだ戦闘力を保持しており、油断すれば命取りだ。倫子は静かに頷き、決意を固める。
「なら……ここは新たな武器を使わないと」
「その武器って?」
倫子の言葉に零夜が疑問を投げかけると、アイリンたちも首を傾げる。次の瞬間、倫子の手元にまばゆい光が集まり、空間が歪む。彼女は新たな武器を召喚し、戦場にその存在感を刻みつける。
「どんな武器を出そうが、俺には敵わねえ!」
ヴァールは両手に曲がりくねったシャムシールを召喚し、二刀流の構えで突進する。刃は中近東の伝説を思わせる優美な曲線を描き、光を反射して輝く。だが、倫子は動じない。彼女の手元に現れたのは、槍の両側に三日月状の刃「月牙」を備えた伝説の武器だった。
「シャムシールなら、こっちはこれで勝負や!」
倫子は
「それは……方天画戟! 三国志の呂布奉先が愛用した伝説の武器です!」
「倫子がそんな武器を召喚するとは……彼女の成長はここまで進んでいた様だな」
エイリーンの解説に、ヤツフサたちは驚愕する。倫子が自らの力で伝説の武器を呼び出した事実は、彼女の進化の証だ。
倫子は方天画戟を握り、鋭い眼光でヴァールを射抜く。その姿はまるで戦場の覇者、呂布そのもの。怒りは内に秘められ、静かな闘志が彼女を支配する。
「ふん! 派手な武器なんぞ、俺には通用しねえ! くらえ!」
ヴァールはシャムシールを振り回し、風を切り裂く速さで倫子に襲いかかる。刃の軌跡は流星の如く、鋭く美しい。だが、倫子は冷静沈着。方天画戟を軽く振り、月牙の刃でヴァールの攻撃を弾き返す。金属がぶつかり合う甲高い音が宝物庫に響き、火花が飛び散る。
「遅い!」
倫子は一喝し、方天画戟を横に薙ぎ払う。月牙の刃が空気を裂き、ヴァールのシャムシールと激突。衝撃でヴァールは後退するが、二刀流の連撃で反撃を試みる。だが、倫子の動きは舞のように流麗で、すべての攻撃を完璧に回避。彼女の姿はまるで戦場を舞う蝶のようだ。
「くそっ! なぜ当たらねえ!」
ヴァールが苛立ちを爆発させる中、倫子は一瞬の隙を見逃さない。彼女は方天画戟を地面に突き立て、軸にして身体を回転。流れるような動きでヴァールの腹に強烈な蹴りを叩き込む。衝撃波が空気を震わせ、ヴァールは吹き飛び、宝物庫の壁に叩きつけられる。
「ぐはっ! この女、なんて力だ……!」
ヴァールは血を吐きながら立ち上がろうとするが、倫子の追撃は止まらない。彼女は方天画戟を振り上げ、月牙の刃をヴァールに振り下ろす。ヴァールはシャムシールで防御するが、倫子の攻撃はまるで山を砕く鉄槌の如く。シャムシールの一本が弾き飛ばされ、床に突き刺さる。
「一本じゃ済まないから!」
倫子はさらに踏み込み、方天画戟を縦に振り下ろす。月牙の刃が残ったシャムシールを捉え、圧倒的な力でねじ伏せる。ヴァールの腕が震え、膝が地面に落ちる。絶望が彼の顔を覆う。
「まだだ! ブラッドスパイク!」
ヴァールは最後の抵抗として地面を叩き、無数の血の棘を召喚。鋭い棘が倫子を襲うが、彼女は方天画戟を旋風の如く回転させ、すべての棘を粉砕。破片が光を反射し、戦場を彩る。仲間たちはその神技に息を呑む。
「なんて動きだ……倫子さん、まるで呂布の再来だ!」
「彼女の力は予想を遥かに超えている。この戦い、倫子が支配するわ!」
零夜が感嘆の声を上げ、トワも確信に満ちた声で頷く。倫子はヴァールの攻撃を全て無効化し、一気に間合いを詰める。方天画戟の刃がヴァールの胸元をかすめ、彼の動きを完全に封じる。ヴァールは恐怖に顔を歪め、後退しようとするが、倫子の気迫に押し潰され、動けない。
「終わりや、ヴァール!」
倫子は方天画戟を高く掲げ、背後の般若の幻影が雷鳴のような咆哮を上げる。彼女は全身の力を込め、武器を振り下ろす。月牙の刃がヴァールの残ったシャムシールを粉砕し、彼の肩口に深々と突き刺さる。衝撃で床が割れ、宝物庫全体が震動する。
「があああっ!」
ヴァールは絶叫と共に膝をつき、血を流しながら崩れ落ちる。彼の身体は光の粒となって消滅し、その場には金貨の山が残される。
倫子は息を整え、方天画戟を地面に突き立て、冷ややかな目でヴァールのいた場所を見下ろす。
「私の仲間を傷つけた罰よ。続きは地獄で反省せえや」
仲間たちは倫子の圧倒的な勝利に歓声を上げる。零夜は駆け寄り、彼女の手を握り、満面の笑みを浮かべる。憧れの人がさらなる高みへと昇る姿に、心からの感動を覚えたのだろう。
「倫子さん、最高でした! ヴァールを一騎打ちで倒すなんて、まるで伝説だ!」
「ふふ、大したことじゃないから」
倫子は少し照れながら零夜の手を握り返す。背後の般若の幻影は静かに消え、戦場の熱気が徐々に冷めていく。
「ヴァールがやられるとは……だが、メイドロボがまだ残ってるぞ……」
リッジはヴァールの敗北にショックを受けつつ、戦場を見渡す。メイドロボは現在ベルと激しい戦いを繰り広げ、互角の展開が続いている。
すると、零夜が両手に村雨を構え、リッジに迫る。敵のボスがいる以上、戦いはまだ終わらない。
「メイドロボはベルが相手してる。次はお前だ、リッジ」
「小賢しい忍者め!」
リッジは巨大な大剣を召喚し、零夜との戦いに突入する。遺跡の宝物庫での激戦は、新たな局面へと突き進むのだった。