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第107話 呪われたメイドロボ

 ベルとメイドロボの戦いは、まるで嵐のように激しさを増していた。ロングアックスとデッキブラシが空気を切り裂き、金属同士がぶつかり合うたびにバチバチと火花が飛び散る。その衝撃は地面を震わせ、周囲の空気を熱く焦がしていた。


(このメイドロボ……ただの機械じゃない! 私の想像を遥かに超えた戦闘力ね……!)


 ベルは額に冷や汗を滲ませながら、鋭い眼光でメイドロボを睨みつける。とんでもない相手を選んだのは運が悪かったかも知れないが、正々堂々立ち向かうしか無いと覚悟を決めている。

 メイドロボは無機質な表情を崩さず、デッキブラシを両手で力強く握り、まるで戦闘マシンそのもの。彼女の視線は獲物を逃さぬ猛獣の如く、ベルを完全にロックオンしていた。


「ターゲット捕捉。迅速に殲滅します」


 メイドロボの声は冷たく機械的だった。瞬間、彼女の動きが加速し、両目から眩い光線が放たれる。

 その光はまるでレーザーの刃のように鋭く、地面を焦がしながらベルを襲った。だが、ベルは鋭い反射神経で横に跳び、光線を紙一重で回避。爆風で巻き上がる砂煙の中、彼女は一気にメイドロボに肉薄し、ロングアックスを振り上げる。


「喰らいなさい! アックススラッシュ!」


 轟音と共に、ロングアックスの一撃がメイドロボの肩に炸裂。衝撃波が周囲を揺らし、地面にひびが入るほどの威力だった。


「が……!」


 メイドロボは後退し、膝をつきそうになるが、即座に体勢を立て直す。彼女はデッキブラシを高速で回転させ、その動きはまるで戦闘ヘリのプロペラのように空気を切り裂いた。今の一撃を喰らっても、彼女の内部には不屈の意志が宿っているかのようだった。


「簡単には倒れないか……でも、諦めるわけにはいかない!」


 ベルはメイドロボのしぶとさに一瞬苦笑いを浮かべるが、すぐに表情を引き締め、ロングアックスを両手で構え直す。彼女の瞳には、決して折れない覚悟が宿っていた。

 その様子を、ヤツフサたちは物陰から息を殺して見守っていた。緊迫した戦いの展開に、誰もが手に汗を握り、心臓の鼓動を抑えきれなかった。


「あのメイドロボ……ここまで強いなんて……」

「まるで戦闘兵器そのものよ……私たちの想像を遥かに超えてるわ!」


 日和は冷や汗を流しながら、メイドロボの動きを凝視する。ヒカリ、椿、りんちゃむもその圧倒的な戦闘力に驚愕し、言葉を失っていた。

 メイドロボの強さは、ベルと同様自分たちの想像を超えている。もし自分たちが戦っていたら、同じ事になっているだろう。


「彼女には何か過去があるはずです。私のサーチスキャンで調べてみます」


 エイリーンは真剣な表情で右手を前に突き出す。彼女の手から淡い緑のオーラが放たれ、まるで生命の脈動のように揺らめきながらメイドロボに狙いを定めた。


「サーチスキャン!」


 エイリーンがスキルを発動すると、彼女の手から小さな光の粒子が放たれ、メイドロボに命中。光は彼女のボディをスキャンし、瞬時に情報がエイリーンのバングルにインストールされた。


「インストール成功! 早速確認します!」

「すっごいじゃん、エイリーン!」

「えへへ……」


 りんちゃむはエイリーンの頭を撫でながら褒めちぎる。エイリーンは照れ笑いを浮かべつつ、すぐにバングルを操作し、ウィンドウを召喚した。


「では、画面を見てみましょう。メイドロボについて何か分かるはずです」


 ウィンドウに映し出されたのは、メイドロボの詳細な情報だ。

 彼女の名前はカルア。かつてハルヴァスの孤児院でメイドロボとして働いていたが、エイリーンのいた孤児院とは異なる施設だった。


「カルアって名前なんだ……てっきりメイコとかロボミとかかと……」

「いや、そんな名前だったらややこしいよ! 怒られるって!」

(何の話してるの……?)


 椿は名前に納得しつつも、自分の予想が外れたことに苦笑い。日和がすかさずツッコミを入れ、ヒカリは呆れたように二人を見ていた。名前については気になる部分もあるかも知れないが、一部は諸事情で聞かない事が良い場合もあるだろう。


「それにしても、カルアが孤児院のメイドロボだったなんて……なぜこんな戦闘マシンになったの?」

「すぐに調べてみます!」


 りんちゃむの疑問に、エイリーンは素早くカルアの過去を検索。すると、過去の映像が記録された動画がヒットし、タイトルは「別れと降伏」と記されていた。


「この動画に記録があります!」

「よし、早速見てみよう。カルアの過去に何があったのか、しっかり見極めるぞ」


 ヤツフサの提案に皆が頷き、エイリーンは動画をクリック。映像が流れ始めると、そこには夜の屋敷で子供たちと穏やかに過ごすカルアの姿があった。

 当時の彼女は子供たちを抱きしめ、優しく頭を撫でていた。だがその時、突如として武装した男たちが屋敷に押し入ってきた。彼らは悪鬼の所属ではないものの、明らかに雇われた暗殺者たちだった。


『貴方がたは?』

『俺たちは依頼でアンタを攫いに来た……邪魔するガキどもは……皆殺しだ!』


 男たちは銃や剣を構え、子供たちに襲い掛かる。子供たちの悲鳴が夜の静寂を切り裂き、男たちは容赦なく追い詰めていく。斬殺、銃殺、絞殺――年齢を問わず繰り広げられる残虐な光景は、まさに地獄そのものだった。


「ひ、酷すぎる……こんな殺し方って……」

「見てられない……!」


 日和たちは映像のあまりの残酷さに顔を背け、恐怖に震える。だが、ヤツフサとエイリーンは表情を崩さず、映像を見つめ続けた。本心は怖いかも知れないが、カルアを知る為には見続けなければいけないと判断している。


「この男たちは、悪鬼に雇われた傭兵の可能性が高い。いずれにせよ、捕まえて尋問する必要がある。」

「そうですね……その後どうなったのかな……」


 エイリーンが映像に視線を戻すと、子供たちは全員無残な死体となって地面に転がっていた。首を切断されたり、バラバラになっている死体もある。

 カルアは男たちに捕らえられ、抵抗も許されぬまま連行されていく。男たちはカルアをリッジという人物に引き渡し、金を受け取って立ち去った。そこで映像は終了し、エイリーンたちは重い沈黙に包まれた。


「こんな過去があったなんて……あの男たちは絶対に許せない」

「ええ。でも今はベルのサポートが優先よ!」


 エイリーンは男たちの蛮行に怒りを滾らせ、日和も頷きながら気持ちを切り替える。今すぐにでも男たちを始末したいところだが、今はベルが戦っている以上、サポートする必要があると判断しているのだ。

 視線を戦場に戻すと、そこでは熾烈な戦いが続いていた。


「ターゲットの攻撃威力、問題なし。リボルバーキャノン!」


 カルアの指先から、マシンガンのように光弾が連射される。その弾幕はまるで光の嵐のようで、地面を抉り、爆煙を巻き上げながらベルを襲う。

 ベルは必死に回避を試みるが、攻撃の密度に圧倒され、徐々に追い詰められていく。いくらS級ランクの戦士と言えども、カルアを相手にするには限度があるのだ。


(このままじゃジリ貧……近づけば撃たれるし、どうすれば……!)


 ベルは冷や汗を流しながら頭をフル回転させる。目を閉じながらピンチに陥ったその瞬間――



「バブルストライク!」

「うわっ!?」



 突然、ベルの背後から泡状の光弾が放たれ、カルアに直撃。轟音と共に爆発が巻き起こり、カルアは衝撃でバランスを崩し、片膝をつく。ベルは攻撃の主を瞬時に察し、振り返って笑顔を浮かべた。


「今の技……日和!?」

「間一髪だったね!」


 そこにはアクアイーグルを構えた日和が、ニッコリと笑みを浮かべながら立っていた。彼女の参戦を合図に、反撃の火蓋が切られたのだった。

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