ベルの絶体絶命のピンチを、日和の電光石火の救援が救った。だが、敵であるカルアは戦意を失うどころか、冷酷な殺気を放ち、両手を突き出して指先から眩い光弾を放つ構えを見せる。空気が一瞬で張り詰め、戦場に緊張が走った。
「戦闘継続。敵を倒します! リボルバーキャノン!」
カルアの指先から放たれた光弾は、まるで流星群のような勢いで連続発射され、爆音とともにベルと日和を襲う。地面が砕け、衝撃波が空気を切り裂いた。
だが、ベルは瞬時に虚空から巨大な光の盾を召喚。鉄壁の要塞のように構えた盾は、光弾を次々と弾き返し、カルア自身に逆襲する。
「くっ!」
カルアは爆風の中、敏捷に身を翻して回避。だが、日和はそんな彼女に隙を与えない。アクアイーグルを握る手に力がこもり、瞳には反撃の決意が宿る。「今だ!」と叫ぶと同時に、銃口から青い輝きが迸った。
「アクアブラスト!」
水の波動砲は、まるで海が牙を剥くようにカルアを飲み込まんばかりに襲い掛かる。轟音とともに地面を抉り、砂煙が舞い上がった。だが、カルアは冷静に両手を突き出し、目の前に巨大なバリアを展開。波動砲はバリアに激突し、衝撃波が戦場を震撼させた。
「そうはさせません! ガードバリア!」
カルアのバリアは微塵も揺らがず、彼女の攻防の完璧さを証明していた。攻撃も防御も隙がない。長期戦は避けられず、どちらの精神と体力が先に尽きるかが勝負の鍵となるだろう。
「彼女、なかなかやるわね……攻防も完璧だし、どう対処すれば……」
ベルは額に冷や汗を浮かべ、歯を食いしばりながら策を模索する。カルアの鉄壁の戦術に、焦りが心を侵食し始めていた。
その時、日和の脳裏に、カルアの過去の映像が閃く。彼女は急いでベルに耳打ちした。
「さっきカルアの過去を見たけど、彼女はかつて孤児院で働いていたわ。けど、男たちによって子供たちは殺され、彼女は連行されて今に至るの……」
「えっ!? 彼女にそんな過去が!?」
ベルは衝撃に目を見開き、両手で口を覆った。敵であるカルアが、自分と同じく子供を失った過去を背負っているなんて。驚愕と同時に、彼女の心に共鳴する感情が芽生える。
「カルアの過去を聞いた以上は放っておけない…! 私と同じ過去を背負っているのなら、ここは奥の手を使わせてもらうわ!」
「へ? 奥の手?」
ベルの力強い宣言に、日和は目を丸くして戸惑う。ベルにそんな切り札があるのは初耳で、ポカンとするのも無理はない。
次の瞬間、ベルは両腕を大きく広げ、まるで天を仰ぐように呪文を唱え始めた。彼女の全身から爆発的な光が迸り、戦場を純白に染め上げる。光はまるで太陽そのもののように辺り一面を照らし、圧倒的な神聖さで全てを包み込んだ。
「う……眩しい……」
「こ、この光は……あ……!」
あまりの眩しさに日和は腕で目を覆い、カルアは目を見開いたまま凍りつく。次の瞬間、目の前の光景にカルアは戦闘態勢を崩し、呆然と立ち尽くした。
ベルは目を閉じ、静かに宙に浮かび、全身から聖なる光を放つ。背後には、微笑む聖母マリアの幻影が浮かび上がり、慈愛と威厳に満ちた姿で戦場を見下ろしていた。
「あれは聖母の光! 敵の戦意を喪失させ、心の闇を浄化する最強の技です!」
「まさかベルがその様な技を使うとは……彼女は何者だ!?」
「私たちも知りたいけどね……」
物陰に潜むエイリーンたちが驚愕の声を上げる。エイリーンは技を正確に分析し、ヤツフサはベルの正体に疑問を叫ぶ。椿は苦笑しながらツッコミを入れ、ヒカリとりんちゃむもコクコクと頷く。
「あなたは男たちによって子供を失ってしまい、そのままリッジの配下になってしまった。私も同じ体験をしたから、その気持ちは同情するわ」
「まさかあなたも……同じ経験をされていたのですか……?」
ベルの悲しげな声に、カルアは震える声で問い返す。 ベルは静かにコクリと頷き、ゆっくりとカルアに歩み寄っていく。そのままそっと彼女を抱き締め、ポンポンと頭を撫で始める。
カルアはその温もりに驚きを隠せなかったが、まるで母親の暖かさのような感覚が彼女の心を溶かし始める。闇に閉ざされた魂が、光に触れて揺れ動いていた。
「ええ。けど、皆が側にいたからこそ、今の私がいるわ。あなたは一人ぼっちかも知れないけど、これからは私……いや、私たちが側にいる。あなたはもう一人じゃないから……ね」
「あ……あ……うわあああああん!」
ベルの優しい微笑みに、カルアの感情は決壊した。ロボットであるはずの彼女の目から、まるで人間のように涙が溢れ出す。ハイスペックオートマタとして作られたカルアの涙は、まるで娘が母に甘えるような純粋な感情の証だった。戦場に静寂が訪れ、誰もがその光景に息を呑む。
その瞬間、カルアの身体から紫の煙が噴出し、光の粒となって消滅。リッジの呪縛から解放され、彼女はついに自由を手に入れた。
「成功したのか、ベル!」
「ええ! バッチリよ!」
ヤツフサが興奮を隠せず駆け寄り、ベルは安堵の笑顔で応える。彼女の聖母の力によって、カルアを呪いから解放する事に成功したのだ。
ヒカリたちも後に続き、次々とベルの元に集まる。カルアは泣き疲れて眠りにつき、スヤスヤと天使のような寝顔を見せていた。
「ベル、大丈夫だった?」
「ええ。それよりもカルアをお願い。彼女、泣き疲れて眠っちゃったから」
「分かったわ。彼女は私たちに任せて」
「安全な場所に移動するから!」
ヒカリたちは眠るカルアを優しく受け取り、そっと運びながら物陰へと移動。彼女を起こさぬよう、静かに安全な場所へと向かう。
「さて、残るは……あら」
ベルが鋭い視線をある方向に向けると、ズカズカと重々しい足音が響く。リッジが姿を現した。カルアが解放されたことに激昂し、血涙を流しながらベルを睨みつける。背後から噴き出す闇のオーラは、まるで地獄の業火のように渦巻き、戦場を恐怖で支配していた。
「やはり来たわね……もしかするとカルアが解放された事が気に食わなかったの?」
「そうだ!よくも邪魔をしてくれたな!」
リッジの咆哮は空気を震わせ、倫子たちは恐怖に後ずさり、ヒカリたちは物陰に身を隠す。リッジの目には狂気が宿り、ベルへの憎悪が爆発していた。
「そっちがその気なら……はっ!」
「ぐへら!」
ベルは一瞬の隙も見せず、リッジの顔面に雷鳴のような左フックを叩き込む。衝撃でリッジは吹き飛び、地面を転がる。だが、すぐに立ち上がり、背中から噴き出す闇のオーラはさらに濃密に、禍々しくなっていた。
「こいつが……もう絶対に許さん!」
リッジの怒りは頂点に達し、戦場は一触即発の緊張に包まれる。そこへ、零夜たちがベルのもとに駆けつけ、剣や銃などを構えて戦闘態勢を整える。
更に物陰からエイリーンも飛び出し、ロングアックスを強く握り締める。その表情は既に覚悟を決めていて、完全に戦闘態勢に入っているのだ。
「ここからは私たち九人で戦いましょう! 奴を倒してネムラスの皆の仇を取る為にも!」
「その通りよ。ここからが本番である以上、気を引き締めるわよ!」
「「「おう!」」」
エイリーンとトワの号令に、九人の戦士たちは一斉に声を上げ、リッジとの最終決戦に突入。空が裂け、地が震え、幕張の地で運命を賭けた最後の戦いが火蓋を切った――!