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第110話 アブノーマルチェンジ

 倫子たちの衣装が突然変化する異常事態に、零夜は驚愕のあまり叫んでしまった。ヒカリたちも呆然と立ち尽くすしかなく、驚きを隠せないのは彼らだけではなかった。


「なんでだよ! 普通なら倒れて眠るはずだろ! なんで衣装が変化するんだ! ふざけすぎだろ!」


 リッジも目を丸くし、声を張り上げた後、荒々しく息を整える。倫子たちの衣装が一変した予想外の展開に、彼も動揺を抑えきれなかったのだろう。


「ちょっと! この衣装なんなの! 恥ずかしくて戦えないじゃない!」

「早く元に戻してよ!」


 トワたちは胸元を押さえ、顔を真っ赤にしてリッジにブーイングを浴びせる。状態異常を免れたのは幸いだが、衣装の変化に戸惑いと羞恥心が隠せない。

 一方、倫子、アイリン、ベルは比較的落ち着いた衣装だったため、動揺せず平然としている。


「だ、大丈夫ですか?」

「うん……でも、なんで衣装が変わったんやろう……?」


 零夜の問いに、倫子は穏やかに頷きながら答える。だが、自身のオーバーオールに目をやると、「RINKO」と刺繍されたワッペンや、リンゴや色とりどりのワッペンが散りばめられているのに気づく。まるで教育番組のお姉さんのような出で立ちに、疑問が募るのも無理はない。


「なんか、歌のお姉さんみたいで……抱きしめたくなるような……いや、なんでもないです!」


 零夜は照れ笑いを浮かべ、恥ずかしさから思わず顔を背ける。すると倫子がニコリと微笑み、突然近づいてムギュッと彼を優しく抱きしめた。


「嘘つかないの。ほら、こういうのも悪くないでしょ?」

「うっ!? 勘弁してください! 俺、こういうの苦手ですし、戦闘中ですよ!」

「ええやん。よしよし、良い子良い子」


 倫子は温かな笑顔で零夜を抱きしめ、全身を寄せながらスリスリと擦り寄る。お姉さんの愛情が伝えられていて、まるで姉弟関係の様だ。

 しかし零夜は顔を真っ赤にし、両手をバタバタさせて慌てふためく。その様子だと抵抗があるとしか思えない。


「じゃあ、私も仲間に入るわ。よしよし、良い子ね」

「うおっ!?」


 そこにベルまで加わり、零夜はさらに赤面。ベルは保育士らしい優しい笑みを浮かべ、Tシャツにエプロン、ジーンズというシンプルなスタイルで、母親のような温かさを漂わせる。彼女の抱擁は、まるで小さな子をあやすような柔らかさで、零夜を包み込んだ。


「アンタはまだマシよね。私はなんで体操服にジャージズボンなのよ……まぁ、動きやすいっちゃ動きやすいけど」

「ちなみに、中国の高校生の制服はこれが主流らしいよ」

「嘘でしょ!? こんな姿で!?」


 アイリンは名前入りの半袖体操服を引っ張り、チラリとおへそを見せながら不満げに呟く。赤いジャージズボンは裾が長く、白い三本ラインが特徴的だ。零夜の説明に、アイリンはカルチャーショックで目を丸くする。


「あなたたちはまだマシよ……まさか私がこんな姿になるなんて……」


 エヴァは黒の袖なしワンピースにエプロンのメイド服。シルバーウルフの獣人である彼女の姿は、萌え要素満載で目を引く。本人としては複雑な表情をしているが。


「私はセーラー服よ。まぁ、この衣装も悪くないかも……」


 日和は青の半袖セーラー服に舌を出し、すっかり気に入った様子。テレビ出演で似た衣装を着ることもあるため、抵抗は少ないようだ。


「あなたたちはまだいいわよ! なんで私がバニーガールなの!?」


 トワはバニーガールの衣装に顔を真っ赤にし、恥ずかしさで身を縮める。エルフの女性がバニーガールを着るのは意外だが、本人にとっては耐え難い羞恥だ。


「アタイなんか短めの和服だぜ! さすがに恥ずかしすぎる!」

「私もナース服はキツいです! こんなの、恥ずかしくて無理!」


 マツリは短い和服、エイリーンはナース服で、トワと同じく赤面しながら抗議する。

 マツリは長袴を着るのが好きだけでなく、ジーンズやオーバーオールも好んでいる。しかしスカートや和服を着るのが嫌いなので、女らしさが少ないのが問題だ。

 エイリーンは鉱山で働いていたので、動きやすいズボン姿を好む。しかしマツリと同じくスカート系が苦手であり、恥ずかしさのあまり死にたくなる事もあるのだ。


「状態異常が効かなかったのはいいけど、なんでこんな服に……?」

「私に聞かれても……」

「恥ずかしいのは嫌だなぁ……」


 物陰から様子を窺うヒカリたちも、唖然としながらこの光景を見つめる。状態異常を免れるのは羨ましいが、衣装が変わるのは絶対に勘弁だと心底思う。ちなみに、カルアはヒカリの膝の上でスヤスヤと眠っており、この騒動には気づいていない。

 倫子たちの様子を見たヤツフサが、すぐに原因を察し、声を張り上げる。


「分かったぞ! お前たちは状態異常の攻撃を受けると、衣装が変わるスキルを持ってる! その名は『アブノーマルチェンジ』だ!」

「「「アブノーマルチェンジ?」」」


 倫子たちは首を傾げる。そんなスキルは初耳であり、疑問に感じるのも少なくない。


「状態異常を無効化する代わりに、攻撃を受けた際、着ている衣装が変化する。最悪の場合、全裸になる可能性も……」

「「「ひっ!」」」


 ヤツフサの真剣な説明に、倫子たちは顔を青ざめさせ、冷や汗を流す。メイド服、巫女服、自衛隊の服、ビキニアーマーなどはまだセーフの範囲だが、全裸ともなれば恥ずかしさどころか戦うことすら不可能。いっそ死にたくなるレベルだ。


「こんな展開、絶対嫌よ! 元に戻すにはどうすればいいの!?」

「そうですよ! 恥ずかしくて死にそうです!」


 トワとエイリーンは顔を真っ赤にしながらヤツフサに詰め寄り、エヴァたちも激しく頷いて同意する。全裸だけは絶対に避けたいと願うエイリーンは、すでに涙目だ。


「元に戻すには、リカバリーなどで状態異常を回復させるだけだ。それで元の服に戻れる!」

「なら、私が行くわ!」


 ヤツフサの言葉を聞き、日和は即座に両手を合わせて呪文を唱える。彼女の周りに緑色の風が渦巻き、キラキラと光る緑の粒が飛び出す。


「みんなの服を元に戻せ! リカバリー!」


 日和の呪文が響き、倫子たちの衣装が次々と元に戻っていく。全員が元の姿に戻り、安堵の息をつく。あのままだったらどうなっていたか、想像するだけでゾッとする。


「よし! 元に戻った!」

「やっぱりこの服が落ち着くわね」

「一時はどうなるかと思ったわ……」


 倫子たちは軽く準備運動をしながら、元の服の感触を確かめる。馴染み深い衣装だからこそ、本来の実力を発揮できる。あのままだったら、戦いどころではなかっただろう。


「やれやれ……一時はどうなるかと思ったけど、これで思う存分戦えるな!」


 零夜は安堵の息をつき、氷剣と紅蓮丸を構えてリッジを鋭く睨む。仲間をここまで辱めた罪は重く、断罪する覚悟がみなぎっている。


「その気なら、デス・ブラッドで勝負だ。フン!」


 リッジは両手に血のオーラを纏い、真剣な眼差しで応戦の構えを見せる。デス・ブラッドを発動させた以上、ここからは本気の戦いだ。


「さぁ、ここからは死の舞踏会の始まりだ。悪く思うなよ?」


 リッジは不敵な笑みを浮かべ、零夜たちを挑発する。彼らはゴクリと息を呑み、真剣な表情で立ち向かうのだった。

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