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第111話 デス・ブラッドの弱点

 リッジは両手に血のオーラを纏い、零夜たちに猛然と襲い掛かる。まるで彼を倒すことに全てを賭けているかのような勢いだ。おそらく、こうするしか道はないと腹を括ったのだろう。


「私たちは即死や状態異常は無効だけど、喰らったら服が変えられちゃうわね!」

「それは絶対に避けなきゃ!」

「私もあんな衣装を着るのはもう懲り懲りよ!」

「私は平気だけど?」

「「「自重しなさい!」」」


 倫子たちはリッジの「デス・ブラッド」に警戒しつつ、素早い動きで攻撃を回避し始める。服が変えられれば本来の力を発揮できなくなるだけでなく、恥ずかしさで戦闘不能に陥る可能性すらあるのだ。

 ちなみに、ベルは平然としているが、エヴァたちから一斉にツッコミを浴びせられた。


(即死無効か……仕方ない。だが、ダメージを与えることはできる! 攻めて、攻めて、攻めまくるぞ!)


 リッジは心の中でそう決意し、即死を狙うのをやめ、純粋なダメージを与える戦法に切り替える。そして一気にエイリーンに接近し、彼女へ強烈な一撃を放とうとする。


「デス・ブラッド!」

「くっ!」


 エイリーンはロングアックスの柄を盾のように構え、血の拳の一撃を辛うじてガード。反応が一瞬でも遅れていたら、服が変えられていたかもしれない。


「チッ! いつまで耐えられるかな?」

「ぬぐぐ……!」


 リッジは舌打ちし、あくどい笑みを浮かべてエイリーンを睨みつける。彼女は冷や汗を流しながら抵抗を続けるが、このままでは時間の問題で押し負けてしまうだろう。


「そうはさせない! ブラッディクロー!」

「がはっ!」


 その瞬間、エヴァがリッジの背後に素早く回り込み、ウインドクローから鋭い血のクロー攻撃を繰り出す。完全に不意を突かれたリッジは、背中に強烈な一撃を喰らい、たまらずよろめいた。


「今よ! これ以上野放しにはできない!」


 リッジが怯んだ隙を逃さず、エイリーンは彼から距離を取り、ロングアックスを力強く握り直す。すると、彼女のロングアックスが眩い光を放ち、水属性の効果を持つ「アクアブレイク」へと変化した。

 アクアブレイクは青く輝くロングアックスで、同じ水属性のアクアアックスの進化形だ。水属性の攻撃を得意とし、回復魔法や大波を呼び起こす能力も備えている。


「さっきのお返し! アクアウェーブ!」

「ぐはっ!」


 エイリーンがアクアブレイクを横に一閃すると、巨大な波が轟音とともに召喚される。その激流はリッジを飲み込み、凄まじいダメージを与えた。


(くそっ! ポーションで回復するしかない……体力もわずかだ。これ以上戦うのは危険だぞ……)


 激流に呑まれたリッジは全身ずぶ濡れで、体力も瀕死の状態に。彼は素早く懐から赤いポーションの瓶を取り出し、一気に飲み干して体力を回復した。

 ハルヴァスのポーションは、赤が体力、青が魔力、緑が状態異常を回復する。虹色は全てを完全回復する最高品質のポーションとして知られている。


「ポーションまで持ってるなんて……」

「初めて見たけど、こりゃ長期戦になるかもね」


 エヴァと日和はこの光景に真剣な表情を浮かべる。リッジはポーションを飲み終えると、空の瓶を懐にしまい、体力が半分ほど回復したことを確認。まだ戦えると判断したようだ。


「さて、もう一度デス・ブラッドでぶっ潰してやるぜ!」

 リッジは再び両手に血のオーラを纏い、強烈な血の拳を放つべく突進する。零夜たちは素早い動きで次々と回避するが、このままでは反撃の隙を見つけられない。


「なら、これで! 連続ウィンドショット!」


 トワがウインドアローを構え、風の矢を次々と放つ。しかし、リッジは素早い動きで回避し、さらには闇の盾である「ダークシールド」を前方に召喚。トワが放つ風の矢の攻撃を完全に防いだ。


「ここは私が! 光翼波動弾|こうよくはどうだん!」


 アイリンが素早く両手で光の波動弾を生成し、リッジの背後へ向けて発射。波動弾は目にも止まらぬ速さで迫り、背後にダークシールドを展開する暇もない。


「チッ!」


 リッジは咄嗟に振り向き、血のオーラを纏った手刀で波動弾を真っ二つに切り裂く。しかし、波動弾は爆発を起こし、彼に大ダメージを与えた。


「ぐわっ!」


 光の爆発に巻き込まれたリッジは床を転がり、倒れ込んでしまう。同時に手刀に纏っていた血のオーラが消滅してしまい、必殺技が出なくなってしまった。

 その瞬間、アイリンは鋭い観察力を駆使し、デス・ブラッドの秘密を見抜いた。


「分かったわ! デス・ブラッドの弱点が!」

「何か分かったのか!?」


 アイリンはウインクを決め、右手で指を鳴らす。マツリたちは疑問の目を向けつつ、彼女に注目する。


「デス・ブラッドは闇属性の攻撃。でも、光属性の攻撃を受けると、手刀の血のオーラが消滅するのよ!」

「つまり、光属性で攻撃すればデス・ブラッドを封じられるってことね! 善は急げ!」


 アイリンの説明にトワは即座に理解し、ウインドアローを光属性の武器へと変化させる。零夜たちもそれぞれの武器を光属性に切り替え、一斉に構えた。


「くそっ……あの女たち、俺のデス・ブラッドの弱点を見破りやがった……!」


 リッジは苦々しい表情で零夜たちを睨む。自身の切り札の弱点を看破された今、全力で立ち向かうしか道はない。


「私の武器は光属性のシャインアロー。みんなもそれぞれ光の武器に変えたわ!」


 トワが武器を説明すると、零夜たちもリッジにそれぞれの武器を見せつける。

 零夜は双剣の「光翼刀|こうよくとう」、倫子は光の聖剣とミラーシールド、日和は軽量の大剣「シャインブレイカー」。エヴァはクロー付きガントレットの「ルミナス」、アイリンは白いオープンフィンガーグローブの「ゴッドナックル」、マツリは刀の「白夜|びゃくや」と盾の「暗夜|あんや」、エイリーンはロングアックスの「ホーリーアックス」。全てリッジの弱点である光属性だ。

 ちなみに、ベルはロングアックスに魔術をかけ、光属性を付与している。


「あなたの弱点が分かった以上、私たちは全力で光属性をぶつけるわ。絶対に思い通りにはさせない!」


 トワの宣言にリッジは怒りの形相を浮かべ、背中から闇のオーラを爆発的に放出。オーラは彼を包み込み、新たな姿へと変貌させようとしていた。


「何!? 何が始まるの!?」

「オーラを纏って進化してる……!?」

「どんな姿になるのかしら……?」

「ん……!」


 物陰からこの光景を見ていたヒカリたちが息を呑む中、彼女の膝で眠っていたカルアが目を覚ます。ヒカリたちが視線を向けると、カルアはゆっくりと目を開け、目の前のヒカリたちと視線を合わせた。


「あれ? ここは……?」


 カルアは体を起こし、キョロキョロと周囲を見回す。光に包まれて奴隷状態から解放された記憶はあるが、その後のことは何も覚えていない。


「ここは部屋の隅の物陰。私たちが眠ってるあなたを運んだのよ」

「そうだったのですか……そうだ! 私を助けてくれたベル様は……あっ!」


 ヒカリの説明にカルアは納得し、ベルにお礼を言おうと視線を戦場へ移す。だが、次の瞬間、彼女たちは目の前の光景に言葉を失った。


「な、何!? こんな動物見たことない!」

「私に言われても分かりません……!」

「黒い虎……って、サーベルタイガー!?」

「まさかリッジが姿を変えるなんて……予想外にも程があるわ……!」

(厄介なことになったぞ……)


 そう。リッジは黒いオーラに包まれた直後、漆黒のサーベルタイガーへと変貌していた。ヒカリたちは冷や汗を流しながら驚愕し、ヤツフサは内心で深い危機感を抱いていたのだった。

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