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第112話 闇のサーベルタイガー

 リッジは漆黒の闇に染まったサーベルタイガーに変貌し、グルルと低く唸りながら零夜たちを威嚇する。その巨体はまるで山のようにそびえ、鋭い牙と爪は光を飲み込む闇の刃のようだ。一目で、こいつを倒すのは並大抵のことではないとわかる。


「あのサーベルタイガーは一体……」

「こんなモンスター、データにも存在しなかった筈……」


 零夜たちは黒きサーベルタイガーの異様な姿を前に、鋭い視線で睨みつける。緊張が空気を切り裂く中、トワはバングルを起動させ、瞬時にウィンドウを召喚。目の前の敵のデータを高速で解析し始めた。


「ダークサーベルタイガー。闇のサーベルタイガーと呼ばれ、圧倒的な攻撃力と頑強な装甲を持つ超大型モンスターよ。普通のサーベルタイガーとは次元が違うわ」

「そうなると……総力戦で挑むしかないみたいね……」


 トワの冷静かつ緊迫した説明を聞き、倫子は戦いの苛烈さを悟る。一瞬のミスが命取りになる、極めて危険な敵だと確信した。


「こうなったらモンスター娘達を召喚だ!ライラ、ユウユウ!」


 零夜はバングルを光らせ、スピリットを二つ解き放つ。ライラとユウユウが実体化し、それぞれの武器を握りしめ、戦闘態勢でダークサーベルタイガーを睨みつける。彼女たちの眼差しには、恐れよりも闘志が宿っていた。


「ダークサーベルタイガーは手強い敵だ! 気を付けろ!」

「「了解!」」


 零夜の警告に、ライラとユウユウは力強く頷き、電光石火のスピードでダークサーベルタイガーに突進。だが、敵も負けじと咆哮を上げ、雷鳴のような速さで二人に襲い掛かってきた。


「これでも喰らいなさい! シャインソード!」

「グアッ!」


 ライラは光の剣を振り上げ、ダークサーベルタイガーの脇腹に深々と斬り込む。光の刃が闇の装甲を切り裂き、威力は十分に与える事に成功。敵は一瞬怯むが、すぐに鋭い眼光で反撃の隙を伺う。


「スーパーアーマー状態を確認! 奴は簡単には倒れません!」

「ならユウユウ! 爪への部位攻撃を優先だ!」

「任せとき!」


 ライラの報告を受け、零夜は即座に指示を飛ばす。ユウユウは小さく頷き、拳に燃えるようなオーラを集中させる。

 ユウユウは格闘家として名を馳せ、拳と蹴り、投げ技を自在に操る戦士だ。トリッキーな飛行能力の動きと爆発的な攻撃力で、どんな強敵も翻弄する。


「最初から全力でいく! ラッシュブレイク!」


 ユウユウは疾風のような拳の連打を繰り出し、ダークサーベルタイガーの左爪に集中攻撃。衝撃波が空気を震わせ、ついに爪が粉々に砕け散った。破壊された爪は黒い霧となって消え、敵の攻撃力が目に見えて落ちた。


「グオオオオオオ!!」


 ダークサーベルタイガーは左爪を失い、苦痛の咆哮を上げる。その巨体が一瞬よろめき、床に膝をつく。衝撃で辺り一面に振動が起こり、土煙が舞い上がった。


「ナイス、ユウユウ!」

「へへっ! これくらい朝メシ前や!」


 零夜は拳を突き上げて叫び、ユウユウも自信満々に笑う。二人の絆が、戦場に熱い風を吹き込んでいた。その様子を見ていたベルは感心していて、自身も立ち向かおうと敵の方へ駆け出し始める。


「なら私も負けてられない! 右爪は私に任せて!」


 ベルが叫びながら、ロングアックスを高速で回転させる。仲間が奮闘する姿に触発され、彼女の闘志も燃え上がっていた。

 ベルは力強くアックスを構え、大きく跳躍していく。その刃に光のオーラが宿り、攻撃力も格段に上がり始めた。


「シャインブレイク!」


 轟音と共にアックスが振り下ろされ、ダークサーベルタイガーの右爪に直撃。結合部が崩壊し、爪は黒い破片となって四散した。ベルの鍛え上げられた技が、敵の戦力をさらに削いだ。


「ナイスだ、ベル!」

「私だって本気出せば、これくらい余裕だからね!」


 零夜の賞賛に対し、ベルはグッドサインをしながら誇らしげに笑う。S級ランク、母親としてのプライドがあるからこそ、今の彼女がいるのだ。

 アイリンたちは、ベル、ライラ、ユウユウの圧倒的な活躍に目を奪われていた。八犬士だけでなく、彼女たちも日々の鍛錬で驚異的な成長を遂げている。その証明が、今の戦いだった。


「あの子たち、こんなに強くなってるなんて……」

「なら私たちも負けてられない! 攻めて攻めて、押し潰すよ!」

「「「おう!」」」


 フローラたちの気迫に触発され、倫子たちは倒れたダークサーベルタイガーに一斉に襲い掛かる。彼女たちのレベルアップした力と団結が、戦場を支配していた。


「一気に決める! ウルフスラッシュ!」


 エヴァが強烈なクローを振り抜き、ダークサーベルタイガーの背中に深々と傷を刻む。だが、敵は突如立ち上がり、天地を揺らす咆哮を放った。


「グオオオオオオ!!」

「うわっ!」

「くっ!」


 その咆哮は嵐のように吹き荒れ、部屋の壁を震わせた。零夜たちは耳を押さえ、衝撃に耐える。あまりの音圧に、身体が一瞬硬直してしまう。


「怒りで活性化したみたい! これからが本当の勝負よ!」

「手強い敵ほど燃えるからね! 全員、突撃よ!」


 トワの分析を聞き、アイリンが全員に号令をかける。仲間たちは一斉に頷き、ダークサーベルタイガーに向かって再び攻撃を仕掛けた。


「あなたは私達で倒します! アックススラッシュ!」

「覚悟しなさい! ソードブレイク!」

「これでも喰らえ! 光翼斬こうよくざん!」


 エイリーンの斧、日和の大剣、倫子の光の剣が一斉に炸裂。だが、活性化したダークサーベルタイガーは驚異的な速さで反撃に転じ、巨体を振り回して突進してきた。


「まずい! このままじゃ…!」

「させるか!ドラゴンタックル!」


 日和がピンチとなったその瞬間、マツリがドラゴンの姿に変身。炎を纏った巨体で横から突進し、ダークサーベルタイガーを吹き飛ばした。敵は壁に激突し、衝撃で部屋全体が揺れる。壁に亀裂が走り、瓦礫が降り注いだ。


「助かったわ、マツリ!」

「礼はいいぜ! だが、まだ奴は動ける。油断するな!」


 日和が感謝を述べると、マツリは人間の姿に戻り、鋭い視線で敵を見つめる。ダークサーベルタイガーは瓦礫の中からゆっくり立ち上がり、なおも戦意を失っていない。


「油断は禁物ですね。けど、他に破壊できる部位はあるのでしょうか?」


 エイリーンは冷静に戦況を見極め、部位破壊の可能性を探る。前脚の爪は破壊したが、さらなる弱点を見つけられれば、勝利は近い。

 トワが真剣な表情でダークサーベルタイガーを観察し、弱点を特定した。


「あるわ。尻尾、顔面、後ろの両足。これらを破壊すれば、確実に弱体化するわ!」

「なら役割分担だ! 四つのグループに分かれ、それぞれの部位を破壊するぞ!」

「「「了解!」」」


 零夜の指示に全員が即座に応じ、グループに分かれて行動を開始しようとしたその時――



「その戦い……私も助太刀します!」

「「「!?」」」 



 全員が声の方向に振り返ると、そこには奴隷の鎖を断ち切ったばかりのカルアが立っていた。彼女の手にはデッキブラシが握られ、瞳には揺るぎない決意が宿っている。その姿は、まるで戦女神のように堂々としていた。

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