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第113話 秘宝部屋の武器

 カルアが自ら戦うと宣言したことに、零夜たちは驚きを隠せずにいた。彼女が参戦すれば危険な目に遭うだけでなく、リッジによって再び奴隷にされる可能性もあるのだ。


「カルア……本当に大丈夫なのか!? 相手はあのリッジだぞ!」


 零夜は心配そうな表情でカルアに問いかけるが、彼女はコクリと真剣な表情で頷く。その意志はまるで鋼のように固く、決意が揺らぐことはない。


「大丈夫です! 私はベル様に助けてもらった以上、このまま恩を返さずに見ているなんて絶対に嫌です。それに、皆が戦っているのに、私だけ何もせず見続けるのはもう嫌!」


 カルアは心の奥底から溢れる本心をさらけ出し、自ら戦う理由を力強く述べる。

 彼女は孤児院最後の生き残りであり、リッジに対しては奴隷にされた深い恨みを抱いている。だからこそ、自ら戦わなければ復讐は果たせないと、心の底から感じていたのだ。


「だから私はあなたたちの力になります。助けられたままじゃ終われませんし、私を奴隷にしたリッジを倒すためにも!」


 カルアはそのまま着ていた服を勢いよく投げ飛ばし、一瞬にして新たな姿に変身する。袖無しのブラウス、青いロングオーバーオールスカート、腰に結んだエプロン、メイドカチューシャ、メイド靴、メイド手袋――完全なメイド姿だが、オーバーオールスカートの斬新なデザインは、見る者に鮮烈な印象を与える。


「これが……カルアの覚悟の姿ね。分かったわ、サポートはよろしくね」

「ええ! お互い頑張りましょう!」


 ベルとカルアはお互いに笑みを浮かべ、拳をコツンとぶつけ合う。ハイスペックオートマタであるカルアの参戦により戦力は大幅に向上し、ダークサーベルタイガーを倒す確率も飛躍的に上がったのだ。


(カルアが自ら悪鬼に対して全力で戦う覚悟を決めるとは驚いたな。八犬士ではないにも関わらず、その勇気はまさに値千金だ)


 この光景を物陰から見ていたヤツフサは感心し、ウンウンと頷きながら微笑んでいた。しかし、ヒカリ、椿、りんちゃむの三人は俯き、黙り込んでいる。

 彼女たちは零夜たちとは違い、一般人という立場だ。戦いに参戦すれば、足手まといになるのは明白だった。


「カルアちゃんは戦う力があるのに……私達にはそれがない……」

「私たちにも力があれば……」

「そうだよね……ん?」


 りんちゃむがふと後ろを振り返ると、部屋の奥にある扉が突如として光り始めていた。そこに秘宝があるのかもしれないが、別の可能性もあるかもしれない。


「あの扉……光っている……」

「「「!?」」」


 りんちゃむが扉を指差すと、ヒカリたちは一斉に反応し、その場所に近づく。光り輝く扉を前に、反応せずにはいられないのも無理はない。


「もしかして秘宝がたくさんあるのかな?」

「いや、もしかするとそうではないと思いますよ……ん?」


 ヒカリの推測に椿が苦笑いした直後、彼女の手が光る扉に触れてしまう。すると、扉がゴゴゴと重々しく横に動き始め、奥の部屋へと通じる道が開かれたのだ。


「扉が開いた! 中にあるのは……凄いお宝ばかりじゃない!」

「この部屋に財宝が眠っていたとは……見事としか言えないな……」


 奥の部屋には無数の財宝が眠っており、その光景にヒカリたちは驚きを隠せなかった。金貨や宝石が詰まった宝箱、黄金の壺、宝剣、真珠の首飾り――まさに圧倒的な財宝の山だった。


「私達、お宝を手に入れたんですね!」

「早速零夜たちに報告しないと!」

「私も行く!」


 ヒカリたちは財宝を運ぼうと奥の部屋に足を踏み入れた瞬間、財宝の中から三つの武器が突如として浮かび上がり、輝きながら姿を現した。青いオープンフィンガーグローブ、聖剣と盾、赤い如意棒――三つの神秘的な武器だ。


「あれ? 武器が浮いている」

「これってもしかして、私たちが使えってことじゃ……」

「ともかく触れてみましょう」

「おい、勝手に武器に触れるな! 怪我でもしたら……うわっ!」


 ヤツフサの制止も聞かず、ヒカリはオープンフィンガーグローブ、椿は聖剣と盾、りんちゃむは如意棒に手を触れてしまった。すると、武器が眩い光を放ち、彼女たちの身体に自動で装着されていく。この予想外の展開に、誰もが驚きを隠せなかった。


「武器が自動で彼女たちの元に……もしかするとシュンラは、彼女たちが来ることを分かっていたのだろうか……」


 ヤツフサは冷や汗を流しながら、武器を手に持つヒカリたちに視線を移す。偶然とはいえ、シュンラが彼女たちの到来を予見していた可能性すら感じられた。

 ヒカリたちは自分たちの手に握られた武器を見つめ、キョトンとしていたが、徐々にその意味を理解し始めていた。


「この武器ってもしかして……」

「私たちも戦えと言うことでしょうか?」

「そうかもね……やるからには分かっているよね?」


 りんちゃむの合図に、ヒカリと椿はコクリと頷き、まずは目の前にある財宝を運び始める。財宝を見つけた以上、一つも取りこぼさずに運ぶ必要があると判断したのだろう。


(こうなると説明が大変なことになりそうだな……ハプニングとはいえ、自ら選んだことだから仕方がないが……)


 この様子を見たヤツフサは盛大なため息をつきながら、財宝を運ぶヒカリたちの背中を見つめるしかなかった。戦いが終わって元の場所に戻れば、テレビ局から質問攻めに遭う展開を想像しながら。


 ※


「そこだ! 手裏剣乱舞!」

嵐脚らんきゃく乱れ蹴り!」

「シャインソード! アイアンゴーレム、後はお願い!」

「くらえ、重拳爆砕!」


 零夜たちは四つのグループに分かれ、ダークサーベルタイガーの巨体を的確に攻撃していた。

 零夜、カルア、倫子の三人は息の合った連携で次々と技を繰り出し、倫子の召喚したアイアンゴーレムが鉄拳を振り下ろす。轟音とともにダークサーベルタイガーの顔面が粉砕され、破片が四散する。


「私達も負けないわ! アイスラグーン!」

「ナイス足止め! 光翼波動弾!」

「私も決めないと! シャインショット!」


 日和、アイリン、エヴァの三人は、ダークサーベルタイガーの左後ろ足を集中攻撃。エヴァのアイスラグーンが足を氷漬けにし、動きを完全に封じる。そこに日和の光翼波動弾とアイリンのシャインショットが炸裂。 爆発音とともに左後ろ足の爪が砕け散り、結合部が崩壊した。


「尻尾は任せて! アローショット!」

「紅蓮煉獄斬!」

「シャインスラッシュ!」


 トワ、マツリ、エイリーンの三人は、華麗な連携でダークサーベルタイガーの尻尾を狙う。トワの矢が雨のように降り注ぎ、マツリの炎の刃が尻尾を焼き切る。更にエイリーンの光の斧の斬撃がトドメを刺し、尻尾は結合崩壊。 地面に叩きつけられる音が戦場に響き渡る。


「ヴァルキリースラッシュ!」

「ハリケーン!」

「アックスブレイク!」


 ライラ、ユウユウ、ベルもそれぞれの戦闘スタイルを最大限に活かし、右後ろ足を破壊。ライラの神聖な剣技、ユウユウの風を操る猛攻、ベルの豪快な斧の一撃が連鎖し、右後ろ足が粉々に砕かれる。これでダークサーベルタイガーは大きく弱体化し、トドメを刺す段階へと突入した。


「よし! これで勝負が見えてきたわね!」

「だが、油断は禁物だ! 奴は何かを仕掛けてくるぞ!」

「そうですね……あっ、ベル様! あれを見てください!」

「ん?」


 アイリンが勝利を確信しつつ頷くが、零夜は鋭い目つきで警告する。カルアも同意しながら頷いたその瞬間、彼女はダークサーベルタイガーを指差し、叫んだ。


「グオオオオオオ!!」


 突如、ダークサーベルタイガーが紫の瘴気に包まれ、禍々しい咆哮を上げながら新たな姿へと変貌していく。瘴気が晴れた瞬間、そこには二本足で立つ黒いサイクロプスが屹立していた。単眼から放たれる禍々しい光、筋肉がうねる巨体――その姿はまさに圧倒的な威圧感を放つ。


「よくもやってくれたな……これが俺の真の強さだ……お前たちを根本から叩き潰してやる!」


 黒いサイクロプスが地響きのような声で宣言すると、地面が揺れ、大気が震えた。零夜たちは冷や汗を流しながら構えを取る。この戦いは一筋縄ではいかなくなり、新年の瞬間のタイムリミットが刻一刻と迫っていた。


「チッ! 厄介な展開だ……全員、最大戦力で挑むぞ!」

「了解! カルア、準備はいい?」

「もちろんです! ベル様、私も全力でいきます!」


 零夜の号令のもと、戦士たちは一斉に武器を構え、黒いサイクロプスとの最終決戦に突入する。空気が張り詰め、戦場の緊張感が頂点に達した瞬間――戦いの火蓋が切られた。

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