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第114話 ヒカリ達の決意

 零夜たちは、漆黒の巨体——ダークサイクロプスを前に、凍りつくような緊張感に包まれていた。冷や汗が頬を伝い、真剣な眼差しが敵を捉える。リッジがこんな恐るべき姿を隠していたとは、誰一人として予想できなかった。迷宮の壁が震えるほどの威圧感が、空間を支配していた。


「リッジの奴……隠し玉を持っていたとは……」

「こうなると戦いは苦戦となるかもね。でも私達ならまだまだやれるし、限界を超えなければ成長なんてできないんだから」


 零夜は鋭く息を吸い、額に滲む汗を拭うことなくダークサイクロプスを睨みつける。倫子は不屈の笑みを浮かべ、仲間たちに闘志を呼び起こす。その声に呼応するように、日和たちは力強く頷き、それぞれの武器を握りしめ、一斉に敵へ照準を合わせる。武器が放つ金属音が、戦いの幕開けを告げた。


「相手が誰であろうとも、私達ならやれます!」

「ここまで来たのなら、最後まで引き下がれないわよ!」

「私も皆がいるからこそ、最大限まで戦えるわ!」

「アタイも最後まで戦う覚悟は、心から決めているぜ!」

「どんな敵でも引き下がれませんからね」

「ネムラスの皆の仇を取る為にも、負けられないわ!」

「あなたの様な人は……成敗しないとね!」


 八犬士たちの声が重なり、迷宮の天井を震わせる。ネムラスの民と刈谷の仇を討つため、そして自分たちの信念を貫くため、彼らの決意は岩のように固い。ここで退く理由など存在しない。闘志が炎となって燃え上がり、仲間たちの絆が戦場を照らす。


「私も奴隷にされた怒りがあります。ここまで来た以上、倒すのみです!」

「私も皆と共に戦う覚悟があります!」

「ウチもや!」


 カルアは格闘技の構えを取り、鋭い眼光でダークサイクロプスを射抜く。奴隷としての屈辱が、彼女の拳に雷のような力を宿す。ライラとユウユウもまた、零夜たちと共に戦うことを心から決意。パートナーとしての絆が、彼らの意志を一つにしていた。


「ほう……ゴミ共め、まとめて叩き潰してくれるわ!ダークサイクロプスの力を思い知らせてやる!」


 ダークサイクロプスは不気味な笑みを浮かべ、巨腕を鳴らす。殺意に満ちた眼光が零夜たちを捉え、迷宮の空気を凍てつかせる。本気で彼らを葬り去るつもりだ。一瞬の油断が死を招く——その緊張感が、戦場を支配した。


「攻撃を止める事は僕に任せて! 僕のパワーなら大丈夫だ!」

「お願いね、アイアンゴーレム!」


 アイアンゴーレムが重々しい足音を響かせ、決意の表情で前へ踏み出す。倫子は信頼の笑みを浮かべ、彼に全てを託す。アイアンゴーレムもまた、力強い視線で応えた。仲間たちの信頼が、彼の鉄の体にさらなる力を吹き込む。


「だったら殴り飛ばしてやるよ! 喰らいやがれ!」


 刹那、ダークサイクロプスが動いた。マッハの速度で振り下ろされる拳は、空気を切り裂き、地面を砕くほどの威力。倫子に向かって迫るその一撃は、喰らえば一瞬で戦闘不能にされるほどの破壊力だ。衝撃波が迷宮の壁を震わせ、砂塵が舞い上がる。


「しまっ……!」

「そうはさせるか!」


 アイアンゴーレムが巨体を躍らせ、ダークサイクロプスの拳を阻止すべく動く。だが、敵の攻撃はあまりにも速く、倫子の目前に迫る。誰もが息を呑み、絶望が心を締め付ける——その瞬間だった。



「そうはさせない!」

「ぐわっ!」

「「「!?」」」



 突然、遠くから眩い光弾が放たれ、轟音と共にダークサイクロプスの目に直撃。光が炸裂し、巨体が大きくよろめく。ダークサイクロプスは顔を押さえて苦悶の咆哮を上げ、迷宮全体がその衝撃で揺れた。


「今の光弾……あっ!」


 倫子たちが光の飛来した方向を振り向くと、そこにはヒカリが立っていた。彼女の手にはオープンフィンガーグローブが輝き、戦士の風格を漂わせる。隣には剣と盾を構える椿、そして如意棒を握りしめるりんちゃむ。彼女たちの姿は、まるで神話の戦女神のようだった。


「ヒカリさん! その武器は一体……」


 零夜は驚愕を隠せず、ヒカリのもとに駆け寄る。一般人の彼女たちが、こんな強力な武器を手にしているなんて、誰もが目を疑った。仲間たちの視線が、一斉に彼女たちに集まる。


「実は先程秘宝のある部屋に入ったの。そしたらその中から武器が姿を現して……」

「自動的に装着されたのですね……」


 ヒカリの説明に、零夜は言葉を失う。彼女たちが秘宝を手にしていたなんて、まるで運命の導きとしか思えない。仲間たちの間に、驚きと希望が広がる。


「けど、この戦いで怪我をしたら皆に迷惑かけてしまいます! 俺はヒカリさんたちをこの戦いに巻き込みたくありません!」


 零夜はすぐに冷静さを取り戻し、心配そうな表情で訴える。彼女たちが戦えば、ダークサイクロプスの攻撃で命を落とす危険もある。だが、ヒカリは静かに零夜に近づき、真剣な眼差しで彼を見つめた。彼女の手が、零夜の両頬にそっと触れる。


「零夜。私だって戦いは怖いかも知れない。けど、武器を持っている以上は覚悟を決めて戦わないといけないの。それに……零夜たちが戦っているのを見て何もできないだけでなく、何よりもあなたが死ぬのが一番嫌なの!」


 ヒカリの声は力強く、しかし途中で涙が滲む。零夜が死ぬ姿を想像すること、そして無力な自分を許せない——その思いは、椿やりんちゃむも同じだった。彼女の言葉に、仲間たちの心が揺さぶられる。


「私もこの迷宮に参加した以上、戦う決意を固めているわ。日和に負担をかけさせない為にも」

「私は何も知らずにこの場所に来ていたけど、今では零夜たちの力になると決意しているから」  

「つばきん……」

「りんちゃむ……」


 椿とりんちゃむの決意に、日和たちも胸を打たれる。彼女たちの固い意志は、誰にも揺らぐことはない。零夜はその姿を見て、深く頷いた。そして、ヒカリの両肩に手を置き、真剣な眼差しを返す。


「分かりました。ですが……絶対に死なないでください! それが俺からの約束です!」

「大丈夫。必ず生きて帰りましょう!」


 ヒカリは笑顔で応え、椿とりんちゃむも力強く頷く。その瞬間、仲間たちの絆が一層強固なものとなった。戦場に新たな希望の光が差し込む。

 するとトワがある事に気付き、すぐにりんちゃむの元に駆け寄ってくる。


「それで回収したお宝はどうしたの?」  

「ああ。それなら……」


 りんちゃむが指差す先には、円形のバリアが展開され、その中にヤツフサと財宝が守られていた。ヤツフサは敵に財宝を奪われないよう、既に万全の策を講じていたのだ。

 高性能バリアはどんな攻撃も跳ね返す鉄壁の守り。光を反射するバリアが、戦場の暗闇に一筋の輝きを添える。


「財宝の件は俺が何とかする! 目の前の敵を倒していけ!」

「なら、私達は戦いに集中しておかないと!」


 ヤツフサの指示にトワは頷き、即座に戦闘モードへ。財宝はヤツフサに任せ、仲間たちはダークサイクロプスに全力を注ぐ。

 零夜たちも一斉に武器を構え、敵に視線を集中させる。ダークサイクロプスを倒せば、この地下迷宮の戦いは終わる。だが、その弱点をどう突くかが勝利の鍵だ。


「いくら人数を増やしても、この俺には敵うまい! モンスター召喚!」


 ダークサイクロプスが咆哮し、魔術を発動。地面が割れ、暗黒の霧が立ち込める中、インプ、ゴブリン、オーガ、ゾンビ、スケルトンが次々と姿を現す。無数のモンスターが唸り声を上げ、牙を剥いて零夜たちに襲い掛かる。迷宮全体が戦場と化し、轟音と殺気が響き合う。地面が揺れ、壁にひびが入るほどの混沌が広がる。


「それはやってみなければ分からないぜ!行くぞ!」

「「「おう!」」」


 零夜の号令と共に、仲間たちは一斉に突撃を開始。

 ヒカリのグローブから放たれる光弾がインプを薙ぎ払い、椿の剣がオーガを両断。りんちゃむの如意棒はスケルトンを粉砕し、カルアの拳はゴブリンを吹き飛ばす。アイアンゴーレムは巨体を盾に、ダークサイクロプスの猛攻を正面から受け止める。

 剣が閃き、槍が突き刺さり、爆音が響く。戦場は一瞬にして混沌の坩堝と化す。地下迷宮のファイナルラウンドは、タイムリミットである新年の瞬間まであと一時間を切っていた。この戦いの結末が、彼らの運命を決めるのだ。

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