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第116話 断罪の矢

 ダークサイクロプスは腕を鳴らし、禍々しい余裕の笑みを浮かべている。自身の技で形勢を逆転させ、後は生き残る者たちをまとめて叩き潰せば勝利は揺るがない。

 まずは目の前の零夜たちを葬るべく、拳に漆黒のエネルギーを渦巻かせ、最大限の力を溜め込み始めた。空気が震え、地面が微かに揺れるほどの圧倒的な気迫だ。


「とどめの一発を浴びせるとしよう! 覚悟しろ、八犬士の戦士よ!」

(ここまでか……! 皆、ごめん……)


 零夜は絶望に目を閉じ、ダークサイクロプスが全身全霊の拳を振り上げる。拳から放たれる闇の波動が空気を切り裂き、破壊の衝撃が零夜を飲み込もうとしたその瞬間――戦闘不能だったトワが、傷だらけの身体を震わせながら立ち上がった。


「トワ! 戦闘不能になっていたんじゃ……!」

「この程度……問題ないわ……!」


 仲間たちが驚愕する中、トワは血と汗にまみれた顔を上げ、燃えるような眼差しでダークサイクロプスを睨みつける。因縁の敵を倒すまでは、どんな苦痛も彼女を止めることはできない。


「抵抗する気か?」

「当たり前よ! 私はネムラスの皆の仇を討つと決めたの! アンタなんかにやられてしまったら、ネムラスは事実上滅んだのも当然! だからこそ、どんな状況でも……必ずあなたを倒す! 何度でも立ち上がる覚悟がある限り!」


 ダークサイクロプスが嘲るが、トワの声は心の奥底から迸り、熱い信念が戦場を震わせた。その言葉に偽りはなく、仲間たちは胸を打たれ、静かに頷き合う。

 すると、トワのバングルに嵌まる珠が突如光を放ち、緑色の眩い輝きが戦場を包み始めた。


「な、何だ⁉」

「トワの珠が光り輝き始めた……!」

「なんだこの光は⁉ まぶしくて見えない……!」


 敵味方全員が驚く中、光はまるで生命そのものを宿し、戦場を浄化するように広がっていく。誰もがその神秘的な輝きに目を奪われ、ダークサイクロプスは特に苦しげに両手で目を覆い、よろめきながら後退する。闇属性の彼にとって、この光は耐え難い毒だった。


「今の光が私の珠から……もしや!」


 トワが光の源である珠に目をやると、珠に刻まれた文字が「森」から「智」へと変化していた。その瞬間、彼女は真の八犬士として覚醒したのだ。エヴァに続き、二人目の覚醒者となった。


「私……八犬士として覚醒したんだ……こんなに嬉しい事はないかも……」


 トワは涙をこぼしながら、覚醒の喜びに震える。自身の本心を全力で吐き出したからこそ、珠は彼女の魂に応えたのだ。

 さらに、緑の光が零夜たちに浴すると、彼らの傷が奇跡のように癒え、疲弊した身体が再び力を取り戻していく。


「傷が回復していく……! これがトワの覚醒した力なのか?」

「そういう事になるわね。その証拠にダメージも完全回復したし、ここからが本番よ!」


 零夜の驚きに対し、トワが力強く答える。同時に気絶していた日和たちも次々と目を覚まし、トワの力で戦闘不能から復活。戦士としての闘志を完全に取り戻していた。


「あれ? 私たちは確か気絶していた筈じゃ……」

「トワの覚醒した力によって、完全回復したのです。俺たちも回復しました」

「そうなんだ……なら、感謝しておかないとね!」


 困惑している日和に対し、零夜が説明。彼女たちはトワの力に感謝しつつ、一斉に立ち上がってダークサイクロプスを鋭く睨みつける。完全復活した今、誰もが勝利への確信を胸に抱いていた。


「トワの覚醒した力が無かったら、私達は倒れていたままかも知れない。完全復活した以上、容赦しないんだから!」

「同感よ。私達の戦いはここからが本番! 最後まで諦めずに戦うのみ!」


 日和と倫子の叫びの直後、全員が武器を構えて戦闘態勢を整える。これまで散々蹂躙された怒りを胸に、ダークサイクロプスを倒す覚悟がみなぎっていた。


「こうなったらお前らを完全に倒してやる! 今度は強烈に行かせて貰うからな!」


 ダークサイクロプスが咆哮し、拳に闇の力を再び集中させる。先ほどの技を力強く出して、一気に終わらせようと動き出していたのだ。

 ダークサイクロプスは跳躍し、地面に拳を叩きつけるべく動き出す。拳から放たれる衝撃波が地面を砕き、広範囲を破壊する技――零夜たちは即座に反応し、ヒカリ、エヴァ、椿、マツリ、りんちゃむを抱え、跳躍して回避行動を取る。空中で仲間たちが連携し、まるで一糸乱れぬ舞のように技を躱す。


「何度躱しても無駄だ! ダークアラウンドウェーブ!」


 ダークサイクロプスが地面に拳を叩きつけ、闇の波動が爆発的に広がる――はずだった。しかし、波動は突然途切れ、不発に終わる。戦場に静寂が訪れ、誰もが呆然とする。


「あれ? 攻撃が出ない?」

「いったいどういう事なのかしら……」


 突然の展開に零夜たちが困惑するが、ダメージを受けずに着地する事が出来たのだ。するとトワは静かに笑みを浮かべ、ダークサイクロプスを見据える。彼女の眼差しには確信があった。


「どうやら覚醒の光を見た事で、あなたの力が弱体化されたみたいね。あの光は味方を強くし、敵を弱体化させる効果があるの。その影響が強かったみたいね」


 トワの言葉に仲間たちは納得し、安堵の笑みを浮かべる。もしあの光がなければ、全員が壊滅していたかもしれない。


「おのれ……こうなったらお前を殺してやる!」


 激昂したダークサイクロプスがトワを握り潰そうと左手を振り上げる。しかし、その前に零夜が雷のように割り込み、村雨と紅蓮丸を構えて叫ぶ。


「村雨よ、邪悪な者を切り裂け! 断罪一閃!」


 零夜の剣が放つ光の斬撃は、空間を切り裂きながらダークサイクロプスの巨体を縦に両断。強烈な衝撃が敵を貫き、ダークサイクロプスは苦悶の叫びを上げ、片膝をつく。体力は一気に半分以下にまで削られていた。


「敵の体力を半分以下に減らしたぞ!」

「よし! 皆でロープを飛ばしてください! 動けない彼を縛り上げましょう!」


 エイリーンは錬金術で無数のロープを生み出し、仲間たちに手渡す。倫子たちはロープを受け取り、立ち上がろうとするダークサイクロプスに向けて一斉に投げる。


「行きますよ! せーの!」

「「「そーれ!」」」


 ロープはまるで意志を持つかのように伸び、ダークサイクロプスをぐるぐると巻きつけ、完全に固定。巨体が動けなくなり、どれだけ抵抗しても解けることはなかった。


「なんだこのロープは! 外れないぞ!」

「このロープはハントロープ。敵を自動で追いかけて縛り上げる高性能ロープです! 捕まってしまった以上、抵抗する事は不可能ですからね?」

「て、テメェ! 余計な事をしやがって!」


 エイリーンの不敵な笑みに対して、ダークサイクロプスはワナワナと怒りに震えてしまう。そのままロープを引きちぎろうと力を込めるが、両手まで縛られた状態ではどうにもならない。もはや彼に脱出の余地はなかった。


「そしてトドメは私ではありません……この人がします!」


 エイリーンが指さす先に、トワが新たな武器「断罪の弓矢」を構えていた。弓矢には光のオーラが渦巻き、彼女は敵の弱点を冷静に見極めている。その姿はまるで戦場の女神のようだった。


「リッジ。あなたの野望はこれで終わり。あなたの罪は……私が断罪する!」


 トワは力強く宣言し、弓矢の弦を限界まで引き絞る。ネムラスの仲間を殺した罪、刈谷の命を奪った罪――全ての想いを光の矢に込め、彼女の瞳は揺るぎない決意に燃えていた。


「あなたはここで終わりよ! 断罪の矢!」


 放たれた矢は光の尾を引き、雷鳴のような速度でダークサイクロプスの心臓を貫く。直撃した瞬間、眩い爆発が戦場を包み、光の奔流が全てを浄化するように広がった。


「ぐわああああああ‼ この俺が……こんな……輩に……負けるなんて……うおおおおおおおお‼」


 ダークサイクロプスの絶叫が響き、巨体は光の粒となって崩れ落ちる。消滅した場所には金貨が山のように積み上がり、Cブロック基地の壊滅と地下迷宮の戦いの終結を告げていた。


「やった……私達の手で……リッジを倒した……勝ったぞー‼」

「「「やったー‼」」」


 トワは勝利の実感に身体を震わせ、喜びが爆発。涙と笑顔で高くジャンプし、仲間たちも両手を掲げて歓声を上げる。皆がトワを中心に集まり、抱き合い、勝利の喜びを分かち合った。戦場の空気が一変し、希望の光が満ちていく。


「ようやく終わったか……仇は取ったぜ、刈谷!」


 零夜が安堵の息をつき、地面に腰を下ろす。その時、奥の部屋からコツコツと足音が響き、全員が一斉にそちらを向く。一人の老人がゆっくりと姿を現した。


「よくやったぞ、トワ!」

「シュンラ様!」


 リッジの襲撃で死んだはずのシュンラが、微笑みを浮かべて立っていた。トワたちは驚きと喜びに目を輝かせ、駆け寄る。戦いは終わり、新たな希望が彼らを待っていた――。

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