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第117話 ラストメッセージ

 シュンラがトワたちの前に姿を現した瞬間、トワは驚愕を隠せなかった。あの時、シュンラは死んだはずだった。それが今、目の前に立っているのだから、動揺するのも無理はない。

 零夜たちもまた、驚きの表情でシュンラを見つめていた。そんな中、トワは戸惑いながらも一歩ずつ彼に近づいていった。


「マスター……あなたはネムラスの街と共に死んだはずでは……?」


 トワの声は震え、戸惑いが表情に滲む。死んだはずの人物が目の前にいる現実が信じられず、わずかに怯えるのも当然だった。


「わしは確かにリッジたちにやられた。だが、目が覚めたとき……ここにいたんじゃ。お前たちが来るのを待っていたんだよ」


 シュンラの穏やかな説明に、トワは一瞬納得しかけたが、すぐにその言葉の意味に気づき、目を丸くした。


「そ、そうだったんですか……って、ことは……幽霊!?」


 驚きのあまり叫んだトワの声に、倫子たちがビクッと背筋を伸ばし、慌てて後ずさる。幽霊という言葉に怖気づくのも無理のない反応だが、ここまで怖がるのはどうかと思うだろう。


「……まあ、こういう状況じゃ驚くのも無理ないですよね……」

「俺もそう思う。零夜、ここにお宝がある。すぐに運ぶ準備をしろ」

「了解!」


 零夜は倫子たちの反応に小さく笑いつつ、ヤツフサの指示に従い財宝を運び始める。怯える倫子たちに代わり、自分が動かなければならない状況だ。

 シュンラはそんな零夜の姿に興味を引かれた様子で、トワに尋ねる。


「なかなか見どころのある少年じゃな。彼の名はなんと言う?」

「東零夜です。勇気はあるけど、ちょっと無理しすぎるのが玉に瑕なんです」


 トワが苦笑いしながら答えると、零夜は思わずずっこけ、前につんのめった。だが、財宝を落とさなかったのはさすがと言うべきだろう。


「トワ! 余計なこと言うなよ!」

「ごめんね。でも、事実だし」

「そりゃそうだけどさ……」


 零夜は心底ため息をつきつつ、すぐに立ち上がって財宝運びに集中する。余計なことを考えず、やるべきことに没頭しようという姿勢だ。


「お前らも零夜の負担になるな! 怯えてる場合じゃないぞ!」

「そうだった! 急がないと!」


 ヤツフサの鋭い声に、倫子たちがハッと我に返る。彼女たちも急いで準備に取りかかり、零夜の手伝いへ向かい出した。

 特にエヴァは力持ちで、どんな重い財宝も軽々と持ち上げる。そのまま用意している袋へと、財宝を次々と入れ込んでいた。


「愉快な仲間たちじゃのう」

「まあ、その分、時々騒動も起こしちゃいますけど……」


 シュンラが感心したように呟くと、トワは苦笑いを浮かべる。

 確かに、零夜の無鉄砲さ、倫子とエヴァの怒ると怖い一面、エイリーンのドジっ子ぶり、アイリンのツンデレ、ベルのスキンシップ好きは、時に仲間を振り回す。八犬士の中でまともなのは、トワ自身と日和、マツリの三人だけというのが現状だ。


「お主も可愛いものに目がないから、フラフラとそっちへ行こうとしておるじゃろう」

「うっ……言われてみれば、そうですね……」


 シュンラが横目でトワをからかうと、彼女は赤面してうつむく。自分の弱点を指摘されて言い返す言葉もないが、いずれバレるのは時間の問題だったかもしれない。


「じゃが、お前たちがリッジを倒したのは見事じゃ。よくぞネムラスの皆の仇を取ってくれた! 本当にお見事!」


 シュンラの笑顔と称賛に、トワは心から嬉しそうに微笑み、一礼する。仲間と共に成し遂げた功績を認められ、満足感に浸っていた。


「さて、後は八犬士たちの元へ向かうとするか」


 シュンラは視線を八犬士たちに移し、歩き出す。トワもその後に続き、仲間たちの元へ急いだ。


「トワさん! 財宝の運び出し、終わりました!」


 エイリーンが手を振りながら、トワに対して現状を報告する。

 財宝は大きな袋にまとめられ、エヴァが縄で固定して背負っている。このぐらいはお手の物であり、彼女は余裕の笑みを浮かべていた。


「こういうのは力持ちの私にお任せよ」

「ありがと、エヴァ。後はここから脱出しないと……」


 トワはエヴァに礼を言いながら、元の場所へ戻る方法を考える。あの迷宮を再び通るのは時間がかかり、新年の瞬間には間に合わないだろう。


「それなら俺に任せろ! 魔法陣展開!」


 ヤツフサが即座に魔術を発動させ、魔法陣を出現させる。その行き先は幕張ネオンモール。転移すればすぐに帰還できるので、新年の瞬間は余裕で間に合う事が可能だ。


「そうか! ヤツフサの転移術があれば、歩いて戻る必要なんてなかったわ」

「これで新年の瞬間にも間に合うわね」


 ヒカリたちは安堵し、魔法陣に乗り込む。同時刻、地下迷宮は役割を終え、粒子のように溶け始めていた。彼女たちが財宝を手に入れた以上、この遺跡はもう必要ないと判断しているのだろう。


「トワよ。お前は今、幸せか?」


 転移直前、シュンラが真剣な眼差しでトワに問う。多くの仲間と共にいる彼女が、孤独でないことを感じているのか、気になっているのだ。


「ええ。私には皆がいます。寂しくなんてありません!」


 トワは明るい笑顔で答え、シュンラは満足げに頷く。直後、彼の身体が光に包まれ始めた。


「……その様子だと、お別れですね……」


 トワは寂しげな笑みを浮かべながら、その光景を理解する。財宝を手に入れたことでシュンラの役目は終わり、迷宮も消滅しようとしているのだ。


「そうじゃな。トワ、財宝の中にはわしが使っていた武器がある。それを素材に、自身の弓矢を進化させなさい」

「はい! ありがとうございます!」


 シュンラの許可に、トワは深く一礼してお礼を述べる。彼からのプレゼントはとても大切な物であり、今後の戦いにおいて必ず役に立つだろう。


「わしはお前たちが悪鬼を滅ぼし、ハルヴァスと地球に平和を取り戻すと信じておる。最後にトワ、わしはお前のことを信じておるぞ。お前はわしらのギルド……いや、ネムラス最後の希望じゃ」


 シュンラは最後に優しい笑みを浮かべ、身体が光に包まれる。小さな光の球となって天井へと昇り、やがて消え去った。


「……マスター……今まで、ありがとうございました!」


 トワは涙を流しながら一礼し、シュンラへの感謝を口にする。エイリーンはその姿に寄り添い、寂しげな笑みを浮かべながらトワの肩を軽く叩いた。


「では、戻りましょう! 幕張ネオンモールへ!」


 零夜の合図に全員が頷き、魔法陣から幕張ネオンモールへと転移する。地下迷宮は粒子となって完全に消滅し、跡形もなくなった。

 こうして地下迷宮の冒険は幕を閉じ、零夜たちは財宝の回収に成功。幕張ネオンモールへと帰還し、任務を見事達成したのだった。

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