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第120話 ブレイブエイトの誕生

 屋敷に足を踏み入れた零夜たちは、瞬く間に新年を迎える準備に取りかかった。年越しそば、みかん、色とりどりの料理が次々とテーブルに並び、わずか数分で準備が整った。その手際の良さは目を見張るものがあったが、内心、零夜はこう思っていた。この素早さを戦闘にも活かしてほしいと。


「すごい! もう準備できたんだ!」

「さあ、みんなで食べましょう!」


 ヒカリたちが驚嘆する中、トワの元気な合図で全員が席につく。すると、ライラたちモンスターもバングルから一斉に飛び出し、楽しげに席を占めた。なお、大型のモンスターたちは屋敷内で召喚できないため、ワンダーエデンで待機中だ。


「「「いただきます!」」」


 零夜たちは一斉に年越しそばをすすり始めた。ざるそばの爽やかな食感に、皆が舌鼓を打つ。そばをめんつゆに軽く浸し、口に運ぶたびに笑顔が広がった。


「美味しい! こんな蕎麦、初めて!」

「ええ。俺が精一杯、粉から作りましたからね。まだまだありますから、どんどん食べてください!」


 ヒカリは目を輝かせて喜び、零夜は穏やかな笑みを浮かべながら応えた。実は零夜、料理上手としても知られ、蕎麦打ちもお手のもの。トワたちも彼に料理を習い、最近では少しずつ腕を上げている。


「それにしても、今年はいろいろあったわね……あの後楽園の事件があってから、私たちの運命が変わったし……」

「その事件がなかったら、今の私たちはいなかった。複雑な気持ちになるのも無理ないですね……」


 倫子はそばをすすりながら、後楽園の事件を思い返した。あの事件がなければ、今の自分たちは存在しなかったかもしれない。日和も苦笑いを浮かべつつ同意したが、多くの命が失われた事実を思うと、胸が締め付けられるようだった。


「私もゴドムが死んで、ベティやメディが敵に回った。でも、みんながいるから寂しくないわ」


 アイリンはかつての仲間との別れを振り返ったが、零夜たちと過ごす今、寂しさを感じることはない。彼女の声には確かな温かさが宿っていた。


「私たちも零夜たちと出会ったからこそ、今の私たちがいる。それが八犬士としての絆になったし、この仲間とずっと一緒にいたいから」


 エヴァは心からの願いを口にした。マツリ、トワ、エイリーンも、同意しながら深く頷く。彼女たちが持つ珠が、迷える自分たちを導き、八犬士として集結させた。その絆が、今の彼らを支えているのだ。


「私は八犬士じゃないけど、零夜たちと出会えたことが嬉しかった。今後もあなたたちの力になるし、精一杯強くなるから!」


 ベルはそばを頬張りながら、力強く宣言した。八犬士ではない彼女だが、S級ランクの実力を活かし、サポート役として頼もしい存在だ。今後の戦いでも、きっと大きな力となるだろう。


「私はベル様に助けられたけど、彼女だけでなく、皆さんのサポートも担当します!」

「私も零夜坊ちゃまと再会できたし、やるからには本気で取り組みます!」


 カルアはベルに忠誠を誓いつつ、皆のサポートを約束。メイルも零夜との再会を喜び、彼に仕えながら同じ役割を担う。メイドロボとしての本能が試される場面だが、彼女たちなら難なく乗り越えるに違いない。


「私たちは武器を手に入れたことで、戦えるようになった。でも、今のままじゃ足手まといだから、もっと強くならないと!」


 ヒカリ、椿、りんちゃむは地下迷宮で手に入れた武器のおかげで戦えるようになったが、まだまだ未熟。足を引っ張らないためにも、ギルドでクエストを受けながら鍛える必要がある。ただし、異世界転移の方法を知らない彼女たちにとって、その道はまだ遠い。


「そうなると、個人で異世界転移できるように、フセヒメに頼んでおく必要があるな。その件は俺が連絡しておく」


 ヤツフサは冷静に提案した。離れた場所にいる際、わざわざ全員で集まるのは非効率だ。各自が自由に異世界転移できるよう、フセヒメに相談する必要がある。


「後はチーム名だけど、こんな名前はどうかな?」

「本来俺が提案しようと思ってたが、どんなチーム名だ?」


 零夜がチーム名を切り出すと、ヤツフサが興味津々に反応した。本当は自分が提案するつもりだったが、零夜も同じことを考えていたとは予想外だった。


「ブレイブエイト。勇気の八人です」


 零夜は真剣な表情で告げた。その名前に、皆は納得の笑みを浮かべる。

 彼らがここまで来られたのは、心に燃える勇気があったからこそ。悪鬼のG、F、E、D、Cブロック基地を次々と壊滅させた実績が、その証だ。


「確かにそうね。私たちは最後まで諦めず、タマズサを倒す目標に向かってる」

「どんな困難や敵が来ても、勇気を持って戦い続けてるから。いいと思うわ!」


 倫子たちも賛同し、チーム名は「ブレイブエイト」に正式決定。今後は八犬士ではなく、ブレイブエイトとして活動する。いずれギルドにもその名を届けねばならないだろう。


(勇気ある八人、ブレイブエイトか……確かに零夜たちにはこの名がふさわしい。俺も彼らを指導し、タマズサを倒せる最強の戦士に育て上げなきゃな)


 ヤツフサは零夜たちを見つめ、心の中で決意を新たにした。最強の戦士を育てるには時間がかかるが、だからこそ、丁寧に、確実に育て上げるつもりだ。

 その時、新年のカウントダウンが始まる気配が漂い始めた。零夜たちは一斉に外へ飛び出し、手をつないでカウントダウンを開始した。


「「「5、4、3、2、1、0!」」」


 ゼロの瞬間、皆が一斉にジャンプ。新年の訪れを全身で感じ取った。遠くで除夜の鐘が響き、夜空には華やかな花火が打ち上がる。他の場所でも新年を祝う歓声がこだまし、去年の苦難を乗り越え、今年こそ良い年にしたいという願いが込められているようだった。


「皆さん、新年もよろしくお願いします!」

「「「こちらこそ!」」」


 笑顔で新年の挨拶を交わす中、突然、零夜のバングルに通信が入った。バングルを起動すると、ウインドウが開き、メリアが画面に映し出される。だが、その姿に全員が凍りついた。メリアはボロボロで、髪は見事なアフロに。背景には爆発で荒廃した風景が広がり、多くの人々が倒れている。


「メリアさん、明けましておめでとうございます……って、どうしたんですか? その姿は……」

『ヒック……実は……新年を祝う花火の爆発で……クローバール全体が爆発に巻き込まれて……こんな風になりました……!』

「「「ええーっ!?」」」

(前途多難だな……クローバールは……)


 メリアの衝撃的な報告に、零夜たちは呆然。カルアたちは苦笑いし、ヤツフサは呆れ顔で心の中で呟いた。新年早々、クローバールの波乱を予感させる出来事に、皆の笑い声が屋敷に響き渡ったのだった。

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