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閑章1 正月ハッスル騒動

閑話1 元旦の朝

 元旦の朝7時。零夜たちは欠伸をしながら目を覚まし、ゆっくりと起き上がった。新年を迎えた昨夜、彼らは歯磨きとシャワーを済ませ、零夜の部屋に移動していたが、泥のような疲れに押し潰され、そのまま眠り込んでしまったのだ。


「もう朝か……そういえば、ヒカリさんたちは今日オフって言ってたな……」


 零夜は目をこすりながら、ヒカリたちの仕事が休みであることを確認する。迷宮を歩く際に彼女たちから事前に聞いていたので、その点は問題ないだろう。

 ふと、倫子、エヴァ、メイルが自分に抱きついていることに気づき、微笑みながら彼女たちの頭を優しく撫でて落ち着かせる。ちなみに、零夜以外は昨日と同じ服装のままだ。


「ほら、もう朝ですよ。早くみんなで朝の準備をしましょう」

「うん、そうするよ」


 零夜の合図とともに、彼らは朝の準備に取りかかる。やるべきことは山ほどあり、ここで休んでいる暇はない。


「さて、今年の日の出は……」


 窓の外に視線を移すと、太陽が山の向こうから半分だけ姿を現していた。初日の出の瞬間だ。写真に収めずにはいられない。

 バングルのカメラ機能を起動し、窓を開けてパシャリと一枚撮影する。撮った写真はバングル内のフォトアルバムに保存され、いつでも見返せるようになっている。


「よし! 準備するか!」


 気合いを入れた零夜は、仲間たちが待つキッチンへと向かう。これからおせち料理やお雑煮を用意するのだから、朝から大忙しだ。


 ※


 キッチンでは朝食の準備が行われていて、零夜たちはそれぞれの役割を実行している。ヒカリ、椿、りんちゃむ、ヤツフサの三人と一匹は、それぞれの席に座りながら待機していた。


「蕎麦は引き続き出しておきます! おせち料理のある重箱は?」

「私が持っていくわ!」


 ベルがおせちの入った重箱を運び、テーブルに次々と並べていく。重箱を開けると、色とりどりの豪華な食材が詰まっていた。


「凄い! こんなに豪華なんだ……」

「だて巻き、数の子、黒豆、伊勢海老、紅白かまぼこ、栗きんとんまである! 豪華なんだね……」


 ヒカリたちはおせちの豊富さに驚き、ただ見惚れるばかりだった。すると、エヴァが両手で大きな鯛を持ち、中央にドンと置く。その大きさは一メートルを超える。


「ねえ、この鯛大き過ぎない?」

「そんなに食べ切れるのかしら?」


 ヒカリたちは目の前の巨大な鯛に思わず疑問を抱く。あまりにも大きく、皆で食べ切るのは難しそうだ。


「これは私たちの世界で取れたデカダイ。しかもこの紐を引っ張れば極上料理が出てくるわ!」


 アイリンが説明しながら、鯛に括り付けられた紐をハサミで切る。すると、鯛の胴体が開き、中から大量の料理が現れた。


「凄い! 中に料理が出てきた!」

「これぞマジカルデカダイ! 鯛の様々な部分を使って料理を作ったわ!」


 驚くヒカリたちに、アイリンは笑顔でマジカルデカダイの詳細を説明する。

 デカダイには多彩な料理が詰まっており、部位ごとに異なる。尾の部分はカルパッチョ、タタキはネギと醤油で味付け、背肉はスライスしてカナッペに、包み揚げには辛いあんかけダレがかかっている。


「皆で協力して作ったからね。他は準備できている?」

「こちらはバッチリ! お雑煮もできたから!」

「こちらも昨日残っている料理を出しました!」


 エヴァの合図で、零夜は蕎麦、倫子と日和はお雑煮、メイルは他の料理を運んでくる。人数分しっかり揃っているので、量に問題はない。


「よし! 料理も無事に運んだし、いただきます!」

「「「いただきます!」」」


 アイリンの合図で、全員が朝食を食べ始める。どれも豪華で、羨ましさが募るような料理ばかりだ。ちなみに、ヤツフサは用意されたササミやモモ肉などの焼き・蒸し肉を食べている。


(扱いがどうかと思うが……まあ、フェンリルだから仕方がないな……)


 ヤツフサは小さなフェンリルの姿で内心ため息をつくが、こうなった以上は仕方ないと諦める。小さなフェンリルは犬と変わりないので、この様な食事がメインとなってしまうのだ。


「昨日行われた生放送の逃走ロワイアルだけど、犠牲者と行方不明者が出たりして大変な展開になりましたね……」

「うん……あの刈谷君の死によって、視聴者から次々とクレームが飛んできたみたい。こんな番組はいくら何でもやり過ぎだとか、子供をこんな番組に出演させるなとか」


 零夜が昨日の逃走ロワイアルを振り返りながら話し始めると、椿がクレームの詳細を補足する。その内容に、皆が言葉を失う。

 幕張での任務は逃走ロワイアルの生放送と重なっていたため、零夜たちは番組側に見つからないよう慎重に動いていた。しかし、逃走者の一人である刈谷が殺され、ヒカリたちも一時行方不明になったことで、視聴者からクレームが殺到。番組は放送休止となり、打ち切りで終わる可能性も高い。


「そうね……けど、あの戦いを放っておけば大変な事になっていたし、何よりも悪鬼の野望を防げただけでも良いじゃない」

「番組には悪い事をしちゃいましたが、国民の事を考えればそうするしかありませんからね」


 倫子とエイリーンの言葉に、皆が頷きながら同意する。番組か世界の危機かを天秤にかければ、明らかに世界の危機が優先だ。もし番組を優先していたら、任務は失敗し、犠牲者がさらに増えていただろう。


「私達の選択は間違ってないですし、今後は地球やハルヴァスを守る事に集中しておかないとですね」

「ええ。けど、クローバールが大変な事になっているのは覚えているよね?」


 日和の意見にトワたちも同意する中、彼女はクローバールが荒廃した経緯を思い出す。

 後で調べた結果、花火の大爆発が原因だった。引火させたのは一人の男のドジによるもので、珍事件の一種として扱われるだろう。


「一人の男のドジでこうなるなんて……こんな結末流石にどうかと思いますね……」

「アタイもそう思ったけどな。今頃復興作業で忙しいし、アタイら抜きでしているからな……」


 カルアは呆れつつ苦笑いし、マツリも同意しながらクローバールの現状を説明する。

 怪我人は多かったが、数時間で回復。建物の復興も魔術により迅速で、一日程度で完了する見込みだ。ただし、経済的損失は避けられない。


「まあ、責任にとってはあの男になるのだが……その男の名は何者なんだ?」

「私も全然知らないけど……」


 ヤツフサが男の正体を気にしてアイリンに尋ねるが、彼女も知らない。調べる必要があるかもしれないが、今は保留だ。


「まあまあ。この話はここまでにしまして、食事を食べたら皆で初詣に向かいましょう。お台場にある神社でイベントがあるみたいだし」

「そうですね。WDG48の皆もそっちに向かうみたいですし、零夜君たちにも皆を紹介しないと!」


 りんちゃむが苦笑いしながら話を打ち切り、詮索を避ける。深入りすれば、別の騒動に巻き込まれかねない。

 彼女はお台場の神社でのイベントを伝え、椿はWDG48のメンバーがそこに向かうことを補足する。二人の話を聞き、皆の初詣はそこに決まった。


「WDG48のメンバーが来るとなると……ライブを皆でやる必要があるかもね」

「しかも選抜メンバー全員だからね。因みにトークショーだけだから」

「そうか……少し残念だな……」


 椿の話を聞いた日和はライブを提案しようと考えるが、トークショーだけと聞いて少し残念そうな顔をする。

 それを見て、零夜たちが苦笑いするのも無理はなかった。

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