零夜たちは朝食を終え、近くのアクアシティ神社へ向かう準備をしていた。この神社はマルテレビの敷地内にあり、多くの参拝客で賑わうことで知られている。
「マルテレビといえば、逃走ロワイアルもその番組系列ですよね?」
「そう。あの番組もマルテレビの企画よ。今は放送休止中だけど」
エイリーンの質問に、ヒカリが簡潔に答える。それを聞いたマツリたちも納得な表情をしていた。
マルテレビはバラエティを中心に人気ドラマも放送するが、予算が厳しく視聴率も低迷気味だ。さらに人気番組「逃走ロワイアル」の生放送中の事件が批判を呼び、現在は放送休止。番組が再開されない可能性すら囁かれている。
「まあ、この件はどうしようもないからね。それより、みんな準備できた?」
「はい! バッチリです!」
倫子が苦笑しながら確認すると、零夜たちはすでに私服に着替え、準備万端だ。
ヒカリは青のロングスカートに赤いセーター、椿は黒のミニスカートに白いブラウス、りんちゃむはデニムジャケットにへそ出し長袖Tシャツとデニムショートパンツを着ている。カルアとメイルは上着をロングブラウスに変えていた。
「よし! アクアシティ神社へ出発よ!」
倫子の合図に全員が頷き、コートを羽織って屋敷を出る。ヤツフサはカルアに抱かれたまま複雑な表情を浮かべていたが、それも無理のないことだろう。
※
お台場の街を歩きながら、零夜たちはアクアシティ神社を目指す。東京の雑踏の中、人々が行き交い、車が道路を走る。幸い、零夜たちの屋敷からマルテレビまでは徒歩数分と近いので安心だ。
「マルテレビがこんな近くで良かったけど、これをテレビ局が知ったらどうなるかな?」
「たぶん俺たちをマスコットにでもするだろう。そしたら引き受けるしかないからな……」
「確かにスポンサーになるのは嬉しいけど……複雑よね…」
トワが呟いた懸念に、零夜が予測を交えて答える。トワは苦笑し、エイリーンたちも同じく複雑な表情を浮かべる。スポンサーの支援は魅力的だが、逃走ロワイアルの放送休止の原因を作った罪悪感が絡む。協力させられる可能性を考えれば、複雑な気分になるのも当然だ。
「お、マルテレビに着くぞ!」
マツリが指差す先には、マルテレビの看板が目に入る。さらに奥には、格子状の構造と球体が組み合わさったユニークな外観の本社ビルがそびえていた。人気アニメのグッズショップもあり、観光客で賑わっている。
「すごい……これがマルテレビなんだ……」
「改めて見ると、めっちゃでかいな……」
「凄すぎです……」
エヴァ、マツリ、エイリーン、アイリン、トワ、ベル、カルアは巨大なビルに圧倒され、呆然としてしまう。異世界出身である彼女たちは、テレビ局を間近で見るのは初めてで、カルチャーショックを感じるのも無理はない。
「さて、お参りの前に…みんながいる場所に行かないと!」
日和と椿が、同じWDG48の仲間が待つ集合場所へ向かおうとすると、遠くから手を振る女性たちの姿が見えた。彼女たちこそ、WDG48のメンバーであり、日和と椿が所属するアイドルユニットだ。
「日和! つばきん!」
「みんな!」
日和と椿は仲間のもとへ駆け寄り、楽しそうに交流を始める。同じユニットとしての絆は深く、無事に再会できた喜びが伝わってくる。
「昨日は大変だったね。二人とも無事で良かった!」
「うん。私は任務で悪鬼を倒したけどね。椿も戦えるようになったんだよ!」
「私は興味本位でついてっただけなのに、まさか戦えるようになるとはね」
日和と椿が笑顔で話す様子を、零夜たちは温かい笑顔で見守る。アイドルたちの絆の深さは知っていたので、ここでは静かに見守ることにした。
「それに、今日ここに来たのは私たちだけじゃないよ。零夜くん率いる八犬士の仲間たち、ヒカリさんやりんちゃむも一緒なの!」
「え!? 噂の八犬士って!?」
日和が零夜たちを紹介すると、WDG48のメンバーたちは驚きを隠せず、一斉に視線を向ける。零夜たちは頷き合い、彼女たちに近づいていった。
「初めまして。東零夜です。プロレスラーを目指してたんですが、事情があって八犬士になりました。でも、夢を諦めない性格なんで、よろしくお願いします!」
「「「キャーッ!」」」
零夜が笑顔で自己紹介すると、WDG48のメンバーたちは黄色い声を上げ、次々と彼の周りに集まってきた。通常はアイドルにファンが集まるものだが、ここでは逆の状況だ。
「あなたの活躍見てたよ! ほんとすごいよね!」
「私たち、応援してるから!」
「そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうございます!」
アイドルたちの応援に、零夜は照れながら頭を掻く。まさかアイドルから応援されるとは思わず、照れくさくなるのも無理はない。
「零夜は女の人にモテるからな。こうなるのは予想してたけど……」
カルアに抱かれたヤツフサは、心配そうに倫子たちに視線を移す。案の定、倫子、エヴァ、ヒカリの三人は不満げに頬を膨らませていた。それにりんちゃむ、エイリーン、アイリン、マツリ、トワ、ベルは苦笑いしていて、メイルは零夜の姿を見ながら微笑んでいた。
「ヤツフサさん、倫子さんたちなんであんな顔してるんですか?」
「どうやら零夜が他の女の人と絡んでるのに嫉妬してるみたいだな。俺たちじゃどうにもできないな……」
カルアの質問に、ヤツフサはため息をつきながら答える。この事についてはブレイブエイト内としても悩みの種であり、どうする事もできない。
カルアは苦笑しつつ、零夜に視線を戻した。零夜の努力が悪鬼を次々と倒し、今の人気につながっている。その結果がこの光景を生んだのだ。
(零夜は努力でここまで成長した……天才は1%の才能と99%の努力って言うけど、彼はそれを見事にやってのけてる。すごいわね……)
カルアが心の中で零夜を尊敬していると、倫子、エヴァ、ヒカリが零夜に近づいてきた。それを見たWDG48のメンバーたちは、思わず背筋を伸ばし、一歩後ずさる。
「零夜くん。私たちがいること、忘れないでよね」
「はい…」
倫子の真剣な視線に、零夜はしょんぼりしながら頷く。どんなに努力して人気者になっても、彼女たちには敵わないようだ。
「まあまあ、落ち着いて。そろそろトークショーの準備しないと!」
「そうね。私たちも急ごう!」
日和、椿、WDG48のメンバーたちは、トークショーの会場へ急ぐ。遅刻すればファンに迷惑がかかるからだ。
「俺たちも急ごう! トークショー見に行かないと!」
「そうね、みんなで行きましょう!」
その様子を見た零夜たちも後を追い、トークショーの会場へと向かっていった。