目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

閑話2 WDG48との出会い

 零夜たちは朝食を終え、近くのアクアシティ神社へ向かう準備をしていた。この神社はマルテレビの敷地内にあり、多くの参拝客で賑わうことで知られている。


「マルテレビといえば、逃走ロワイアルもその番組系列ですよね?」

「そう。あの番組もマルテレビの企画よ。今は放送休止中だけど」


 エイリーンの質問に、ヒカリが簡潔に答える。それを聞いたマツリたちも納得な表情をしていた。

 マルテレビはバラエティを中心に人気ドラマも放送するが、予算が厳しく視聴率も低迷気味だ。さらに人気番組「逃走ロワイアル」の生放送中の事件が批判を呼び、現在は放送休止。番組が再開されない可能性すら囁かれている。


「まあ、この件はどうしようもないからね。それより、みんな準備できた?」

「はい! バッチリです!」


 倫子が苦笑しながら確認すると、零夜たちはすでに私服に着替え、準備万端だ。

 ヒカリは青のロングスカートに赤いセーター、椿は黒のミニスカートに白いブラウス、りんちゃむはデニムジャケットにへそ出し長袖Tシャツとデニムショートパンツを着ている。カルアとメイルは上着をロングブラウスに変えていた。


「よし! アクアシティ神社へ出発よ!」


 倫子の合図に全員が頷き、コートを羽織って屋敷を出る。ヤツフサはカルアに抱かれたまま複雑な表情を浮かべていたが、それも無理のないことだろう。


 ※


 お台場の街を歩きながら、零夜たちはアクアシティ神社を目指す。東京の雑踏の中、人々が行き交い、車が道路を走る。幸い、零夜たちの屋敷からマルテレビまでは徒歩数分と近いので安心だ。


「マルテレビがこんな近くで良かったけど、これをテレビ局が知ったらどうなるかな?」

「たぶん俺たちをマスコットにでもするだろう。そしたら引き受けるしかないからな……」

「確かにスポンサーになるのは嬉しいけど……複雑よね…」


 トワが呟いた懸念に、零夜が予測を交えて答える。トワは苦笑し、エイリーンたちも同じく複雑な表情を浮かべる。スポンサーの支援は魅力的だが、逃走ロワイアルの放送休止の原因を作った罪悪感が絡む。協力させられる可能性を考えれば、複雑な気分になるのも当然だ。


「お、マルテレビに着くぞ!」


 マツリが指差す先には、マルテレビの看板が目に入る。さらに奥には、格子状の構造と球体が組み合わさったユニークな外観の本社ビルがそびえていた。人気アニメのグッズショップもあり、観光客で賑わっている。


「すごい……これがマルテレビなんだ……」

「改めて見ると、めっちゃでかいな……」

「凄すぎです……」


 エヴァ、マツリ、エイリーン、アイリン、トワ、ベル、カルアは巨大なビルに圧倒され、呆然としてしまう。異世界出身である彼女たちは、テレビ局を間近で見るのは初めてで、カルチャーショックを感じるのも無理はない。


「さて、お参りの前に…みんながいる場所に行かないと!」


 日和と椿が、同じWDG48の仲間が待つ集合場所へ向かおうとすると、遠くから手を振る女性たちの姿が見えた。彼女たちこそ、WDG48のメンバーであり、日和と椿が所属するアイドルユニットだ。


「日和! つばきん!」

「みんな!」


 日和と椿は仲間のもとへ駆け寄り、楽しそうに交流を始める。同じユニットとしての絆は深く、無事に再会できた喜びが伝わってくる。


「昨日は大変だったね。二人とも無事で良かった!」

「うん。私は任務で悪鬼を倒したけどね。椿も戦えるようになったんだよ!」

「私は興味本位でついてっただけなのに、まさか戦えるようになるとはね」


 日和と椿が笑顔で話す様子を、零夜たちは温かい笑顔で見守る。アイドルたちの絆の深さは知っていたので、ここでは静かに見守ることにした。


「それに、今日ここに来たのは私たちだけじゃないよ。零夜くん率いる八犬士の仲間たち、ヒカリさんやりんちゃむも一緒なの!」

「え!? 噂の八犬士って!?」


 日和が零夜たちを紹介すると、WDG48のメンバーたちは驚きを隠せず、一斉に視線を向ける。零夜たちは頷き合い、彼女たちに近づいていった。


「初めまして。東零夜です。プロレスラーを目指してたんですが、事情があって八犬士になりました。でも、夢を諦めない性格なんで、よろしくお願いします!」

「「「キャーッ!」」」


 零夜が笑顔で自己紹介すると、WDG48のメンバーたちは黄色い声を上げ、次々と彼の周りに集まってきた。通常はアイドルにファンが集まるものだが、ここでは逆の状況だ。


「あなたの活躍見てたよ! ほんとすごいよね!」

「私たち、応援してるから!」

「そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうございます!」


 アイドルたちの応援に、零夜は照れながら頭を掻く。まさかアイドルから応援されるとは思わず、照れくさくなるのも無理はない。


「零夜は女の人にモテるからな。こうなるのは予想してたけど……」


 カルアに抱かれたヤツフサは、心配そうに倫子たちに視線を移す。案の定、倫子、エヴァ、ヒカリの三人は不満げに頬を膨らませていた。それにりんちゃむ、エイリーン、アイリン、マツリ、トワ、ベルは苦笑いしていて、メイルは零夜の姿を見ながら微笑んでいた。


「ヤツフサさん、倫子さんたちなんであんな顔してるんですか?」

「どうやら零夜が他の女の人と絡んでるのに嫉妬してるみたいだな。俺たちじゃどうにもできないな……」


 カルアの質問に、ヤツフサはため息をつきながら答える。この事についてはブレイブエイト内としても悩みの種であり、どうする事もできない。

 カルアは苦笑しつつ、零夜に視線を戻した。零夜の努力が悪鬼を次々と倒し、今の人気につながっている。その結果がこの光景を生んだのだ。


(零夜は努力でここまで成長した……天才は1%の才能と99%の努力って言うけど、彼はそれを見事にやってのけてる。すごいわね……)


 カルアが心の中で零夜を尊敬していると、倫子、エヴァ、ヒカリが零夜に近づいてきた。それを見たWDG48のメンバーたちは、思わず背筋を伸ばし、一歩後ずさる。


「零夜くん。私たちがいること、忘れないでよね」

「はい…」


 倫子の真剣な視線に、零夜はしょんぼりしながら頷く。どんなに努力して人気者になっても、彼女たちには敵わないようだ。


「まあまあ、落ち着いて。そろそろトークショーの準備しないと!」

「そうね。私たちも急ごう!」


 日和、椿、WDG48のメンバーたちは、トークショーの会場へ急ぐ。遅刻すればファンに迷惑がかかるからだ。


「俺たちも急ごう! トークショー見に行かないと!」

「そうね、みんなで行きましょう!」


 その様子を見た零夜たちも後を追い、トークショーの会場へと向かっていった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?