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閑話4 恐怖の餅つき騒動

 零夜たちはトークショーを終えた後、WDG48のメンバー、ヒカリ、りんちゃむと共にアクアシティ神社の初詣へ行く事に。神社の方は既に多くの参拝客で賑わっていて、順番まで時間が掛かるだろう。参拝客の中には、なぜか全身タイツの謎の集団や、巨大な招き猫の着ぐるみを着たおじさんがウロウロしており、早くもカオスな雰囲気が漂っていた。


「凄い人気ね。マルテレビに神社があると知っていたけど、こんなにも人気だなんて驚いたな……」

「まあ、これぐらい普通だけどね。あっ、そろそろ私達の番よ」


 トワはマルテレビの神社が人気である事に苦笑いする中、日和は笑顔で彼女に説明する。そのまま零夜たちの番となり、お賽銭を入れて鐘を鳴らし始める。そのまま2礼した後、2回手を叩いて一礼をしたのだ。


「どうか俺たちブレイブエイトが、タマズサを倒します様に……」


 零夜がそう呟きながら、神様に願いをかけたその時だった。



「そいつはどうかな?」

「「「へ!?」」」



 なんといきなり何処かから声が聞こえ始め、零夜達は戸惑ってしまう。声の主は明らかに神聖な雰囲気ゼロで、まるでカラオケで酔っ払ったおっさんがマイクを握ったようなダミ声だ。まさか神様から声がしたとは思ってもいないだろう。


「今の声は一体……」

「私に言われても……」


 マツリは辺りを見回しながら日和に質問するが、彼女も首を横に振りながら全然知らないと告げる。この様な事は前代未聞と言えるだろう。


「どうかなって、一体……何が足りないんですか!?」


 零夜が神社に対して懸命に質問したその時、再び声が聞こえ始める。今度はエコーがかかっており、まるで安物のカラオケマシンで遊んでいるかのようだ。


「アンタが付き合っている女性を渡せばいいんだよ」

「おい。この声……もしや!」


 零夜はすぐに声の正体を察したその時、急いで神社の後ろに回り込み始める。その後ろをよく見ると……なんと彼の会社の同僚である長谷川たちが仕組んでいた事が発覚した。

 しかも長谷川は神様の衣装を着ながら、頭には100均で買ったようなキラキラのティアラを装着し、手にはカラフルなLEDライト付きの扇子を振り回している。さらに背後には、なぜか巨大な段ボール製の「神様ロボ」が置かれており、明らかに手作り感満載だ。


「やっぱりテメェらか! くだらない恰好をしやがって!」

「いでで! 俺たちが悪かったから勘弁してくれ!」


 零夜は長谷川たちを容赦なくボコボコにしまくり、彼らは殴られながら謝罪する。長谷川のティアラが吹っ飛び、扇子がポッキリ折れる中、段ボール神様ロボが音を立てて倒れてしまう。参拝客からは笑い声が上がり、りんちゃむはすぐにライブ配信を始める。人を騙した長谷川たちが悪いので、この件に関しては自業自得だ。


「まったく! お前らは本当に困った奴らだな!」

「だって羨ましいんだよ! お前はアイドルである日和ちゃん、モデルレスラーの倫子さん、更には若い女性達と同棲しているじゃないか! 俺たちだってこんな生活送りてーよ!」

「「「そうだそうだ!」」」


 零夜は呆れながらため息をつくが、長谷川は涙を流しながら必死で訴える。それに仲間たちも拳を上げながら同意しているが、なぜか一人が持っていたプラカードには「零夜ハーレム撲滅委員会」と書かれていた。

 零夜はそんな彼らに対して真顔で視線を合わせてきた。


「あのな。その気持ちは分かるが、実際考えてみろ。俺は八犬士としての戦いに巻き込まれてしまい、今の様な展開になっているんだ。しかしお前らはその経験がないどころか、俺を見て嫉妬ばかりしている。少しは自分の状況を考えろ!」

「「「ぐはっ!」」」


 零夜からの正直な指摘が炸裂し、長谷川たちの身体に次々と言葉の矢が突き刺さる。まるで漫画のように、彼らの体に「ズキューン!」という効果音付きで矢が刺さり、参拝客が一斉に拍手する。今の指摘が炸裂したからこそ、長谷川達には効果抜群なのだ。


「じゃあな。少しは頭冷やせよ」


 零夜はそのまま仲間たちの元に戻り出し、長谷川たちはショックのあまり前のめりに倒れてしまった。あの様な指摘を受けてしまえば、こうなるのも無理はないだろう。


「おのれ……ここで俺が諦めてたまるかよ……!」


 しかし長谷川は嫉妬の炎を燃やしながら、力強く立ち上がっていく。ティアラは壊れ、衣装はボロボロだが、彼の目にはまだ闘志が宿っている。その様子だとまだ諦めていないのが丸分かりだ。長谷川はそのまま一人でヨロヨロと動き出し、次の作戦に取り掛かり始めた。


 ※


 零夜たちは初詣を終えた後、マルテレビの露店で何か買おうとしていた。そこにはキッチンカーやゲームなど多くあるので、どれもお勧めと言えるだろう。キッチンカーの中には「超激辛地獄たこ焼き」や「謎の光るわたあめ」など、明らかに挑戦的なメニューも並んでいるが。


「何か食べたい物ある?」

「うーん……私はあれがいいかな」


 椿の質問に対し、アイリンはある方向を指さす。そこはりんご飴のお店であり、特にカットりんご飴が有名との事だ。


「りんご飴か。俺、大好物だし、せっかくだから買いに行くとするか!」


 零夜の提案に全員が賛成する中、倫子は足を止めてあるイベントに目を移す。彼女の視線の先では、なぜか巨大なハムスターの着ぐるみを着た司会者がマイクを握っている。


「なんかイベントがやっているみたい。餅つき大会だって」

「?」


 倫子が視線を合わせている方向に目を移すと、そこには餅つき大会のイベントが行われようとしていた。しかも参加者は二人一組で、優勝賞品は百万円となっている。


「百万円か! 折角だから参加したらどうだ?」

「お金ならいくらでもあるが……面白そうだから参加しておかないとな!」


 マツリは参加する事を零夜に勧めるが、彼は苦笑いしながらも参加する事を決意。餅つきは中学時代にやった事があるので、参加するのは久々であるのだ。


「じゃあ、私があなたのパートナーになるわ。早速申し込みましょう!」

「うおっ!」

「「あー、抜け駆け!」」


 するとヒカリが零夜の手を取り、すぐに申込へ向かい出す。それを見た倫子とエヴァが叫んでしまい、日和たちが苦笑いしながら彼女たちを宥め始めた。これ以上の騒動は止めて欲しいと、日和は心から頭を抱えるのも無理なかった。


 ※


 その後、参加者が全員揃い、いよいよ餅つき大会が始まろうとしていた。参加人数は五組だが、いずれも強敵ばかりなので油断禁物だ。


「それでは餅つき大会……スタート!」


 司会(ハムスター着ぐるみ)の合図と同時に競技が始まりを告げる。零夜は餅を杵でつきまくり、ヒカリは返し手で餅にお湯を当てていく。しかも二人の連携はとても早く、餅は次々と完成していくのだ。会場からは歓声が上がり、りんちゃむはスマホで撮影を続ける。


「凄い、二人共! 餅がどんどん出来上がっていくわ!」

「そのまま突き放しちゃえー!」


 倫子たちからの声援を受けた零夜とヒカリは頷いたと同時に、次々と餅を完成させる。しかも他の組とは大差をつけているので、これは勝ったのも当然かと思ったその時だった。



「おお! 向こうの方が餅を次々と完成させているぞ!」

「「「?」」」



 全員が声のした方を向いた途端、なんと長谷川が餅つき用の機械を使って餅を次々と完成させたのだ。機械はまるでSF映画に出てくるロボットのようなデザインで、煙をモクモク吐きながら「ピーポーパーポー!」と謎の電子音を鳴らしている。この姿に零夜たちは一斉に前のめりにずっこけてしまった。


「長谷川! お前も参加していたのは良いけど、機械を使うのはないだろ!」

「うるせえ! 勝てば良いんだよ! それにこれだけじゃないんだぜ!」


 長谷川が機械のスイッチを押した途端、とある餅を機械から出していく。それは零夜の顔であり、しかも目がハートマークで「ラブリー零夜餅」と名付けられている。零夜は当然前のめりにずっこけてしまった。


「勝手に俺の顔で作るなー!!」

「しかもバカにした様な顔をしているし……」


 零夜は当然ツッコミをしてしまい、ヒカリはお餅の顔を見て唖然としてしまう。会場からは「ラブリー零夜餅、欲しい!」と女子高生の声が上がり、りんちゃむは「これ、グッズ化したら売れるよ!」と興奮気味に叫ぶ。これではタダの悪戯だが、人の顔型の餅を作るのは前代未聞である。


「ふざけた餅を作るのなら容赦しないぞ! すぐにその操作を止めろ!」

「やなこった! お前が憎いから……あ」


 零夜が長谷川に対して止める様忠告するが、彼は反論してとあるスイッチを押してしまう。すると機械が突然赤くなってしまい、チカチカ点滅してしまう。画面には「DANGER! 餅パニックモード起動!」と表示され、会場全体がざわつき出す。その様子だと嫌な予感がするのは確定と言えるだろう。


「おい! 何をした!?」

「しまった! 自爆ボタンを押してしまった……」

「という事は……」


 長谷川の説明を聞いた零夜が冷や汗を流した途端、機械は爆発を起こし、餅が会場中にばら撒かれてしまった。餅はまるでミサイルのように四方八方に飛び散り、観客席に直撃。さらにはいつの間にかいた招き猫おじさんが、餅をキャッチして踊り出す始末。よって大会は中止となってしまい、多くの怪我人が出てしまった。しかし餅が柔らかいので、軽傷ばかりとなっているのが幸いだ。


「今年の最初から……お前はいつもいつも……!」

「アンタ……本当に最低な人間やな……!」


 零夜はワナワナ震えながら、長谷川を本気で殴り飛ばそうとしている。さらには倫子たちも長谷川を叩き潰そうとステージに向かい、怒りの表情で腕を鳴らしていたのだ。会場はまるで格闘技イベントのようになり、観客が一斉に野次を飛ばす。


「い、いや……これはその……」

「誰が許すかァァァァァァ!!」

「ぎゃあああああああ!!」


 長谷川は零夜たちに殴られまくり、彼の断末魔が辺り一面に響き渡った。零夜のパンチ、倫子のハイキック、エヴァのウルフクローが炸裂し、長谷川はまるでアニメのやられ役のように吹っ飛んでいく。さらには、なぜか招き猫おじさんが長谷川に飛びかかり、会場は爆笑の渦に包まれる。

 同時にこの事件は、「餅つきトンデモ爆破事件」という珍事件として記録されたのだ。後日、ネット上では「ラブリー零夜餅」がミーム化し、Xでトレンド入りしてしまう。


 ※


「そーれ!」


 その後、メイルが口直しの為にジャグリングなどの大道芸を披露し、観客たちは喜んでいた。イベントは長谷川のせいで台無しになったかと思ったが、彼女の機転のお陰でなんとか中止にならずに済んだのだ。


「やれやれ……一時はどうなるかと思いましたね……」

「ええ……長谷川は警察に連行したし、これで懲りると良いけどね……」


 日和たちが苦笑いしながら話をしていて、イベントが無事に行われる事に安堵していた。しかし零夜は真顔のまま、青い空を見上げていた。


(これでアイツが懲りると良いけどな……)


 零夜が心からそう思いながら、警察に連行された長谷川の事を思い浮かべていた。しかし彼は出所したと同時に、再び零夜たちの邪魔をしてくる。彼らとの戦いは、当分終わりを告げる事はないだろう。

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