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第122話 遊園地での新たな事件

 零夜たちは電車を降り、東京駅に到着した。そこから遊園地「東京ワンダーランド」までは徒歩で約10分。普通に歩けば、迷うことなく目的地に辿り着ける距離だ。


「いよいよ東京ワンダーランドだ! 早くジェットコースターに乗りたいぜ!」

「マツリはジェットコースター派なのね。私はやっぱりメリーゴーランドがいいかな!」


 マツリはジェットコースターに目を輝かせ、アイリンはメリーゴーランドに心をときめかせている。エヴァたちもアトラクションへの期待でそわそわし、その様子に倫子と日和は穏やかな笑みを浮かべていた。


「あっ、入口だ!」


 零夜が指さす先には、東京ワンダーランドの入場ゲートが色鮮やかに姿を現していた。ゲートの向こうには愛らしいマスコットキャラクターや、楽しげな笑顔で溢れるお客さんたちの姿がある。

 間違いなく、ここが東京ワンダーランド。彼らは無事にたどり着いたのだ。


「チケットは事前に買ってあるし、さっそく中に入りましょう!」


 倫子の合図に全員が勢いよく頷き、足早に入場ゲートへ向かう。目の前に楽しい遊園地が広がっているのだから、駆け出さずにはいられない。


「やれやれ……まるで子供だな……」

「それが彼女たちですからね。俺たちも行きましょう」

「だな」


 ヤツフサは呆れたように呟き、零夜は苦笑いを浮かべながら応じる。二人は倫子たちの後を追いかけながら歩き始めた。その時、電柱の影からひっそりと彼らの様子を窺う少年の姿があった。

 その少年こそ、孤児院で魔術を仕掛けた張本人だった。


(……)


 少年は無言で零夜たちの姿をじっと見つめると、静かにその場を後にした。


 ※


 東京ワンダーランドの中に入った零夜たちは、目の前に広がる光景に驚嘆の声を上げた。

 メインゲート広場には、シンボルである巨大な地球儀が堂々と鎮座している。ゆっくりと回転するその姿は、まるで地球そのものが生きているかのようだ。


「すごい……入っただけでこんなオブジェがあるなんて……」

「地球って、こんな美しい惑星だったんだね……」


 エヴァ、マツリ、アイリン、トワ、エイリーン、ベル、カルアの七人は、巨大地球儀に目を奪われ、興味津々に眺めていた。遊園地に入ってすぐこんな光景に出会うのは初めての経験で、興奮を抑えきれなかったのも無理はない。


「まさか入場口の地球儀にこんなに食いつくとはね……」

「初めての遊園地ですもの、仕方ないですよ」

「良い思い出になるかも知れませんね」


 倫子、日和、メイルはそんな様子を見てくすりと笑う。一方、零夜とヤツフサはある方向に視線を向けていた。そこでは、色とりどりのキャラクターたちがお客さんたちを出迎え、写真を撮ったり、楽しげに触れ合ったりしていた。


「あれって、この遊園地のキャラクターたちだよな?」

「ええ。俺も子供の頃、あのキャラクターたちと写真を撮ったことがありますよ。今でもその時のことは忘れられないですね」


 零夜は懐かしそうに語りながら、ヤツフサにキャラクターたちのことを説明する。かつて家族と訪れた遊園地で、キャラクターたちと写真を撮った思い出が蘇っていた。


「で、東京ワンダーランドのキャラクターって、動物が多いんだな」

「そうですね。メインは犬のワン太郎、猫のニャン子、リスのスク丸、ウサギの……ん? こんなウサギいたっけ?」


 零夜はヤツフサにキャラクターたちを紹介していたが、見慣れないウサギの姿に首をかしげる。その瞬間、そのウサギがズカズカと彼らに近づいてきた。


「うわっ、見たことないウサギがこっちに来る!」

「どうせ中身は分かってる……あのガキ共だろ?」


 零夜はウサギの正体を瞬時に見抜き、指をさして宣言する。すると、ウサギが着ぐるみを脱ぎ捨て、中から三人の子供たちが姿を現した。


「まあ! ウサギの正体があなたたちだったなんて……!」

「その様子だと、またメイルさんを連れ戻そうとしてるな。いい加減諦めなよ」


 メイルたちは驚きを隠せない中、零夜は子供たちに向かって制止の声を上げる。こんなことをいつまでも続けていれば、必ず痛い目にあうと確信していた。


「嫌だ! 邪魔するなら倒すのみ!」


 子供たちは怒りを爆発させ、零夜に立ち向かおうとする。しかし、エヴァが素早く彼らの手を掴み、力強く握り潰す。彼女の表情は怒りに満ち、大切な人を傷つける者には容赦しない覚悟が滲み出ていた。


「いい加減にしなさい!」

「「「ぎゃあああああ!!」」」


 エヴァの強烈なパンチが子供たちを吹き飛ばし、彼らは勢いよく大空へ舞い上がり、キラキラとお星様になって消えた。

 これで孤児院の子供たちは合計六人現れたが、まだ他にも潜んでいる可能性がある。油断は禁物だ。


「助かったぜ、エヴァ。お前がいなかったらどうなってたか……」

「気にしないで。さあ、私たちもキャラクターたちと交流しに行きましょう!」


 零夜がエヴァの手を取り、キャラクターたちの元へ向かおうとすると、今度はキャラクターたちがゾロゾロと彼らに近づいてきた。おそらく、エヴァが子供たちを吹き飛ばした場面を目撃し、興味を引かれたのだろう。


「え? 私たちのところに来るの?」

「さっきの行為、ちょっとまずかったんじゃないか……?」

「嫌な予感しかしませんね……」


 予想外の展開にエヴァ、マツリ、エイリーンは冷や汗を流す。しかし、アイリンはすぐに状況を察し、ワン太郎に近づいてその顔をじっと見つめながら話しかけた。


「もしかして……私たちが八犬士だって知ってるの?」


 アイリンの問いに、ワン太郎はこくりと頷き、カメラを構えながら一緒に写真を撮って欲しいとお願いしてきた。それを見たアイリンたちは断る理由もないと判断し、撮影に応じることに。


「それじゃ、みんなで撮りましょう!」

「その前に、本来の姿に着替えないとね! これが本当の私たちだもの」


 トワの提案で、全員が本来の姿に戻ることを決意。光のオーラに包まれながら、戦闘衣装へと変身した。ちなみに、ヤツフサは小型フェンリルに変身し、ベルが愛おしそうに彼を抱き上げた。


「よし! キャラクターの皆さん、集まってね!」

「写真を撮りたいお客さんは私たちの前に移動してください!」

「ルールを守って行動してね!」


 倫子、日和、ベルの呼びかけに応じ、キャラクターたちだけでなく、お客さんたちも次々と集まってきた。スタッフのサポートもあって、特別撮影会はスムーズに進行した。


「撮りますよ! はい、笑ってー!」


 零夜たちを中心に撮影会が始まり、カメラやスマホを構えた人々が次々とシャッターを切る。遊園地に入っただけで撮影会になるとは誰も予想していなかったが、これもまた貴重な思い出になるだろう。


 ※


 撮影会を終えた零夜たちは、東京ワンダーランドのアトラクションを心ゆくまで楽しんだ。ジェットコースターのスリル、メリーゴーランドの優雅さ、コーヒーカップのくるくる感、ゴーカートの疾走感――どのアトラクションも彼らを笑顔にさせた。

 ちなみに、キャラクターたちも全員同行して一緒に楽しんでいたが、その理由については深く詮索しない方がよさそうだ。


 ※


「ふーっ、楽しかった! 東京ワンダーランド、来て正解だったかも!」

「私もこの遊園地に来てよかったわ。ソフトクリームも美味しいし!」


 アイリンはソフトクリームを頬張りながら、アトラクションを満喫できた喜びを噛みしめる。ベルたちもソフトクリームを食べながら満面の笑みを浮かべ、アイリンと同じく幸せな気分に浸っていた。

 そんな様子を眺める倫子、日和、メイルも、ソフトクリームを手に穏やかに微笑む。


「でしょ? 東京ワンダーランドにはまだまだアトラクションがたくさんあるから、ソフトクリームを食べ終わったら次に行きましょう!」

「「「はーい!」」」


 倫子の言葉に、アイリンたちは元気よく手を挙げて一斉に応える。その様子はまるで学校の先生と生徒のようで、零夜とヤツフサはソフトクリームを食べながら呆然と見つめるしかなかった。


(あいつら、子供にしか見えないな……)

(今の様子を見れば、そう思うのも無理ないかもな……)


 零夜とヤツフサが心の中でそう呟き、アイリンたちの無邪気な姿にため息をついたその時、向こうからミディアムヘアの女性が駆け寄ってきた。コートに白いパーカー、ワッペン付きのオーバーオール、そして帽子を被ったその姿。

 零夜は一目で彼女が誰かを悟り、視線を向ける。


「あなたはミュージシャンのにこさん! その様子だと、何かあったんですか?」

「八犬士がいると聞いて探してたの! 実は僕……ある人たちに追われてるの!」

「「「ええっ!?」」」


 にこの突然の訴えに、その場にいた全員が驚愕の声を上げた。

 そして同時に、遊園地を舞台にした新たな戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。

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