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第123話 メイルの決断

 にこからの頼みに零夜達がざわつく中、倫子と日和は冷静な表情をしながら彼女の話を聞き始める。同じ芸能関係である以上、放って置く理由にはいかないのだ。


「それで、なんで追われていたの?」

「はい……僕は子供たちと共に番組の撮影をしていました。その最中に怪しげな雰囲気を纏った別の子供たちが現れてしまい、側にいた子供たちを容赦無く斬り裂いて倒してしまったのです。僕は恐怖のあまり全力で駆け出しながら逃げて行き……」

「今に至るという理由ね」


 にこからの説明を聞いた日和は、真剣な表情をしながら納得する。

 話の内容によると、にこは当時ゲストの子供たちと共に番組の収録を行っていたが、その最中に怪しげな子供たちが現れた事で事態は急変。一人はゲストの子供たちを超能力で浮かび上がらせ、もう一人は彼らに鉤爪攻撃で次々と斬り裂きまくった。ゲストの子供たちは重傷を負いながら地面に激突しながら倒れてしまい、にこは恐怖のあまり全速力で逃げ出してしまったのだ。


「けど、その子供たちの特徴については何か分かるの?」

「うん……確か普通の子供と変わらないけど、メイル先生とブツブツと言っていた様な……」


 にこが男の容姿について説明した途端、コツコツと足音が聞こえ始める。それを聞いた彼女たちが足音の方を向いた途端、梨里と仲間の子どもたちが姿を現したのだ。


「見つけたよ……メイル先生……」

「まさかあなたたちが、こんな事をしていたなんて……」


 メイルは驚きの表情をしながらも、すぐに切り替えて戦闘態勢に入る。倫子たちはにこを守りながら、同様の表情で梨里たちを睨みつける。キャラクター達は後ろに下がりながら警戒していて、この場は一触即発の雰囲気となってしまった。


「お前ら、メイルさんを連れ戻そうとしているのか?」

「本気だよ! メイル先生がいなくなってから、私たちは落ち込んでいる! けど、ある少年によって強くなった以上、私たちはこの力であなたたちを倒す!」


 零夜の質問に対し、梨里は彼らを指差しながら真剣に説明。メイルがいなくなったショックはとても大きく、何をやっても無気力になっていた。しかし、少年によって強くなった以上、メイルを奪った張本人を倒そうと間違った方向に進んでしまったのだ。


「とある少年が何者か分からないけど、彼らを一人残さず倒しましょう! そうするしか方法はないわ!」

「何れにしても戦うしか方法はないからな! 戦闘態勢用意!」


 トワが皆に説明したと同時に、弓矢を手元に召喚して戦闘態勢に入り始める。零夜たちもそれぞれの武器を手元に召喚し、梨里たちに視線を合わせながら戦闘態勢に入っていた。


「やれる物ならやってみなよ!」


 梨里は手元にクローを装着したと同時に、鋭い視線を向けながら戦闘態勢に入った。更に零夜とエヴァに殴られた筈の子供たちも駆けつけ、これで合計十一人となってしまう。

 その直後に緊迫した空気が流れ込み、キャラクター達とにこはこの様子に息を呑みながら見守っていた。


「行くぞ! 戦闘開始だ!」

「「「おう!」」」


 ヤツフサの合図で零夜たちは一斉に駆け出し、梨里たちを始末しようと勢いよく襲い掛かる。地面を蹴り、風を切り裂くようなスピードで突進する零夜たちの姿は、まさに猛獣の群れのようだ。梨里たちもまた戦闘に入る事を確認したと同時に、素早く駆け出して立ち向かったその時だった。



「ここは私が向かいます!」

「メイルさん!?」



 なんと自らメイルが前に出て、梨里たちの前に移動してきた。その様子だと自ら覚悟を決めたみたいで、拳を握り締めながら戦闘態勢に入ろうとしている。彼女の背後では、風が不気味に唸り、地面の小石がわずかに震える。


「皆さん。勝手に去ってしまったのは申し訳なく思っています。ですが、あなたたちが私を連れ戻そうとこんな事をするのなら……本気で倒しに向かいます!」


 メイルの宣言と同時に、突風が巻き起こり、彼女の髪が激しく揺れる。彼女は悪意がある者には容赦ない性格を持っているので、今回の梨里たちの行動も絶対に許さない気持ちは確実だ。

 その言葉に梨里たちはショックを受けてしまい、殆どが戦闘を解除して座り込んでしまう。だが、一部の子供たちはクローを握り締め、なおも戦意を燃やす。


「先生……どうして……」


 梨里は目に涙を浮かべながら、メイルに裏切られてしまった事にショックを受けてしまう。だが、メイルは一瞬の隙も見せず、両手を合わせると、まるで空間を切り裂くように手元で何かを作り出す。


「パントマイム、ロープ!」


 パントマイムによる大魔術が発動。メイルの手元に、見えないロープが突如として具現化する。大道魔術の達人である彼女にとって、この技はまさに一瞬の芸術だ。ロープはまるで生き物のようにうねり、梨里たちを瞬時に絡め取るべく襲い掛かる。


「あっ! 見えないロープが!」


 梨里が叫んだ瞬間、すでにロープは彼女たちを捕らえていた。メイルは鋭い眼光で一気に距離を詰め、見えないロープを梨里たちに巻き付ける。子供たちの動きは封じられ、クローを振り上げる間もない。メイルは倫子たちの方を向いた直後、彼女たちはメイルの元に集まってロープを手に取る。


「行きますよ! せーの!」

「「「そーれ!」」」

「「「!?」」」


 メイルたちがロープを一気に引っ張ると、梨里たちはまるで嵐に巻き上げられた木の葉のように上空へ舞い上がる。ロープが空間を切り裂く音が響き、彼女たちの驚愕の叫び声が空にこだまする。ロープが解けた瞬間、梨里たちは自由落下の状態で宙を漂う。


「日和さん!」

「ええ! マジックスパーク!」


 メイルの合図と同時に、日和が指を構える。彼女の指先から迸る電流は、まるで雷鳴を伴う稲妻のように眩く、轟音とともに上空の梨里たちに直撃する。電流は空気を焼き、火花を散らしながら彼女たちを包み込む。


「「「うわ(きゃ)あああああ!!」」」


 梨里たちは電流の嵐に飲み込まれ、爆発的な衝撃波が彼女たちを吹き飛ばす。身体を貫く電撃の痛みに悲鳴を上げながら、彼女たちは地面へと落下。地面に叩きつけられた衝撃で土煙が舞い上がり、動かなくなった。


「もう二度と孤児院に戻る事はありませんが、罪を償ってやり直してください。さようなら」


 メイルは梨里たちに対して冷たく告げると、後ろを向いて去ってしまう。彼女の目には涙が流れ、頬を伝う雫が陽光にきらめく。本来ならこんな事したくなかったが、仕方がなかったのかも知れない。

 それに気付いた零夜は、静かに彼女に寄り添う。


「無理はしないでくれ、俺がついているから」

「坊ちゃま……うう……」


 零夜の優しい笑みに対して、メイルは我慢できずに泣いてしまう。倫子たちもまた、メイルを慰めようと次々と寄り添い始めた。

 その様子を見た梨里は、悲しそうな表情をしながら見つめていた。自分たちのせいでメイルを不幸にしてしまい、泣かせてしまった事で罪悪感を感じているのだ。


(そうだったんだ……メイル先生には大切な人が、いたんだ……ビデオメッセージでもその事が伝えられていたけど、私たちはそれにも関わらずに攻撃しようとしていた……本当に馬鹿だよ、私たち……)


 梨里は心の中で思いながら、自ら起こした過ちを振り返る。それが間違いだと漸く気付き、彼女の目からは涙が溢れていた。

 その後、警察が次々と到着し、梨里たちは彼らによって補導されてしまう。そのまま彼女たちは護送車へと乗せられてしまい、警察署へ連行されたのだった。


 ※


「落ち着いた?」

「はい。ご迷惑をおかけしました」


 梨里たちが警察に連行されてから数分後、零夜たちはベンチに座りながら休んでいた。メイルも漸く泣き止んでいて、零夜に寄り添いながらご満悦となっていたのだ。

 因みに倫子とエヴァは嫉妬していて、頬を風船の様に膨らましていた。それに日和たちが苦笑いしながら、嫉妬する二人を落ち着かせていたのは言うまでもない。


「それで子供達はどうなったの?」

「スタッフの連絡によって、救急車で病院に送られたの。数時間すれば目を覚ますって」

「良かった……」


 にこからの報告を受けたベルは、安堵の表情でため息をつく。もし間に合わなかったらどうなったのか分からず、下手したら死んでいた可能性もあるだろう。

 零夜たちも安堵の表情をしながら、子供たちが無事である事にホッとしていた。


「そうなると子供たちの代わりは……あっ」

「「「へ!?」」」


 にこは子供たちの代わりをどうすれば良いのか考えたその時、零夜たちに目を合わせてある事を思いつく。視線を合わせられた彼らはキョトンとしてしまい、キャラクターたちも一斉に首を傾げたのだった。

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