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第124話 番組のお手伝い

「結局……俺たちはにこさんの手伝いをしないといけないのですね……」


 梨里たち撃破後、零夜たちブレイブエイトは子供たちの代役を務めることになり、にこと一緒に収録に参加することになった。彼女の頼みとあれば断れないが、どこか気恥ずかしさを感じずにはいられない。

 因みに、他のキャラクターたちは別の仕事のため、ここにはいない。


「まあ、子供たちが怪我したんだから仕方ないわよね。確か内容はレスキュークエストだったかしら」

「囚われたお猿さんを助けるって話だろ? 打ち切りになった逃走ロワイアルよりはマシだな」


 エヴァとマツリの説明に、アイリンたちは苦笑いで応える。今回の収録は深夜の子供向け番組の企画だ。零夜たちがどれだけミッションを楽しめるかが鍵となるだろう。

 なお、逃走ロワイアルは昨日のニュースで、次回放送なしで打ち切りが決定した。刈谷が陽炎に殺された影響があまりにも大きく、責任を取る形で終了せざるを得なかったのだろう。


「今、鍵は三つ手に入れたけど、残りはあと二つだよね。場所はこうなってるよ」

「どれどれ?」


 にこが遊園地のマップを広げ、皆に説明する。マップには鍵の場所を示すマークが描かれ、丸印は回収済みを意味していた。残るは観覧車とおさるの電車だ。


「観覧車は私と零夜君で行ってくるわ! 遠くから見えるなら、人数は少なめの方がいいよね」

「うわっ!」


 倫子は零夜の手をぐいっと引っ張り、観覧車へと猛スピードで駆け出す。二人きりになりたいという本音が垣間見え、この瞬間を狙っていたに違いない。


「あーっ! 抜け駆け!」

「まあまあ、落ち着いて」


 その様子を見たエヴァが思わず叫び、ベルが苦笑いしながら彼女をなだめる。ここで騒ぎを起こせば遊園地は大混乱に陥り、損害賠償を請求される羽目になるだろう。


「残りはおさるの電車だけど、普通に乗れば大丈夫そうね」


 アイリンたちはおさるの電車に乗り込むことに。彼女はウインクしながら皆に視線を投げ、トワたちも笑顔で頷く。しかし、日和、にこ、メイルの三人はなぜか俯き、どこか気掛かりな様子だ。


「そのことだけど……おさるの電車を甘く見ない方がいいよ」

「「「?」」」


 にこが忠告するが、アイリンたちはその言葉に首をかしげる。この時、彼女たちはまだ知らなかった。おさるの電車の恐怖をまざまざと味わうことになるとは……。


 ※


 零夜と倫子は観覧車に乗り込み、ミッションの問題が書かれた張り紙を探していた。どこかに貼られているはずの問題を見つけ、解くのが目的だ。


「張り紙は……あった!」


 零夜が指差す先を見ると、観覧車の下の鉄柵に問題の張り紙が貼られていた。その内容はこうだ。


問4

次のうち、仲間はずれはどれだ?

じゃがいも、玉ねぎ、ピーマン、にんにく


「簡単! ピーマンは芽が出ないから、ピーマンが正解よ!」

「まあ、当然ですね。後は観覧車から降りるまで、二人きりで楽しみましょう」

「そうやね!」


 倫子は即座に解答し、四つ目の鍵を難なく入手。零夜も頷きながら応じ、二人は彼の提案で観覧車でのひとときを楽しむことに。倫子は零夜にぎゅっと抱きつき、満面の笑みを浮かべる。零夜は優しく微笑みながら、彼女の頭をそっと撫でた。


 ※


「「「きゃあああああ!!」」」


 アイリンたちはおさるの電車に乗り込んでいたが、その速度はジェットコースター並みで、悲鳴が響き渡る。

 東京ワンダーランドのおさるの電車は、絶叫マシン級のアトラクションだった。子供にはハードルが高いが、大人にはスリル満点でお勧めかもしれない。


「こんなおさるの電車、見たことない! いくらなんでも速すぎるでしょ!」

「これがおさるの電車の真骨頂だよ!」

「んな理由あるか! それより問題は……」


 アイリンはにこにツッコミを入れつつ、視線を問題の看板に移す。そこには張り紙が貼られ、こう書かれていた。


問5

この漢字は何と読む?

天下無双


「簡単! 天下無双てんかむそう!」


 アイリンは即答し、五つ目の鍵を見事ゲット。同時に電車が停止し、彼女たちはヘロヘロ状態に。こんなおさるの電車は初めてであり、甘く見ていたのもご尤もである。


「クリアしたけど……こんなおさるの電車、二度と乗りたくない……」

「なんか、ごめんね……」


 目を回しながらぐったりするアイリンたちに、にこは苦笑いで謝る。こんな電車はもう懲り懲りだと感じるのも無理はない。日和とメイルもその様子を見て、苦笑いを浮かべるしかなかった。


 ※


 その後、零夜たちはにこたちと合流し、宝箱のあるエリアに到着。五つの鍵を使って宝箱を開けると、中には猿のぬいぐるみが入っていた。


「救出完了! みんな、ありがとう!」


 にこは満面の笑みで感謝し、零夜たちも笑顔で応える。子供たちが重傷で病院に運ばれた時はどうなることかと思ったが、零夜たちのおかげで収録は無事成功した。すると、ちょうどパレード開始の放送が響く。時刻は午後2時55分。ギリギリ間に合う時間だ。


「大変! パレードが始まっちゃう!」

「急ごう!」

「待って、僕も行く!」


 トワたちはパレード会場へ急ぎ、猛スピードで駆け出す。にこも収録を終えたばかりだが、慌てて後を追いかけた。


 ※


 パレードに間に合った零夜たちは、キャラクターたちが台車に乗って踊る姿を目にする。観客たちはリズムに合わせて手を叩き、楽しげな雰囲気に包まれていた。


「よかった! パレードに間に合った!」

「ほんと! キャラクターたちの笑顔を見ると、なんだかこっちまで笑顔になっちゃうね……」


 倫子たちは手を叩きながら、パレードを心から楽しむ。キャラクターたちの笑顔は癒やしを与えてくれるので、こちらも全力で楽しもうとしているのだ。

 すると、トワがあることに気づき、隣のにこに視線を向ける。何か気になることがありそうだ。


「そういえば、子供たちはどうなったの?」

「マネージャーから聞いたけど、全治一ヶ月で命に別状はないみたい。ただ、かなりダメージを受けてるから、完全に動けるまでには時間がかかるって」

「そう……(今回、梨里たちに力を与えた少年がいたって言ってたけど……一体何者なの……)」


 にこの説明にトワは納得しつつも、心の中では梨里たちに力を授けた少年のことを考えていた。いずれ彼と対峙する時が来るだろうが、戦いは避けられないと悟っている。

 すると、トワの目の前に可愛いキャラクターたちが手を振る姿が。彼女は思わず反応し、両手をブンブン振り返した。


「こっち向いてー!」

「めっちゃ楽しんでるね」

「トワって可愛いもの好きだからな……」


 トワの満面の笑みに、にこは微笑む。一方、カルアに抱かれたヤツフサは呆れたようにため息をつく。

 トワは普段はまともだが、可愛いものにはめっぽう弱い。それさえなければと嘆くばかりだ。

 ともあれ、パレードは無事終了し、零夜たちは次のアトラクションへ向かう。遊園地の楽しみはまだまだ続く。今この瞬間を大切にしようと心に決めていた。


 ※


 とある建物の屋上では、少年が零夜たちの様子を密かに観察していた。彼こそが梨里たちに力を授けた張本人で、怪しげな雰囲気を漂わせている。


「やはり彼女たちを使っても勝てはしないか……まあ、いずれは戦うことになるけど」


 少年はそう呟くと、背を向けてその場を去る。彼のパーカーの背中には、悪鬼のマークが不気味に刻まれていた。

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