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第127話 一人じゃない

「この話は以上だ……アタイがあの時、選択を間違ってなかったらこんな事には……」


 マツリは零夜たちに対し、自身の故郷が滅んだ理由を説明し終えた。その内容に彼らは驚きを隠せないのも無理はなく、誰もがパニグレに対して怒りを抱いているのだ。


「梨里たちに魔法をかけた少年が、あのパニグレだとは驚いたわ。けど、マツリの孤児院の皆まで連れ去るなんて……いくらなんでも許さないわ!」


 エヴァは怒りでワナワナ震えながら、真剣な表情の涙目で叫んでしまう。幼馴染であるマツリの故郷も悪鬼によってやられた以上、奴らに対する憎しみは益々強くなっている。自身も同じ経験をした以上、同情するのは当然であるのだ。


「ああ……けど、孤児院の皆は既に手遅れだ……奴らはパニグレによってまとめて改造されてしまい、ドラゴンの様な合体ロボットとなってしまったからな……」

「そんな! こんな事って……!」


 マツリは俯きながら、孤児院の皆の現状を説明。その内容に誰もが驚きを隠せず、ベルに至ってはショックで涙目になるのも無理はない。

 悪鬼は自らの目的の為なら、誰であろうとも容赦しない。それが子供や赤ん坊であろうとも、容赦なく命を奪う。パニグレもその一人だ。


「奴は神出鬼没だが、アジトが何処にあるのか分からない……アタイは奴を……絶対に許さない……!」


 マツリは目に涙を浮かべながら、怒りで拳を震わせる。大切な家族である孤児たちを改造させた以上、奴は絶対に許さない。パニグレの非道な行為を終わらせる為、今すぐにでも奴を倒したいぐらいだ。

 その様子を見たエヴァは、マツリの前に移動。そのまま彼女をムギュッと抱き締めた。


「エヴァ……?」

「マツリ……私も同じ気持ちだよ。小さい頃に孤児たちの皆とは何度も遊んだ事があるし、彼らが改造されるのは辛い。けど、奴の居場所が特定できないんじゃ、逆にやられてしまう事もあり得るでしょ?」

「言われてみれば、そうかもな……」


 エヴァからの指摘を受けたマツリは、シュンとしながら俯いてしまう。彼女はバトルジャンキーだけでなく、一度決めたら突き進む悪い癖がある。エヴァはそれを見通していて、マツリが項垂れるのも無理なかった。

 マツリの心は、後悔と怒りで押し潰されそうだった。あの時、別の選択をしていれば、孤児院の皆を救えたかもしれない――そんな思いが、彼女の胸を締め付ける。拳を握りしめ、唇を噛むマツリ。だが、その沈んだ空気を、エヴァの温かな声が優しく切り裂いた。


「でも、大丈夫。あなたは私だけじゃなく、こんなにも仲間がいるから」


 エヴァはマツリを抱きながら、零夜たちの方を向いて笑顔を見せる。彼らもマツリと同じ気持ちで、パニグレを倒そうと決意しているのだ。その笑顔は、マツリの凍りついた心に小さな灯りをともすようだった。


「話を聞いた以上は放っておけないし、マツリちゃんは猪突猛進のところがあるでしょ? だったら私たちで力を合わせて、悪い子のパニグレを倒しましょう!」

「ベル……く、苦しい……」


 ベルはエヴァからマツリを引き取り、そのままムギュッと強く抱き締める。彼女の母性が強く感じられるが、その抱き締める力にマツリは苦しそうな表情をしていた。

 ベルは力が強いので、抱き締める力の強さには耐え切れないのも無理はない。だが、その力強い抱擁は、マツリに「一人じゃない」という確かな安心感を与えていた。


「ベルの言う通りだ。俺もパニグレのやり方は許せない。だからこそ、ここは一致団結して倒しに向かう。それが俺たちのやり方だろ?」


 零夜もベルの意見に同意しながら、一致団結して立ち向かう事を提案。これまでの戦いは皆の力で倒してきたので、パニグレとの戦いも団結して立ち向かう必要があるのだ。零夜の力強い言葉は、マツリの心に届き、彼女の瞳にわずかな光が戻り始めた。


「零夜君の言う通り。ウチらもパニグレを倒す覚悟はできているから」

「マツリの気持ちも分かるけど、皆が立ち向かわなきゃ意味がないから」

「そうそう。別にアンタの為にやっている理由じゃないし、皆で悪鬼を倒すためなんだから」


 倫子と日和はマツリに対して、優しい笑顔で声を掛ける。アイリンに至っては横を向いていて、ツンデレ全開となっているが、その言葉の端々には確かな仲間意識が込められていた。


「私も孤児院を滅ぼされた悲しみがありますが、今は皆がいるから寂しくないです!」

「そうそう! 私も同じ気持ちだし、力を合わせて戦いましょう!」

「やるからには勝ちに行く。それが私たちのやり方ですからね」

「梨里ちゃんたちを酷い目に遭わせた罪を償う為にも、皆でパニグレを倒しましょう!」


 エイリーン、トワ、カルア、メイルも笑顔を見せながら、マツリを励ましている。彼女たちもマツリを心配しているので、見捨てる理由にはいかないのだ。それぞれの言葉が、マツリの心に温かな波紋を広げ、凍りついていた感情を少しずつ溶かしていく。


「お前ら……アタイの為に……」


 ベルに抱かれているマツリは、目に涙を浮かべながら零夜たちに視線を移す。皆が自分の為に励ましてくれている事は、何度もあった記憶がある。しかし、今この瞬間の励ましは、かつてないほど心に響いた。感極まる気持ちを抑えきれず、彼女の声はかすかに震えた。

 最後にヤツフサがマツリに近づき、真剣な表情をしながら前を向く。


「マツリ。俺たちはブレイブエイトであり、チームとして行動している。だからこそ辛い時は俺たちを頼れ。お前は一人じゃないからな」

「ヤツフサ……お前まで……」


 マツリの声は震え、目には溢れんばかりの涙が溜まっていた。普段は強気で突っ走る彼女だが、今は仲間たちの温かさに心が揺さぶられ、感情が抑えきれなくなっていた。ベルに抱かれたまま、彼女は小さく嗚咽を漏らす。過去の後悔と怒りに囚われていた心が、仲間たちの言葉と温もりにほぐされ、初めて「一人ではない」と実感できた瞬間だった。


「マツリ、泣かなくていいわ。私たち、みんな家族みたいなものなんだから」


 ベルは優しくマツリの頭を撫でながら、柔らかな笑顔を見せる。その力強い抱擁も少しだけ緩められ、マツリはようやく息をつけるようになった。彼女はベルの胸元で小さく頷き、涙を拭う。ベルの母性に満ちた温かさが、マツリの心に深い安心感を与えていた。


「くそっ……アタイ、こんなんじゃバトルジャンキーらしくねぇな……」


 マツリは照れ隠しに強がってみせるが、その声はまだ少し震えていた。仲間たちの前で弱さを見せるのは、彼女にとって慣れないことだった。それでも、零夜たちの揺るぎない支えに、彼女の心は少しずつ落ち着きを取り戻していく。胸の奥に燻っていた絶望が、仲間たちの絆によって希望の炎へと変わり始めていた。


「バトルジャンキーだろうがなんだろうが、マツリはマツリだろ? 強がらなくたって、俺たちはお前を放っとく理由はないからな」


 零夜はニヤリと笑いながら、マツリの肩を軽く叩く。その軽快な言葉と笑顔が、マツリの心に最後のひと押しを与えた。彼女は深呼吸し、涙を拭った後、力強く拳を握り直した。


「へっ、なら話は早え! パニグレをぶっ倒すために、アタイの力もフルパワーでいくぜ!」


 マツリは立ち上がり、いつもの闘志を取り戻したように目を輝かせる。仲間たちの励ましが、彼女の心に再び火をつけたのだ。過去の後悔を振り払い、仲間と共に未来を切り開く決意が、彼女の胸に漲っていた。

 エヴァもその様子を見て、満足げに頷く。


「その調子よ、マツリ! 私たちブレイブエイトは、どんな敵だってまとめてやっつけるんだから!」


 エヴァの言葉に、皆が一斉に頷く。部屋に響くのは、仲間たちの団結した意志と、パニグレを倒すための決意だった。マツリの心は、完全に立ち直り、仲間たちと共に戦う覚悟で満たされていた。


「じゃあ作戦を立てるぞ。パニグレの居場所が分からないなら、まずはそいつの動きを追う必要があるからな」

「それなら私に任せてください! 情報収集は得意なので!」


 零夜の意見に対し、メイルが手を挙げながら宣言をする。彼女は何でもできる万能メイドなので、このぐらいの事は簡単に可能なのだ。


「私も手伝います! メイルさんに負担をかけさせる理由にはいかないので!」

「じゃあ、二人で頑張りましょう!」

「はい!」


 カルアもメイルの手伝いをする事を決意し、二人は握手を交わしながら協力し合う事に。カルアとメイルのメイドコンビなら、どんな困難でも余裕で乗り越える事ができるだろう。


「残りは戦力を立て直す必要があるわね。ここは武器の強化が必要ね」

「じゃあ、ありったけの素材を……」


 トワは皆の武器の強化が必要だと判断していて、エイリーンが手を挙げながら提案をする。他の皆も様々な意見を言い合いながら、パニグレを倒そうと一致団結しているのだ。


(アタイにはこんなにも仲間がいる。皆と一緒なら、限界なんてないからな!)


 マツリは笑顔で心から思いながら、皆の話し合いに積極的に参加している。過去の後悔を乗り越え、仲間たちと一致団結し、パニグレを倒す事を決意した。彼女の心は、ブレイブエイトの絆によって、かつてないほど強く、熱く燃え上がっていた。

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