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第129話 ハルヴァスでの特訓

 数日前のマツリの決意から時が経ち、零夜たちは地球からハルヴァスへと転移し、クローバールのギルドを目指していた。目的はカルア、メイル、ヒカリ、椿、りんちゃむのギルド登録を済ませること、そしてさらなる強さを求めてクエストを次々とこなすことだ。


「私たちは今回の戦いには参加しないけど、クエストで力をつける予定だから」

「いざという時に備えて、強くなっておかないとね」  


 ヒカリの言葉に椿が頷く一方、りんちゃむはスマホを手にクローバールの街並みを撮影していた。

 大晦日の爆発で荒廃したクローバールは、驚くべきことにわずか一日で完全復旧を果たしていた。技術の進歩による迅速な修復は、ただただ見事としか言いようがない。


「あっ、ギルドが見えてきました!」


 カルアが指差す先には、ギルドの看板が堂々と立っていた。爆発前と変わらぬ姿のギルドに、零夜たちは慣れた様子だったが、初めて訪れるカルアたちには新鮮な光景だ。慣れるにはまだ時間がかかりそうだ。

 その時、ギルドの扉からメリアが満面の笑みで駆け寄ってきた。零夜たちの帰還を直感で感じ、いてもたってもいられなかったのだ。


「お帰りなさい、ブレイブエイトの皆さん! ずっと待っていました!」

「ただいま、メリアさん。街がこんなに早く復興するなんて、驚きました……」  


 メリアは零夜に抱きつき、再会を心から喜んだ。彼女の目には涙が浮かび、ようやく仲間と再会できた安堵が伝わってくる。

 零夜は笑顔で応じつつ、クローバールの街並みに驚嘆の視線を向けた。一日でここまで復旧するとは、驚異的としか言いようがない。


「皆さんのおかげです! クローバールの私たちは一致団結をモットーにしていますから」

「そ、そうなんですね……」  


 メリアの満面の笑みに、零夜たちは苦笑いを浮かべるしかなかった。これだけの説明で十分、いや、これ以上は正直勘弁してほしいと内心思ったことだろう。


「では、ギルドに戻りましょう。皆が待っていますよ」

「そうね。ギルドの仲間が待ってるんだから、ここで立ち止まるわけにはいかないわ」  


 メリアの提案にトワが同意しつつ補足し、一行はギルドへと足を進めた。仲間たちが帰りを待っているとなれば、のんびりしている暇はない。


 ※


 ギルドに戻ると、そこには多くの仲間たちが笑顔で出迎えていた。零夜たちの帰還が事前に知らされていたため、冒険に出ている一部を除き、ほとんどの仲間が集まっていた。


「おお! ブレイブエイトの戦士たちが帰ってきたぞ!」

「久しぶりだな! 元気だったか?」

(カルアたちのギルド登録に来ただけなのに……)  


 仲間たちの歓迎に零夜は心から喜びつつも、内心では苦笑していた。カルアたちの登録が目的だったはずが、ここまでの大歓迎は予想外だ。


「そういえば、言い忘れていましたが……あなたたちが留守の間に新たな敵が出現したそうです!」

「なんだって!?」  


 メリアが真剣な表情で状況を説明すると、零夜たちは驚きを隠せなかった。

 彼らが地球にいる間、ハルヴァスでは新種のモンスターが続々と出現していた。しかも大型モンスターが頻発し、各ギルドは討伐に追われる忙しさだ。特にS級モンスターの数が多く、対応できる冒険者が不足している危機的状況だった。このままでは、ハルヴァス全体が危険に晒されるだろう。


「モンスターの数は多く、どのギルドも厳しい状況です。ぜひあなたたちにも協力してほしいのですが……」

「それなら早く言ってよ。いつでも戦える準備はできてるから」

「ただ、プロレスの試合やアイドルの仕事があるときは別だけどね……」


 メリアの言葉に倫子たちは即座に協力の意思を示した。ただし、日和にはプロレスの試合やアイドルの仕事があり、零夜たちも同様にプロレスに参加する可能性がある。ヒカリ、椿、りんちゃむも芸能活動を優先する必要があり、参加には制約があった。


「そうですね……では、新たにギルド登録する方はこちらへどうぞ」


 メリアはメイル、カルア、ヒカリ、椿、りんちゃむを受付に案内し、登録手続きの説明を始めた。カルアたちは真剣に耳を傾け、すぐに用紙に必要事項を記入して提出した。


「では、早速登録を進めます!」


 メリアはパソコンを操作し、カルアたちの登録手続きを進めた。わずか1分で登録が完了し、カルアたちの手首には次々とバングルが装着された。なお、椿はすでにバングルを持っているため、装着の必要はなかった。


「ギルド登録完了です! 本来なら、カルアさん、ヒカリさん、椿さん、りんちゃむさんは幕張の戦いでの貢献によりEクラスからスタート、メイルさんはFクラスとなります。ただし、今から実力検査のクエストを行い、その結果でランクを決定します!」

「えっ? 実力でランクを決めるんですか?」  


 メリアの説明に、メイルたちは予想外の展開に驚いた。通常は最低ランクから始まるのに、いきなり実力でランクを決めるなんて想定外だ。


「最近、最強の戦士や隠された力を持つ者がギルドに入るケースが増えています。そのため、ギルド協会は実力測定クエストを導入したのです」

「なるほど。それなら受けてみます!」


 メリアの説明にメイルたちは納得し、頷いた。実力でランクが決まるなら、零夜たちと同じSランクも夢ではない。こうなれば受けるしかない。


「実力測定クエストはクエストボードに掲示されています。好きなクエストを選んで手続きしてください。どのクエストでも構いませんよ!」

「了解! 早速確認します!」


 零夜たちはクエストボードに向かい、掲示されている依頼をチェックした。そこにはモンスター討伐のクエストがずらりと並び、どれも強敵ばかり。簡単には倒せない相手ばかりだ。

 ドラゴンのサラマンドラ、ベヒーモス、リヴァイアサン、トロール、ヘカトンケイル、ティアマト、牛鬼など、S級レベルのモンスターが名を連ねる。これらを倒すには一筋縄ではいかず、集中しなければ危険な戦いになる。


「どれにしようか迷うな……ん?」  


 エヴァがクエストを吟味していると、ある依頼に目が留まった。それはベヒーモス討伐のクエストだが、道中にカーバンクルが出現するとの情報が含まれていた。カーバンクルは滅多に見つからないレアなモンスターとして知られている。


「カーバンクル! 可愛いし、仲間にできれば心強いわ」

「それならこのクエストに決まりね! ベヒーモス討伐も兼ねて、まさに一石二鳥よ」

「よし、早速行くわよ!」


 トワがクエスト用紙を取ろうとした瞬間、先客の手がそれを奪い取った。そこには三人の男と一人の女が立っており、あくどい笑みを浮かべながら用紙を握りしめていた。

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