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第130話 バッテリ鉱山のクエスト

 零夜たちの手からクエスト用紙を強引に奪い取った四人組は、薄汚い笑みを浮かべていた。三人の男はそれぞれ剣士の軽鎧、バイキング風の重装、格闘家の道着に身を包み、女は紫のマジカルローブをまとっている。


「悪いな。このクエストは俺たちがいただくぜ」

「何者だ? いきなり横取りとは、いい度胸じゃないか」


 零夜たちは鋭い視線を四人に向け、真剣な表情で睨み合った。せっかく手に入れようとしたクエストを奪われる屈辱に、怒りがこみ上げるのも無理はない。


「俺たちはこのギルドに所属する『バトロイド』だ。俺は剣士のラッセル、こいつは戦士のバクトラ、ビショップのケイト、格闘家のレント。揃いも揃ってS級の精鋭だぜ」

「バトロイドか……俺たちは『ブレイブエイト』。八つの珠を持つ戦士とサポートメンバーで構成された、こちらもS級のチームだ」

「八つの珠……ブレイブエイトだと⁉」


 零夜の言葉に、戦士のバクトラは冷や汗を流しながら動揺した。この世界を救う救世主と名高いブレイブエイトと遭遇するなど、予想だにしなかったのだ。

 ラッセルがクエスト用紙を奪った行為が、取り返しのつかない事態を招くかもしれない。バクトラはそう直感すると、咄嗟にラッセルからクエスト用紙を奪い返した。


「おい、バクトラ!」

「ラッセル、さすがにこれはやりすぎだ! クエストは他にも山ほどある。わざわざ人から奪う必要はないだろ!」

「ちっ、しゃあねえな……」


 バクトラの叱責に、ラッセルは舌打ちしながら渋々クエストボードへと向かった。ケイトとレントもその後に続き、バクトラは零夜たちにクエスト用紙を手渡した。


「ありがとう。だが、なぜラッセルはこんな真似を?」

「アイツは金のためなら手段を選ばない性格だ。今回のクエストにカーバンクルが絡んでると聞いて、絶対に捕まえてやろうと企んでるんだろう」

「なるほど……だから返してくれたのか……」


 バクトラは真剣な顔でラッセルの本性を明かした。零夜たちはその説明に納得し、バクトラの親切な行動に安堵の表情を浮かべた。もしバクトラのような良識ある者がいなければ、クエスト用紙を巡る騒動がさらに大きくなっていたかもしれない。


「その通りだ。だが、お前たちはラッセルのようになるな。自分たちの使命を全うしてくれ。それが俺の願いだ」


 バクトラは零夜たちに心からの忠告を残すと、ラッセルたちの元へ戻っていった。その後ろ姿を見送りながら、零夜たちは彼の苦労を痛感した。


「彼、かなり苦労してるみたいね。私たちも気をつけないと」

「その通りだ。ラッセルのような輩は、遅かれ早かれ自滅する。お前たちもあんな風にはなるなよ」


 ヤツフサが真剣な口調で忠告すると、零夜たちは神妙に頷いた。どのギルドにもラッセルのような問題児はいるが、彼らは問題を起こさないよう巧妙に立ち回る。ある意味、ずる賢いと言えるだろう。


「とにかく、クエストを受けましょう。モンスターを倒して数を減らさないと」

「そうね、急がないと!」


 アイリンの合図で、一行は受付へ向かい、クエスト用紙をメリアに手渡した。メリアは用紙を受け取ると、瞬く間に申請手続きを終えた。わずか数秒で、クエストが正式に受理されたのだ。


「はい、クエスト受理完了です! ベヒーモスはバッテリ鉱山に潜んでいますよ」

「了解。じゃあ、行ってきます!」


 メリアの助言を受け、零夜たちはベヒーモスが潜むバッテリ鉱山へと足を踏み出した。久々のクエストが、今、幕を開けた。


 ※


 バッテリ鉱山に到着した零夜たちは、ベヒーモスの潜む場所を探し始めた。敵の拠点は鉱山の中腹付近だが、カーバンクルなどのモンスターが徘徊しているため、油断は禁物だ。


「中腹までは数キロか。トワ、この道で合ってるか?」

「うん、モンスターが潜む場所ならこの道で間違いないよ。ただ、カーバンクルも出るから、気をつけてね」


 マツリの問いに、トワはウインクしながら答えた。トワの千里眼は、モンスターの位置や出現ポイントを瞬時に見抜く能力を持つ。彼女がいれば、どんな隠れた敵も見逃すことはない。


「トワって本当に頼りになるわ。モンスターの位置をピンポイントで把握できるなんて、すごい才能!」

「大したことないよ。それより、茂みからモンスターが出てくるわ」


 ヒカリの称賛にトワは苦笑したが、すぐに鋭い視線を茂みに向けた。すると、ガサガサと音を立てて茂みが動き、零夜たちは一斉に臨戦態勢を取った。直後、額に宝石を宿した小さな動物が、次々と姿を現した。


「これって、まさか……」

「「「カーバンクル⁉」」」


 茂みから現れたのは、意外にもカーバンクルだった。リスに似た姿にエメラルドの体毛を持ち、ふわふわと宙に浮かぶその姿に、倫子たちは驚きを隠せなかった。


「君たちはブレイブエイトだよね? 実はお願いがあるんだ!」

「お願い? ベヒーモスのことか?」


 エメラルドのカーバンクル、グリスが代表して零夜たちに話しかけてきた。エイリーンは首を傾げながら問い返す。


「そうなんだ! ベヒーモスが現れてから、この辺りは大変なことになってる。このままじゃ取り返しのつかない事態になるんだ! 助けて欲しい!」


 グリスは真剣な表情で現状を訴え、助けを求めた。カーバンクルに懇願されれば、見ず知らずの相手でも放ってはおけない。


「ベヒーモスのことは任せてくれ。必ず何とかする」

「だから安心しててね」

「うん! 僕たちもついていくから」


 零夜と日和が優しい笑顔で応じ、グリスの頼みを引き受けた。グリスが一礼した後、一行は彼らを仲間に加え、再び中腹を目指して歩を進めた。


 ※


 中腹まであと二キロという地点で、エヴァが突然足を止め、警戒態勢に入った。その鋭い視線から、敵が現れた気配が伝わってくる。


「来るわ! 前方に多くの敵が!」


 エヴァの警告が響いた直後、茂みから無数のモンスターが姿を現した。ドラゴン、グリフォン、ペンギンナイト、ユニコーン、バイコーン、インプ――その種類の多さに圧倒される。


「なるほどね……それなら、マジカルハート!」


 倫子は軽やかな笑顔を浮かべ、両手でハートの形を作った。次の瞬間、彼女の両手から眩いハートの光線が放たれ、モンスターたちに次々と命中。

 すると、モンスターたちは瞬く間にスピリットへと変化し、倫子のバングルの中に吸い込まれていく。その光景は、鮮やかであまりにも見事としか言いようがない。


「す、凄いですね……」

「まあ……」


 カルアは呆然と立ち尽くし、メイルは口元を押さえながら驚嘆の表情を浮かべていた。あれほどのモンスターの群れを一瞬で仲間に引き入れる技は、前代未聞だ。しかも、それは倫子だけが使える特別な力。誰もが彼女の能力に羨望の眼差しを向けるだろう。


「大したことじゃないけどね。さて、今いるモンスターは……」


 倫子は少し照れくさそうに苦笑しながら、バングルを操作してウィンドウを呼び出した。そこには、仲間にしたモンスターのリストが表示されている。その内容は以下の通りだ。


スライム×50

ゴブリン×50

ツノラビ×50

ファルコス×50

リザードマン×2(ルーカス、ジャイロ)

ウルフ×30

ワイバーン×10

ゴーレム

リトルペガサス

ミノタウロス(ジョージ)

シルバーファルコン

リザードライダー(エルバス)

インプ×50

フェアリー

オオツノラビ×20

ラビットナイト×3(マイク、ノース、クラッチ)

サイボーグウルフ×10

ペンギンナイト×30

バット×10

ドラゴン×10

ユニコーン

バイコーン

グリフォン  


 驚くべきことに、ユニコーンやバイコーンといった強力なモンスターまで仲間に加わっている。特定の道具を使えば、これらのモンスターが進化し、さらなる力を発揮することも可能だろう。


「まさかユニコーンやバイコーンまで手に入れるなんてね……とりあえず、先に進もうか」

「そ、そうね……(もしかして……まさかね……)」


 倫子の軽い苦笑いに、りんちゃむたちも頷きながら目的地へと歩みを進めた。しかし、心の奥では、倫子がモンスターたちの女王として君臨する未来を想像し、密かに不安を抱いていたのは、誰にも言えない秘密だった。

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