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第131話 ジャスミンとの出会い

 中腹まで残りあと1キロ。零夜たちは辺りをキョロキョロと見回しながら進んでいた。この辺りにはモンスターがいないので、楽に進められる。しかし実力を試すテストとしては、当然意味がないが。


「モンスターがいないと、流石に試験にならないよね……」

「ええ……全部倫子さんが持っていかれましたので」


 椿の意見にカルアも同意し、彼女たちを含む四人が倫子をジト目で見る。倫子は横を向きながら口笛を吹いていて、何も関係ないと他人のふりをしていた。


「落ち着いてください。中腹にいるモンスターはベヒーモスだけでなく、ゴブリンやインプなどもいますからね。取り敢えず先に進みましょう」


 メイルは苦笑いしながら、目的地の中腹にいるモンスターについて説明。その事にカルアたちも納得しながら、コクリと頷いた。

 すると零夜たちの目の前に、一人の女性が姿を現す。年齢は32歳で、緑色のポニーテール。頭には鬼の角が生えていた。服装は白Tシャツと細身のジーンズ。まさにシンプルな格好だ。


「あれってオーガ族だな……けど、こんな服装をしているのは初めてだけど……」


 零夜が女性を見ながらそう感じた直後、彼女は歩きながら彼らに近づく。そのまま零夜の手を取りながら、ニッコリと笑顔を見せた。その様子だと敵ではない事は確かだ。


「初めまして。貴方方の噂は聞いているわ。私はジャスミン。アルラウネとオーガのハーフよ」

「アルラウネとオーガのハーフ……この様な種族は初めて聞いたな」


 ジャスミンの自己紹介を聞いた零夜は、興味深そうな表情で彼女に視線を移す。

 エルフと人間のハーフであるハーフエルフについては知っているが、アルラウネとオーガのハーフは初耳である。どの様な経緯で子供が生まれるのか気になるが、それに関しては今のところ不明である。


「ハルヴァスではハーフアルラウネが他にもいるからね。更にハーフの種族も沢山いるし」

「なるほど。この世界には様々な種族がいるみたいだし、興味深くなるかもね」


 トワの補足となる説明を聞いた倫子たちは、納得の表情をしながら頷く。同時にハルヴァスではハーフの種族が沢山いるという事実を初めて知り、彼女たちはますます興味を持ち始める様になったのだ。

 ハルヴァスには様々な種族が沢山いるとなると、見た事のない種族を発見する事もあり得る。その時はその人達の特性を知るだけでなく、文化も学び通す必要があるだろう。


「それでジャスミンはどうしてこの場所に?」


 エヴァの質問を聞いたジャスミンは、突如俯きながら寂しそうな表情をしてしまう。その様子だと何か理由があるだろう。


「実は……私の故郷が悪鬼の軍勢によってやられてしまい、私は弟と共に逃げていたの。けど、突然現れた子供によって弟は連れ去られてしまい……運よく逃げ切れたのは私だけなの……」


 ジャスミンは目に涙を浮かべながら、当時の事を話した。彼女も零夜たちと同じく悪鬼の被害者であり、この件については共感するのも当然である。

 すると子供と聞いたメイルは、ある事に気付いて手を叩いた。


「子供について分かりましたが、恐らくパニグレの仕業です」

「えっ? あの子供はパニグレというの?」


 メイルの説明を聞いたジャスミンは、キョトンとした表情で首を傾げる。この様な言葉を聞くのは初耳であり、疑問に感じるのも無理はない。


「ああ。俺たちも奴にやられたから、その気持ちはよく分かる。だったら俺たちと共に行動しないか?」

「えっ? 私で良いの?」


 零夜の提案を聞いたジャスミンは、仲間にする事に驚きを隠せなかった。まさか仲間として誘ってくれるとは想定外で、内心心からドキドキしていた。


「困っている人は放っておけないし、同志がいる以上は共に戦えば強くなる。弟を救う為にも、パニグレを倒そう!」

「ええ! 私はモンスター娘だから、あなたの力になるわ。早速契約しましょう!」


 ジャスミンは共に戦う事を決意しながら、Tシャツをたくし上げてお腹を見せる。そのまま零夜をムギュッと抱き締め、彼に抱きついたまま契約をしたのだ。

 普通なら握手か背後からの拘束で契約できるが、抱き締めながらの契約は初めてとしか思えない。ジャスミンの大胆な行動には驚くのも当然である。


「はい。契約完了!」

「お、おう……」


 ジャスミンの笑顔に零夜が苦笑いした途端、彼の背後からエヴァがガブリと噛み付いてきた。当然零夜の頭に噛み付いているので、滅茶苦茶痛いのは当然である。


「ぎゃあああああああ!! 頼むから勘弁してくださいー!!」

「嫌だー! 人の許可なく勝手に契約するなー!」

「そんな無茶苦茶なー!」


 零夜の悲鳴が辺り一面に響き渡り、彼はダッシュしながらエヴァを振り下ろそうとしていた。

 この光景にジャスミンはキョトンとしてしまい、日和たちは苦笑い。倫子、ヒカリに関しては、嫉妬のあまり頬を膨らましながら、プイッと横を向いてしまった。


「いつもこうなの?」

「まあな……そんな事したらベヒーモスが来そうだぜ……」


 ジャスミンの質問に対し、マツリが呆れながらそう答える。この様な事はお約束なので、いつもため息をつくのも無理はないのだ。

 するとメイルがエヴァに近づき、彼女の頭をよしよしと撫でる。するとエヴァは落ち着きを取り戻したと同時に、零夜の噛みつきを止めて地面に着地した。


「お気持ちは分かります。けど、今はそれどころではありません。ベヒーモスを倒す事が残っていますので」

「うん……そうだったね……つい、悪い癖が出ちゃった……」


 メイルの優しい指摘に対し、エヴァはしょんぼりと俯いてしまう。自らの悪い癖が出てしまい、またやってしまったと感じるのも無理はない。


「まあまあ。取り敢えずは先に進みましょう。早くベヒーモスを倒さないと!」


 ベルは苦笑いしながらその場を収め、彼女の合図と同時に先に進み始める。ここで寄り道している暇はない。急いで終わらせようと、誰もが心から決意しているのだ。


 ※


 目的地である山の中腹に辿り着くと、突如として地響きが轟き、岩々が砕ける音が響き渡った。そこにはベヒーモスが姿を現し、圧倒的な存在感で一行を見下ろしていた。その巨体は山そのもののようにそびえ、赤黒い毛皮に覆われた身体は鋼のように硬く、鋭い牙と爪が陽光を反射して不気味に輝いている。咆哮一つで空気が震え、地面が揺れるほどの威圧感。簡単には倒せない、まさに最強の試練と言える存在だった。


「こいつがベヒーモスか……なら、やるべき事は分かっているわね?」

「当然! すぐに行動を開始して、ベヒーモスを捕まえるんだから! 皆、お願い!」


 アイリンが鋭い眼光で倫子に視線を移す。倫子は不敵な笑みを浮かべ、ウインクすると同時にバングルを掲げた。

 瞬間、彼女のバングルから眩い光が迸り、ワイバーン、アイアンゴーレム、グリフォンといった大型モンスターたちが次々と召喚された。轟音と共に地面に降り立つモンスターたちは、ベヒーモスの周囲を瞬時に取り囲み、戦場を一瞬で支配する。

 ベヒーモスは突然の包囲に動揺し、巨体を揺らして咆哮を上げた。ここからクエストのメインが始まりを告げられると同時に、カルアたちの実力を試すテストも始まりを告げられたのだった。

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