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第132話 ベヒーモス捕獲作戦

 ベヒーモスとの戦いが火蓋を切り、戦場は瞬く間に地獄絵図と化した。

 地面が爆発するように割れ、砕けた岩石が嵐のように飛び散る。ワイバーンの翼が空気を切り裂き、鋭い風圧が戦場を駆け抜ける。アイアンゴーレムの鉄拳が雷鳴のように空気を震わせ、大地に轟音を響かせる。グリフォンは鋭い爪で地面を深く抉り、ベヒーモスを挑発する咆哮を上げた。だが、ベヒーモスは決して怯まない。巨尾を一振りすれば岩が粉々に砕け、爪の一撃は大地に巨大な亀裂を刻み込む。戦場は混沌の渦に呑み込まれ、土煙と衝撃波が視界を覆った。


「私たちもサポートします! 皆さん、すぐに縄を投げてください!」

「分かった! 全員で行くぞ!」

「「「そーれ!」」」


 エイリーンの叫びが戦場の喧騒を切り裂く。彼女は太い魔力の縄を零夜たちに素早く手渡した。一行は息を合わせ、まるで一つの生き物のように一斉に縄を投げ放つ。魔力の縄は意志を持った蛇のようにベヒーモスの巨体に絡みつき、四肢と胴体を鉄の鎖のごとくガッチリと締め上げる。零夜は全身の筋肉を総動員して縄を引き、エヴァとジャスミンは怪力を炸裂させ、縄を岩盤に打ち込むように固定。カルアたちは敏捷な動きで縄を巧みに操り、ベヒーモスの動きを完璧に封じた。

 だが、ベヒーモスはそんな簡単な相手ではない。咆哮が戦場を震わせ、全身の筋肉が膨張する。縄がギシギシと悲鳴を上げ、一部が千切れんばかりに軋む。零夜たちの足元が揺らぎ、土煙が舞い上がる。


「くそっ、こいつの力、半端じゃないぞ!」

「甘く見ると痛い目に遭うのは本当ね……」

「流石はS級モンスターというべきね……!」  


 零夜、椿、りんちゃむが歯を食いしばり叫ぶ中、ベヒーモスは巨尾を振り回し、アイアンゴーレムを直撃。ゴーレムはまるで砲弾のように吹き飛ばされ、岩壁に激突。衝撃で地面に巨大なクレーターを穿ちながら倒れ込む。


「アイアンゴーレム、しっかり!」

「僕は大丈夫。それよりも早く!」

「任せて! マジカルハート!」


 アイアンゴーレムの鋭い合図に、倫子が即座に応じる。彼女は両手を高く掲げ、指先で巨大なハートの形を刻む。バングルが太陽のように眩く輝き、膨大な魔力が渦を巻いて収束していく。


「ハァッ!」


 倫子の叫び声が戦場を貫き、巨大なハートの光線が解き放たれた。虹色に輝く光線はまるで天の裁きのようにベヒーモスに直撃し、その巨体を飲み込む。爆発音が戦場を震撼させ、衝撃波が木々をなぎ倒し、岩を粉々に砕く。

 ベヒーモスは光線を浴びながら咆哮を上げ、なおも抵抗する。巨体が大きく揺れ、縄が次々と千切れていく。土煙と光が交錯し、戦場は一瞬にして混沌の極みに達した。


「まだ効いてない!?」

「大型モンスターにやるのは初めてみたいですから、成功しないんじゃないのでしょうか……」


 予想外の展開にエヴァが叫び、メイルが唇を噛みながら真剣な表情を浮かべる。だが、倫子の眼差しは微塵も揺らがない。最後まで諦めない覚悟が、彼女の瞳に宿っている。


「絶対に捕まえる! 諦めてたまるか!」


 倫子の声が戦場に轟き、バングルが再び眩い光を放つ。マジカルハートの光線がさらに強まり、ベヒーモスの巨体を完全に飲み込んだ。光の奔流が戦場を焼き尽くす勢いで吹き荒れ、ベヒーモスの咆哮が次第に弱まる。ついにその巨体が光の粒子となって崩れ始め、星屑のように舞い上がり、倫子のバングルへと吸い込まれていく。

 戦場に静寂が訪れた。零夜たちは息を切らしながら、互いに顔を見合わせる。


「やったのかしら……?」


 トワが息を整えながら、倫子の方に視線を移す。彼女は汗を拭いながら、バングルを掲げて微笑んでいた。そう。ベヒーモスは倫子の所有モンスターとなり、クエストは見事に成功したのだ。


「ベヒーモスを仲間にしたわ! これでもう大丈夫よ!」

「良かった……! これで任務完了よ!」

「「「やったー!」」」


 倫子は笑顔を見せながら、ベヒーモスを仲間にした事を告げる。同時にトワたちも笑顔となり、皆で抱き合いながらクエスト成功を喜び合った。

 あの大型モンスターを仲間にした事は奇跡としか言えず、新たな伝説が生まれるのも時間の問題だ。


「ベヒーモスを仲間にするなんて、やるじゃないか! 僕達も君達と共に戦うよ!」


 カーバンクルたちも今の戦いを見て感動し、零夜達の仲間になる事を決意。トワは笑顔で承諾し、力強く頷いた。こんな申し出を断る理由はなく、むしろ仲間が増えれば戦力は飛躍的に向上するだろう。


「勿論! これから宜しくね!」

「「「おう!」」」


 トワの笑顔にカーバンクルたちも笑顔で応え、仲間入りが正式に決まった。カーバンクルたちを仲間にした事は大きな功績であり、他の皆が聞いたら驚愕すること間違いなしだ。


(凄い……これがブレイブエイト……! お見事としか言えない……! 私もあんな風になりたいな……)


 この様子を見たジャスミンは目を輝かせ、零夜達の雄姿に尊敬の念を抱く。今の光景に心を震わせ、彼らに近づけるよう努力することを決意した。居場所はワンダーエデンになるが、その点は問題ないだろう。


「カルアたちのサポートも見事だけど、自分たちの実力は発揮できてないでしょ? 帰り道にモンスターを狩りに向かう?」


 アイリンがカルアたちに視線を移し、帰り道でのモンスター狩りを提案する。彼女たちは武器を構えて戦っていないため、テストとしては物足りないのは確かだ。


「そうですね。それなら敵が出て来たら良いですが……」


 カルアが言いかけたその瞬間、野生のオーガたちが一斉に姿を現した。しかもSランク。凶暴な咆哮と共に、圧倒的な威圧感で迫ってくる。


「ここから先は私たちで向かいます! 準備は良いですか?」

「「「了解!」」」


 メイルの合図と共に、カルア、ヒカリ、椿、りんちゃむが一斉に頷き、武器を構えて戦闘態勢へ。Sランクのオーガは滅茶苦茶強いかもしれないが、諦めない覚悟があれば恐れるものはない。

 オーガたちが武器を振り上げ、メイルたちに襲い掛かる。


「そうはさせません! これ以上の好き勝手は無用ですので!」

「ええ。私たちの力で終わらせましょう!」


 メイルとカルアはデッキブラシを疾風のように振り回し、オーガたちを次々と蹴散らす。メイドロボ最強クラスの彼女たちに、オーガはまるで紙のように軽々と吹き飛ばされる。


「私も負けてられないわ! ガトリングナックル!」


 ヒカリは拳に炎を宿したような連打パンチを繰り出し、オーガたちを次々と粉砕。さらには旋風のような蹴り技を披露し、一瞬で六体のオーガを撃破した。


「私たちも負けられない!」

「本格的に倒すっしょ!」


 椿は剣と盾を構え、疾風のごとくオーガを斬り裂く。りんちゃむは如意棒を自在に操り、目の前の敵を次々と薙ぎ倒す。戦場は彼女たちの圧倒的な戦闘力で一気に制圧されていく。

 オーガの数はみるみる減り、残るは最後の一体。メイルが鋭い眼光で手刀の構えに入り、標的を定める。


「そこ!」


 メイルの手刀が閃光のようにオーガの首を切り裂く。オーガは前のめりに倒れ、光の粒となって消滅。戦場には大量の金貨とオーガの角が残された。


「はい! これで問題なく終わりました!」


 メイルは笑顔でオーガの群れを全滅させたことを報告。Sランクのモンスターを無傷で倒したとなれば、Sランク昇格は確実だろう。


「まさか無傷で倒すとは……どれだけ強いのか気になるが……」

「まあまあ。取り敢えず無事にテストも終わったし、メリアに報告しましょう」


 零夜はメイルたちの圧倒的な強さに唖然とし、エヴァは苦笑しながら彼を落ち着かせる。あとは帰還してメリアに報告すれば、クエストは成功で終わる。

 だが、この時の彼らはまだ知らなかった。クエストの裏で、新たな事件が静かに動き始めていたことを……。

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