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第139話 ダークデーモンの正体

 零夜たちは世界樹のダンジョンを進みながら、ダークデーモンのいる場所に向かっていた。道中モンスターたちも襲い掛かるが、彼らは問題なく倒しながら進んでいるのだ。

 ちなみに倫子はここでもモンスターを仲間にしていた。角付きの虎である「ホーンタイガー」を十匹、ティラノサウルスをモチーフにした「ギガレックス」、機械の亀のモンスターである「メカニカルタートル」を十匹、トリケラトプスをモチーフにした「ホーンドラゴン」を仲間に加えたのだ。なんでここにティラノサウルスやトリケラトプスのモンスターがいるのかは、聞かない方が身のためである。


 ※


 零夜たちはダンジョンの奥にある大きな部屋にたどり着き、辺りを見回しながら確認していた。そこは何もない巨大な空間であり、樹木の壁がまるで生きているかのように脈打ちながら聳え立っていた。


「この場所にダークデーモンがいるのかしら?」

「場所によればこの辺りだけど……」


 ベルの質問に対し、トワが鋭い目で辺りを見回しながら確認する。間違いなくこの場所にダークデーモンがいるはずだが、その気配はまるで闇に溶け込んだかのように感じられない。

 皆が疑問に感じる中、突然前方に眩い光と共に巨大な魔法陣が浮かび上がる。地面が震え、空気が重く唸る中、そこからダークデーモンが姿を現した。その姿は背中に漆黒の悪魔の羽が生え、燃えるような真っ赤な肌を持つ人間サイズの悪魔そのもの。眼光は鋭く、まるで獲物を捕らえる猛獣のような威圧感を放っていた。


「人間サイズの大きさか……だが、奴はどの様な手段を使うかだな……」


 ヤツフサが真剣な表情でダークデーモンを睨みつけ、拳を握り締める。奴が武器を使うのか、素手や能力を駆使して戦うのか、その戦術は未知数だ。零夜たちも一斉に身構え、武器を召喚する準備を整える。

 するとダークデーモンが不気味な笑みを浮かべ、指を鳴らすと同時に青黒い瘴気が渦を巻き、十匹の青黒いデーモンが召喚される。彼らは蛍光灯、パイプ椅子、剣道スティック、さらには鎖やバットといった凶器を手に、殺気を漲らせて零夜たちに襲い掛かろうとしていた。


「デスマッチスタイルか! なら、プロレスで立ち向かわないとな!」


 零夜が腕を鳴らし、闘志を燃やしながら高らかに宣言した瞬間、部屋の空間が歪み、轟音と共に二つのプロレスリングが姿を現した。

 左右に隙間なく繋がった二つのリングは、巨大なスティールケージに囲まれ、まるで牢獄のような閉鎖空間を形成している。リング内には蛍光灯の束、有刺鉄線ボード、ごみ箱、金属バット、さらには鎖やハンマーまでが無造作に散らばり、戦場としての狂気が漂っていた。


「このリング……見たこと無い……」

「なんか嫌な予感がする……」


 倫子と日和は異様なリングを前に冷や汗を流し、身体を震わせる。自分たちもこの狂気の戦いに巻き込まれるのではないかと恐怖が込み上げる。今までにない痛みと血みどろの戦いを予感し、足がすくむのを感じていた。

 その瞬間、空間が一瞬揺らぎ、零夜たちとダークデーモン軍団がリング内に転移。ケージの扉がガシャンと閉まり、逃げ場のない戦場が完成する。この場所での戦いが強制され、退路は完全に断たれた。


「どうやらアメリカのWBRワールドバトルリングで行われている「バトルウォーズ」そのものだな。一度やってみたかったし、やるからには全員で立ち向かわないとな!」

「「「ええっ!? こんな危険な場所でやるの(ですか)!?」」」


 零夜は戦いのルールを瞬時に察し、拳を打ち鳴らしながら闘志を燃やす。対して倫子、日和、アイリン、エイリーン、ベル、カルアは目を丸くし、恐怖と驚愕で声を揃える。こんな過激なデスマッチに参加するなんて、想像すらしていなかったのだ。

 するとリング内にレフェリーのツバサが現れ、リング外には実況のメリアが姿を見せる。観客はいないが、空間に浮かぶ魔力のスクリーンで戦いが全世界に配信されている。


「さあ、今回の戦いはバトルウォーズ! 果たして零夜たちはダークデーモン軍団を相手に、危険な場所でどう立ち向かうのか? 今、ゴングスタートです!」

「ちょっと! ウチらは……」


 メリアの熱い実況に対し、倫子が慌てて阻止しようと叫ぶが、ゴングが鳴り響き、戦いの火蓋が切られる。誰もが凶器を手に戦闘態勢に入り、リング内は一瞬で殺気と狂気に包まれる。


「ああ、もう! なんでこうなるんや!」


 倫子は覚悟を決め、叫びながら一気に加速。素早く動いた彼女は、青黒いデーモンの一体に跳び上がり、空中で身体を捻りながら強烈な二段蹴りを叩き込む。 デーモンの胸に炸裂した一撃は鈍い音を響かせ、奴の身体をぐらりと崩す。しかし、デーモンは即座に反撃し、蛍光灯を握り締めると倫子の頭部めがけて全力で振り下ろす。


「倫子に対して蛍光灯の一撃! 喰らったら流血確定だ!」


 メリアの実況が響く中、蛍光灯が倫子の頭上で炸裂し、ガラスの破片がキラキラとリング内に飛び散る。倫子の額から鮮血が流れ落ち、リングのマットに赤い染みが広がる。


「う……」


 倫子はあまりの激痛に顔を歪め、目に涙を浮かべる。その姿を見たヤツフサは目を大きく見開き、冷や汗を流しながら叫ぶ。


「まずい! 倫子は虫だけでなく、風船の大きな音や、針のような物も苦手だ。ホチキスの針が刺さった時、痛みで泣き叫んでいたぐらいだ……」


 ヤツフサの解説を聞いたメリアは驚愕し、両手で口を抑える。倫子の意外な弱点を知り、戦況の危うさに息を呑む。


「じ、じゃあ、今の倫子さんは……」

「あまりにも強烈な痛みを経験したからな……こうなると彼女は大声で……」


 ヤツフサが言い終わる前に、倫子は我慢の限界を超え、涙を流しながら身体を震わせる。そして、リング全体を震わすような大絶叫を放った。


「うわあああああああああ!!」

「ぎゃああああああ!! 凄い音ですゥゥゥゥゥ!!」

「このゲームに倫子を参戦させるのはマズかったか!」


 倫子の泣き声はまるで音の爆弾のように炸裂し、リングを包むスティールケージが共鳴してガタガタと震える。その衝撃波は敵味方問わず全てを巻き込み、デーモンたちは耳を押さえながら苦しみ、リング上に倒れ込む。倫子の叫びはまるで超音波兵器の如く、空間全体に大ダメージを与える。


「凄い泣き声です!」

「倫子さん! 落ち着いてください!」

「大丈夫ですから!」


 カルアは耳を押さえながら苦悶の表情を浮かべ、日和とメイルは慌てて倫子の元に駆け寄り、必死に彼女を慰めようとする。このままでは味方まで巻き添えになりかねないと、皆が焦りを感じていた。

 するとデーモンたちは倫子の泣き声に耐えきれず、次々と身体が崩れ、黒い霧となって消滅。リング内には金貨、デーモンの角、羽根が散乱し、戦場は一瞬で静寂に包まれる。さらにダークデーモンもその威力に耐えきれず、前のめりに倒れ、身体から紫の煙が噴き出し、ゆっくりと彼を包み始めた。


「ダークデーモンが倒れたけど、倫子がまだ泣き止まないわ!」

「よし! ここは俺が!」


 倫子はなおも痛みで泣き続け、リングは彼女の嗚咽で震え続ける。それを見た零夜は即座に動来出した。リングを駆け抜け、倫子の元に飛び込むと、彼女をムギュッと力強く抱き締める。同時に、彼女の頭に刺さった蛍光灯の破片を素早く取り除き、血を拭う。


「大丈夫。俺がついていますから。泣かないでください」

「ふえ……零夜ぐん……」


 倫子は零夜の温もりに触れて大きな泣き声を止め、ヒックヒックと静かに涙を流す。愛する者の優しさが、彼女の心と身体の痛みを少しずつ癒していく。

 トワが素早く倫子の傷を魔法で治療し終えると、ツバサが大きく腕を振ってゴングを鳴らす。敵側が全滅し、戦いは電撃的な決着を迎えた。


「ここでゴング! 藍原倫子のクライボイスで、見事敵側全滅! この勝負はブレイブエイトの勝利です!」

「私たち何もしてないですけどね……」


 メリアの実況がリングに響き渡る中、エイリーンたちは苦笑いを浮かべながら顔を見合わせる。今回の戦いは倫子の圧倒的な泣き声が全てを決めてしまい、他のメンバーはほとんど活躍の機会がなかった。

 すると、紫の煙が晴れた瞬間、倒れている子どもの姿が目に映る。マツリはその姿に驚愕し、即座に駆け寄る。


「お前は……ヨモギ! ヨモギじゃないか!」


 マツリは倒れている女の子のヨモギを抱き起こし、必死に声を掛ける。ヨモギは微かに反応し、ゆっくりと目を開け、マツリに視線を向ける。


「知り合いという事は……まさか、マツリの孤児院の……!?」


 エヴァが推測しながら驚愕の声を上げると、マツリは静かに頷く。

 ダークモンスターの正体が、マツリの孤児院の子供たちだったことが判明。零夜たち全員がその事実に言葉を失い、衝撃に立ち尽くすのだった……。

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