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第143話 パニグレからの宣戦布告

 Bブロック基地が空中に浮かぶ光景に、零夜たちは息を呑んで見つめていた。地下から地上へ一瞬にして移動するその姿は、まるで現実離れした幻影のよう。誰もがその圧倒的な存在感に言葉を失うのも無理はなかった。


「パニグレはこの基地にいる。だが、奴は間違いなく何かを企んでいる」

「問題は、どうやってあの基地まで行くかだな……」


 ヤツフサの言葉が、重い空気をさらに引き締める。それに対して零夜は真剣な表情で腕を組み、思考を巡らせ始めた。

 空中に浮かぶ基地へ到達するには、倫子の召喚するモンスター――ドラゴン、シルバーファルコン、ペガサス、ウィングユニコーン、ウィングバイコーン――を使えば可能性はある。しかし、基地からの銃撃や迎撃のリスクを考えると、そう簡単にはいかない。まさに油断は禁物だ。


「こうなったら、ウチがモンスターを召喚して、それに乗って行くしかないかもね……」

「そうするしか方法はないですね……」


 倫子がそう呟き、真剣な眼差しで仲間たちを見渡す。日和も静かに頷き、倫子の提案に同意した。

 その瞬間、突然空気中にウィンドウが現れ、画面にはパニグレの姿が映し出された。薄ら笑いを浮かべるその顔に、場が一気に緊迫する。


『ブレイブエイトの皆、よくここまで来たね。けど、残念ながら子供たちは誘拐させてもらったよ』  

「あの野郎……!」


 パニグレのヘラヘラとした態度に、マツリは怒りで拳を震わせた。長年の因縁が再び燃え上がり、彼女の心の底では屈辱の炎がメラメラと燃え盛っていた。零夜たちは真剣な表情でパニグレを見つめていて、彼に対して警戒心を抱いていた。


『さて、なんで僕がこんな事をしたのかというと……子供たちを絶望に陥れる為さ』

「絶望!? どういう事なの!?」  


 パニグレの言葉に、ベルたちは驚愕の表情を隠せなかった。彼の目的はあまりにも残酷で、理解を超えるものだった。なぜ罪のない子供たちを標的にするのか。なぜ彼らを傷つける必要があるのか。ベルは真剣な眼差しで画面を見つめ、答えを求める。


『奴らは罪の意識を全く知らないし、調子に乗っている奴らもいる。しかも自分が悪くないと主張する者たちもいて、自己中心な者ばかりだ。僕はその姿を見て怒りを感じているんだよ。子供たちには少し痛い目に遭わせて、自分の愚かさを知ってもらう為にね!』  


 その宣言に、零夜たちは言葉を失った。パニグレの論理には一理あるのかもしれない――だが、罪のない子供たちを巻き込むその手段は、完全に常軌を逸している。倫子が眉を寄せ、零夜が拳を握りしめ、エヴァたちが真剣に見つめる中、ベルが感情を抑えきれずに叫んだ。


「イカれているわよ、あなた……人の命を何だと思っているの!」


 彼女の声は震え、目には涙が浮かんでいた。かつて母であったベルにとって、子供たちの命を粗末にするパニグレの態度は許しがたいものだった。彼女の心は怒りと悲しみで張り裂けそうだった。


『僕にとっては奴らの命など、玩具に過ぎないのさ。気に食わないなら、基地で決着あるのみだ。僕だけでなく、ダークモンスターもいる事を忘れないでね。じゃ、待っているから』  


 パニグレがそう言い放ち、ウィンドウが消滅する。零夜たちは上空にそびえる基地を見上げ、怒りを抑えきれなかった。子供の命を「玩具」と言い切るその異常性に、誰もが戦慄を覚える。パニグレをこのまま野放しにすれば、さらに多くの犠牲者が出るだろう。彼を倒す――それは譲れない使命だった。

 その時、ベルが俯きながら、ポロポロと涙をこぼし始めた。パニグレの非道な言葉と子供たちの命が軽んじられた事実に、彼女の心は深く傷ついていた。  


「ベル……」  


 零夜が心配そうに近づこうとすると、ベルはふらりと彼に歩み寄り、強く抱きしめた。そして、右手で零夜の頭を優しく撫で、「よしよし」と囁き始めた。  


「何をする気だ!? 恥ずかしいから止めてくれよ!」

「暫くこうして……良い子良い子……」

「あのな……泣きながらあやす人はいないから! しかも周りに人がいるから!」  


 ベルの涙と、突然の行動に零夜は真っ赤になって抗議する。だが、彼女は涙を流しながらも、母のような優しさで彼を慰め続けた。周囲の仲間たちはその光景に苦笑いを浮かべたり、ジト目で見たりと反応は様々だ。日和は小さく笑い、マツリは呆れたように肩をすくめる。エイリーンたちに関してはポカンとしていて、アイリンは呆れながらため息をついていた。

 突然、倫子が頬を膨らませ、ズカズカと二人に近づいてきた。今の行為を見て我慢できなかったのだろう。


「ちょっと! それはウチの役目や! すぐに離れんかい!」

「倫子さん!?」  


 倫子は零夜の右側に飛びつき、ムギュッと身体を密着させた。零夜の顔はさらに赤くなり、まるで今にも倒れそうな様子だ。  


「ずるい! 私もする!」

「坊ちゃま、しっかりしてください!」


 エヴァとメイルまでが参戦し、零夜は四方から抱きつかれる羽目に。羨ましいと思う者もいるかもしれないが、零夜にとってはまさに地獄だった。

 その様子を見たトワは我慢できず、すぐに真剣な表情をしながらある行動に入ろうとしていた。


「皆、こんな事している場合じゃないでしょ!」

「「「ひゃっ!」」」  


 トワが胸元から笛を取り出し、怒りの表情で勢いよく吹き鳴らす。鋭い音に、倫子たちはビクッと驚き、慌てて零夜から離れた。今の笛がなければ、零夜は恥ずかしさで気絶していただろう。その事に関してはトワに感謝だ。


「悪いな、トワ……」

「気にしないで。それよりも今は基地へ向かうわよ! 倫子、早くドラゴンたちを!」

「そやったね……こんな事している場合じゃない! 皆、出ておいで!」  


 倫子は気を取り直し、バングルからスピリットを放出。次々にモンスターを召喚した。現れたのはドラゴン、ワイバーン、グリフォン、ペガサス、ウィングユニコーン、ウィングバイコーン、シルバーファルコン――すべて空を飛べる強力なモンスターたちだ。


「時間が無ないからすぐに急ぐぞ! 早くモンスターにに乗れ!」  


 ヤツフサの合図で、零夜たちは素早くモンスターに乗り込んだ。囚われた子供たちを救うため、そしてパニグレを倒すため。奴をこのまま放置すれば、さらなる悲劇が生まれる。  


「僕たちはここに残る。絶対に負けないでくれ!」

「はい、必ず!」  


 太一の激励を受け、零夜はガッツポーズで応える。仲間たちと共にモンスターに乗り、空中基地へ飛び立った。太一たちは手を振って見送るが、その中でふと異変に気づく。  


「ん? あの四人がいないぞ?」

「本当だ。何処に行ったんだ?」

「トイレに行ったのでしょうか?」  


 涼子、アリス、かなめ、めぐみの四人が、いつの間にか姿を消していた。トイレに行ったのだろうと仲間たちは推測したが、その予想は後に外れていることが明らかになる。  

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