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第144話 基地への潜入

 零夜たちはドラゴンやグリフィンといった巨大なモンスターに跨り、轟々と風を切りながら上空に浮かぶBブロック基地を目指していた。漆黒の外壁に囲まれたその要塞は、不気味な静寂を湛え、まるで獲物を待ち構える巨獣のようだった。幸いにも基地からの迎撃はなく、零夜たちは一瞬安堵の息をつく。


「もう少しで目的地だ。ここから先は気を抜くな!」

「ええ。何があろうとも、一歩も引けませんからね。やるからには突き進むのみです!」


 ヤツフサの鋭い声が、風の唸り声に負けじと響く。それに対して零夜は真剣な眼差しで頷き、拳を握りしめてガッツポーズを取る。

 宣戦布告を受けた今、元凶であるパニグレを倒すまで、彼らの闘志は燃え上がっていた。パニグレをその拳で叩きのめさなければ、気が済まないのだ。


「零夜の言う通りだ。アイツだけはアタイの拳でぶっ飛ばす!」

「その気持ちは分かるけど、無理は禁物だからね! 下手したらやられてしまうから!」

「ん? その声……」


 マツリが拳を振り上げ、決意のガッツポーズを取る。すると、何処からか諭している声が聞こえ、全員が一斉に声のした方へ視線を向ける。

 そこには、涼子、アリス、かなめ、めぐみの四人が、空中キックボードに乗り、風を切って滑空していた。彼女たちのボードは魔法の光を放ち、まるで流星のように空を舞っている。  


「あーっ! 涼子さんたち! なんで付いて来ちゃったのですか!?」


 零夜は驚きの声を上げ、目を丸くする。マネーダッシュに参加していた彼女たちが、悪鬼との戦いに同行するなんて、完全に想定外だった。


「だって、零夜君たちが悪鬼と戦うと聞いて、私たちも駆けつけて来たんだもん。それに私たちだって異世界で修行していたのだから!」

「へ? 涼子たちも異世界に行った事があるん?」


 涼子がキックボードを巧みに操りながら、自信満々に笑う。それに対して倫子が首を傾げ、疑問を投げかけていく。ハルヴァスへの旅は初耳であり、疑問に感じるのも少なくない。


「ヒカリさんの話を聞いて、彼女に頼み込んだの。そこでギルド登録してから、精一杯努力したんだから!」

「ヒカリさん……あの人はなんて事をしてくれたんだ……」


 アリスが誇らしげに胸を張るが、零夜は額を押さえ、深いため息をつきながら項垂れる。倫子たちは苦笑いを浮かべ、ヤツフサは呆れた顔で肩をすくめた。

 ヒカリは零夜たちと別れた後、ソロプレイヤーとしてハルヴァスで活動していた。ある日、女性タレント仲間たちにハルヴァスの話をしたところ、彼女たちはこぞって異世界への冒険を望んだ。それがきっかけで、多くの女性タレントがハルヴァスでギルド活動を始め、悪鬼に対抗する戦力が増えたのだ。だが、零夜にとっては頭の痛い話だった。  


「因みにランクはDランクだから。ボス戦は無理だけど、戦闘員たちなら大丈夫!」

「それにマネーダッシュでは活躍できなかったし、ここで挽回しようと思っているから!」


 かなめが明るく笑いながら言い、めぐみも自信満々に続ける。彼女たちの意気込みに、零夜は諦めたように肩を落とすしかなかった。


「仕方がない。けど、無理しないでくださいよ。死んでしまったら元も子もないですからね」

「「「大丈夫!」」」


 涼子たちは揃って笑顔で応え、倫子たちは再び苦笑い。ヤツフサは「ったく」と呟きながらも、戦力が増えたことに内心感謝していた。


「まあいい。戦力は増えた方が助かるし、ピンチの時こそ役に立つだろう。すぐに基地の中に入って潜入するぞ!」

「「「おう!」」」  


 ヤツフサの号令一下、零夜たちは一斉に頷き、気合を入れる。もはや退く選択肢はない。どんな困難が待ち受けようと、彼らは突き進む覚悟だった。  


 ※


 基地の入口に到着した一行は、巨大な鋼鉄の扉を前に立ち止まる。鍵は固く閉ざされ、簡単には開かない。


「ここは私に任せて!」


 アリスがキックボードから軽やかに飛び降り、扉に向かって両手を掲げる。そのまま彼女の両手から淡い青白い光が放たれ、魔術のエネルギーが渦を巻く。


「オープン!」 


 その言葉と共に、扉が重々しい音を立てて動き始めた。金属が擦れる軋んだ音が響き、基地の内部が姿を現す。アリスの魔術は完璧だった。


「いつの間にこの魔術を取得したの?」

「ギルドに入ってからクエストで取得したからね。さっ、行くわよ!」


 トワの質問に対してアリスはニッコリ笑い、仲間たちを率いて基地へと突入する。戦いの幕が、今、上がったのだ。  


 ※


 基地内部は冷たく暗い回廊が続き、金属の壁には不気味な赤い光が点滅していた。零夜たちは二手に分かれ、迅速に行動を開始する。


グループA:零夜、倫子、日和、マツリ、エヴァ、メイル、涼子、かなめ

グループB:アイリン、トワ、エイリーン、ベル、カルア、ヤツフサ、アリス、めぐみ  


 零夜率いるグループAは、最上階に潜むパニグレを目指し、慎重に進む。ダークモンスターが潜む可能性を考慮し、エヴァの索敵能力が頼りだった。  


「恐らくこの辺りにはダークモンスターはいないと思うわ。用心して進まないと」

「エヴァの索敵のお陰で助かるな。さて、この辺りはいないから大丈夫だが……ん?」


 エヴァが鋭い視線で周囲をスキャンしながら告げ、マツリが安堵の声を上げかけた。その瞬間、彼女たちは異変に気付く。涼子の姿がない。


「大変! 涼子ちゃんがいないわ!」

「ええっ!? 一体何処に!?」


 倫子が慌てて周囲を見回す。日和も声を上げ、グループAは一瞬にして緊張に包まれる。

 その時、金属の床を踏み鳴らす無数の足音が響き、暗闇の奥から戦闘員たちが姿を現した。黒い装甲に身を包み、赤く光る目が不気味に輝く。戦闘員たちは一斉に武器を構え、襲いかかる準備を整える。


「見つかったみたいですね!」

「戦うしか方法はないみたい!」


 全員が一斉に戦闘態勢に入り、それぞれの武器を構えながら戦闘員たちに立ち向かう。更にかなめもリングブレードを手に、軽やかなステップで戦闘態勢に入っていた。彼女の動きはまるでダンスのようで、元アイドルの華麗さが戦場でも際立つ。  


「零夜君は涼子ちゃんを探して!」  

「任せてください!」  


 倫子の指示と同時に零夜が駆け出そうとした瞬間、近くのドアが勢いよく開き、戦闘員が姿を現す。だが、その先に見えたのは――お着替え中の涼子だった。

 パーカーを脱ぎ、上半身はブラジャーだけ、スカートとストッキング姿の涼子が、驚愕の表情で戦闘員を見つめる。戦闘員もまた、予想外の光景に一瞬硬直する。 


「何やっているんだ!?」


 戦闘員が叫んだ瞬間、涼子の顔が真っ赤に染まる。着替えを見られてしまった事が、とても恥ずかしかったのだろう。


「あっ! 私の着替えを覗くなんて……このド変態が!」  

「がはっ!」


 涼子の強烈なラリアットが戦闘員の首筋に炸裂。 凄まじい衝撃で戦闘員は宙を舞い、背中から金属の床に叩きつけられる。次の瞬間、彼の体は光の粒となって消滅し、金貨がキラキラと床に散らばった。  


「まったくもう!」


 涼子は慌ててパーカーを着直し、部屋から飛び出す。そこに零夜が駆けつけ、彼女の無事を確認してホッと胸を撫で下ろす。  


「涼子さん、無事でしたね! 戦闘員たちの方は大丈夫です!」  


 零夜が指差す先では、倫子たちが戦闘員たちを圧倒していた。倫子とメイルの剣が閃き、戦闘員を一閃で両断。日和は大剣を振りかざし、多くの敵を薙ぎ倒していく。エヴァは拳を振り回し、戦闘員を次々と吹き飛ばす。マツリは刀と盾を構えながら、流れる様な舞で敵を斬り倒していた。

 そして、かなめのリングブレードが戦場を舞う。彼女はリズミカルなステップで敵の攻撃をかわし、鋭い刃を旋回させて戦闘員を切り裂く。その動きはまるで舞台でのパフォーマンスのように華麗で、戦闘員たちは次々と倒れていく。  


「それなら大丈夫ね。でも、ごめんね。汗かいたから着替えたかったの。そしたら覗いた奴がいたから、ラリアットで一撃で倒したわ」

「ラリアット!? 一体何処で……」


 涼子が少し照れながら説明するが、零夜は目を丸くし、誰にそんな技を教わったのかと尋ねる。涼子は横を向いて口笛を吹きながら誤魔化そうとするが、その顔にはどこか得意げな笑みが浮かんでいた。  

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