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第146話 倫子VSダークインプ

 零夜たちとダークモンスターの戦いが始まろうとする中、ギルドにいた筈のメリアがリングサイドに姿を現す。プロレスが始まるとなれば、彼女が黙って見ているわけにはいかないのだ。


「さあ、いよいよ始まります! ブレイブエイトとダークモンスターたちによる、一対一のガチンコバトル! モンスターたちを倒せば鍵が手に入るが、その正体はまさかの孤児たち。早く倒して、苦しみから解放してやれ!」


 メリアの熱い実況が会場に響き渡る。観客はヤツフサたち以外誰もいないが、特殊カメラによる中継配信が行われており、画面の向こうではコメントが殺到していた。


「ルールはルール無用のノーDQマッチ! リングは金網に囲まれ、逃げ場なし! 最初に上がるメンバーをお願いします!」


 メリアの声に合わせ、最初に金網付きのリングに上がったのは倫子とダークインプだ。

 ダークインプは赤い瞳をギラギラと光らせ、獰猛なオーラを放ちながらリング中央に仁王立ち。倫子は真剣な表情で構え、マツリのために絶対に勝つという決意を胸に秘めていた。


(ノーDQ、金網マッチは初めてだけど、ここで諦めるわけにはいかない。必ず勝って、鍵を手に入れる!)


 倫子が心の中で決意を固めた瞬間、レフェリーのツバサがリングに登場。両者の戦闘態勢を確認し、鋭い眼光でリングを見渡す。直後、ゴングが重々しく鳴り響き、戦いの火蓋が切られた。

 先手を取ったのはダークインプ。巨体を揺らし、雷鳴のような咆哮を上げながら、倫子に向かって突進。強烈な右ストレートが空気を裂き、倫子の顔面を狙う。しかし、倫子は鋭い反射神経で一瞬にして身を翻し、パンチを紙一重で回避。


「そこ!」


 倫子は間髪入れず、跳び上がると同時に回転を加えた鋭い回し蹴りを繰り出す。強烈な衝撃音とともに、キックはダークインプの側頭部にクリーンヒット。巨体がガクンとよろめき、リングが揺れる。だが、ダークインプはすぐに体勢を立て直し、獣のような咆哮を上げて反撃。素早く倫子の背後に回り込み、強靭な腕で彼女の腰をガッチリと掴む。


「先手を取ったのは倫子! だがダークインプ、素早い動きで逆襲! 掴みかかり、投げ飛ばそうとする!」


 メリアの実況が会場にこだまする。するとダークインプは全身の筋肉を膨張させ、倫子を高々と持ち上げると、背中からリングに叩きつけるジャーマンスープレックスを炸裂。轟音とともに、倫子はマットに叩きつけられ、背中と首に強烈な衝撃が走る。


「うあっ!」

「今の一撃は炸裂! 果たして反撃できるのか!?」


 倫子は顔を歪め、鋭い痛みに耐えながらも、すぐに体を起こす。諦めない覚悟が彼女の目を燃やしていた。

 ダークインプは追撃をかけようと、巨大な掌を開いてチョップを繰り出す。乾いた音が響き、倫子の頬に強烈なビンタが炸裂する。


「藍原さん!」


 日和がリングサイドから心配そうに叫ぶが、倫子はこの程度では倒れない。ダークインプを睨みつけ、闘志を燃やしながら立ち上がる。


「やってくれたなゴラ!」


 その瞬間、倫子は一気に加速し、跳び上がると同時に鋭いハイキックをダークインプの顔面に叩き込む。鈍い音が響き、ダークインプの巨体が大きく揺れる。


「今の一撃、強烈!」

「そのまま倒しちゃえ!」


 涼子たちがリング上の倫子に熱い声援を送り、ヤツフサも頷きながら納得していた。

 ダークインプは怒りに燃え、反撃の拳を振り上げる。倫子の腹部に強烈なパンチを叩き込むと、そのままリングロープへダッシュ。ロープに跳ね返り、加速をつけたラリアットを倫子の首元に繰り出す。風を切るその一撃は、まさに破壊の嵐だ。


「させるか!」


 倫子は冷静にラリアットをしゃがみながら回避。背後を取ると、全身の力を込めたドロップキックを炸裂。ダークインプの背中が金網に激突し、金属音が会場に響き渡る。


「グオオオオオ!!」


 ダークインプが金網の衝撃で悲鳴を上げるが、倫子は追撃の手を緩めない。ダッシュで加速し、跳び上がると同時にブート(顔面への強烈な蹴り)をダークインプの顔面に叩き込む。 強烈な一撃とともにダークインプは膝をつき、リングマットに崩れ落ちる。


「そのまま……喰らえ!」


 倫子はさらにダッシュし、全身のバネを使った二段蹴りを顔面に炸裂。これこそ彼女の必殺技である新人賞だ。

  ダークインプは仰向けに倒れ、動かなくなる。倫子は素早くフォールに入り、ツバサがカウントを開始。


「フォール!」

「1、2、3!」


 ツバサのカウントが響き、試合終了。第一試合は倫子の圧倒的な勝利に終わった。ツバサが倫子の右手を高々と上げ、勝者宣言を行う。


「勝者、藍原倫子!」

「まずは倫子が見事な勝利! プロレスラーをナメると痛い目に遭うぞ、みんなも気をつけろ!」


 メリアの熱い実況が無観客の会場を沸わかせ、コメントも殺到。誰もが倫子の勝利を喜んでいた。

 その瞬間、倒れたダークインプの身体から紫の煙が噴出。観客席の仲間たちは息を呑み、真剣な表情でその光景を見つめる。


「煙の噴出……そうか。倒すと元に戻るんやね……」


 倫子が煙の正体に気付いた直後、煙が晴れると、ダークインプの正体が現れる。それは傷だらけの全裸の少年だった。


「ミノキチ! お前だったのか!」

「マツリ姉ちゃん……へへ……」


 マツリが少年の名前を叫ぶと、ミノキチと呼ばれた少年は弱々しく微笑み、彼女に視線を向ける。だが、その直後、彼は光の粒となって消滅してしまう。リングには大量の金貨と、最上階に繋がる鍵が残されていた。


「これって……ミノキチという少年が残した……」


 倫子は金貨を拾い、オーバーオールのマジカルポケットに次々と収納。彼女のポケットは何でも入る便利なアイテムだ。鍵を拾い上げると、倫子はリングから降り、仲間たちが駆け寄る。


「無事で良かったけど……子供を相手にするのは辛かったみたいね……」

「うん……罪もない子供を巻き込むなんて……絶対に許せないよ……」


 ベルが寂しそうに声をかけると、倫子は頷きながら応える。しかし、ミノキチの消滅に耐えきれず、悲しみのあまり涙を流してしまった。戦いとはいえ、子供を倒すのは心が痛む。だが、敵である限り、容赦はできない。


「倫子、泣いてる暇はない。すぐに鍵を」

「うん……」


 ヤツフサの指示に、倫子はコクリと頷き、最上階への扉に鍵を差し込む。残りはあと六つ。六体のダークモンスターを倒さなければならない。

 鍵を差し込んだ倫子はトボトボと歩き、零夜に近づくと、ムギュッと彼を抱き締め、ヒックヒックと泣きじゃくる。


(辛かったのも無理はない……今は、このままにしておくか……)

「ヒック……ヒック……うぇーん……」


 零夜は泣きじゃくる倫子の頭を優しく撫で、彼女が落ち着くまでそっと抱きしめる。マツリたちは寂しそうな表情を浮かべるが、エヴァだけは頬を膨らませ、嫉妬の炎を燃やしていた。


(こいつだけは違ってるな……まあ、無理もないが……)


 マツリがエヴァの様子を見て苦笑いする中、ダークオーガが金網のリングに向かう。巨体を揺らし、闘志をみなぎらせたその姿は、まさに次の戦いを予感させる。


「次はダークオーガね。私が行くわ」


 エヴァがリングに向かい、真剣な表情で歩き出す。だが本心では、倫子が零夜とイチャイチャしているのが気に食わず、早く戦いを終わらせて零夜の元に戻りたい様子だ。


(本当は早く終わらせたいみたいね……零夜、いつになったら恋愛に気付くのかしら……)


 トワはエヴァの後ろ姿を見ながら、零夜の恋愛音痴に呆れ顔。マツリたちも頷きつつ、零夜だけがトワたちの様子に首をかしげるのだった。

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