第二試合はエヴァとダークオーガの激突だ。両者ともに巨躯を誇り、リングが揺れるようなパワー対決が予想される。しかし、プロレスのリングに油断は禁物。一瞬の隙が、雷鳴のような一撃で試合を終わらせることもあるのだ。
「第二試合はまさに怪物同士のパワー対決！ 剛腕と剛腕が火花を散らす！ 果たしてどちらがリングを制するのか!?」
メリアの実況が無観客の会場を熱狂の渦に巻き込み、応援のコメントも殺到していく。直後、ゴングが重々しく鳴り響き、試合が開始。
ダークオーガが野獣の如く咆哮を上げ、エヴァに向かって猛烈な勢いで突進してきた。その速度はまさに弾丸、巨体とは思えぬ敏捷さでリングが震える。
「おっと！」
エヴァは咄嗟に身を翻し、ダークオーガの突進を紙一重で回避。巨獣の腕をガッチリと掴むと、驚異的な膂力で軽々と持ち上げ、豪快に真上へ投げ飛ばした。
零夜たちが息を呑む中、エヴァ自身も高く跳躍。空中でダークオーガの巨体を逆さにし、鉄の握力でがっちり固定する。相手の背中に張り付き、脇を広げて太腿で締め上げ、両足を両手で掴んでリングマットへ急降下する。
「奈落落とし！」
エヴァの咆哮がリングに轟き、ダークオーガの脳天がマットに激突。強烈な衝撃音が会場を揺らし、リングのロープがビリビリと震える。ダークオーガの巨体は、頭部への強烈な一撃で全身を打ち抜かれ、動かなくなった。
「これがエヴァの奈落落とし……！ 圧倒的な破壊力を持つなんて！」
「す、凄まじい……！」
涼子たちはあまりの迫力に言葉を失い、ただ息を呑んで見守る。誰もが予想だにしなかったエヴァの新技、その成長ぶりに誰もが驚愕に包まれた。
ダークオーガは脳天へのダメージで意識を失い、仰向けにバタンと倒れる。レフェリーのツバサが即座に確認し、両手を振って試合続行不可能を宣言。ゴングがけたたましく鳴り響き、決着を告げた。
「勝者！ エヴァ！」
「まさかの秒殺決着！ 新技『奈落落とし』で一瞬にして決着！ 今のエヴァに敵う者はいない！ 最強の狼の咆哮がここに響く！」
メリアの実況が会場をさらに熱くする中、ツバサがエヴァの右手を高々と掲げ、勝利を宣言。エヴァが一瞬、鋭い笑みを浮かべたその瞬間、ダークオーガの巨体から紫色の煙が勢いよく噴出した。煙が晴れると、そこにはボロボロの少年、ダイゴロウが全裸で倒れていた。
「ダイゴロウじゃないか！ なんでお前まで全裸なんだよ！」
マツリの鋭いツッコミが会場に響き、日和たちは顔を赤らめながら慌てて目を覆う。ダークモンスターの呪縛から解放されたのは喜ばしいが、なぜ全裸なのか、誰もが首をかしげるのも無理はない。
「マツリ姉ちゃん……あとの五人を……頼んだよ……」
ダイゴロウは弱々しくそう呟くと、光の粒となって消滅。リングには大量の金貨、オーガの角、そして鍵が残された。エヴァは静かにそれらを拾い集め、リングを降りる。
「マツリ、ごめんね……あなたの大切な人を傷つけちゃって……」
エヴァは涙目でマツリに謝罪する。幼馴染の大切な人を傷つけた罪悪感が、彼女の心を締め付けていた。
「エヴァは悪くない。悪いのはパニグレだ。すぐに鍵を」
「うん……」
マツリの言葉にエヴァは頷き、素早く扉の前に移動して鍵を差し込む。残りはあと五つ。だが、今のような圧倒的な勝利を重ねるのは難しいだろう。
エヴァは決意を新たにし、零夜にズカズカと近づくと、ムギュッと抱き着いた。尻尾をブンブン振るその姿は、彼女の本来の目的を物語っている。
「エヴァ……お前、ほんと甘えん坊だな……」
「クーン……」
零夜は呆れつつも優しく微笑むが、エヴァは指を咥え、甘えん坊を存分にアピール。恋愛テクニックか、それとも本能か、視聴者すらもほっこりさせる一幕だ。だが、そこに倫子がムスッとした表情で割り込む。
「はいはい。今は私の時間だから邪魔しないでね」
「そう言う倫子こそ、さんざん甘えてたじゃない！ 少しは私にも時間をよこしなさいよ！」
「や！」
倫子とエヴァの言い争いはヒートアップ。緊迫したバトルから一転、いつものドタバタ劇に会場や視聴者は苦笑い。日和たちは呆れ顔でこの光景を見つめる。ダークモンスターとの戦いの重苦しい空気は、一瞬で日常の喧騒に変わってしまった。
だが、零夜がある重大な推測を口にする。
「倫子さん、俺、思ったことがあります」
「ん？ どしたん？」
倫子の視線が零夜に集まり、エヴァも言い争いを止めて気になる表情で首をかしげる。日和たちも気になる表情をしながら、零夜に視線を移していた。
「恐らくダークモンスターとの戦い……パニグレは誘拐した子役たちに改造手術を施そうとしています。今回の戦いは、その時間稼ぎじゃないかと」
「「「ええっ!?」」」
零夜の推測に、倫子たちは一斉に驚愕の声を上げる。自分たちがダークモンスターと戦っている間に、そんな陰謀が進行していたとは。ヤツフサは悔しさに拳を震わせ、歯軋りする。
「迂闊だった……俺たちがもっと早く気づいていれば……」
「ヤツフサの言う通りね。こうなったら速攻で倒すしかない！ 次は私が行くわ！」
アイリンは燃えるような決意を胸に、金網のリングへ飛び込む。次の相手はダークハーピー。空中戦を得意とし、トリッキーな動きで翻弄する手強い敵だ。
「相手が誰だろうと、私は必ず勝つ！ さあ、かかってきなさい！」
アイリンの宣戦布告とともにゴングが鳴り響く。ダークハーピーが鳥のような鋭い叫び声を上げ、電光石火のスピードで突進。速攻で仕掛けるその動きに、視聴者の緊張が一気に高まる。
「そこ！」
アイリンは冷静にダークハーピーのタックルをかわし、跳躍。空中で体を捻り、稲妻のようなスピンキックを繰り出す。鋭い音が響き、キックはダークハーピーの顔面にクリーンヒット。
「いきなり顔面に炸裂！ アイリンの一撃必殺キック！ 見事すぎる！」
メリアの実況が会場と視聴者を沸かせる中、アイリンはさらに追撃。両足でダークハーピーの頭をガッチリ挟み込み、バク宙のような勢いで回転。華麗かつ凶暴な技が炸裂する。
「フランケンシュタイナー！」
アイリンの技がリングに轟き、ダークハーピーの脳天が硬いマットに叩きつけられる。衝撃音が会場を震わせ、視聴者は大興奮。ダークハーピーは動かず、ツバサが即座にカウントを開始。
「１、２、３！」
「決まったー！ 相手に何もさせず秒殺勝利！ これぞアイリンの真の力だ！」
（別にそんな大袈裟なもんじゃないから。ちょっと盛りすぎよ）
メリアの熱狂的な実況と視聴者のコメントが殺到する中、アイリンは内心でツンデレな呟き。
するとダークハーピーから紫色の煙が噴出し、元の姿—小学校高学年ほどの少女、ユカリ—が現れる。晒し布と褌を身にまとった姿に、マツリが叫ぶ。
「ユカリ！」
ユカリは寂しげな笑みを浮かべ、頷くと光の粒となって消滅。残されたのは鍵、ハーピーの羽根、大量の金貨。アイリンは素早くそれを拾い、リングから降りる。その表情からはパニグレに対する怒りが充満していて、唇を強く噛み締めていた。
「残りはあと四人。戦うのは辛いけど、苦しみから解放するには倒すしかない。遠慮せず、全力でいく！」
「「「おう！」」」
ヤツフサの号令に、零夜たちは一斉に力強く応える。パニグレの策略を知った今、奴の企みを阻止するしかない。リングの熱気と決意が交錯する中、戦いはさらに激化していくのだった。
