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第148話 サヨナラのメッセージ

 残るダークモンスターはあと四体。ダークホブゴブリン、ブラッドデビル、ダークエルフ、闇天狗。それぞれが禍々しいオーラを放ち、リングに立つだけで空気を震わせる強敵だ。しかし、零夜たちの力なら、どんな難敵も打ち砕けるはずだ。

 だが、問題はただ一つ。パニグレが誘拐した子役たちが、彼の手によって改造されつつあることだ。もし改造が完成してしまえば、彼らと戦うしかなくなる。それも、命を奪う覚悟で――。そんな悲劇を避けるため、ダークモンスターを一刻も早く倒さなければならない。


「残りあと四体。こうなったらまとめて倒すしか方法はないな」

「まとめて倒す? まさか四対四で戦うつもりなの?」


 零夜の言葉に、トワたちの顔が驚愕に染まる。

 一対一の戦いが常識だった彼らにとって、四対四の同時決戦は無謀とも思える選択だ。だが、零夜の目は揺るがない。鋭い眼光が、金網リングの向こうにいる敵を見据えている。


「ああ。先に進むにはこいつらを全員倒し、カギを手に入れなければならない。それに子役たちがピンチなんだ。時間がない以上、これしか道はない!」


 零夜は倫子とエヴァから一歩離れ、迷いなく金網リングに足を踏み入れる。決めた作戦は必ず実行する。それが彼の信念だ。たとえそれが命を賭けた危険な賭けであっても、退く理由などない。


「悪い癖が出たみたいね……でも、こうするしかないなら、私も本気で行くわ!」


 日和は苦笑いを浮かべつつ、零夜の背中を見つめる。彼女もまた、子役たちを救うため、覚悟を決めてリングへと駆け出す。彼女の足音がリングの鉄板を鳴らし、戦いの火蓋を切る合図となる。


「私も覚悟を決めないとね。ここまで来たら立ち向かうしかないわ」

「私も頑張ります! 足手まといにはなりません!」


 トワとエイリーンも続く。彼女たちの目には、恐怖よりも強い決意が宿っている。リングに立つ四人の戦士たちは、真剣な表情をしながら敵に視線を移していた。

 対峙するダークモンスターたちも、獰猛な咆哮を上げながらリングに飛び込む。無観客の会場に、緊張感が張り詰める。


「では、四対四に変更で。始め!」


 ツバサの鋭い声が響き、ゴングが重々しく鳴り響く。戦いの幕が上がった。視聴者のコメントが画面を埋め尽くし、零夜たちへの熱い声援がネットを駆け巡る。


「あなたたちなんかに負けられないわ! どんな相手でも、私はここで倒れない!」


 日和の宣言がリングに轟く。その瞬間、彼女のブートキックがブラッドデビルの顔面を捉える。雷鳴のような衝撃音が響き、ブラッドデビルはよろめく。だが、日和は止まらない。素早く背後に回り込み、両腋をガッチリとロック。フルネルソンの態勢から、渾身の力でリングマットに叩きつけた。


「フルネルソンバスター炸裂! 日和、容赦なし!」  


 メリアの実況が会場にこだまする。視聴者のコメントは熱狂の渦となり、「日和すげえ!」「ブラッドデビルやられた!」と画面が埋め尽くされる。

 ブラッドデビルは背中に激痛を負い、片膝をつく。だが、日和は追撃の手を緩めない。彼女の足元に炎が宿り、燃え盛る踵が天高く上がる。


「Frame Finally!」


 炎を纏った踵落としが、ブラッドデビルの脳天に炸裂。轟音とともにリングが揺れ、ブラッドデビルは仰向けに倒れ、動かなくなる。観客がいない会場に、視聴者の歓声がコメントとして響き合う。


「残り三体! 次は私が!」


 エイリーンが叫び、ダークホブゴブリンに突進。彼女のタックルはまるで戦車のように力強く、ホブゴブリンを金網に叩きつける。金網がガシャンと鳴り、ホブゴブリンの悲鳴が会場に響く。

 だが、エイリーンは容赦しない。倒れた相手を豪快に持ち上げ、逆さに抱え込む。そのまま一気に座り込み、パイルドライバーを炸裂させる。


「パイルドライバー直撃! ダークホブゴブリン、戦闘不能!」  


 メリアの声が戦場を切り裂く。リングはまさに修羅場だ。

 残るは闇天狗とダークエルフ。零夜とトワが息を合わせて突進する。


「ダブルムーンサルトで一気に終わらせるぞ!」

「ええ!」


 二人のハイキックが、まるで雷鳴のように闇天狗とダークエルフを襲う。敵は一瞬にしてリングマットに倒れ、動きが止まる。零夜とトワは素早くリングポールに登り、観客席を背に空中で一回転。息をのむ視聴者たちのコメントが加速する中、二人の体が敵に直撃。


「ダブルムーンサルトプレス! フォールだ!」  


 零夜とトワが敵の足を押さえ込み、ツバサのカウントが始まる。


「1、2、3!」


  ゴングが鳴り響き、零夜たちの圧倒的な勝利が確定。メリアの興奮した実況が会場を包み、視聴者のコメントは「神試合!」「零夜とトワ最高!」と熱狂の嵐となる。

 だが、勝利の余韻は一瞬だった。倒れたダークモンスターたちから紫色の煙が立ち上り、彼らの姿が徐々に変化していく。その正体は、誘拐された小学生ぐらいの孤児たち――ヒノエ、ミツバ、コウスケ、ヘイゾウ。小学三年生から五年生の幼い顔が、リングの上で静かに横たわっている。


「ヒノエ、ミツバ、コウスケ、ヘイゾウ……ようやく……元に戻ったのか……」


 マツリの声は震え、瞳には涙が滲む。彼女の視線は、特にヒノエに注がれている。小学五年生の少女ヒノエは、弱々しくも優しい笑みを浮かべ、マツリを見つめる。その瞳には、再会できた喜びと、命の終わりを悟った悲しみが混在していた。


「お姉ちゃん……やっと会えた……パニグレを……倒して……私たちの分まで……生きて……頑張って……」


 ヒノエの声はか細く、しかし力強くマツリに届く。彼女の手がマツリの頬に触れようとした瞬間、光の粒となって消えていく。ミツバ、コウスケ、ヘイゾウもまた、同じように光となって消滅。リングにはモンスターの素材、大量の金貨、そして四つの鍵だけが残された。

 マツリは唇を噛み、涙を堪えながら立ち尽くす。ヒノエの最後の笑顔が、彼女の心に焼き付いて離れない。


「立ち止まってる暇はない! 零夜、日和、トワ、エイリーン、鍵を!」


 マツリの声は涙で震えながらも、力強く響く。彼女は悲しみを振り切り、前を見据えながら進もうとしていた。

 零夜たちは即座に鍵を拾い、リングを降りて扉へ向かう。四つの鍵が差し込まれると、扉は重々しい音を立てて開き始めた。その先には、パニグレが待ち受ける戦場が広がっている。

 ツバサとメリアは役目を終え、転移で姿を消す。ベルたちが金貨や素材を回収し終えた頃、マツリは零夜たちに鋭い視線を向ける。


「ここから先は本番だ。パニグレは、子役たちを既に改造し終えている可能性が高い。彼らとの戦いは避けられない。覚悟はできてるか?」


 マツリの言葉に、零夜は拳を握りしめ、闘志を燃やす。ここまで来た以上は一歩も引かない覚悟であり、逃げる事は絶対にしないのだ。


「ああ。覚悟はできてる。喧嘩を売るなら、倒すのみだ!」


 零夜の笑みには、揺るぎない決意が宿っている。倫子たちもまた、零夜の闘志に呼応するように頷く。彼らの瞳には、ヒノエたちの無念を晴らす決意が燃えていた。こうなる事は既に覚悟していただろう。


「なら、問題ない。行くぜ!」


 マツリは零夜たちと共に最上階へ向かう。ヒノエたちの仇を討ち、パニグレを倒すため――彼らの足音は、リングを後にし、新たな戦場へと響き合う。

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