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第150話 暗転殺人術

 零夜は背中から漆黒の闇オーラを迸らせ、鋭い眼光で透たちをギロリと睨みつける。仲間を弾扱いする非道な敵に対しては、一切の容赦をしない。その覚悟は零夜の全身から放たれる殺気となって、周囲を凍りつかせていた。

 その姿に透たちは額に冷や汗を浮かべながらも、すぐに円陣を組んで融合の準備を始める。


「また融合するわ! 気をつけて!」

「アドバイスありがとな、ラビー。さて、どんな姿に……」


 ウサギの獣人・ラビーの警告に、零夜は真剣な表情で頷き、敵の動向を見据える。次の瞬間、透たちは光の奔流に包まれ、新たな姿へと変貌を遂げていた。


「こ、これって……まさか……」

「ロボット!」


 エヴァたちが驚愕の声を上げる中、エイリーンだけは目をキラキラと輝かせ、興奮を抑えきれない様子だ。

 透たちは融合によって巨大な戦闘ロボットへと変形し、鋼鉄の巨体が鈍い輝きを放つ。その腹部には、禍々しい光を帯びた巨大な大砲が据え付けられていた。


「恐らくあの大砲は、強烈なエネルギー弾を発射する。直撃すれば大ダメージどころか、即死もあり得る」

「となると、私たちのシールドが勝敗の鍵ね……」


 ヤツフサの冷静な分析に、ベルは鋭い目つきで頷く。カルア、メイル、倫子、エヴァ、エイリーン、マツリ――カウンターバリアを展開できる七人が、守りの要となる。彼女たちは一斉にロボットへ視線を向け、戦闘態勢を整えた。

 その時、エイリーンがスパナを手に持ち、目を輝かせながらロボットに近づこうとする。この様子からすれば明らかに怪しい。


「何やってるの、エイリーン?」


 トワが呆れた声で問うと、エイリーンは背筋を伸ばしてしまい、ギギギと機械的な動きで首を振り返る。その顔には冷や汗まで流れていて、バレてしまった恐怖を感じているのだろう。


「いや……あのロボットの構造を調べようと……」

「しなくて良いから! やり過ぎたら子供たちを殺すことになるよ!」


 エイリーンの苦笑い混じりの説明に、トワは思わずツッコミを入れる。ロボットの正体が子供たちである以上、構造解析は命に関わる危険な行為だ。

 すると、ラビーがコソコソと動き出し、ハンマーを手にソロリソロリと近づき始める。


「ラビー、何やってるの? まさかアンタも同じこと考えてるの?」

「うっ!?」


 トワのジト目がラビーを捉え、彼女はギクッと背筋を伸ばす。エイリーンと同じくロボットに興味津々の行動に、周囲は呆れ顔で溜息をつくしかなかった。

 その瞬間、ロボットの腹部大砲が赤く発光し、エネルギー充填の轟音が響き渡る。零夜たちは一斉に身構えるが――次の瞬間、大砲は不発に終わり、ただの空振りに終わった。


「やはりラビーを失ったのが痛かったな! ここからが本当の地獄だ!」


 零夜は両手に紅蓮丸と吹雪丸を握りしめ、鋭い眼光でロボットを睨みつける。次の瞬間、彼は地面を蹴り、疾風の如く跳躍。両刃を紅と白の光で輝かせ、轟音と共にロボットへ斬りかかった。


覇王双牙斬はおうそうがざん!」


 二刀から放たれた衝撃波が空気を裂き、ロボットの装甲に炸裂。鋼鉄の巨体は強烈な斬撃に耐えきれず、火花と爆音を撒き散らしながら強制的に融合を解除。透たちは改造された姿のまま地面に倒れ伏すが、元の姿に戻すには完全な撃破が必要だった。


「ここで終わりじゃない! 新技、発動! 暗転殺人術あんてんさつじんじゅつ!」

「「「新技!?」」」


 零夜の宣言に倫子たちの驚愕の声が響く。彼が新技を秘めていたことに誰もが衝撃を受ける中、部屋全体が突如闇に飲み込まれた。視界は完全に遮断され、漆黒の闇が全てを覆う。


「いきなり暗くなった!?」

「早く灯りを!」


 突然の暗闇にパニックが広がる。アリスが叫び、倫子たちに指示を飛ばす中、暗闇の中で零夜が動き出す。彼はハルヴァスに転移してから忍者たなり、夜目が利く様に。闇は彼の舞台である以上、止める事は不可能だ。


「ぐえっ!」

「うごっ!」

「あがっ!」


 闇の中、零夜の刃が閃くたび、透たちの悲鳴が響き渡る。目に見えない攻撃は容赦なく正確で、倫子たちは声の方向に視線を向けるも、ただ震えるしかなかった。

 零夜を敵に回せば、プロレス技だけでなく、このような暗殺術も繰り出される。味方で良かったと心底思う瞬間だ。


「残りはあと一人……そこだ!」

「ぐほっ!」


 零夜の最後の攻撃が命中し、同時につんざくような光が部屋を照らす。灯りが復活した瞬間、零夜が手を叩きながら立つ姿と、元の姿に戻った透たちが地面に倒れる光景が現れた。零夜の攻撃で戦闘不能となり、改造状態から解放されたのだ。


「これで子役たちは元通り! 気絶してるだけだから大丈夫です!」

「そう。良かった……ん?」


 零夜の笑顔の報告に、涼子たちは安堵の息をつく。もし致命傷を負っていたら、誰もが涙を流していただろう。

 だが、涼子が透たちを見ると、彼らのポケットから白い粉の入ったビニール袋が落ちている。彼女たちは驚愕の表情を浮かべ、一部は口を押さえながら信じられない顔をする。


「こ、これって……麻薬じゃ……」

「警察……呼んでおかないとね……」

「う、うん……」


 冷や汗を流しながら、涼子たちは警察への通報を決意。麻薬の所持が明らかになった以上、見過ごすわけにはいかない。

 その時、アイリンが突然の違和感に身を硬くし、前方を警戒。恐らくパニグレが来る事を予測しているみたいだ。


「すぐに彼らをワープホールへ! ハイランダーランドの太一たちの元に送るわよ!」

「了解! 麻薬使用のメッセージも添えます!」


 アイリンの指示にメイルが頷き、メッセージを準備。ヤツフサは即座にワープを出現させ、太一たちのいる場所に繋がっている事を確認する。


「ハイランダーランドにいる太一たちに繋いだ! 急げ!」


 エヴァたちは倒れた透たちを急いで運び、メイルは高速で手紙を書き上げ、チャーミーの服に挟む。僅か一分でワープホールに全員を送り終え、ヤツフサがホールを消滅させる。後は太一たちが警察に引き渡すだけだ。


「ようやく……パニグレに集中できるわね。」

「ああ……出てこい、パニグレ! 残るはお前だけだ!」


 めぐみの言葉に頷いて、マツリが勢いよく叫ぶ。ラビーは仲間に引き入れ、透たちは警察へ。残る敵はパニグレ一人である以上、逃がさずに決着を着けるのみだ。

 するとマツリたちの前に魔法陣が展開し、パニグレが姿を現す。平然とした表情の裏では、作戦を壊された怒りが滾っていた。


「よくも僕の作戦をぶち壊してくれたね。 こうなれば僕が相手だ。二度と立ち上がれないトラウマを浴びせてやる!」


 パニグレは宙に浮き、両手に紫のオーラを纏う。超能力と属性魔術を操る彼は、近づく者を瞬時に葬る危険な存在だ。


「パニグレは手強いけど、私たちなら大丈夫。絶対に勝ちましょう!」

「言われなくてもそのつもりだ! 派手に暴れさせてもらうぜ!」


 マツリの宣言と共に、一同は一斉にパニグレへ突進。Bブロック基地の決戦は、最終局面へと突入した。

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