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第151話 パニグレとの決戦

 零夜たちは宙に浮かぶパニグレに一斉に攻撃を仕掛けるが、彼はまるで風のようにしなやかな動きでその全てを回避していく。鋭い剣閃、炸裂する魔力弾、渾身の拳撃――どれもが空を切り、パニグレの嘲笑うような笑みが戦場に響く。たまに攻撃が命中しそうになっても、彼は両手を素早く振り上げ、青白く輝くバリアを展開。零夜たちの攻撃を次々と弾き返し、まるで鉄壁の要塞のように立ちはだかる。


「くっ……流石はBブロック隊長。こんな相手、今までいなかったな……」


 零夜は額に汗を滲ませ、真剣な眼差しでパニグレを睨みつける。これまで悪鬼の各ブロック隊長と戦ってきたが、パニグレの動きと防御力は別格だ。Aブロック隊長のベティとメディはさらにその上を行く強敵。まずはこの少年を倒さなければ、先に進むことすら叶わないだろう。


「僕を子供だからって舐めるなよ。 パーバートスライム召喚!」


 パニグレが不敵に笑い、指を鳴らすと同時に、空間が歪み、ぬめり輝く無数のパーバートスライムが地面に這い出てくる。その異様な姿に、アイリンたちは思わず顔を青ざめさせ、冷や汗を流す。一方、メイル、カルア、涼子、アリス、めぐみ、かなめの六人は、怪訝な表情でアイリンたちに視線を向けた。


「どうしたんですか? なんか顔色が悪いみたいですけど……」


 カルアの問いに、アイリンが鋭い声で答える。その様子だと過去にトラウマがあるので、彼女たちに注意をする必要があるのだ。


「あのスライムは変態スライムのパーバートスライム! 女の人だけを狙って襲ってくる、めっちゃ厄介な敵なのよ!」

「「「ええっ!?」」」


 アイリンの説明に、カルアたちは一斉に驚愕の声を上げる。だが、その瞬間、パーバートスライムが粘液を滴らせながら、グニャリと不気味に蠢き、彼女たちに向かって一気に飛びかかってきた。目的は明白――女性の身体を弄ぶ、イタズラな欲望だ。


「そうはさせへん! ツノラビ召喚!」


 倫子が叫び、バングルを振り上げると、眩い光とともに無数のツノラビが召喚される。角を生やした獰猛なスピリットたちが横一列に整列し、パーバートスライムをギロリと睨みつける。その眼光は、まるで獲物を狩る猛獣のようだ。


「かかれー!」


 倫子の号令一下、ツノラビたちが一斉に突進。角を振り上げ、鋭い突きを繰り出し、パーバートスライムのコアに次々と直撃させる。鈍い音が響き、スライムたちは風船が弾けるように破裂。粘液と金貨が戦場に飛び散る。メイルが素早く動き、散らばった金貨と粘液を回収し終える。


「回収完了!」

「ご苦労さま……って、また出てきた!? これで二回目よ!」

「一体どれだけ出てくるのよ! もう勘弁して!」


 アイリンの悲痛な叫びが響く中、新たなパーバートスライムの群れが現れる。だが、状況はさらに悪化する。数体のスライムが倫子、日和、エヴァに飛びつき、ぬめぬめとした触手で彼女たちの身体を絡め取り、服の中に粘液を滑り込ませ始めた。それはまさにセクハラそのもので、戦場に悲鳴がこだまする。


「ひやっ! そこはダメ!」

「嫌っ! セクハラよ、こんなの!」

「助けて、零夜!」

「すぐに向かいます!」


 倫子たちの悲鳴を聞き、零夜は一瞬で反応。だが、スライムを無理やり引き剥がせば彼女たちにダメージを与えてしまう。冷静にコアを狙う必要がある。零夜は目を鋭くし、腰の鞘から手裏剣を抜き放つ。


「スライムの倒し方は覚えてる! 手裏剣乱れ投げ!」


 零夜の手が目にも止まらぬ速さで動き、無数の手裏剣が弧を描いて飛ぶ。正確にコアを貫き、パーバートスライムが次々と破裂。金貨と粘液が辺りに飛び散り、戦場は一瞬の静寂に包まれる。


「残るは最後の一匹! それっ!」


 零夜は跳躍し、最後のスライムに手裏剣を叩き込む。強烈な破裂音が響き、全てのパーバートスライムが消滅。だが、倫子、日和、エヴァの三人は粘液まみれで震え、涙目で立ち尽くしていた。


「ケアは私がします! 動かないで……あら?」


 メイルが汗拭きシートを手に駆け寄るが、倫子とエヴァは彼女を無視し、フラフラと零夜に近づく。二人の目は一致団結した決意に満ち、まるで息の合った姉妹のようだ。


「え? もしかして俺に拭いて欲しいのですか?」


 零夜はキョトンとしつつ尋ねると、倫子とエヴァはコクリと頷く。女性の身体を拭くという想定外の依頼に、零夜は一瞬たじろぐが、引き受けるしかない。


「じゃ、遠慮なく……」


 零夜は汗拭きシートを手に、倫子たちの服や素肌、さらには服の中にまで丁寧に拭き始める。その手つきは驚くほど繊細で、粘液を綺麗に取り除いていく。


「ん……気持ちいい……」

「そこ、丁寧に拭いてくれる?」

「はい……」

「んあ……とろけちゃいそう……」


 倫子とエヴァは零夜のケアに身を委ね、満足げな笑みを浮かべる。その表情は、まるで至福の時間を味わうかのようだ。一方、日和はメイルに身体を拭いてもらいながら、呆れたように呟く。


(やっぱりこうなったか……零夜の苦労は同情するけど、これはもうカバーしきれないかも……)


 日和は内心でため息をつく。倫子たちの大胆な行動に、止めに入るのは危険すぎると判断したのだ。その様子を見ていたエイリーンたちも、同様で内心ため息をついてしまう。ベルだけは苦笑いをしていたが。


「これで変態スライムは全滅! 次が来るから気をつけて!」


 トワの鋭い声が戦場に響く。その瞬間、パニグレが不気味に笑い、両手に眩い光弾を生成し始める。パーバートスライムが全滅した今、彼は自ら攻撃に転じる気だ。光弾はまるで小さな太陽のように輝き、凄まじいエネルギーを放ちながら零夜たちに襲いかかる。


「全員、躱せ!」


 ヤツフサの叫びに、零夜たちは一斉に動き出す。光弾は床に激突し、盛大に爆発。衝撃波が戦場を揺らし、床は焦げ付き、煙が立ち上る。涼子たちはその威力に冷や汗を流す。


「喰らったら一撃でやられるレベル……! 下手したら殺されるかも……」

「うん、ここは零夜くんたちに任せて、私たちは基地の秘密を探りに行こう。パニグレの弱点が見つかるかもしれない!」

「賛成! 私たちは私たちの役目を果たしましょう!」


 かなめの提案にアリスが頷き、涼子たちも同意。彼女たちは零夜たちに戦場を託し、パニグレの弱点を探るため部屋を後にする。基地のどこかに弱点の鍵があるはず。それを見つければ、パニグレを弱体化させ、戦いを有利に進められるのだ。


(なるほど。弱点を探すため自ら離脱するとは。彼女たちの判断は正しい。戦いに参加すれば足手まといになるだけだ)


 ヤツフサは涼子たちの行動に感心しながら、戦場を見据える。彼女たちの決断は、戦局を変える可能性を秘めているのだ。


「涼子さんたちが弱点を探しに行った。なら、俺たちもやるしかない!」


 零夜は叫び、紅蓮丸と吹雪丸の忍者刀を両手に握る。刀身には炎と氷のオーラが渦巻き、まるで二つの元素が共鳴するように輝く。彼は一気に駆け出し、跳躍。パニグレに突進するその姿は、まるで嵐の如き勢いだ。


「いくら攻撃しても無駄だよ!」


 パニグレは不敵に笑い、両手を突き出してバリアを展開。だが、その瞬間、零夜の姿がスッと消える。まるで影が溶けるように、視界から完全に消滅したのだ。


「消えた!? どこに――うっ!?」


 パニグレが驚愕の声を上げる直前、背後から凄まじい衝撃が走る。紅蓮丸の刀身が彼の背中に突き刺さり、炎のオーラが爆ぜるように炸裂。零夜は一瞬の隙を突き、瞬間移動のような高速移動でパニグレの死角に回り込んでいたのだ。


「舐めるなよ、パニグレ! この戦いは俺たちが制する!」


 零夜の叫びが戦場に響き、パニグレの身体から爆発の煙が出ていく。だが、彼はまだ倒れない。戦いはこれからが本番だ。

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