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第152話 容赦なき連続攻撃

 零夜の渾身の一撃がパニグレの急所に炸裂し、戦いの流れを一瞬で逆転させた。戦いとなる舞台はまるで真空のような静寂に包まれ、肉が潰れる鈍い音だけが響き渡る。倫子はその瞬間を見逃さず、猛獣の如くパニグレに突進。パーバートスライムへの燃えるような怒りを込めたハイキックが、雷鳴のごとく彼の頭部を直撃する。空気が裂ける音が室内に響き、パニグレの身体が一瞬宙を舞う。


「がは……!」


 パニグレは床に叩きつけられ、衝撃で部屋全体が震える。だが、倫子の猛攻は止まらない。倒れたパニグレを鋼のような力で引き起こすと、前かがみの彼の左腕を鷲掴み。右脚を肩に絡め、コブラツイストで締め上げながら、右手で天を突く。その姿はまさに戦乙女と言っても良いだろう。


「いきます!」


 倫子の宣言が静寂を切り裂く。彼女はパニグレの股下に腕を滑り込ませ、全身のバネを使って前方に回転。巨人のような力で相手を持ち上げ、豪快にリングに叩きつける大技「ケツァルコアトル」を炸裂させた。床が爆発音のような衝撃を出してしまい、パニグレは呻き声を漏らしながら倒れてしまう。床でこの様な技を喰らってしまえば、激痛になってしまうのは確定だ。


「日和ちゃん、お願い!」

「はい!」


 倫子の号令に応じ、日和が電光石火の速さで動く。倒れたパニグレを強引に引き起こし、両腋に腕を差し入れ、後頭部で手をガッチリ組んでフルネルソンで固める。彼女の筋肉が鋼のように引き締まり、部屋全体に緊張が走る。


「喰らえ! フルネルソンバスター!」


 日和はパニグレを左サイドに担ぎ上げ、瞬時にクラッチを解き、全身の体重を乗せて背中から床に叩きつける。衝撃で床全体が爆ぜ、走る亀裂が部屋全体に不気味に響く。パニグレの身体は床にめり込むように沈む。


「がはっ!」


 だが、日和の攻撃は終わらない。雷を纏った踵落としが、稲妻の如くパニグレの頭部を直撃。それはまさに裸身の様なオーラを纏っていて、下手したら一撃でやられる可能性もあり得るのだ。


「これはおまけ! Spark Finally!」

「あがっ!」


 日和の叫びと共に、雷鳴のような炸裂音が部屋全体を震わせる。パニグレは床に崩れ落ち、身体が痙攣してしまった。

 更に攻撃の連鎖は止まらない。次に動いたのはアイリンだ。彼女は猫のような身軽さで跳び上がり、倒れたパニグレを強引に立たせる。


「子供でも容赦しないわ! 覚悟しなさい!」


 アイリンは空中で身体を捻り、パニグレの頭を両足でガッチリ挟み込む。バク宙のような回転で相手を振り回し、華麗かつ凶暴な「フランケンシュタイナー」を炸裂。パニグレの脳天が床に叩きつけられ、衝撃波が空気を震わせ、部屋全体に振動が走る。子供の身体には耐え難いダメージで、無観客の静寂が技の破壊力を際立たせいた。

 パニグレは床に沈み、身体を痙攣させてしまう。零夜は鋭い目でその様子を見据え、真剣な表情をしながら呟き始めた。


「もう少し攻撃を加えてやった方が良いな。それに調子に乗るとこうなる事を、世の中の子供に教える必要があるから……」

「「「それは自重しなさい!」」」


 ベルたちの鋭いツッコミが、静寂の部屋全体に響き渡る。子供にトラウマを植え付ければ、プロレスファン離れは必至だ。零夜は苦笑いしながら手を振り、彼女たちに対して謝罪をする。


「すいません。やり過ぎました。それよりも攻撃の追加を!」

「そうね。次は私が行くわ!」


 零夜の合図と同時にエヴァが動く。助走をつけたと同時に、自らの跳躍力で高く跳び上がる。そのまま彼女は勢いよく降下していき、強烈なのセントーンがパニグレに炸裂した。子供の身体には致命的な重圧であり、エヴァの重さに耐えきれないのは当然の結果だ。


「ぐええ……」

「私たちも!」

「はい!」


 パニグレが呻き声を上げる中、トワとエイリーンが息を合わせて駆け出していく。そのまま同時にジャンプした直後、二人によるツープラトンセントーンがパニグレに直撃してしまった。二人分のセントーンを喰らってしまえば、その分ダメージも二倍になる。更に子供の身体となってしまえば、骨折や大けがになる可能性もあり得るだろう。


「ぐほっ……舐めるな……!」


 パニグレは怒りに燃え、血走った目で睨みつけながら素早く立ち上がる。その闘志が戦場の空気を一変させ、油断ならない展開へと変えようとしていた。

 だが、その隙をベルとカルアが見逃さない。二人はまるで一つの生き物のように息を合わせ、疾風の如く駆け出し、パニグレの顔面に強烈な二段蹴りを叩き込む。衝撃音が部屋全体に響き、パニグレは再び床に沈む。


「ごほ……!」


 ベルとカルアは笑顔でハイタッチ。主従の絆が技の精度を極限まで高めたからこそ、連携技も簡単に出せるのだ。すぐに彼女たちはマツリとメイルに視線を送る。


「マツリ、メイル。最後はあなたたちの番よ!」

「かつての大切な人を殺した罪を、彼に償わせてください!」


 マツリとメイルは頷き合い、怒りのオーラを纏ってパニグレに視線を移す。まずはメイルが動き出し、倒れたパニグレの足首を鷲掴みにする。


「孤児の皆を殺した罪、裁いてもらいます!」 


 メイルは真剣な表情をしながら、竜巻のような勢いでジャイアントスイングを始める。回転が加速するごとに、周囲に猛烈な風圧が発生。その速度は更にヒートアップし始め、一気に竜巻を起こしてしまったのだ。


「まさかメイルもベルと同じく、ジャイアントスイングで竜巻を発生させるなんて……」

「凄いとしか思えないわね……」 

「あらあら。もしかすると強力なライバル出現かもね」


 この光景に誰もが驚きを隠せず、驚きの表情で見つめるしかなかった。ベルは苦笑いしながら、内心でライバル出現を喜んでいた。

 パニグレは竜巻に巻き込まれ、傷だらけでリングに放り出される。そこへマツリが雷鳴の如く接近。情熱の炎のオーラを纏ったハイキックを、因縁の全てを込めて放つ。


「ありったけの一撃を喰らえ! ライジングフレイムキック!」


 渾身の炎の蹴りがパニグレの顔面に炸裂。衝撃で彼は床を転がり、背中を強打してしまった。強烈な一撃でパニグレは動けなくなるが、戦いはまだ終わらない。


「やったのか⁉」

「いや、まだよ!」


 マツリは戦闘態勢を崩さず、ラビーの否定に頷く。パニグレの身体はまだ消滅していない。完全な勝利には、最後の仕上げが必要だ。


「調子に乗るな……僕は……ここで倒れない……死ぬ理由には……いかないんだ!」


 パニグレはヨロヨロと立ち上がり、傷だらけの身体でなお戦う意志を見せる。消滅してしまうのも時間の問題だが、その執念は人以上の実力はあるだろう。

 零夜たちは警戒を強め、パニグレを真剣な表情で見つめる。彼の過去に何があったのか、その闘志の源は何か気になるところだ。

 するとラビーが真剣な表情をしながら、前に出てパニグレをじっと見つめる。その様子だと彼との間に何かあったみたいだ。


「パニグレ……あの時の事を恨んでいるのね……」

「恨んでいるって……何があったのか?」


 ラビーの発言を聞いた零夜は、真剣な表情で彼女に視線を移す。倫子たちも同様の表情で、気になる視線をラビーに向けていた。


「実は私とパニグレは、義理の姉弟の関係なの」

「「「義理の姉弟!?」」」


 ラビーからの衝撃発言を聞いた零夜たちは、誰もが驚きを隠せずにいた。まさかあのパニグレとそんな関係があったとは、想定外としか言えないのだ。


「そう。僕と姉さんはそういう関係だ。けど、よくも契約を上書きしてくれたね……」


 パニグレは義理の姉を奪われた事に怒りを感じていて、背中から闇のオーラを放出させていく。元はと言えば悪い事をしているので、自業自得としか言えないが。


「せっかくだから君たちに教えてやるよ。僕がなんで今の様な性格となり……悪鬼の戦士になったのかを……」


 パニグレの声が、静寂の部屋全体に響き渡る。零夜たちは真剣な表情で、彼の過去の物語に耳を傾け始めた。

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