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第154話 呪われた遊園地

 パニグレの口から語られた壮絶な過去に、零夜たちは言葉を失った。狂気に染まった少年にそんな悲惨な歴史があったなんて、想像すらできなかった。


「後楽園の悲劇の前、ハルヴァスであんな事件が……」

「だから、こんなパニグレが出来上がったのですね……」  


 倫子が呆然と呟くと、日和が重々しく頷く。二人はパニグレに同情の目を向けていて、エヴァたちも黙り込むしかなかった。しかし、パニグレが悪鬼の一員である以上、情に流されるわけにはいかない。すぐに鋭い視線に戻り、戦いの覚悟を固めた。


「パニグレ、気持ちは分からんでもない。けど、お前のやってきたことは悪だ! 罪なき人々を殺し、マツリの子供たちをダークモンスターに変え、子役たちを操り人形にした! お前の行動は犯罪そのものだ!」 


 ヤツフサの厳しい言葉に、皆が力強く頷く。

 パニグレはタマズサの仲間になった瞬間、運命の歯車を狂わせ、多くの命を奪ってきた。自業自得の結果であり、彼に待つのは断罪の運命だけだ。


「ヤツフサの言う通りよ、パニグレ。私、あなたと契約してたけど、零夜が命がけで私を解放してくれた。敵なのに……身体を張って助けてくれたの。だから、私はこの人と共に戦う! そして、あなたにこれ以上罪を重ねさせない!」  


 ラビーは涙を滲ませながら、パニグレを指差し、決意を込めて叫ぶ。義理の姉として彼を心から案じていたが、契約の呪縛に縛られて反発できずにいた。だが、零夜のおかげで自由を取り戻した今、恩返しとパニグレを止める覚悟を固めていた。  

 その姿に、パニグレはワナワナと震え、怒りを爆発させる。義理の姉にまで裏切られ、味方はゼロ。絶体絶命の孤立無援だ。  


「誰も……僕の味方はいないんだね……だったら! みんなくそくらえだ! 呪われた闇の姿で、まとめて消し炭にしてやる!!」  


 パニグレの怒りの絶叫が響き、紫の煙が彼の身体から噴き出した。煙は瞬く間に彼を包み、不気味な変身の前触れを告げようとしていた。

 目の前の禍々しい気配に、誰もが息を呑む。迂闊に近づけば巻き込まれる危険性が高く、近接攻撃は自殺行為だ。  


「新たな姿に変身するぞ! 今すぐ攻撃だ!」

「任せて! 断罪の弓矢!」  


 ヤツフサの号令と同時に、トワは弓を構えて聖なる光を宿した矢を放つ。だが、矢は煙に飲み込まれ、まるで霧に溶けるように回避されてしまう。外れた矢は壁に当たり、光の粒となって消滅した。


「回避された!?」

「恐らくあの煙は攻撃を無効化してる。変身が終わるまで待つしかないわ」

「そんな……じっとするしかないなんて……!」


 予想外の展開にトワが目を丸くすると、ベルが冷静に分析する。その内容にカルアが悔しそうに拳を握り、皆は歯を食いしばって待機を強いられる。

 やがて煙が晴れると、パニグレの新たなる姿が現れた。巨大な体躯、頭に生えた鬼の角、うねる筋肉――まさにダークオーガの化身だ。  


「これが僕の真の姿、ダークオーガ! そして、新たな舞台も用意したよ!」  


 パニグレが指を鳴らすと、空間が歪み、一瞬にしてハイランダーランドの遊園地に転移。突然の移動に零夜たちは驚きを隠せず、キョロキョロと周囲を見回す。


「ハイランダーランドが戦いの舞台なの!?」

「その通り。しかも、この遊園地には僕の仕掛けがてんこ盛りだ!」


 再びパニグレが指を鳴らすと、遊園地が一変。メリーゴーランドから幽霊が飛び出し、観覧車からはミサイルが雨あられ。コーヒーカップには、なぜか全裸のおっさんが温泉気分でくつろぎ、ジェットコースターは骸骨だらけの「デスコースター」に変貌。まさに悪夢の遊園地だ。  


「これ、遊園地じゃなくて地獄でしょ!? お客さん全員逃げ出すわよ!」

「うるせえ! 僕の遊園地なんだから、好きに改造したっていいだろ!」  


 アイリンが呆れ果ててツッコむと、パニグレは顔を真っ赤にして逆ギレ。その子供じみた反論に、場が一瞬凍りつく。強化された姿とは裏腹に、頭脳はまだ小学生レベル。いくらパワーアップしても、これでは完全にガキンチョだ。


 「完全に子供ですね」

「まあ、年相応ですからね……」  


 メイルが呆れたように呟き、エイリーンがため息交じりに頷く。倫子たちも唖然とする中、零夜がハッと何かに気づく。


「しまった! 涼子さんたちがまだ基地に!」


 零夜は涼子、アリス、めぐみ、かなめの四人が基地にいる事を思い出す。彼女たちはパニグレの弱点を探しに向かっていて、今でも基地に残ってその捜索を続けているだろう。

 次の瞬間、空中キックボードに乗った涼子、アリス、めぐみ、かなめが颯爽と登場。その様子だと自力で基地を脱出したらしい。


「お待たせ! 基地の散策、コンプリートしてきたよ!」

「ついでにパニグレの弱点もバッチリ見抜いたから!」


 涼子とアリスのドヤ顔に、零夜たちは興味津々で耳を傾ける。だが、パニグレはギクリと反応し、冷や汗を流しながら恐怖に震える。  


(まさか……アイツらが僕の弱点を見つけた!? このまま放っておけるか!)  


 内心で焦ったパニグレは、三度目の指を鳴らす。すると、ハイランダーランド全体に罠が発動。ゴブリン、インプ、アンデッドのモンスターが次々と湧き出し、涼子たちを狙う。弱点を知られた危機感から、パニグレは本気で彼女たちを排除するつもりだ。  


「やっぱり私たちがターゲットね。こうなったら徹底的にやってやるわ! マネーダッシュをぶち壊した恨み、晴らさせてもらうんだから!」  


 涼子が腕を鳴らし、かなめたちも武器を構えて戦闘態勢に。パニグレへの怒りと責任を取らせる決意が、彼女たちを燃え上がらせる。


「涼子さんたちは本気ね。零夜君、私たちも!」

「もちろんだ! パニグレを野放しになんてできない。ラビーのためにも、アイツを倒す!」  


 日和のウインクに零夜は力強く頷き、紅蓮丸と吹雪丸を両手に握る。ラビーをこれ以上悲しませないため、パニグレを止める。それが皆の共通の決意だ。  

 だが、そこで倫子とエヴァがジト目で零夜ににじり寄る。ラビーの名前に反応し、例の「契約」の匂いを嗅ぎつけたのだ。  


「零夜君。まさかと思うけど、ラビーと契約したんやろな?」  


 倫子の鋭い視線に、エヴァも同じくジト目を向ける。彼女たちのジト目に零夜は冷や汗をかきながら、正直な気持ちでコクリと頷いていた。


「契約しました……」

「そうなん……エヴァ」

「了解!」


 倫子の合図で、エヴァが素早く零夜の背後に回り込み、頭にガブリと噛み付く。お約束の展開と言っても良いぐらいだ。


「ぎゃあああああ!! ごめんなさーい!!」

「その悪い癖、なんとかしなさーい! 勝手に契約すなーっ!」  


 零夜は悲鳴を上げながらダッシュし、エヴァを振り落とそうとするが、彼女はまるでブルドッグの如くしがみつく。だが、その勢いのまま、零夜はなぜかパニグレの方へ突進。そして、渾身の左拳をパニグレの顔面に叩き込んだ。


「ぶっ!」

「「あ」」 


 パニグレは零夜のパンチを喰らって吹っ飛び、地面をゴロゴロ転がる。だが、追い打ちをかけるように、地面から突如現れた人食い植物が彼に噛み付いてきた。


「ぎゃあああああ!!」


 パニグレは悲鳴を上げながら跳び上がり、そのまま地面に真っ逆さまに墜落。まるでギャグ漫画のような展開に、零夜たちはポカン。自分の仕掛けた罠に自滅するとは、滑稽すぎるとしか言えない。


「まさかこんな展開になるとは……」

「私も完全に想定外……」  


 呆然とする零夜たちをよそに、ボロボロのパニグレが立ち上がる。屈辱と怒りで顔を真っ赤にし、ボルテージは限界突破だ。  


「よくも僕をコケにしてくれたな……ぶっ殺してやる!!」  


 パニグレの怒りの咆哮と共に、モンスターたちが一斉に動き出す。ハイランダーランドの恐怖の舞台で、壮絶なラストバトルが幕を開けたのだった。

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