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第155話 ハイランダーランドでの決戦

 零夜たちとパニグレのラストラウンドが火蓋を切った。両軍は一進一退の激闘を繰り広げ、戦場であるハイランダーランドは炎と衝撃で震えている。あちこちに仕掛けられた罠が不気味に起動し、油断は死を招く。


「罠がある以上、油断は禁物。逆に相手を罠に誘えばこっちの物よ」

「それなら挑発ね。私に良い考えがあるわ」


 トワの説明を聞き、涼子は電光石火のひらめき、即座に女性メンバー全員を集める。彼女が大胆な作戦を明かすと、ほとんどのメンバーが頬を真っ赤に染めてしまった。その様子だと恥ずかしいのは確実であるだろう。


「その内容でやるの!? 恥ずかしくてできないわよ!」

「モンスターたちの数を減らすなら、それしか方法はないからね」

「うう……やるしか無いですね……」


 エイリーンたちは羞恥心を押し殺し、涼子の奇策に渋々同意。彼女たちは即座に横一列に整列し、ペチン! ペチン! とリズミカルにお尻を叩き始める。子供の遊びのような姿だが、作戦の成功のためにはこれが最適解だ。


「「「やーい! やーい! お猿のお尻は真っ赤っ赤ー!」」


 涼子たちの挑発が火をつけてしまい、モンスターたちは怒りに我を忘れてしまう。そのまま血走った目で一斉に彼女たちに殺到するが、足元に巧妙に隠された罠が次々と発動した。

 スケルトンは観覧車から放たれたミサイルの直撃を受け、骨が四散して粉々に砕け散る。ゾンビは巨大な人食い植物にガブリと丸呑みにされ、グチャリと消化されてコインとなって吐き出された。ゴブリンたちは地雷を踏み、轟音と爆炎に飲み込まれ、インプたちは電流トラップの青白い稲妻に貫かれ、痙攣しながら黒焦げに倒れ伏した。


「まさかこんなにも罠が仕掛けられているなんて……」

「やる事がエグいけど、今がチャンスよ!」


 かなめが呆然と立ち尽くす中、エヴァの鋭い号令が響く。モンスターの数が半減した今、総攻撃をするなら今しかない。


「これでも喰らいなさい! フレイムショット!」


 トワは新たな武器「フレイムアロー」を構え、炎の弓矢を疾風の如く連射。矢は灼熱の軌跡を描き、ゴブリンたちを次々と貫く。悲鳴と共に燃え上がるゴブリンたちは、瞬く間に三分の二が灰と化す。


「数が多いとなると、ここはコイツで!」


 日和は巨大な大剣を両手で握り、風を切り裂く勢いで振り回す。見た目は重厚だが、驚くほど軽量な大剣は初心者でも扱いやすい。彼女は柄のオーブに水の雫を投入すると、大剣が青く輝き、水属性の「アクアハンダー」へと進化させた。


「アクアブレイク!」


 水の斬撃が炸裂し、空間を切り裂く巨大な水刃がインプたちを薙ぎ払う。インプは水圧に押し潰され、金貨に変化しながら散乱。残りは僅か十匹となり、恐怖でガタガタ震えるインプたちの目に絶望が宿る。


「こっちこっち!」

「ここまでおいで!」


 めぐみとかなめはマミーなどのアンデッドを挑発し、軽やかなステップで指定の地点へ誘導。アンデッドたちは怒りに任せて追いかけるが、次々とトラップに嵌まる。毒沼に沈み、鉄球に潰され、炎の壁に焼かれる者たち。そこへ倫子たちが猛然と襲い掛かる。


「スカーレットブレイド!」

「アックスブレイク!」

「フレイムクロー!」

「メテオナックル!」

「ハンマードライブ!」

「「ダブルメイドスマッシュ!」」


 倫子の深紅の長剣「マスカーレード」が血のように閃き、アンデッドを両断。エイリーンのロングアックスが地面を割り、衝撃波で敵を粉砕。エヴァの新たな武器「フレイムウルフ」は炎の爪で敵を切り裂き、アイリンの拳は隕石の如く炸裂。ベルのハンマーは雷鳴と共に叩き潰し、メイルとカルアのデッキブラシは旋風の連携で敵を薙ぎ払う。アンデッドは一瞬にして全滅、戦場に静寂が訪れる。


「これで残るはパニグレだけか。奴はアタイが決着を着ける!」

「じゃあ、俺たちは別の場所へ移動する。頼んだぞ、マツリ!」


 ヤツフサは涼子、アリスと共にその場を離れ、罠の解除へと急ぐ。マツリは零夜、ラビーと共に、目の前に立つパニグレと対峙。因縁の終幕が迫る今、容赦は無用だ。


「残るは僕だけか。だったら……こいつで勝負するか!」


 パニグレは両手に蛍光灯を握り、真剣な眼差しでマツリたちを睨む。その構えは、ノーDQのストリートデスマッチを宣言するものだ。


「そっちがその気なら……こっちも本気で行かせてもらうぜ!」


 マツリは疾風の如くパニグレに突進し、跳び上がって強烈な跳び蹴りを繰り出す。しかし、パニグレは冷酷な笑みを浮かべ、彼女の隙を突いて蛍光灯を振り下ろす。鋭いガラスの破壊音が迫ろうとしていて、この光景に誰もが驚きを隠せずにいた。


「危ない!」


 ラビーの叫びが響き、マツリは髪の毛一本の差で蛍光灯を回避。着地と同時に左の前蹴りを閃かせ、パニグレの左手に直撃する。その衝撃で蛍光灯が手から滑り落ち、地面に叩きつけられようとしていた。


「今がチャンスだ!」


 マツリは落ちる蛍光灯を瞬時に掴み、振り上げてパニグレの頭に全力で叩きつけた。破片がキラキラと宙を舞い、パニグレは苦悶の表情でよろめく。


「まだまだ! もう一本の蛍光灯も使わせてもらうぜ!」


 マツリはもう一本の蛍光灯を奪い取り、野球バットのように構える。フルスイングでパニグレの角に直撃。蛍光灯が砕け、破片が火花のように飛び散る。だが、角への攻撃は彼の怒りを増幅させただけだった。


「やっぱり角に攻撃は悪手だったみたいね……まあ、オーガ族だからそうなるけど……」


 ラビーが真剣な表情で呟く中、マツリは追撃のアッパーカットをパニグレの顔面に叩き込む。その衝撃でパニグレは真上に吹っ飛び、地面に仰向けで叩きつけられる。

 マツリは即座に彼の左脚を掴み、回転しながら足首を極める。さらに右膝に左脚の脛を乗せ、自分の左脚でロックした。


「あれは四の字固め! マツリがあんな技を取得するとは……」

「ぐおおおお……」


 零夜は驚愕し、ラビーは両手で口を押さえる。マツリは打撃と投げ技のスペシャリストだが、絞め技の習得は誰も予想できなかった。パニグレは四の字固めの激痛に耐えきれず、悲鳴を上げて悶絶。強化された体も、子供の精神では限界が近い。


「クソ……この僕を舐めるな……こうなったら……第二進化だ!」

「第二進化だと!? マツリ、パニグレから離れろ!」

「おっと!」


 零夜の叫びを聞き、マツリは即座に四の字固めを解き、バックステップで距離を取る。パニグレの身体が黒い煙に包まれ、異形の巨体が現れる。体は巨大化し、禍々しいオーラを放つ怪物へと変貌した。


「こ、この姿って……もしや……」

「「ベヒーモス!?」」

「グオオオオオオオ!!」


 パニグレはダークベヒーモスへと進化し、天地を揺らす咆哮を上げる。戦場は恐怖と緊張に支配され、因縁の戦いは新たな局面へと突入したのだった。

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