目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第156話 マツリの覚悟

 ダークベヒーモスの姿を見た零夜、マツリ、ラビーの三人は、思わず冷や汗を流してしまう。漆黒の巨体から溢れる禍々しいオーラ、地面を震わせる咆哮——パニグレがベヒーモスへと進化するなど予想だにせず、圧倒的な威圧感に息を呑む。苦戦は必至。仲間との合流を待つしかないが、どれだけこの猛獣の猛攻を耐え抜けるかが勝負の鍵だ。


「ここは別の場所に転移だ。ハイランダーランドを破壊する理由にはいかないからな」


 零夜は鋭い目で周囲を素早く見渡し、即座に判断を下す。ダークベヒーモスがこの場で暴れれば、ハイランダーランドは一瞬で瓦礫の山と化す。被害額は計り知れず、仲間たちが稼いだ金でも到底カバーしきれない危機だ。


「そういう事なら私に任せて! ステージ転移!」


 ラビーが電光石火の閃きで反応し、指を鳴らすと同時に魔術の詠唱を開始。空間が歪み、眩い光が辺りを包み込む。

 次の瞬間、零夜たちとダークベヒーモスは一斉に転移——そこはハイランダーランドの上空に浮かぶ広大な戦闘ステージ。無機質で何もない空間が、壮絶な戦いの舞台として広がっていた。


「これなら思う存分戦えるわ。あと、別行動をしている皆にはその事を伝えたから!」

「ありがとな、ラビー。さて……やるからには本格的に倒すとするか!」


 零夜は両手に握る忍者刀を瞬時に変形させ、右手に妖刀「村雨」、左手に聖剣「エクスカリバー」を召喚。現時点で最強の二振りが紫と金の光を放ち、ダークベヒーモスの分厚い装甲を切り裂く準備を整える。

 マツリは光属性の長刀「日輪」を抜き、和製の重盾「月鏡」を構え、ラビーは両手に鋭利なカタールを握り締め、鋭い眼光で敵を見据える。三人は一糸乱れぬ戦闘態勢に突入した。


「小賢しい! まとめて倒してやる!」


 ダークベヒーモスが地響きを立てて突進を開始。巨体が引き起こす衝撃波でステージが揺れ、鋭い爪が空気を切り裂く。だが、零夜たちは軽やかな跳躍でその猛攻を回避。S級クエストで培った経験から、ベヒーモスの行動パターンは既にお見通しだ。


「更にモンスター娘を降臨! ジャスミン、ライラ、ユウユウ!」

「「「はーい!」」」


 零夜がバングルを掲げ、三つのスピリットを解放。光の奔流と共に、ジャスミン、ライラ、ユウユウのモンスター娘たちが現れる。彼女たちは瞬時に主の意を汲み、華麗な連携でダークベヒーモスに襲い掛かる。空気が裂けるような鋭い攻撃が、巨獣の身体に炸裂した。


「ヴァルキリーストライク!」


 ライラが聖剣を振り上げ、雷鳴のような一撃を放つ。剣閃がダークベヒーモスの胸部を直撃し、黒い装甲に深い亀裂を刻む。だが、次の瞬間——傷口から闇の瘴気が溢れ、驚くべき速さで修復が完了。零夜たちはその光景に言葉を失う。


「ダメージが修復していきます!」

「なら、ウチがやる! ハリケーン爆風!」


 ユウユウが翼を激しく羽ばたかせ、竜巻のような突風を巻き起こす。風の刃がダークベヒーモスを切り裂くが、巨獣は微動だにせず、嘲笑うような咆哮を上げる。攻撃はまるで水に流れたかのようだった。


「ウチの攻撃も効かないなんて!」


 ユウユウが愕然とする中、ジャスミンが鋭い直感で異変を察知。ダークベヒーモスの異常な耐久力と修復能力に、何か裏があると確信する。


「零夜。ダークベヒーモスは恐らくイカサマをしているわ! 今までの攻撃を受けて平然としていたのも、必ず裏がある筈よ!」

「そういう事か! だが、涼子さんが弱点を見つけたと言っていたからな。その方法が何か分かれば良いけど……」


 ジャスミンの指摘に零夜は頷き、真剣な表情で思考を巡らせる。涼子たちが知るダークベヒーモスの弱点——その情報が今、喉から手が出るほど欲しい。通信で一刻も早く確認する必要がある。


「すぐにヤツフサさんへ連絡しましょう! 彼は現在、涼子さん、アリスさんと共にいます!」

「了解……ん? ヤツフサからだ!」


 ライラの提案に零夜が応じた瞬間、バングルに通信が着信。零夜は即座にウインドウを展開し、画面にヤツフサ、涼子、アリスの姿が映し出される。


『零夜、マツリ、ラビー。ダークベヒーモスの弱点だが、涼子たちは基地の中である物を見つけた。すぐにそれを』

『ええ』


 ヤツフサの合図と共に、涼子が画面越しに一つの物体を見せる。それは真っ黒に染まった水晶玉——内部に渦巻く闇のオーラが、禍々しい輝きを放っていた。


「これって闇水晶! 奴はそれを使ってパワーアップしていたのか!」

『ええ。叩き壊せば強化解除されるからね。すぐに破壊するから、待っててね!』


 涼子の自信に満ちた笑顔と共に通信が切れ、ウインドウが消滅。だが、その瞬間——ダークベヒーモスが背後から不意打ちを仕掛けてきた。


「後ろががら空きだ!」

「おっと!」


 ダークベヒーモスが口から吐き出した灼熱の炎が、ステージを赤く染める。零夜たちは咄嗟に跳躍し、炎の海を回避。だが、その炎は広範囲に広がり、反応が一瞬遅れれば即座に焼き尽くされていただろう。


「危なかった……」

「これだけだと思ったら大間違いだ!」


 安堵の隙を突くように、ダークベヒーモスが口から放つのは極光のような破壊光線。空間を切り裂く光の奔流は、一撃で全てを消し飛ばす威力だ。直撃すればひとたまりもない。


「そうはさせるか!」


 マツリが月鏡を構え、光線を正面から受け止める。盾が眩い光を放ち、凄まじい衝撃でステージが震動。無謀とも言える行動に、零夜は叫ぶ。


「マツリ! いくら何でも自殺行為だぞ!」

「大丈夫だ、零夜。アタイなら絶対に弾き返せるし、それが自殺行為でも引かないからな!」


 零夜の心配をよそに、マツリは不敵な笑みを浮かべ、揺るぎない覚悟を口にする。彼女の瞳には、どんな絶望にも屈しない炎が宿っていた。


「アタイは故郷の皆を失ってから、一人で過ごしていた。けど……エヴァと再会し、零夜たちと出会い、毎日がより楽しくなる事ができた! アタイにとって零夜たちは家族であり、大切な仲間だ! その答えに……偽りはないんだよ!!」


 マツリが心の底から叫んだ瞬間、彼女の武器とバングルの珠が眩い光を放ち始める。光線がマツリに迫るが、輝く月鏡がそれを完全に弾き返した。光の奔流がダークベヒーモスに逆襲し、巨獣の身体を直撃。轟音と共に爆発が巻き起こり、ステージ全体が揺れる。


「ぐわっ!」


 光線を浴びたダークベヒーモスが苦悶の咆哮を上げ、身体が煙を上げる。その瞬間、修復機能が停止——傷が塞がらず、弱体化が明らかになる。


「ダークベヒーモスの傷が修復できない……涼子さんたちが闇水晶を破壊したんだわ!」

「成功したのか! マツリの方も武器が光った様な……こ、この武器は……!」


 ラビーの報告に零夜が歓喜し、マツリに視線を移す。彼女の武器は一変——日輪は青いオーラを纏う聖剣に、月鏡は赤い輝きを放つ神聖な盾に変化。首には黄色い勾玉の首飾りが輝き、三種の神器の力を宿していた。


「これって三種の神器……アタイもついに覚醒したんだな……へへっ……」


 マツリはバングルの珠を確認——「炎」から「忠」へと変化した文字に、完全覚醒の喜びを噛み締める。だが、戦いはまだ終わらない。目の前には傷つきながらもなお立ちはだかるダークベヒーモスがいる。


「さて……ここから先は地獄行き確定だ。アンタの罪はここで裁かせてもらうぜ! 死んでも自業自得だから恨むなよ?」


 マツリが冷徹に宣告すると、背中から巨大なドラゴンの翼が広がり、尻には鋭い尻尾が生える。竜人の真の姿を解放したマツリは、圧倒的な威圧感を放つ。零夜たちはその神聖かつ猛々しい姿に、ただ見惚れるしかなかった。

 Bブロック基地の戦いは、遂に終盤へ。マツリの因縁とダークベヒーモスの運命が、今、決着の刻を迎えようとしていた——。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?