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第158話 ラビーの決意

 ラビーがようやく泣き止んだ直後、彼女たちは突如その場からハイランダーランドへと強制転移させられた。同時に、ステージと基地は光の粒となって消滅し、ハイランダーランドに仕掛けられていた罠もまた跡形もなく消え去った。パニグレを倒したことで、これらすべてが終焉を迎えたのだ。


「パニグレを倒したことで、すべてが終わったのですね……」

「ああ。今回の戦いは苛烈だったが、これで良かったのかもしれないな……」


 ライラの言葉に、零夜は同意しながら青い空を見上げた。

 パニグレとの戦いは勝利に終わったが、ラビーの大切な家族を奪ってしまった罪悪感が胸を締めつける。今なおそのことを思い出すたび、心の底から苦しみがこみ上げるのだった。

 そこへ、倫子、日和、エヴァ、アイリン、トワ、エイリーン、ヤツフサ、ベル、カルア、メイル、涼子、アリス、かなめ、めぐみの十三人と一匹が駆けつけてきた。彼らもまた戦いを終え、誰一人欠けることなく無事に生還していた。


「お疲れ様! パニグレを見事に倒したみたいね」

「ええ。でも……」


 倫子の笑顔に、零夜は視線を落とし、これまでの経緯を語り始めた。その内容に、倫子たちは呆然とし、ヤツフサに至っては真剣な表情で耳を傾けていた。


「そう……パニグレが……」

「ああ……彼は涙を流しながら後悔していた。だが、これまで犯した罪は消えない。どうすることもできなかったんだ……」


 零夜は真剣な面持ちで語り、倫子たちもまた厳粛な表情で頷いた。パニグレは多くの罪を犯したが、最期には自らの過ちに気づいていた。しかし、その気づきは遅すぎ、哀れな結末を迎えることとなった。同情すべき点もあるかもしれないが、罪を犯した者には厳然たる罰が必要なのだ。


「その通りだ。ラビー、義理の弟だったパニグレは死んでしまったが、これからどうするつもりだ?」


 ヤツフサも零夜の意見に同意しつつ、ラビーに視線を向け、問いかけた。大切な家族を失った彼女の今後を案じ、皆が心配そうに見守っていた。すると、ラビーはヤツフサの前に進み出て、零夜の手を握り、視線を前に向けた。


「私は零夜と契約した以上、彼のそばで戦うわ。パニグレの分まで全力で生きて、夢である機械作りの職人になるんだから!」


 ラビーは笑顔で新たな決意と目標を宣言した。零夜と契約した事で新たな決意を固めているので、その心配は必要ないだろう。

 倫子たちはその言葉に安堵の表情を浮かべ、ヤツフサも頷き、納得した様子を見せた。


「立派な心構えだ。なら、俺たちの心配は杞憂だったな」


 ヤツフサが笑顔で応えた直後、エイリーンがラビーのもとに駆け寄り、彼女の手を取った。同じ機械好きの仲間がいるとなれば、黙っていられなかったのだろう。


「私も機械好きだから、気持ちが分かる! やるなら最高のメカを作りましょう!」

「ええ! 私たちにしかできない最高傑作を作るために!」


 エイリーンとラビーは目を輝かせながら、新たな決意を固め合った。同じ情熱を持つ者同士、互いに刺激し合い、さらなるやる気を燃え上がらせるのは自然なことだ。零夜たちはその様子に唖然とし、ベルたちは苦笑いを浮かべていた。


「ともかく、皆のところに戻りましょう。子役たちがどうなったのかも気になるし」

「そうね。早く戻らないと!」


 ベルの提案に涼子が頷き、彼女たちは太一たちのいる場所へと向かい始めた。これまでの出来事を皆に伝えるだけでなく、子役たちのその後を知るために。


 ※


 零夜たちがハイランダーランドの入口前に到着すると、すでにパトカーと護送車が到着していた。マスコミも駆けつけ、警察に連行される六人の子役たちをカメラで撮影していた。


「すでに警察が来ていたのか……マスコミもいるな」

「人気子役だからね……それにしても、あの子たちが麻薬を持っていたなんて……」

「こうなると報道は避けられないし、芸能界からの引退は確実。哀れとしか言いようがないわね……」


 マツリ、ベル、アイリンは真剣な表情で言葉を交わし、零夜たちもまた静かに頷いた。

 人気子役たちが麻薬所持で逮捕されたことは、芸能界における重大事件として扱われるだろう。活動休止どころか引退は避けられず、最終的には少年院送りとなる運命だ。


「だが、彼らがどうやって麻薬を手に入れたのか気になるな。この件は警察が何とかしてくれるだろう」

「うん……私たちがこれ以上踏み込む理由はないからね」


 零夜の言葉にアイリンも同意し、彼らはその場を後にした。マスコミがいる以上、これ以上詮索すれば質問攻めに巻き込まれ、面倒なことになるからだ。やがてパトカーと護送車も去り、残されたのは太一たちとマスコミだけだった。その後、太一たちがマスコミの取材攻めに遭ったのは、また別の話である。


 ※


 零夜たちは富士山の見える場所に移動し、バングルを通じてウインドウ越しに映るメリアと会話していた。これまでの出来事を聞いたメリアは納得の表情を浮かべ、すぐにパソコンを操作し始めた。次の瞬間、各自の手元に札束が現れた。その重さから、かなりの高額であることが窺える。


『分かりました。今回のクエストをクリアとします。報奨金として、一人当たり八千万ハルヴをお渡しします。また、涼子さん、アリスさん、かなめさん、めぐみさんも協力してくれたので、彼女たちのランクをCに引き上げます!』

「「「やったー!」」」


 メリアの言葉に、涼子たちは跳び上がって喜んだ。報奨金を獲得できただけでなく、ギルドランクも上昇したのだ。マネーダッシュは中止となったが、パニグレとの戦いに参加できたことが、彼女たちにとって大きな喜びだったのだろう。


『そしてラビーさん。パニグレは倒されましたが、あなたは零夜さんと契約しましたね。敵だった義理の弟を失いましたが、これで良かったのですか?』


 メリアは心配そうにラビーに尋ねた。パニグレを失った辛さがまだ残っているかもしれないので、彼女はこの事を心配しているのだ。

 すると、ラビーは前を向き、にっこりと微笑んだ。


「失ったのは辛いかもしれない。でも、私には新しいマスターである零夜がいる。それにライラ、ユウユウ、ジャスミン、八犬士の皆もいるから、寂しくなんてないわ」


 ラビーの笑顔に、メリアは安心した表情を見せた。この様子ならラビーに問題はないと判断し、これ以上の詮索は不要だと考えたのだ。


『それなら安心ですね。今回の任務、お疲れ様でした。ゆっくり休んで、次の戦いに備えてください』


 メリアとの通信が切れ、ウインドウも消滅した。零夜たちは互いに顔を見合わせ、にっこりと微笑み合った。


「ラビーには問題なさそうだし、任務も無事に完了したみたいね」

「ええ。それじゃ、俺たちの家、お台場へ戻ろう!」


 倫子の笑顔に、零夜も笑顔で応え、彼らはお台場へと戻り始めた。ヒノエたちの分まで強く生きる決意を胸に、新たな一歩を踏み出しながら。

 すると、突然、涼子たちが足を止めた。何か大事なことを忘れていたようだ。


「あっ、マネージャーたちと合流しないと!」

「しまった! うっかり忘れてた!」


 涼子、アリス、かなめ、めぐみの四人は、慌ててマネージャーのもとへ向かい始めた。心配をかけたことを謝罪し、これまでの出来事を共有する必要があったからだ。


「俺たちも行かないとな……」

「マスコミがいなければいいけどね……」


 ヤツフサたちも苦笑いしながら、涼子たちの後を追いかけた。誰もがマスコミがすでに帰っていることを心から願っていたのも、無理のない話だった。


 ※


 その後、この事件によってマネーダッシュは御蔵入りでボツとなってしまい、二度とこの様な逃走ゲームは放送される事は無かった。しかし、そのゲームを悪用して新たな事件が勃発するが、それは別の話で明らかになるだろう。

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