零夜、国鱒社長、川本、栗原の四人は、遊園地の雑踏を掻き分けながら敵を探していた。敵は六人いるとされているが、その居場所は不明。各自の能力を駆使し、目的の敵を見つけ出す必要がある。
「こちらのメンバーは索敵がいない分、見回りしながら探す必要があるからな……」
国鱒社長がキョロキョロと周囲を見渡しながら、現在のメンバーを確認する。零夜、川本、栗原の三人。全員が男で、索敵能力を持つ者は一人もいない。チーム編成を誤ったかもしれないが、今さら後戻りはできない。
現在いる場所はジェットコースターのあるエリアだ。
「確かにそうですね。零夜、まだ敵は見つからないのか?」
「さあ……今のところは……ん?」
川本の質問に零夜が答えた瞬間、目の前にクマの着ぐるみが現れた。風船を子供たちに配り、優しげな笑みを浮かべるその姿は、遊園地の雰囲気に溶け込んでいる。
「俺たちの他にも来場者がいますね。こうなると来場者たちの安全も確保しないといけないみたいですね」
「そうだな。けど、風船……いい事思いついた」
「「「?」」」
川本がニヤリと笑い、企みを思いついた様子。零夜たち三人は首をかしげる。川本は着ぐるみに近づき、風船をもらおうと声をかけ始めた。おそらく、風船を使ったイタズラを企んでいるのだろう。
「すいません、僕にも風船を……」
川本が着ぐるみに話しかけるが、相手は首を振って別の子供に風船を渡す。
「へ? どういう事? なんで?」
川本が疑問に思った瞬間、着ぐるみの背中のチャックが勢いよく開いた。中から現れたのは……まさかの黒田だった。
「うわっ! 黒田さん!」
川本は驚きのあまり尻もちをつく。周囲の子供たちはすでにその場を去り、残されたのは川本と黒田だけ。川本は正座させられ、黒田の説教を受ける羽目に。
「お前、風船を使って俺にイタズラしようとしていただろ。お前の企みはお見通しなんだよ」
「なんでこんなところにいるのですか! 今日は任務じゃ無かったのに!」
「うるせぇ、馬鹿野郎!」
黒田の怒号が遊園地に響き渡る中、国鱒社長はスマホを手に動画を撮影していた。この珍事をSNSにアップする気満々のようだ。
「まあ、こうなると思ったが……」
「俺もそう思いました……」
栗原と零夜は呆然としながら、黒田と川本のやり取りを眺める。リング上でもこんな光景は日常茶飯事。お約束の展開と言えるだろう。説教が一段落すると、黒田は川本の首根っこを掴み、零夜たちの元へ近づいてきた。
「ボス、悪いが俺も参加する。目的は川本の悪巧みの阻止、そして……東が藍原と恋愛関係となっている事に気になっているからな……」
「うっ!」
黒田の言葉に、零夜は思わず背筋を伸ばして驚く。いずれこうなることは覚悟していたが、ここで唐突に切り出されるとは予想外だった。
「た、確かに倫子さんとはその関係ですが……エヴァもその一人ですからね……今じゃ二人に挟まれて大変な状況になっていますし、苦労も絶えなくて……本当に困っています……」
零夜がため息混じりに本音を漏らすと、黒田は川本を掴んだまま一歩踏み出し、零夜に迫る。その表情は真顔だが、背筋が凍るような威圧感を放っていた。
「お前な。藍原だけでなく、エヴァにも惚れられているみたいだな。お前の優しい性格が災いを起こしているんだよ。藍原がお前とデートと聞いた時は本当に驚いたが、俺はお前に藍原を任せる理由にはいかないからな」
「う……」
黒田の言葉に、零夜の胸に怒りが湧き上がる。憧れの倫子と一緒にいることを認められない悔しさ。しかし、倫子の師匠である黒田を前に、簡単には逆らえない。だが、零夜も黙ってはいられない。彼は真剣な眼差しで黒田を見つめた。
「では、認めるにはどうすれば? 俺はその理由が知りたいんです」
零夜の真っ直ぐな質問に、黒田は一瞬考える。やがて前を向き、厳かな声で条件を提示した。
「お前はファンキーズとデビュー戦で戦う事になるな。奴らに勝ったら、俺と一騎打ちで戦ってもらう」
「「「一騎打ち!?」」」
黒田の提案に、国鱒社長たちは目を丸くして驚愕する。黒田との一騎打ちは想定外の試練。零夜にとって、まさに鬼門とも言える挑戦だ。誰もが息を呑むのも無理はない。
「ちょっと待ってください! いくら東が八犬士の一人と言えども、アンタが挑んだら滅茶苦茶な展開になりますから!」
「うるせぇ、この野郎!」
川本が慌てて反論するが、黒田の一喝で一蹴される。このお約束の光景に、思わず笑ってしまう者もいた。だが、零夜は真剣な表情で前を向き、黒田に視線を合わせる。その目はすでに覚悟を決めていた。
「分かりました。この勝負を受けます! 俺は貴方方『ダイナマイツ』と戦いたいですし、倫子さんを守る覚悟を証明してみせます。それに……あなたとは何れにしても、リングの上で決着を着けたいと思いました。やるからには容赦なく倒しに向かいます!」
零夜は拳を突き出し、黒田に宣戦布告。その声には揺るぎない決意が宿り、真っすぐな目をしていた。覚悟は既に出来ている以上、やるからには容赦なく倒しに向かうだろう。
黒田もまた、納得の笑みを浮かべ、同じく拳を突き出す。零夜の覚悟は十分に伝わっているので、こちらも本気で立ち向かう覚悟だ。
「いい度胸だ。それまで絶対に死ぬんじゃねえぞ」
「ええ。必ず!」
零夜と黒田の間に火花が散り、一触即発の緊張感が漂う。まさに因縁の対決である以上、今後の展開に注目が走るだろう。
川本と栗原は息を呑み、国鱒社長は興味深げにその光景を見つめていた。
(東と黒田さんの因縁決戦。これは面白くなりそうだな……)
国鱒社長が心の中で興味深そうに呟いた瞬間、どこからか足音が響く。零夜は足音による違和感に気付き、鋭く視線を足音の方向へ向けた。
「どおりで違和感があると思ったが、まさかアンタが来るとはな……アカネ!」
零夜が叫んだ瞬間、アカネと呼ばれた女性が姿を現す。彼女は暴走族ズボンとさらしを着用していて、妖のオーラが周囲を漂わせていた。
「まさかアタイが来るとは分かっているみたいだな。だが、ここがアンタらの墓場になる。生きるか死ぬかの命がけのタイマン……張らせてもらうぜ!」
アカネはすでに臨戦態勢に入り、鋭い眼光で零夜たちを睨みつける。零夜たちも即座に警戒態勢に入り、真剣な表情でアカネと対峙した。