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第174話 零夜VSアカネ

 零夜は鋭い視線をアカネに向け、慎重に距離を詰めていく。空気は一触即発の緊張感に包まれ、戦いの火蓋が切られるのは時間の問題だと誰もが感じていた。栗原たちが息を呑んで見守る中、緊迫した雰囲気がその場を支配していた。


「まさかそっちから近付いてくるとはな。もしかして俺を倒しに来たのか?」


 零夜は真剣な眼差しをアカネに投げかけ、低く響く声で問いかける。アカネは小さく頷き、鋭い視線で零夜を射抜いた。彼女の瞳には、闘争心が燃え盛る炎のように宿っているのだ。


「そうだ。アタイは強い奴と戦うのが好きなのでね。特に零夜って奴には興味を持ってるからな。アンタとの一騎打ち、楽しみで仕方ねえ!」


 アカネは零夜を指差し、闘志をむき出しにしながら一騎打ちを熱望する。彼女の声はその場全体に響き渡り、まるで遠くまで届くかのような迫力があった。彼女のバトルジャンキーな性格は、かつて零夜と初めて対峙したマツリを彷彿とさせる。

 マツリもまた、初対面で零夜に戦いを挑み、火花を散らした過去があった。この展開は二度目だが、売られた喧嘩を零夜が買わないはずはない。


(そう言えば、マツリもそうだったな……初めて出会った時、俺に真っ向から戦いを挑んできた。あの時も熱かったが、アカネが相手ならもっと激しい戦いになるだろうな……)


 零夜はマツリの記憶を一瞬だけ呼び起こし、すぐに戦闘態勢へと切り替える。アカネの熱い挑戦を受けた今、退く選択肢は存在しない。


「その喧嘩、受けてやるよ。だが、プロレスで勝負だ!」


 零夜が指を鳴らすと同時に、突如としてリングが現れる。まるで魔法のように地面から隆起したそのリングは、鋼鉄のロープと硬質なマットで構成され、戦いの舞台として圧倒的な存在感を放っていた。

 零夜は一瞬の迷いもなくリングに向かい、華麗なドラゴンリングインでロープを飛び越え、観客がいないにも関わらず堂々とした入場を果たす。リングの中央で仁王立ちする彼の姿は、まるで戦神そのものだった。


「プロレスか。良いね! やってやるよ!」


 アカネも負けじと拳を打ち鳴らし、高く跳躍しながらリングイン。彼女の動きは狐のようにしなやかで、リングに足を踏み入れた瞬間、観客がいなくとも会場全体が熱気に包まれた。プロレスの知識をある程度持つアカネにとって、この舞台は彼女の闘争心を最大限に引き出す場所だった。

 無観客の会場ではあるが、空中を舞うドローンカメラが二人の動きを克明に捉え、配信を通じて遠くの観客たちが零夜を熱狂的に応援しているはずだ。


「まさかプロレスで戦うことになるとはな……こうなるとレフェリーが必要だな」


 この光景を見守っていた国鱒社長が感嘆の声を漏らすが、すぐにレフェリー不在に気付く。プロレスにレフェリーは不可欠だ。

 ちょうど自らレフェリー役を買って出ようとした瞬間、リング上に眩い光とともに魔方陣が展開した。


「リング上に魔方陣!?」

「一体どういう事だ!?」


 国鱒社長や仲間たちが驚愕する中、魔方陣からメリアとツバサが降臨する。二人はまるで神々の使いのように現れ、プロレスの実況とレフェリーとしてこの場に駆けつけてきたのだ。


「さあ、いよいよ始まります! Aブロック基地でのプロレスバトル! 東零夜VSアカネ、果たして勝つのはどちらなのか!? 実況は私、メリア!」

「レフェリーはこの僕、ツバサでお送りします!」


 メリアの張りのある声が会場に響き、ツバサの堂々とした宣言が続く。栗原たちはこの突然の展開に唖然とし、ポカンと口を開けてしまう。まさか実況とレフェリーが魔法陣から現れるとは誰も予想していなかった。

 国鱒社長は二人の姿を見て、ある記憶を呼び起こす。


「あっ! あいつらは零夜率いるブレイブエイトの試合で、実況とレフェリーを務める二人だ!」

「マジですか!? そんな人たちがいたなんて驚きました……」


 川本が驚きの声を上げる中、メリアはリングから降り、国鱒社長たちに近づく。どうやら解説を務めるヤツフサが不在のため、代役を探しているようだ。


「すみません。誰か解説をお願いできますか? ヤツフサさんがいないので」

「なら、俺がやろう。解説は何回もやってるからな」

「お願いします」


 国鱒社長は即座に解説を引き受け、メリアの隣に移動。リングに立つ零夜とアカネに視線を移す。二人はすでに闘志をみなぎらせ、互いに一歩も引かぬ覚悟を決めた戦士の姿そのものだった。


「さて、解説はBDWの社長である国鱒雷電さんです! 今回はよろしくお願いいたします!」

「よろしく。ブレイブエイトのプロレスの試合を解説するのは初めてだが、零夜がどんな活躍を見せるか楽しみだ。さあ、ゴングを鳴らせ!」

「おう!」


 国鱒社長の合図で黒田がゴングを鳴らすと同時に、アカネが獣のような勢いで零夜に襲いかかる。彼女の腕はラリアットの形に構えられ、その一撃はリングを揺らすほどの威力を持っていた。


「なんの!」


 零夜は瞬時に身を屈め、アカネのラリアットを紙一重で回避。そのまま流れるように跳び上がり、強烈な回し蹴りをアカネの脇腹に叩き込む。しかし、彼女もまた素早くバックステップでかわし、両者は一瞬にして距離を取って戦闘態勢を整えた。リング上には、まるで雷鳴のような緊張感が漂い、誰もが息を呑む瞬間だった。


「アタイのラリアットを回避するとはな……なら、これでどうだ!」


 アカネは一気に加速し、雷のようなタックルを繰り出す。だが、零夜はサイドステップで軽やかに回避し、アカネの背後を取ると、強烈なドロップキックを背中に叩き込んだ。アカネの身体がリングマットに叩きつけられ、会場に鈍い衝撃音が響き渡る。


「決まった! 先手は零夜のドロップキック! この一撃はまるで鉄槌のようだ!」

「東は異世界での経験を活かしたな。見事な先制攻撃だ!」


 メリアの興奮した実況に、国鱒社長が冷静な解説を重ねる。しかし、アカネはすぐさま反撃に転じる。彼女は素早く立ち上がり、零夜に向かって全力のスピアータックルを放つ。その衝撃は零夜をリングの端まで吹き飛ばし、彼の背中がロープに激しく叩きつけられた。さらにその反動で弾かれた零夜に、アカネのラリアットが直撃。会場に轟く衝撃音が、戦いの苛烈さを物語っていた。


「がはっ!」

「東!」


 川本が叫ぶ中、零夜はリングに叩きつけられる。だが、彼はすぐに立ち上がり、闘志を燃やす。アカネの攻撃は確かに強烈だったが、異世界での戦いやプロレスの経験が彼を支えていた。


「なんて事だ! スピアータックルからのラリアット! アカネ、恐るべき強敵だ!」

「Aブロック基地の強者とは聞いていたが、ここまでとはな……他の八犬士でも苦戦は必至だ」


 メリアの実況に、国鱒社長が真剣な表情で頷く。零夜はラリアットのダメージを振り払い、すぐに戦闘態勢を整える。


(流石はAブロック基地の強敵……今のは完全に喰らったが、ここからは本気で行くぜ!)


 零夜は心の中で闘志を燃やし、アカネに鋭い視線を向ける。アカネもまた、獰猛な笑みを浮かべながら零夜を見つめ返す。


「ほーう。まだまだやるってか。次はこいつで行くぜ!」


 アカネが零夜の身体を掴もうと飛びかかるが、零夜は素早く背後に回り込み、彼女の腰をガッチリとホールド。そのまま後方へ反り投げ、ジャーマンスープレックスでリングマットに叩きつける。マットが震えるほどの衝撃に、ドローンカメラがその瞬間を克明に捉えた。


「ジャーマンスープレックス炸裂! そのままホールドでフォールだ!」

「1、2!」


 ツバサがマットを叩きながらカウントを進めるが、アカネはツーカウントで肩を上げる。彼女は素早く立ち上がり、ニヤリと笑いながら零夜を見据えた。


「まさかジャーマンスープレックスを繰り出すとはやるじゃねえか。こうなったらとことん殴り合うしかねえよな?」


 アカネの挑発に、零夜もまた闘志を燃やす笑みで応じる。彼もまた、強い相手との真っ向勝負を望む戦士だった。


「俺もだ。やるなら容赦なく倒しに行くぜ!」


 零夜は拳を打ち鳴らし、リング全体に響く気迫を放つ。ここまで来たら一歩も引かず、最後まで戦い抜く覚悟が彼を支配していた。


「東、気をつけろ! 奴は手強いが、お前ならやれる! 自分に自信を持て!」

「ありがとうございます、兄貴! ここから先は……本気で行かせてもらうぜ!」


 川本の声援を受け、零夜は一気に加速。アカネもまた、素早い動きをしながら突進する。二人の戦士がリングの中央で激突し、無観客の会場はまるで満員のスタジアムのような熱狂に包まれていく。試合はさらに苛烈さを増し、両者の意地と力がぶつかり合う壮絶な展開へと突き進んでいくのだった。

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