リングの上では、アカネが傷だらけの身体を震わせながら、ゆっくりと立ち上がった。汗にまみれた顔は、なおも不屈の闘志を宿している。彼女はよろめきながらも、勝者である零夜の前に進み出ると、彼の手を力強く握った。その瞬間、アカネの唇にニッコリとした笑みが浮かぶ。
「アンタの勝ちだよ。アタイを倒すなんて、驚いたぜ。今後はアンタと共に戦うことを決意する。死んでしまった仲間たちのためにも、ここで死ぬ理由にはいかないからな。」
その言葉に、零夜の瞳が鋭く光った。彼はアカネの言葉に何かを感じ取ったかのように、わずかに眉を寄せ、慎重に尋ねた。
「仲間……ひょっとして、暴走族集団『爆走妖狐』のことか?」
アカネはコクリと頷き、目を潤ませながら答えた。彼女の瞳には、失った仲間たちの面影が浮かんでいるようだった。涙が頬を伝い、地面に落ちる。
その姿からは、アカネがどれほど深い悲しみを抱えているかが伝わってくる。忘れられない痛みと屈辱が、彼女の心を締め付けていた。
「ああ……あのベティとメディにやられたからな……あの時の屈辱は、絶対に忘れられねえ……!」
アカネの声は震え、握り潰した拳が白くなるほど力が入っていた。彼女の脳裏には、あの日の光景が鮮明に蘇っていた。仲間たちが無残に散っていった、あの絶望的な瞬間が――。
※
ハルヴァス南部のカラル荒野。乾いた風が砂塵を巻き上げ、荒涼とした大地に緊張の空気が漂っていた。
そこでは、暴走族集団「爆走妖狐」のメンバーたちが、ベティとメディの二人と対峙していた。空気はまるで火薬庫のように張り詰め、一触即発の雰囲気が辺りを支配している。いつ戦闘が始まってもおかしくない状況に、誰もが息を呑んでいた。
「テメェら。アタイらを倒そうとするみたいだが、爆走妖狐を敵に回した時点で終わりなんだよ。」
アカネは人差し指を天に突き上げ、ベティとメディを挑発するように叫んだ。彼女の声には、仲間たちと共に築き上げた誇りと自信が込められていた。だが、対するベティとメディは余裕の笑みを浮かべ、まるでアカネたちの抵抗を嘲笑うかのようだった。
「それはこっちのセリフだからね! 暗黒滅破!」
ベティが鋭い声を上げると同時に、彼女の手から黒い衝撃波が迸った。轟音が荒野を切り裂き、爆走妖狐のメンバーに直撃する。
「「「うわっ!」」」
衝撃波は容赦なく彼らを吹き飛ばし、地面に叩きつけた。次の瞬間、彼らの身体は光の粒となって儚く消滅。まるで最初から存在しなかったかのように、跡形もなく消え去った。
「嘘だろ……! 一撃で倒されるなんて……!」
「何かの間違いだろ!?」
生き残ったメンバーたちは、目の前の光景に言葉を失った。仲間たちが一瞬で消滅した事実に、動揺が隠せない。彼らは自分たちがとてつもない敵と対峙してしまったことを悟り、恐怖が全身を支配し始めた。だが、今さら逃げ出すことはできない。後悔するには、すべてが遅すぎた。
「まだまだ! エンシェントドラゴン、降臨!」
メディが指を鳴らすと、地面が激しく揺れ、巨大な影が荒野を覆った。次の瞬間、漆黒の鱗を持つエンシェントドラゴンが召喚される。ドラゴンは咆哮を上げ、口を大きく開くと、眩い破壊光線を放った。
「まずい! 逃げるしかないぞ!」
「まだ死にたくない!」
「お母ちゃん!」
メンバーたちは必死に逃げようとしたが、光線はあまりにも速く、正確だった。彼らを飲み込むように直撃し、跡には黒い焦げ跡だけが残された。荒野に響く悲鳴は一瞬で途絶え、静寂が訪れる。
「そ、そんな……メンバーの皆が一瞬で……」
アカネは冷や汗を流しながら、膝をついた。仲間たちが全滅した光景に、彼女の心は凍りついていた。たった二人にここまでやられるとは、想像すらしていなかった。恐怖で身体がガタガタと震え、足が動かない。それでも、彼女の心の奥底では、仲間を失った怒りが燃え上がっていた。
「畜生! よくもアタイの仲間を!」
アカネは恐怖を振り払い、怒りに燃える瞳でベティとメディを睨みつけた。彼女は一歩も引かず、拳を握り締めて二人に突進した。
だが、ベティとメディはニヤリと笑い、軽やかに動き出す。次の瞬間、彼女たちは息の合った動きで強烈なハイキックを繰り出し、アカネの顔面に直撃させた。
「がは……」
アカネは前のめりに倒れ、地面に叩きつけられた。激しい痛みが全身を駆け巡り、意識が遠のいていく。ベティとメディは倒れたアカネを見下ろし、冷酷な笑みを浮かべていた。
※
「そして目が覚めたら、アタイは奴らの奴隷となってしまった。幸い奴隷紋はついていなかったが、奴らに従うなんて……屈辱的過ぎる……ヒック……ヒック……」
アカネは過去の出来事を語り終えると、声を詰まらせて泣き出した。彼女の活発で男勝りな性格も、この屈辱には耐えられなかった。涙が止まらず、肩が震える。彼女の心は、仲間を失った悲しみと、奴隷として生きた屈辱でズタズタだった。
その姿を見た零夜は、静かにアカネに歩み寄ると、そっと彼女を抱き締めた。彼の目は決意に満ち、魔術を唱える準備をしていた。
「大丈夫だ、アカネ。その件については俺が何とかする。」
「何とかするって……どうやってやるんだ?」
アカネが涙声で尋ねると、零夜は自信に満ちた笑みを浮かべた。
「まあ、見てな。モンガルハント!」
零夜の言葉と同時に、彼の全身から淡い光が溢れ出した。その光はアカネを包み込み、まるで暖かな春の陽射しのように彼女の心を穏やかに照らした。
(この光……穏やかで、心が落ち着いていく……)
アカネは光の中で目を閉じ、深い安らぎを感じていた。その瞬間、彼女の奴隷契約が書き換えられていく。ベティとメディに縛られていた呪縛が解け、零夜へと新たな絆が生まれたのだ。
光が収まると、アカネは零夜から離れ、晴れやかな笑顔を見せた。
「ありがとな、零夜。アンタがいなかったら、アタイはずっと奴らの奴隷のままだった。今後はアンタの力となって、共に戦うぜ。宜しくな!」
「ああ! こちらこそ!」
二人は力強く握手を交わし、新たな主従契約を結んだ。これで零夜は、ヴァルキリーのライラ、ハーピーのユウユウ、オーガとアルラウネのハーフのジャスミン、ラビットヒューマンのラビー、ドラゴンのティアマト、そしてアカネを加え、六人のモンスター娘を仲間にしたのだ。
その時、リングの脇では別の騒動が起きていた。
「あいつは女性に優しい心を持っているからな……僕もモンガルハントを覚えれば……」
川本が呟きながら、零夜の魔術に憧れの視線を向けていた。だが、その背後から黒田が忍び寄り、川本の頭をガッチリと掴んだ。黒田の目はギロリと光り、背中からは鬼のようなオーラが漂っている。
「お前な。仲間を増やして俺を倒そうとしているのか? それ覚えたら分かっているだろうな……」
「い、いや、決してそんな事は……黒田さんにイタズラしようとは……」
「うるせぇ、この野郎!」
川本の慌てた弁明を無視し、黒田が大声で一喝する。このやり取りに、栗原と国鱒社長は腹を抱えて笑っていた。
DBWでは、この二人の掛け合いが名物の一つとなっており、観客たちも大爆笑で応えているのだ。
「いつもの事なのか、あれ?」
アカネが不思議そうな顔で零夜に尋ねた。仲間同士がこんな風に喧嘩する光景は、彼女にとって新鮮だった。
「ああ。あの二人はいつもこんな仲だからな。このやり取りは……当分終わらないかもな。」
零夜は苦笑いを浮かべながら、川本と黒田の騒動を眺めた。喧嘩するほど仲が良いという言葉があるが、果たしてこの二人に当てはまるのかどうか、アカネにはまだ分からない。だが、リングに響く笑い声と、仲間たちの絆を感じるこの瞬間が、彼女に新たな希望を与えていたのだった。