倫子、日和、メイル、ヤツフサの四人は、コーヒーカップが点在するエリアを慎重に進んでいた。この一帯は敵の気配が薄いものの、油断すれば一瞬でやられる危険が潜む。風がそよぐ中、彼女たちの足音が静寂を切り裂く。
「この辺りに敵はいない。だが、いずれにしても油断禁物だ。その事を頭に入れ込む様に」
「ええ。けど、零夜君と一緒に行動したかったな……」
ヤツフサの冷静な忠告に、倫子は頷きつつも、どこか寂しげな表情で人差し指を口に当てる。彼女の心は、零夜と共に行動したかった想いに揺れていた。だが、くじ運の悪さでこのチーム編成に。仕方ないとはいえ、倫子の胸には小さなため息がこぼれる。
「まあまあ……取り敢えずはコーヒーカップに向かいましょう。そこで楽しむのもありですから」
「そうですよ。ほら、あそこに目的のアトラクションがありますので」
日和とメイルが苦笑いしながら倫子を励まし、遠くにそびえるコーヒーカップを指さす。だが、その乗り物には客が一人もいない。不気味な静けさが漂い、異様な雰囲気が辺りを包む。
「コーヒーカップか……確かカップルとしては人気のアトラクションと言われているわね……それなら……」
倫子はオーバーオールの胸ポケットに手を突っ込み、ごそごそと探り始める。彼女のオーバーオールの胸ポケットは、何でも収納可能なマジカルポケットだ。ちなみに、ベルやメイルのオーバーオールにも同様のポケットが備わっている。
「マジカルルアー!」
倫子が取り出したのは、釣り竿のような道具。だが、先端には手づかみハンドがぶら下がり、普通の釣り竿とは一線を画す。魚釣りならぬ、どんな獲物でも捕まえることができる秘密兵器だ。
「何ですか? この釣り竿は?」
「マジカルルアーは狙った獲物を捕まえる事ができるの。どんなに遠くから離れていても、必ず捕まえる事ができるからね。では、早速……」
メイルの質問に、倫子は自信たっぷりに笑う。獲物を捕まえようとマジカルルアーを振り上げようとしたその瞬間、地面を震わせる不気味な足音が響き渡る。彼女たちが警戒しながら振り向くと、ゾンビ、スケルトン、ダーククラウンの大群が姿を現していた。
敵は牙を剥きながら骨を鳴らし、不気味な笑みを浮かべながら、彼女たちに襲いかかろうとしていく。こうなると戦うしか方法はないだろう。
「まさか襲い掛かってくるとはね……こうなったらやるしかあらへん!」
倫子はマジカルルアーを瞬時にポケットへとしまい、鋭い眼光で敵を睨む。三人は一斉に武器を構え、戦闘態勢へ。倫子は巨大な方天画戟を握り、日和はオートマチックリボルバーを基にした「シャインスチーマー」を両手に、メイルはマジック道具を手に、敵の群れに突進した。
「せっかくの企みを邪魔してくれたな、アホンダラ!
倫子の怒りが爆発し、方天画戟が雷鳴のような唸りを上げて弧を描く。強烈な一撃はゾンビたちを上下真っ二つに切り裂き、光の粒となって次々と消滅。地面にはゾンビパウダーと金貨が散乱し、倫子はすかさずそれを拾い上げる。
「このゾンビパウダー……そうだ! あれに使えるかも!」
倫子はマジカルグローブに視線を落とし、そのオーブにゾンビパウダーを擦りつける。オーブが禍々しく光り、グローブは濃い緑色に変貌。「ゾンビグローブ」が誕生した。これを使えば、ゾンビや死霊、さらにはアンデッド系のモンスターを召喚できるのだ。
「さあ、ゾンビたちよ! 一斉に姿を現して!」
倫子が右腕を高く掲げると、地面が割れ、ゾンビたちが次々と這い出してくる。驚くべきことに、彼らはプロレス技を繰り出し、敵のゾンビをスープレックスやパイルドライバー、さらにはラリアットで叩きのめしていた。
「何故ゾンビがプロレス技を?」
「もしかすると私の影響かも知れないけどね……」
ヤツフサがジト目で問うと、倫子は照れ笑いしながら答えていく。彼女が現役プロレスラーである以上、召喚されたゾンビがプロレス技を繰り出すのも、どこか彼女らしい展開だった。
「ゾンビがプロレス技をするのは意外だけど……私も負けられないんだから!」
日和は一瞬苦笑いし、すぐにシャインスチーマーを構える。銃口から放たれる光の魔法弾がスケルトンたちを直撃し、爆発音とともに骨と金貨だけが残る。
「スケルトンの骨か。早速使ってみないとね!」
日和は武器を大剣に切り替え、骨をオーブに吸収させる。大剣は「ボーンブレイカー」へと進化。白く輝く骨の刃が、禍々しい美しさを放つ。
「悪くないかもね。よし!」
日和はボーンブレイカーを振り回し、敵を次々に粉砕。敵は素材と金貨に変わり、その数はみるみる減っていく。彼女の動きはまるで戦場の舞踏のように華麗で、しかし容赦ない。
「ラストは私が! それっ!」
メイルはヨーヨーを巧みに操り、ダーククラウンに次々と命中させる。だが、ダーククラウンは倒れてもすぐに立ち上がるタフさを見せる。
「甘いです! 私はこれで終わると思ったら大間違いです!」
メイルはマジカルポケットから爆弾を取り出し、連続で投擲。爆発の衝撃波がダーククラウンを飲み込み、光の粒へと変える。地面にはサーカス帽子、サーカス道具、大量の金貨が散らばった。
「これで全部です!」
「ふう……無事に終わったみたいやね」
メイルが指を鳴らし、ピースサインをしながら笑顔の勝利宣言。倫子と日和は武器を下ろし、安堵の息をつく。ここのエリアの敵は全て一掃され、コーヒーカップは再び静寂に包まれた。
「さてと、マジカルルアーで零夜君を捕まえないと!」
「誰を捕まえるって?」
「そ、その声……」
倫子がポケットに手を伸ばそうとした瞬間、背後から声が聞こえる。振り返ると、零夜、国鱒社長、黒田、栗原、川本が立っていた。彼らはジェットコースターエリアの敵を倒した後、新たな敵を求めてこのエリアにやってきたのだ。ちなみに、アカネはワンダーエデンで傷を癒している。
「零夜君! もう戦いは終わったの?」
「ええ。アカネについては仲間にしましたが……」
零夜の報告に、倫子の目がギラリと光る。黒田たちはその眼光に気圧され、冷や汗を流しながら後退。倫子の怒りが爆発寸前であることは明らかであり、巻き込まれたら痛い目に遭うと判断しているのだ。
「零夜君……悪い癖が出たみたいやね……分かっとるんやろうな?」
「は、はい……!」
倫子の鋭い視線に、零夜は冷や汗を流しながら頷く。逆らうとさらなるお仕置きが待っていると悟り、素直に従うしかなかった。
「じゃあ、ウチと一緒にコーヒーカップへ行こうか。丁度お客さんがいないみたいやし」
「コーヒーカップ⁉ うわっ!」
倫子は零夜の手を引き、無人のコーヒーカップへと突進。あまりの勢いに、仲間たちは唖然とするばかり。零夜の自業自得とはいえ、誰もがただ見守るしかなかった。
「なあ……藍原の奴、いつの間にあんな性格になったんだ?」
「ノーコメントでお願いします」
黒田が日和に尋ねると、彼女は冷や汗を流しながら首を振る。その顔には、倫子のこれまでの行動を思い出した恐怖が浮かんでいた。コーヒーカップがゆっくりと回り始める中、戦いの余韻と新たなドラマが、この不思議な遊園地に響き合っていた。