零夜と倫子は、遊園地のコーヒーカップに揺られながら、二人きりの甘い時間を楽しんでいた。晴れ渡る青い空がカップを照らし、遠くで流れる陽気な音楽が雰囲気を盛り上げる。しかし、零夜の心境は複雑そのもの。まさか倫子に誘われてこんな状況になるとは思ってもみなかったのだ。
(倫子さんとコーヒーカップだなんて……憧れの人と一緒なんて夢みたいだけど、こんな近くでこんな事は流石に……!)
零夜は心の中で葛藤しながら、そっと小さなため息をついた。
その瞬間、隣に座る倫子が彼の微妙な表情を捉え、ニヤリと微笑む。彼女は突然、零夜をぎゅっと抱き寄せ、優しく頭を撫で始めた。
「そんな難しい顔したらあかんよ。今はこの瞬間を楽しむんやからね」
「り、倫子さん! ちょ、ちょっと恥ずかしいって……!」
「遠慮なんていらんよ。よしよし、ええ子や」
倫子の柔らかな声と温もりに、零夜の頬は一瞬で真っ赤に染まる。彼女のスキンシップは大胆で、周囲の視線が集まるほどだ。見ている誰もがこの親密な光景に羨望の眼差しを向けるが、女性慣れしていない零夜には刺激が強すぎる。本当は心の底で嬉しさが爆発しそうだが、恥ずかしさがそれを上回り、彼の心は揺れ動く。この状況をどうにか打破するには、零夜自身の勇気が必要だった。
「ほら、せっかくやし、ウチの胸に顔を埋めてみ? ええことあるよ」
「い、いや! そんなことしたら心臓が爆発しますって! 自信ないですし……」
「大丈夫、ウチがなんとかしたるから……」
倫子は妖艶な笑みを浮かべ、ゆっくりと零夜に顔を近づける。その瞬間、彼女の唇が零夜の唇に触れ、柔らかく重なり合った。突然のキスに、周囲からピンク色のハートのオーラが溢れ出し、次々と小さなハートが宙を舞う。この「ハートオーラ」は、異世界の戦いを経た者だけが放つ、愛の真実の証だった。
(倫子さんからのキス!? う、うわ……このままじゃ気絶する……!)
零夜の顔は茹でダコのように真っ赤になり、頭はクラクラ。意識が遠のきそうなその瞬間、突如として空から野太い声が響き渡った。
「ヒョーッ! この恋は認められんぜ!」
「「!?」」
二人は驚いて声の方向を見上げる。そこには、京劇の隈取りを施した男が、別のコーヒーカップの上に華麗に着地していた。上半身は裸で、ボクサーパンツのような派手なトランクスを履いたその姿は、まるで格闘家のようだ。
「何者だ!?」
「俺の名はロンフー! 格闘家の男で、ベティ様とメディ様の忠実な部下だ!」
ロンフーはカンフーポーズを決め、自信満々に名乗りを上げる。その鋭い眼光は零夜を真っ直ぐに捉え、敵意に満ちていた。どうやら彼には零夜に対する個人的な不満があるようだ。
「俺は数え切れんほど失恋を重ね、恋に絶望した! その時、ベティ様とメディ様に出会い、こうしてここに立ってるってわけだ!」
「どれだけ失恋したんだよ……でも、戦うってなら、容赦はしないぜ!」
零夜はロンフーの過去に呆れつつも、双剣「獄卒・血骨鬼」を手元に召喚。鋭い刃を構え、戦闘態勢に入る。どんな相手でも、大切な人を守るためなら倒す覚悟だ。すると、突然コーヒーカップがカタカタと震え始め、地面全体が揺れ動いた。零夜と倫子がカップから飛び降りた瞬間、熱々の温水が勢いよく噴き出した。
「温水だと!?」
「その通り! ここは熱湯噴水地獄だ! 熱々の湯に当たれば火傷間違いなしだぜ!」
ロンフーは余裕の笑みを浮かべ、状況を説明する。零夜は驚きを隠せないが、倫子は冷静に頷くと、双剣「天使の細指」を召喚。刃を握りしめ、ロンフーを睨みつける。
「なるほどね……熱湯噴水地獄か。せっかくのデートを邪魔した罰、たっぷり償ってもらうで」
倫子の瞳がギラリと光り、背中から鬼のようなオーラが立ち上る。彼女の怒りは頂点に達し、デートを邪魔されたことへの苛立ちが抑えきれなかった。この状態の倫子を止められる者はいない。敵にとって、彼女はまさに悪夢そのものだ。
「悪いがその相談には乗れねえ! 覚悟しろ!」
ロンフーはカンフーの構えを取り、倫子に飛びかかる。しかし、倫子の表情は冷酷そのもの。零夜は彼女の鬼気迫る姿に息を呑んだ。
「覚悟しいや、アホンダラ!」
倫子の猛攻は嵐のようだった。双剣「天使の細指」が空を切り裂き、鋭い刃がロンフーを次々と捉える。彼はカンフーの技で応戦しようとするが、倫子の鬼のオーラに圧倒され、まるで子供が大人に挑むような無力さしか感じられない。
「ヒョーッ! こ、この女、なんて力だ……!」
ロンフーが苦しげに叫ぶが、倫子の目はまるで獲物を仕留める猛獣のよう。一瞬の隙も与えず、彼女は双剣を高く振り上げる。
「邪魔者は消えるのが一番や。シャンバラブレイク!」
倫子の叫びとともに、双剣から眩い光が放たれ、巨大なエネルギー波がロンフーを直撃。爆発のような衝撃が辺りを包み、ロンフーの身体は光の粒となって散っていく。残されたのは、キラキラと輝く金貨だけだった。
「ふん、邪魔するからこうなるんやで」
倫子は冷静に金貨を拾い、髪をかき上げながら何事もなかったかのように振る舞う。その姿に、零夜はただ呆然と立ち尽くす。倫子の圧倒的な強さと、怒りに燃える姿に心臓がドキドキと高鳴る一方、「この人に逆らったら終わりだ……」と恐怖も感じていた。
「さ、零夜君。デート続けよか」
倫子はにっこりと微笑み、戦闘の余韻を微塵も感じさせずコーヒーカップへ戻る。零夜は慌てて後を追い、カップに乗り込む。カップが再びゆっくりと動き出し、二人きりの時間が戻ってくるが、零夜の頭は倫子の恐ろしさと魅力でいっぱいだった。
(倫子さんに逆らうなんて……絶対無理。生き延びるためにも、言うこと聞くしかない……)
零夜は心の中で固く誓う。倫子はそんな彼の内心を知ってか知らずか、優しく微笑みながら再び頭を撫で始めた。
「ほら、零夜。さっきの続きしよっか?」
「り、倫子さん! またですか!?」
「ふふ、遠慮せんでええよ。ほら、こっちおいで」
倫子は悪戯っぽく笑い、零夜を胸元に引き寄せる。彼女の着ているオーバーオールの温もりが、零夜の身体全体に伝わっていた。
同時にハートのオーラが再び漂い始め、コーヒーカップは二人の愛を祝福するように揺れる。零夜の顔はまたしても茹でダコのように真っ赤になり、気絶寸前だ。
(なんでこんな目に遭うんだ……もう勘弁してくれ……)
零夜は心の中で助けを求めるが、応じる者はいない。この運命を受け入れるしかなかった。
※
「残りの刺客は四人……それにしてもあの倫子という女、ブレイブエイトの中でもヤバい人としか言えないわね……」
Aブロック基地中央にあるランドコロシアムでは、ベティとメディが現在の刺客の状況をモニターで確認している。彼女たちは倫子の戦いを見て、恐怖心のあまりガタガタと震えていた。
アカネは零夜の手によって仲間となり、ロンフーは倫子に倒された。このままでは全滅するのも時間の問題だが、ベティとメディは余裕の表情をしている。
「けど、まだ刺客は四人いる。果たして無事に倒せるかどうかですね」
「ええ。取り敢えずは様子見としましょう」
ベティとメディは様子見する事を決断し、引き続き刺客たちの様子を確認する。しかし、この時の彼女たちはまだ知らなかった。自身の身体に異変が起きようとしている事を……。