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第181話 恐怖のジャンケン三兄弟

 ベル、トワ、エイリーン、カルアの四人は、メリーゴーランドが佇むエリアを慎重に進んでいた。この一帯は幸いにも敵の気配がなく、彼女たちはリラックスしながら探索を続けていた。


「この辺りには敵がいないか……でも、油断は禁物。気を引き締めないとね」  

「ええ。それにしてもメリーゴーランドか……私、あのアトラクションに乗るとテンション上がっちゃうわ!」


 トワの言葉にベルが頷いた直後、彼女の視線は左手のメリーゴーランドへと吸い寄せられる。  

 ベルにとって、メリーゴーランドは特別な存在だった。初めて遊園地を訪れた数ヶ月前の思い出——色とりどりの馬が回転する中、夢のような時間を過ごした記憶が今も鮮明に残っている。それ以来、遊園地に来たらメリーゴーランドに乗るのが彼女のルールとなっていた。


「ベル様はメリーゴーランドがお好きなのですね。ここでも乗るのですか?」  

「ええ! そうと決まれば、早速!」  

「ちょっと、ベル!」  

「待ってください、ベル様!」


 ベルの足はすでにメリーゴーランドへ向かって動き出していた。トワの制止の声も耳に入らず、彼女は軽やかなステップで駆けていく。だがその瞬間、カルアの鋭い危機察知が働いた。


「ベル様、危ない!」

「きゃっ!」


 カルアは一瞬にして超速で駆け出し、ベルの身体を背後から抱きかかえるように飛びついた。次の瞬間、彼女の背中からロケットブースターが火を噴き、二人は急上昇して空中へ舞い上がる。直後、ベルが立っていた地面に銃弾が炸裂。 カラカラと弾丸が転がる音が響き、地面には焦げたクレーターが残った。あのままだったら、ベルは確実に重傷を負っていただろう。


「今の銃弾……あそこからよ!」


 トワが銃弾の発射方向を振り向くと、そこにはチョキの手形の被り物を被った男が立っていた。スーツ姿は精悍だが、奇抜な被り物がなければ間違いなくイケメンと言えるだろう。


「チッ、失敗か! 運の良い奴だぜ!」


 男が舌打ちしながら悔しがる中、突然その両脇に二人の男が現れる。一人はグーの手形、もう一人はパーの手形の被り物をしている。


「あなたたちは何者なのですか?」


 カルアと共に地面に着地したベルは、真剣な眼差しで男たちを睨みつける。メリーゴーランドに乗る楽しみを邪魔された怒りが、彼女の声に滲み出ていた。


「俺の名前はグースケ」  

「俺の名前はチョキロウ」  

「俺の名前はパーキチ」  

「我らAブロック基地の刺客……」  

「「「ジャンケン三兄弟だ!」」」


 三人は息の合った決めポーズで自己紹介を披露。ベルたちはその滑稽な姿に一瞬唖然とするも、彼らが最後の刺客であることは明白だった。


「まさか変な姿の彼らも刺客とはね……こうなったら三対三で戦うしかないわ! カルアは援護をお願い。トワとエイリーンは私と共に戦うわよ!」


 ベルは両手をパンと打ち鳴らし、戦闘態勢に突入。トワたちに指示を出しながら、鋭い眼光で敵を見据える。トワとエイリーンはコクリと頷き、素早くそれぞれの位置に散った。


「まさかここで三対三のバトルになるとはね……」  

「でも、ここまで来た以上、勝つしかない! 絶対にやっつけましょう!」


 トワは苦笑いしながらも弓を構え、エイリーンは気合を込めてロングアックスを握り締める。刺客が現れた以上、倒す以外に道はない——二人は心の中でそう決意していた。


「私は援護の態勢に入ります! カルア様がピンチの時は助けます!」  

「危なくなったら頼むわね!」


 カルアは巨大なハンマーを構え、鋭い視線で周囲を警戒。ベルは力強く頷き、仲間との連携を確認する。相手は奇抜な見た目だが、強敵であることは間違いない。エリア全体に緊迫感が漂い、戦闘の火蓋が今まさに切られようとしていた。


「行くぞ! まずは俺からだ!」


 グースケが雷鳴のような咆哮を上げ、地面を蹴って突進。拳を振り上げた瞬間、闇のオーラが渦巻き、拳がみるみるうちに巨人サイズへと膨れ上がった。


「拳が巨人サイズ!?」  

「喰らえ! ジャイアントグーパンチ!」


 グースケの拳が空気を裂き、轟音とともにトワへ襲いかかる。その威力は、普通の人間なら一撃で遠くの国まで吹き飛ばされそうなほどの破壊力だ。


「ぐはっ!」


 トワは咄嗟に身をよじったが、拳の衝撃波に巻き込まれ、地面を転がる。しかし、彼女は即座に体勢を立て直すと、弓を引き絞り、鋭い眼光でグースケを捉えた。


「はっ! 負けるもんですか!」


 トワが放った矢は、火薬を仕込んだ特別製。矢がグースケの巨大な拳に命中した瞬間、轟音と共に爆炎が広がり、地面を揺らす大爆発を巻き起こした。


「ぐおっ! やるじゃねえか!」


 爆発の衝撃でよろめくグースケ。巨大な拳は元のサイズに戻り、彼は痛みに顔を歪めながらも闘志を燃やす。


「その爆発の矢、火薬をたっぷり仕込んだ特注品よ!」  

 トワはウインクしながら余裕の笑みを浮かべる。鏃に詰め込んだ火薬の量は、通常の数倍。爆発の威力も桁違いだった。


「よくもグースケ兄者を! お前は俺がぶっ倒す! チョキビーム!」


 チョキロウが怒りに燃え、チョキの手形を振りかざす。右手を突き出した瞬間、人差し指と中指から眩い光線が放たれ、鋭い軌跡を描いてエイリーンたちに襲いかかる。一撃で大ダメージを負う危険な技だ。


「そうはさせません! 創造魔術、ミラーシールド!」


 エイリーンが叫び、新スキル「創造魔術」を発動。彼女の手から光が溢れ、瞬時に巨大なミラーシールドが前方に展開される。チョキロウの光線はシールドに弾き返され、逆方向へ跳ね返った。


「ギャアアアアア!」


 自らの光線を浴びたチョキロウは、悲鳴を上げて前のめりに倒れ込む。自分の技で自滅するとは、なんとも哀れな結末だ。


「こうなったら俺が相手だ! 全員まとめて張り倒してやる!」


 パーキチが吠え、両手を巨大化させると、地面を揺らす勢いで両手を振り上げる。トワたちを一撃で潰す気満々だ。


「その手なら私に任せて! 良いアイテムがあるから!」


 ベルはオーバーオールのマジカルポケットに手を突っ込み、ゴソゴソと何かを取り出す。彼女の巨乳と裸ロングオーバーオールの姿は、周囲の視線を釘付けにするほどの魅力だったが、ベル本人はそんなことに気づかず戦闘に集中していた。


「爆弾ラジコン! いくわよ!」


 ベルが取り出したのは、爆弾とラジコン。彼女は素早く爆弾を地面に設置し、ラジコンを巧みに操縦。爆弾は地面を滑るように加速し、パーキチに向かって突進した。


「し、しまった!」


 パーキチが反応する間もなく、爆弾はジャンプし、彼の胸元で炸裂。爆炎と衝撃波がエリアを包み、パーキチは黒焦げになりながら地面に倒れ込んだ。巨大化した両手も、いつの間にか元のサイズに戻っていた。


「よくもやってくれたな! こうなったら合体だ! チョキロウ、パーキチ、準備しろ!」


「「おう!」」


 グースケの号令一下、チョキロウとパーキチは驚異的な回復力で立ち上がる。三人は円陣を組み、融合の準備を整えた。


「融合発動!」


 三人の身体が眩い光に包まれ、一つの存在へと融合していく。光が収まると、そこには新たな姿が現れた。手の被り物を被り、半袖シャツと半パンという軽快な格闘スタイル。シャツにはジャンケンのマークが輝き、背中からはヒーローオーラが迸っていた。


「これぞジャンケンマン! さあ、ここからが地獄の始まりだ!」


 ジャンケンマンは両拳を構え、圧倒的な威圧感でベルたちに宣戦布告。彼女たちも即座に警戒態勢を整え、新たな強敵を見据えた。戦いの舞台は、次のフェーズへと突入したのだった。

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