ベルたちはジャンケンマンと対峙し、辺り一面が張り詰めた緊迫感に支配されていた。グースケ、チョキロウ、パーキチが融合したその姿は、まるで圧倒的な力を秘めた巨人の如くそびえ立ち、一瞬の油断も許されないほどの威圧感を放っていた。
「さあ、行くぞ! 俺のジャンケンは三通りの攻撃ができるからな!」
「三通りって……巨大パンチ、レーザー光線、叩き潰すしかできないじゃないですか……」
ジャンケンマンの自信満々の宣言に、エイリーンは呆れたようにため息をつく。先ほど戦ったグースケ、チョキロウ、パーキチの技が融合した攻撃パターンだろうと、彼女は冷静に分析していた。だが、その予測が甘かったことを、すぐに思い知らされる。
「それはどうかな? まずはグーだ!」
ジャンケンマンが拳を振り上げた瞬間、大地が震え、巨大な岩の弾丸が虚空から出現。轟音とともに高速で突進し、エイリーンを直撃する勢いで迫ってくる。
「そうはさせないわ! ハンマーフルスイング!」
ベルが雷鳴のような叫び声を上げ、ロングハンマーを振りかぶる。彼女の筋肉が膨張し、ミノタウロスの獣人としての力が全開に放たれる。
強烈な一閃。ハンマーが岩と激突し、爆発的な衝撃波が周囲を揺さぶる。岩は遠くの空へと弾き飛ばされ、空中で炸裂し、眩い閃光とともに消滅した。
「このぐらい楽勝よ! 岩を打ち返すなんて、私には朝飯前!」
「助かりました! ありがとうございます!」
「気にしないで!」
ベルはハンマーを肩に担ぎ、自信満々にVサインを決める。その豪快な姿に、エイリーンが一礼しながら感謝の言葉を述べる。ベルの怪力はエヴァに匹敵し、ミノタウロスの血統がもたらす圧倒的なパワーは、どんな障害も粉砕する。
「おのれ! なら、こいつでどうだ! チョキビーム!」
ジャンケンマンが素早く態勢を切り替え、右手の人差し指と中指を突き出す。刹那、鋭いレーザー光線が迸り、空間を切り裂く勢いで襲い掛かる。だが、エイリーンはその動きを既に見切っていた。彼女は冷静で迅速にミラーシールドを召喚する。
「言っておきますけど、このミラーシールド、ただのシールドじゃないですよ?」
エイリーンがニヤリと笑った瞬間、レーザーがシールドに直撃。だが、光線は吸い込まれるようにシールド内部に消え、まるでブラックホールに飲み込まれたかのようだった。
「は? 光線が吸い込まれた!?」
ジャンケンマンが呆然とする中、ミラーシールドが突如として輝きを放つ。次の瞬間、吸収したエネルギーを増幅させた極太の光線が放たれる。 空気を焼き焦がすほどの勢いでジャンケンマンに直撃した。
「嘘だろ!? ぐわあああああ!!」
ジャンケンマンは光線の猛威に耐えきれず、黒焦げになりながら地面に叩きつけられる。身体は煙を上げ、戦闘不能寸前だ。
「どうですか? カウンターミラーシールドの威力は?」
「お、おのれ……!」
エイリーンは勝ち誇った笑みを浮かべ、黒焦げのジャンケンマンに声をかける。彼は怒りに震えながらも、よろよろと立ち上がろうとする。
カウンターミラーシールドは、攻撃を弾き返すだけでなく、吸収した力を倍にして返す最強の防具。オリハルコンを必要とする高級装備だが、エイリーンは創造魔術でこれを瞬時に作り上げたのだ。彼女の才能は、常識を超越していた。
「まさかエイリーンが創造魔術でカウンターミラーシールドを……!」
「彼女、武器と防具の天才かもしれないわね……!」
ベルとトワは呆然と立ち尽くし、エイリーンの底知れぬ才能に圧倒される。ドジっ子だと思っていた彼女が、こんな規格外の能力を秘めていたとは予想外だ。
「まだ俺にはパーが残っている! 強烈ビンタ!」
ジャンケンマンが咆哮し、両手を巨大化させる。空気を切り裂くほどの勢いで、エイリーンたちを叩き潰そうと襲い掛かる。グーとチョキが破られた今、彼の最後の切り札だ。
「そっちがその気なら、こっちも本気で行かせてもらうわ!」
トワが弓矢を構え、鋭い眼光でジャンケンマンを捉える。彼女の弓はエルフアローに変化し、鏃が森のオーラを帯びて緑色に輝く。空気が一瞬静まり返る。
「ネオストライクアロー!」
「何!? うぐっ!」
トワが放った矢は光の如く突き進み、ジャンケンマンの額に直撃。衝撃で彼の巨大化した両手が元のサイズに戻り、身体が大きくよろめく。
「真正面がガラ空きよ! そこを狙わせてもらったわ!」
「そんな……馬鹿な……この俺が……こんな奴らに負けるなんて……!」
ジャンケンマンは絶望の表情を浮かべ、仰向けに倒れ込む。次の瞬間、彼の身体は光の粒となって消滅。残されたのは大量の金貨と、奇妙な形状のジャンケンロッドだけだった。
「ジャンケンロッドか……どんな武器なんだろう?」
「さあ……?」
「いくら私でも分からないです……」
トワがジャンケンロッドを手に取り、興味深げに眺める。ベルとエイリーンも同様に首を傾げる中、待機していたカルアが駆け寄り、武器を一瞥してデータを読み取り始めた。
「分かりました! ジャンケンロッドはジャンケンをモチーフにした攻撃が可能なロッドです。使用者の意志で、グー、チョキ、パーに因んだ多彩な攻撃を繰り出せます!」
「なるほどね。じゃあ、カルアが使ってみたら?」
「えっ? 私ですか!?」
トワの提案にカルアが目を丸くする。彼女が使うべきだと勧められ、戸惑いながらもジャンケンロッドを受け取る。
「今回の戦いで活躍できなかったからね。あなたが使うべきよ!」
「トワの言う通り! せっかくだから貰っちゃいなさい!」
「私も同意します!」
トワの笑顔に、ベルとエイリーンも賛同し、力強く頷く。仲間たちの熱い後押しに、カルアも決意を固める。
「では、ありがたく使わせてもらいます!」
カルアがジャンケンロッドを握り締めた瞬間、遠くから不気味な足音が響き始める。彼女の鋭い感覚が危機を察知し、視線を音の方向へ移す。
「敵襲です! モンスターの群れが来ます!」
「このタイミングで来るなんて……! 戦うしかないわ!」
ベルの号令とともに、彼女たちは一斉に武器を構える。現れたのは、モールファイター、カッパのモンスター「カパーラ」、カボチャモンスター「ジャックランタン」、可愛いおばけ「ゴストラ」、ロックヒューマン、ガーゴイル、インプ、ゴブリン、トレントの大群だ。
「こんな数とはね……けど、私たちの敵ではないかも知れないわね」
「何が何でも戦い抜くのみです!」
トワとエイリーンが気合を入れるその瞬間――
「マジカルウェーブ!」
「この声……!」
突如、空から響く声。ベルたちが振り返ると、倫子が上空から降り立ち、眩いマジカルウェーブを放っていた。モールファイター、カパーラ、ジャックランタン、ゴストラ、トレントが次々と光線に飲み込まれ、スピリットとなって彼女のバングルに吸収されていく。一種につき三十匹、計百五十匹のモンスターが一瞬で消滅した。
「倫子! 無事だったのね!」
「ええ。それだけじゃないわよ!」
倫子が指差す先には、零夜たちの一団が駆けつけてくる。彼らもまた、それぞれの戦いを終え、無事に合流を果たしていた。
「零夜たちも無事だった!」
「ああ。アカネは仲間にしたし、残る刺客は全て倒した。ベティとメディが待つランドコロシアムへ向かう前に……まずはこいつらを片付けないとな!」
ベルの笑顔に、零夜も力強い笑みで応える。だが、すぐに真剣な表情で敵の群れを睨みつけ、戦闘態勢に入ろうとしていた。
「その通りだ。相手はモンスターだが、油断は禁物だ。そのことを忘れるな!」
「「「おう!」」」
ヤツフサの号令とともに、零夜たちは一斉に敵へと突進。ベティとメディとの最終決戦を前に、最後の前哨戦が今、幕を開けた。