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第184話 アイリンの新たなズボン

 零夜たちは敵と刺客を全て倒し終え、ランドコロシアムへと駆け出していた。残るはベティとメディである以上、彼女たちを倒さなければAブロック基地の戦いは終わりを告げられないのだ。


「もう少しでランドコロシアムだ! 敵はいないが油断するな!」

「言われなくてもそのつもり! 二人との因縁を終わらせるつもりだから!」


 ヤツフサの鋭い指示に、アイリンは力強く応えながら走っていた。その瞬間、彼女のお尻から「ビリッ!」という鋭い裂け音が響いた。アイリンは思わず立ち止まり、顔が一瞬で真っ赤に染まる。冷や汗が頬を伝い、彼女の手はお尻を押さえて震えていた。


「アイリン?」

「どうしたの?」

「何かあったのですか?」 


 アイリンの異変に気付いたベルたちが足を止め、彼女に視線を向ける。羞恥に震えるその姿は、普段の強気なアイリンとは別人のようだ。冷や汗が額を流れ、お尻を必死に隠す仕草に、誰もが何か深刻な事態だと察した。


「こ、来ないで……恥ずかしいから」

「恥ずかしい……まさか!?」


 アイリンの小さな声に、零夜はすぐに異変の原因を悟った。彼女の背後にそっと回り込むと、破れたズボンから覗く純白のパンティーが目に入った。


「アイリン……まさかアンタ……ズボンが破れたんじゃ……」

「!?」


 零夜の言葉に、アイリンの顔はさらに真っ赤になり、頭から湯気が立ち上るようだった。恥ずかしさに身を縮こまらせ、彼女は唇を噛みしめる。零夜の推測が的中したとはいえ、この状況は耐え難い屈辱だった。


「え、ええ……なんでこんな時にズボンが破れるのよー! 大切なズボンなのに……うえーん!」


 アイリンは観念しながら頷いた直後、声を震わせて泣き出した。大粒の涙が頬を流れていて、まるで子供のようだ。

 アイリンの無防備な姿に、仲間たちは一瞬言葉を失ってしまう。だが、零夜はすぐに笑顔を浮かべ、日和に視線を向けた。


「となると、ここは日和さんの出番ですね」

「そうね。ここは私が何とかするから、ちょっとごめんね」


 日和は軽快にアイリンに近づき、破れたズボンをじっと見つめる。お尻の中央部分が大きく裂け、純白のパンティーが丸見えだ。アイリンが恥ずかしがるのも無理はない。


「あらら。お尻の部分が破れているわね。これは少し改良しておかないと!」


 日和は明るく言い放つと、アイリンのお尻にそっと右手を当て、魔術の詠唱を始めた。彼女の手から淡い光が放たれ、破れたズボンを優しく包み込む。光はまるで生地を編み直すように動き始めた。


「これが私の新たな技……マジカルリペア!」


 日和が叫んだと同時に、アイリンのズボンが光に包まれながら変化し始める。ズボンのウエストが胸下まで伸び、黒いデニムサスペンダーが現れる。光が収まると、まったく新しい姿のズボンが姿を現した。


「ズボンが違う形に変化していく……」

「どんなズボンなのか気になるわね……」

「サスペンダーが付いている事は……オーバーオールの可能性もあるかもね……」

「どんなのでしょうか?」


 倫子たちは光に包まれたズボンの形状を予測しながら、興味津々で囁き合う。光が完全に消えた直後、アイリンの新たなズボンが姿を現す。それは黒いデニムコルセット付きのハイウエストロングデニムカンフーパンツで、柄はドラゴンの模様、デニムコルセットはカンフーパンツと完全に一体化となっている。更にデニムコルセットは糸の代わりに、金色ボタンが付属している。そして太めの黒いデニムサスペンダーが付いていて、金色のボタン金具で止めているのだ。


「凄い……これが私の新しいズボン……」


 アイリンは自身の新たなズボンを見下ろし、驚きと感動が入り混じった表情でじっと見つめた。そっとデニムコルセット部分に手を這わせ、硬く滑らかな生地の感触を確かめる。新しい装いが彼女の心に自信を灯していた。


「デニムコルセットは初めてだけど、可愛くてとても似合うわ」

「良かった。あと、サスペンダーはどう?」


 アイリンの素直な感想に、日和はホッとした笑顔を見せる。サスペンダーについての質問に、アイリンは軽く引っ張りながら弾力を確かめた。


「悪くないわ。可愛くてとても似合うし、むしろこっちが好き!」

「良かった……気に入って貰えてホッとしたよ」


 アイリンの満面の笑顔に、日和も心から嬉しそうな表情を浮かべる。自分の魔術が仲間を喜ばせ、自信を与えたことに誇らしさを感じていた。エヴァたちはその様子をニコニコと見つめ、アイリンは皆の視線に気付くと急に赤面した。


「何見ているのよ!」

「嬉しそうだったけど」

「煩い!」


 マツリのからかいに、アイリンは顔を真っ赤にして叫んだ。ツンデレな彼女らしい反応に、仲間たちはくすくすと笑い合う。いつものアイリンの姿に、皆が心から安心していた。


「まあまあ。取り敢えずはズボンも直ったし、そろそろランドコロシアムへ向かわないとな。あいつらも首を長くして待っているし」

「サヤカの言う通りだな。あいつらはアイリンを裏切った罪を償う必要がある。だが、それに決着を着けるのは彼女自身だ」


 サヤカの言葉に、国鱒社長は真剣な眼差しで頷き、アイリンに近づく。彼女の両肩に手を置き、真っ直ぐな視線で彼女を見つめた。


「お前の過去は東から聞いている。だが、この戦いであの二人を倒せば、自らの因縁も終わりを告げる。俺だけじゃなく、他の皆もお前が勝つ事を信じている! 必ずベティとメディを倒し、自分の過去の因縁を終わらせるんだ!」


 国鱒社長の熱い激励に、アイリンは唇を噛み、真剣な表情でコクリと頷いた。仲間たちの信頼が、彼女の胸に熱い決意を灯す。ここで負けるわけにはいかない。


「必ず期待に応えるだけでなく、ベティとメディを倒しに行くわ! あの時の思いはもうしたくない! 彼女たちは絶対に許さないんだから!」

「よく言った! すぐにランドコロシアムへ向かうぞ!」

「「「おう!」」」


 アイリンは決意の表情で前を向きながら宣言。国鱒社長も力強く頷き、全員でランドコロシアムへと駆け出した。仲間たちの足音が響き合い、団結した意志が空気を震わせる。


(私は一人じゃない。こんなにも仲間がいる。その期待に応える為にも……ベティとメディを倒す!)


 アイリンは心の中で固く誓った。ランドコロシアムに待ち受けるベティとメディを倒し、過去の因縁に終止符を打つ。その決意を胸に、彼女は仲間たちと共に突き進むのだった。

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