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第185話 ランドコロシアムへの突入

 ランドコロシアムの威圧的な外観が、零夜たちの前にそびえ立つ。一行は鋭い眼差しでその姿を捉え、息を呑んだ。この先に待ち受けるのはベティとメディ――一筋縄ではいかない強敵で、油断すれば命を落とす戦いが待っている。空気が張り詰め、全員の背筋が自然と引き締まる。


「この先にベティとメディがいますね。いずれにしても戦いは避けられません」

「ええ。私は絶対に一歩も引かない覚悟なんだから! やるからには倒しに向かうのみ!」


 エイリーンが隣のアイリンに視線を向け、決意を込めた言葉を叩きつける。アイリンはガッツポーズで応え、因縁の敵を倒す覚悟を固めていた。過去の苦い記憶を清算するため、この戦いは絶対に負けられない。彼女たちの瞳には、燃えるような闘志が宿っているのだ。


「さて、ランドコロシアムの中に入るとするか!」


 零夜が先陣を切り、コロシアムの門へ踏み出そうとした瞬間、目の前に不気味な看板が立ちはだかった。ゴツゴツとした石板に刻まれた文字を見て、誰もが息を呑んでしまう。トワが一歩進み出て、冷徹な声で看板を読み上げる。


「『ここから先はブレイブエイト、サヤカのみが戦える場所。それ以外の方は観客席に移動してください』と書いているわ」

「恐らく奴らは東たちと本気で戦おうとしているな。敵も恐らく策略を考えているとなると……おい、集まれ!」


 トワの言葉を聞いた国鱒社長の顔が一瞬で硬くなる。鋭い眼光で周囲を見渡し、頭に閃いた作戦を早口で説明し始めた。場の空気が一層重くなり、全員が彼の声に耳を傾ける。


「へ? そんな作戦でやるのか? 俺としては構わないが……」

「ああ。奴らは必ず何かを仕掛けているに違いない。こっちも俺たちなりのやり方で対応するのみだ」


 国鱒社長の説明に黒田たちは頷くが、零夜、倫子、日和の三人は冷や汗を浮かべ、複雑な表情を隠せなかった。

 DBWは文化系プロレスを標榜するが、その実態は常軌を逸した混沌だ。変態的な振る舞いで悪名高いファンキーズ、車で人を弾き飛ばす狂気、ごんぎつねを下ネタに絡めた悪ふざけ、酒に酔っての暴走――過去の前例を思えば、今回も大惨事に発展する予感が拭えない。


「国鱒社長、本当に大丈夫ですよね? 俺としては不安としか思えませんが……」

「大丈夫だ。やるからには行動開始!」

「「「はーい……」」」


 国鱒社長の号令が響き、一同がそれぞれの持ち場へ散っていく。だが、零夜、倫子、日和は顔を伏せ、足取り重く駆け出した。胸に渦巻くのは、戦いがまたしても破滅的な展開を迎えるという暗い予感だった。


「なんか元気ないけど、どうしたの?」

「いや、気の所為だから……」


 トワが心配そうに声をかけると、零夜たちは苦笑いで誤魔化した。だが、トワたちの顔には疑問の影がちらつく。誰もが言葉にしない不安を抱えていた。


 ※


 零夜、倫子、日和、アイリン、エヴァ、マツリ、エイリーン、トワ、ベル、カルア、メイル、サヤカの十二人は、コロシアムのステージに足を踏み入れる。そこは殺風景な空間であり、何もないただの広大な石の床だけだ。静寂が不気味に響き、足音だけがこだまする。


「ベティとメディはこの場所にいる筈だが……一体何処にいるんだ?」

「分からないわ。恐らく何処かに隠れている可能性もあり得るし、敵の行方を探しておかないと」


 サヤカたちが周囲を鋭く見回し、敵の気配を探る。緊張が空気を支配する中、トワの目が突然鋭く光った。彼女は敵の存在を瞬時に捉え、声を張り上げる。


「敵が来るわ! ベティとメディよ!」

「ついに来たか! 全員戦闘態勢に入れ!」


 零夜の号令に、一同が一斉に武器を構える。刹那、ステージ中央に眩い魔法陣が浮かび上がり、禍々しい光と共にベティとメディが姿を現した。二人の顔には、悪魔のような冷酷な笑みが浮かんでいる。


「よく来たわね。刺客たちは全て倒されたけど、私たちがまだ残っているわ」

「やるからには容赦なく倒しますわ!」


 ベティとメディが零夜たちを指差し、真剣な表情で冷たく宣言する。

 自分たちが用意した刺客たちとモンスターたちが次々と倒され、残るは二人だけとなっている。だが、タマズサのため、倒された仲間たちの仇を取るため、ここで退くわけにはいかない。二人の声には、絶対的な決意が込められていた。


「俺たちも同じだ。アイリンを泣かせた罪は今でも残っているからな」

「アンタらは絶対に許さへん。覚悟しいや!」


 零夜たちの声にも熱がこもる。アイリンを傷つけた過去の因縁を清算するため、警戒しながら戦闘態勢に入ろうとしている。空気が一瞬で張り詰め、一触即発の緊張感がステージを支配した。誰もが息を殺し、次の瞬間を待っているのだ。


「まずは私のモンスターが相手となります。カオスドラゴン召喚!」


 メディが地面に手を叩きつけ、暗黒の魔術を唱える。刹那、上空から轟音が響き、巨大なドラゴンが降臨。地面を震わせて着地したその姿は、メディが呼び出したカオスドラゴンだ。禍々しいオーラを放ち、凶暴な咆哮がステージを揺さぶる。


「グオオオオオオオ‼」


 カオスドラゴンの眼光は、まるで獲物を狩る猛獣其の物。零夜たちを一掃しようと、殺意に満ちた視線が突き刺さっていく。この咆哮によって空気が重くなり、圧迫感に全員の動きが一瞬止まってしまった。


「まさか闇のドラゴンであるカオスドラゴンを出すとはな……同じドラゴン族として黙ってはいられないし、奴を必ず超えてやる!」


 マツリが両拳を打ち合わせ、心の底から闘志を燃やす。彼女の血は、同族最強を目指すドラゴン族の誇りが騒ぐ。拳を握る音が、静寂の中で鋭く響いた。


「マツリはレッドドラゴンなら……こちらも増援だ! ティアマト!」


 零夜がバングルを高く掲げると、そこから眩い光が放たれ、スピリットが実体化。ティアマトが轟音と共に地面に降り立ち、戦闘態勢を取る。彼女の姿は力強く、圧倒的な存在感を放っていた。


「お待たせ! 相手がドラゴンなら私の出番ね!

「頼んだぞ、ティアマト!」

「オーケー!」


 ティアマトは笑顔でグッドサインを送り、格闘技の構えでカオスドラゴンを睨みつける。その眼光は、敵を打ち砕く決意に満ちていた。


「アイリンとサヤカはベティとメディを頼む。彼女たちは援護攻撃を得意としている。彼女たちの行動を封じれば、カオスドラゴンを倒すチャンスは必ずある筈だ。」

「分かったわ! 必ずカオスドラゴンを倒してね!」

「任せてくれ!」


 零夜の指示にアイリンが頷き、カオスドラゴン討伐を託す。零夜は村雨とエクスカリバーを握り締め、戦闘態勢を整える。倫子たちもそれぞれの武器を構え、敵を見据える。ステージに役者が揃い、戦いの火蓋が切られようとしていた。


「絶望を受けてしまうのはどちらなのか。この戦いではっきりさせてもらうわよ!」

「悪いけどアンタたちには負けられないわ! あの時に裏切られた悔しさと怒り……全てアンタたちにぶつけてやるわ! 覚悟しなさい!」


 アイリンが叫びながら敵に向かって突進し、零夜たちもその後に続く。同時にAブロック基地での最終決戦のゴングが、ランドコロシアム全体にけたたましく鳴り響いたのだった。

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